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追う鳥1

 追う鳥          オオミ


「三人とも助かるといいな」

 この人は本当にお人好しだな。

 なんと答えて良いかわからず黙っていると、

「鳥って追うものだと思っていたよ」

 快活な口調のまま、アオチさんは突然話を変えた。

「狩るものだと思っていた、てことですか?」

「そういう意味じゃないよ。ほら『幸せの青い鳥』とか言うだろ。追いかけるものだと思ってたんだ」

 僕も鳥は好きだ。子どもの頃はセキセイインコや文鳥をずっと飼っていた。

「でもあれは――」

「そんなかわいいもんじゃないって言いたいんだろ。確かに鳥の恐怖映画みたいだ。今日家を出る時も黒い鳥が空中に――」

 突然早朝の広いオフィスが暗くなった。

僕たちのいる全面ガラス張りの高層ビルの三十五階が、黒い鳥の群れで覆われていた。

 正面に見えていたビルも、水色の空に浮かんでいた薄い雲も、一面の鳥に塗りつぶされてしまった。

 約十分間、鳥の群れは視界を奪い続けた。

急に窓の外に朝が戻る。

「凄い数だったな。大丈夫か、オオミ」

「大丈夫です。初めてこんな近くで見ましたが、コクガンみたいな鳥ですね。それより、何で仕事でもないのにスーツで来たんですか」

 アオチさんが「え?」と表情だけで言った。

「……なんていうか、習慣だな。それより、あいつ無事かな。まさか今の鳥の群れに襲われてたりしてないよな」

 そう言って、デザインばかりで機能性のない白い椅子から立ち上がり、窓の真ん前まで行って止まる。足元までガラス張りのせいで、空に浮いているみたいだ、と思った。

「オゼさんなら大丈夫な気がします。なんか、鳥も操れそうな雰囲気ですし」

「そういう問題じゃないだろ」

「冗談ですよ。オゼさんの家は遠いから、始発で来ても僕たちより時間がかかるんです。遅いのは単にそのせいです。そろそろ着く頃じゃないでしょうか」

以前オゼさと二人きりになった時に、他に話題が見つけられず、大して興味もないのに「どこら辺に住んでいるんですか」と聞いた。

どこだか遠い地名を言っていた気がする。緊張していたので耳だけで聞いて直ぐに忘れてしまったけれど。

「そういえば、あいつ最近引っ越したって言ってたな。最寄り駅はあそこか――」

 なんだ、僕より良く知っているじゃないか。こちらを振り向きながら具体的な駅名を出したアオチさんの背後の窓に、ドンっと鈍く重い音を立てて鳥が一羽ぶつかった。

 アオチさんが後ずさる。その時、確かに見た。その鳥が人間の眼球を咥えているのを。

 もう「オゼさんなら大丈夫」なんて言っていられなかった。

 アオチさんと二人、競うようにオフィスを出てエレベーターに乗り込んだ。

「あれ、見間違いじゃないですよね?」

 念のため、自分より近くで見ていたアオチさんに尋ねる。

「目玉だったよ。あの鳥が人を喰うなんて……」


 あの鳥が現れたのは二日前の夜だった。

 帰宅途中、いつものように自宅近くのコンビニに寄り、冷たい空に浮く異常に眩しい月を見上げて信号待ちをしていた。

 丁度、今日あった悔しいことで心が闇に埋め尽くされそうだった。大通りの明かりはこんな時ちっとも役に立たない。月明りがかろうじて心が黒に塗りつぶされるのを押しとどめてくれている。

 その空に、この時間珍しく鳥が空を旋回しているのを見た。

 そりゃあ夜に活動する鳥だってたくさんいるだろう。自分がここら辺で見慣れないだけだ。

 僕が思わず信号を一つ見送るほど見入ってしまったのは、その鳥の飛び方が、何か気持ちが悪かったからだ。

 何だかこう、獲物を狙っているとも違う、監視しているというか……そう、探している、という感じだ。

 そして、その鳥と目が合ったんだ。


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