僕の敵2
食事中は向こうの船の話をしなかった。
回収人さんはお腹が空いていないのか、料理をしながら味見がてら済ませてしまったのか、黙って隣のテーブルに座り、僕らを眺めていた。
食べているところをじっと見られるのは普段なら気分の良いものではないけれど、回収人さんには見られていても気にならない。
むしろお母さんに守られているような安心感さえある。それが証拠に、僕らが「美味しい」と口にする度、回収人さんの目の横に、あの優しいしわができた。
僕はこっちの船に残って本当に良かった。
アオチさんは僕の好きな明るい声で、当たり前のように「連休明け」とか「夏には」とか言った。
それ切なくて、涙がこぼれる前に席を立った。
いきなり立ち上がってしまったので、後付けで「デザートを取ってきます」と言った声が自分の耳に籠って聞こえた。
「俺も」
ついて来て欲しくないのにアオチさんまで立ち上がってしまった。勢いで言ったはいいが、大体デザートなんてあったけ? さっきまではメインの料理しか目に付かなかった。
「厨房の冷蔵庫に入ってるぞ」
回収人さんがまたお母さんみたいなことを言った。
冷蔵庫を開けてまた驚いた。
僕の大好きなレアチーズケーキじゃないか。おまけにチーズタルトまである。回収人さんはどこで僕がチーズに目がないことを知ったんだ。
「おい、見ろよこれ」
冷蔵庫の隣に設置されていた冷凍ケースの中を覗き込んでアオチさんが声を弾ませた。
「宝石みたいなアイスクリームだ」
子どもみたいにどれを取るか悩んでいる姿が本当に生きていて、嬉しくなる。
「全部の種類、試したらどうですか? 明日、どっちに転んでも、今日食べた物のせいで不健康になることも、太ることも心配もしなくて良いんですから」
「確かにそうだな」
笑うアオチさんには何の曇りもない。この人が新しい世界に行かないなら、次の世界は始まりから終わっている。
持てるだけの甘い物を持って、テーブルに戻ると回収人さんが灯台みたいな目で僕たちを見た。今夜みたいな時間を一生漂っていたい。
「お前ら、良く食うな」
回収人さんがそう言って立ち上がった。
「どこに行っちゃうんですか」
「どうした? そんなに寂しいか。食後の飲み物を入れてきてやるだけだよ」
「そんなんじゃーーそうですよ、寂しいんです。悪いですか。早く戻ってきてください」
開き直った僕を、アオチさんと回収人さんが声を出して笑った。
この人たちがいたら僕は何もいらない。




