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回収人の世界1

回収人の世界          ローヌ


 心臓を片手に持つその人と目が合ったのが始まりなんだ。

 文字通り、僕はそこから始まった。それ以前の記憶は消し飛んだ。消えたと言うより、どうでも良くなってしまった。

 その人と言うのは、もちろん君たちの回収人のことだ。

「――あなた、何してるんですか」

 やっとの思いで声を出した。

 いつかの最終日の朝だ。これから来る混沌を前に、透き通る青の世界に僕たちは居た。

 なんて綺麗な人なんだろう。手に持った心臓は自分の物だろうか? あんな美しい赤は、後にも先に見たことがない。

 いつも通り、甲板で次の世界への移動を待っていた時だった。やけに騒々しい船が隣に止まった。船内で火があがっているのが見えた。

 甲板の真ん中で、心臓を持った回収人は僕のことなど目に入らないように下を向いたままだ。

「大丈夫ですか? 今、助けにーーいや、どうしよう行けない」

 僕が船にいない間に、次の世界への移動が始まったらまずい。

 せっかくここまで連れて来た僕の乗客が、この世界で潰されてしまう。僕たち回収人は船の意識だ。次の世界に向かう荒波の中で、意志をもたない船の乗客は簡単に海に投げ落とされてしまう。

 心臓を持った回収人がチラリと僕の方に向けた目に「バカか」と書いてあってショックを受ける。こんな綺麗な人に一瞬にして嫌われてしまった。

 オドオドと火を噴く船を見ていると、その甲板に激しく息を切らした人が現れた。自分の目が信じられず、何度か瞬きをする。あれ? 二人いないか。いや、どう見ても二人いる。

 あの回収人、ルールを知らない訳じゃないよな。

 これ以上余計な事を言って、怒られたくないけど、目が離せない。こんなギリギリの時間まで、乗客が一人に絞り切れていない船を見たことがない。

「ちょっと……」

 飛び出して来たのは中年の男女だったが、その内の女の方が海に飛び込もうとしている。

 僕が驚いたのは女が飛び込もうとしたからじゃない。何なら、良かった、やっと一人に決めてくれたのか、と胸をなでおろしたくらいだ。

 びっくりしたのは回収人が、海に飛び込もうとした女の腕をつかんで止めたからだ。

 そして、あろうことか手に持っていた自分の心臓を女に食わせた。


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