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僕の敵1

僕の敵          オオミ


 廊下を歩いている間、アオチさんはずっと無言だった。

 僕が嫌になって、あっちの船に行く、なんて言い出さないだろうか。

「ビュッフェですよ、凄いな。アオチさんもお腹空きましたよね」

 場違いに明るく言って後悔した。自分の声が誰もいない広い食堂に憐れに響いたからだ。そもそも僕は普段から陽気とは程遠いキャラだ。

 アオチさんが「うん」とだけ静かに返事をして、料理を覗き込んだ。

「……すごいな。誰が作ったんだ」

 良かった。いつものアオチさんの声に戻った。

「俺だよ」

 後ろから回収人の声がした。

「お前、凄いな。何でもできるんだな」

「ああ、好みを知らないから適当に作った。勝手に食べてくれ」

 適当に作ったとは思えない料理が二十種類ほど並んでいた。

「急に食欲が湧いてきたよ」

 アオチさんが、ふちに金色の繊細な模様がついた真っ白な皿を手に取って嬉しそうに言った。

 僕にも皿を渡してくれた。冷たいはずのそれがじんわり温かく感じて泣きそうになる。

 ――向こうの船ではきっと皿さえ無機質な銀色で、栄養さえ取れれば良いというような味のない食べ物が乗っかっているに違いない。心の中で少し勝ち誇って、窓の外の隣の船の明かりを見た。

「気を取られるな。大事な物のことだけ考えていろ」

 回収人が僕の肩に手を置き、小さな声で素早く言った。

 この人には僕の心の中なんて絵本のように鮮やかに読めてしまっているに違いない。

 一皿目は僕の好きな人参の入っていないカレーと白いご飯をよそって、カレーライスにした。

 アオチさんは何だろう。興味本位で覗くと、ハンバーグが四つのっていた。どれだけ好きなんだ。

 皿がもっと大きければ、四個どころじゃすまなかったはずだ。

 それにしても焦げ目まで美味しそうなハンバーグだ。僕もカレーを食べ終わったら試したい。それにあっちのパリパリしていそうな春巻きも食べたいし、僕の好きなピザの匂いまでする。 クアトロ・フォルマッジだ。何だかくどいものばかりだけど、少しも嫌な感じがしない。子どもの頃から好きな物ばかりで、死ぬ前に何が食べたいか、と聞かれたら迷わず答える料理が揃っている。

 アオチさんは意気揚々とテーブルに皿を置いて、既に飲み物を取りに行くところだった。

 僕も続かないと。何故だか涙が滲んだ。


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