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センパイが隣にいてよかった

 俺の肩で、萌仲が顔を隠していた時間は、五分もなかったと思う。


 その間、彼女がどんな顔をしていたのかは知らない。見えなかったから。

 そういうことにしておこう。


 だから、顔を上げた萌仲の目元が少し赤くなっているのも、気づかないことにする。


「ごめん、取り乱しました」

「いい匂いだったよ」

「ほんと~? キモいけど嬉しい」

「なかなか同時に達成することない評価だな」

「ふふっ。よかったじゃん」


 萌仲はなにごともなかったように、明るく笑った。


「そうやって冗談風に言って、私が気にしないようにしてくれるとこ、好き」

「……考えすぎだ。俺だって男だぞ」

「いーの。私がそう解釈したんだもん」


 真面目な話が嫌いなだけだ。


 萌仲は立ち上がり、膝の土汚れを手で払う。


「センパイ、ありがと」


 彼女は腰を少し屈めて、俺に手を差し出した。

 俺はその手を取って、立ち上がる。


「なんもしてない」

「センパイは今回もそう言うんだね。優しすぎ」

「本当になにもしない。というか、なにもできなかった。特に今回は」

「そんなことない。……私一人じゃ、きっと受け止められなかったもん。センパイが隣にいてくれてよかった」


 萌仲を救えるなんて、驕るつもりはない。

 生徒会長だなんて言っても、俺のできることはたかがしれてる。所詮は一人に高校生。ガキだ。


 でも、微力でも助けになれたなら、嬉しいと思う。

 自己満足に過ぎないけど。


「そういえば、白旗は……」


 木の陰から顔を出して、辺りを見渡す。

 見える限り、白旗の姿はなかった。


「いない、な」

「よかったぁ」


 タバコを吸っている時間なんてせいぜい数分のはず。勤務中だし、もう戻ったのだろう。


 俺に続いておそるおそる周囲を確認した萌仲も、ほっと息をつく。


「落ち着いたら腹立ってきた! 白旗め~」

「諦めちゃった、とか物憂げに言ってなかったか?」

「女心は秋の空、だよ。パイセン。わかってないなぁ」

「めんどくさ……」


 口ではそう言いつつも、表情は明るい。

 気持ちの切り替えは済んだようだ。救えなくても、落ち着くまでの一助にはなれたみたい。


「そろそろ戻るか」

「うん。お腹空いたからまたコンビニ寄ってこ。やけ食いに付き合え~」

「しゃーねえな」

「中身はあげるからさ。私は殻だけでいいよ」

「チョコエッグのチョコの部分、殻って呼んでるの?」

「卵だもん」


 くだらない話をしながら、生徒会室に戻る。

 時間も時間だし、このまま帰ることになるだろう。


 生徒会室があるのは三階。

 やや重たい足取りで、階段を上る。


「面倒だし、ジャージのままでいいや」

「私もそうする~」


 うちの高校は、部活帰りの生徒も多いため、ジャージでの下校は容認されている。


 わざわざ着替える用事もないのでいつも制服で帰宅しているが、今日は正当な理由がある。

 ジャージで帰っても問題ない。ちょうど、体育で使って洗濯したかったところだ。


「生徒会室に来たの二日目なのに、なんか帰って来た~って感じする」

「俺はもう家より居心地いいよ」

「わかる。なんか落ち着くよね。センパイもいるし……」

「いや、萌仲がいるとあんまり落ち着かないかも」

「ひっど~。泣いちゃう。肩貸して」

「やめろ。鼻水で汚れるだろうが」

「おい!! そんなわけないじゃん! ……え、ないよね?」


 萌仲が俺の肩を凝視する。

 別についても責めやしないが、おそらくついてないだろう。


 荷物を取って、いつも通り施錠する。

 職員室に鍵を返し、そのまま連れたって校舎を出た。


「あ、一個言い忘れてた」


 隣を歩く萌仲が一歩俺に近づいた。その拍子に肩が触れる。

 彼女は俺を横から覗き込むように、顔を近づけた。


「センパイもいい匂いだったよ」

「……柔軟剤の匂いかな」

「ううん、汗」

「てめえ……」


 あはは、と陽が沈みかけた街に、高笑いが響いた。





〇作者コメント

みなさまのおかげで、ついにラブコメ週間ランキング5位になりました!!

ありがとうございます!


まだ二人の恋は始まったばかり。

ちょっとずつ距離を詰めていくセンパイとタメ口後輩のラブコメを、引き続きお楽しみください!


【お願い】

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