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それぞれの苦痛3

 オオミが俺のベッドに座り直して呼吸を整えた。

「まず、無言ちゃんと死んだ三人の関係です。一人いた女の人は無言ちゃんの親友だそうです。中学の時に知り合って、それから十年来の付き合いだって。若い方の男の人は無言ちゃんのいとこ、おじさんの方は幼稚園の時の先生だって言ってました」

 正直どっちが若い方でどっちがおじさんだったのかもわからないが、それより気になることがある。

「親友といとこが同じ船に乗ることはあるかも知れないけど、幼稚園の時の先生なんて未だに交流があるものか?」

「先生と会ったのは偶然らしいです。乗船してすぐカフェテリアーーあっちの船は食堂のことをそう呼んでるらしいんですが、そこで一緒になったと。お互い朝ごはんを食べながら自己紹介なんかをしていてわかったようですね」

 頷く俺に更に身体を寄せて来るオオミの勢いが怖くて、少し顔を引きつつ、「それで」と続きを促した。

「軽く食事をして、身体が温まると、朝早かったこともあってみんな眠くなったみたいで、それぞれの部屋に戻って少し寝ようって話になったと。無言ちゃんと親友は二人部屋で、男二人はそれぞれの部屋に戻ります。船酔いで眠れない無言ちゃんに反して、親友はぐっすり眠ってしまったそうです。しばらくじっとしていて、やっとうとうとしかけた時、鋭い痛みを感じて右の掌を見ると、刃物が皮膚を突き破って出ていて、それは成長しているみたいに自分に向かって伸びてきてーー」

 当たり前のように手から刃物が生えてきたと言っているけど、大丈夫か、こいつ。話が乗ってきているオオミを止めるのは気が引けて、唾を呑んでなんとか耐えた。

「ついにその刃物が、手を目一杯伸ばしても無言ちゃんの顔に突き刺さりそうなところまで伸びた時、やっと止まったんです。危険が去り、反対側のベッドを見ると、親友が寝ているはずの場所は空でした。その代わり、真っ白なシーツの上には血が飛び散っています。慌てて、でも刃物が刺さらないよう慎重に部屋から飛び出しました。立ち上がる時もドアを潜る時も、一歩間違えると鋭い刃が自分自身を抉りそうで、とても怖かったそうです。片腕程伸びた刃をかわしながら、血の跡を追うと、甲板に向かう階段に辿りつきました。重い扉を片手で開けるのは大変で、左半身全体で押し開きます。そこで見たのがーー」

「俺たちが見た甲板の死体か?」


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