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センパイ、待って

「……そういうことか」


 自分でも驚くほど、低い声が出た。


 昨日、この場所で萌仲は退学の危機に瀕していた。

 タバコの箱が置いてあり、そこに丁度彼女が居合わせてしまったことで、喫煙していると疑われたからだ。


 未成年の喫煙は、法律で禁止されている。

 ましてや、ここは学校の敷地内。それが本当なら、厳罰は免れない。


 だが、それは冤罪だった。見ていたから間違いない。


 では、そのタバコは誰のものだったのか?

 それは結局、分からず仕舞いだった。


 タバコは……そう、白旗先生が回収していったのだ。その後のことは知らない。


 だが、昨日と同じ場所で、タバコを吸っている姿を見れば、簡単に答えが導きだせた。


「白旗のタバコだったのか」


 隣で、萌仲は絶句している。


 みぞおちの奥が、ずしりと重い。

 この感情は何というのだったか。そうだ――怒りだ。


「自分のタバコだったくせに、生徒のせいにするつもりだったのかよ……ッ」


 理解できない。

 納得できない。


 それをする理由も、動機も、メリットも、なにもかもが意味不明だった。


 いや、理解したくないだけかもしれない。


 一定数、醜く愚かな人間というのは存在する。

 他人を貶めることを楽しむような人間だ。気に食わない相手、嫌いな相手、自分より成功している人間……それらが落ちぶれていく様を見て、喜ぶのだ。そんなことしたって、自分が上に上がるわけでもないのに。


 珍しくもない。ネットニュースのコメント欄でも見れば、むしろそっちが多数派なのだと勘違いしてしまうほどいる。


 それが、白旗だっただけだ。


 なまじ、学校内では生徒指導という地位にいるのがタチが悪い。

 彼が黒といえば、状況証拠だけで生徒を処分することも、不可能ではないから。


「クソ野郎……」

「センパイ、待って!」


 一歩踏み出した俺の腕を、萌仲がぐっと掴んだ。

 そのまま、腕に抱き着くように俺を止める。


「なんだよ」

「センパイ、怖い顔してる」

「そりゃ、するだろ。だって、あいつは自分の罪をなすりつけてお前をッ」


 途中まで言って……萌仲の顔を見て、言葉を詰まらせた。

 泣きそうな顔をしていたからだ。それでいて、優しく微笑んでいる。


「ありがとう。私のために怒ってくれてるんだ」

「そんなんじゃない。ただムカついてるだけだ」

「こっち来て」


 一呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 萌仲に引っ張られたので、木の陰に移動した。


「……すまん。萌仲を差し置いて俺が怒る資格なんてないよな」

「ううん。怒ってくれて嬉しかった」


 木の幹を背にへたり込む。萌仲は、俺の前で膝を抱えてしゃがみ込んだ。

 まだ、腹の奥が煮えたぎっている。しばらく収まりそうにない。


 自分が気持ちよくなるために、人の足を引っ張る。俺が一番嫌いなタイプの人間だ。

 あいつ、自分のタバコだと知っていたくせに、なんであんなガチギレできたんだ?

 考えれば考えるほど、怒りが湧いてくる。


「萌仲のことは別にしても、そもそも教師であっても校内は禁煙だ。それだけで、十分に処分の対象にはなる」

「生徒会長としては見過ごせない?」

「……当然だ。校内の治安維持のために……」

「嘘だね。センパイはそんな正義感溢れる人じゃないでしょ」


 それは、そうだ。

 俺は別に、規則やルール、慣習なんてものを重要視していない。


 俺が見過ごせないのは、誰かが不当に損害を被ることだ。正義なんかじゃない。ただ、ムカつく。


「ここで白旗先生を糾弾することに、センパイのメリットはある? 先生と揉めたくないでしょ?」

「……だから、見逃すと?」

「私のせいでセンパイの迷惑になるのは、嫌」


 萌仲がまっすぐ俺の目を見て、そう言った。


「私だってムカついてる。今すぐ行って殴り飛ばしたい。……でもね、いいんだ。もう、諦めちゃった」

「諦めた?」

「昔からこんなことばっかりだからさ、私」


 切なそうに、目を細めて。


「センパイが代わりに怒ってくれた。今はこれで十分。だから、あざすっ」


 そして、おどけたように、右手で敬礼した。


「……ごめん」

「なんで謝るの」

「だせえな俺、と思って」

「ううん、嬉しかった」


 勝手にキレて、後輩に気を遣わせて。


 萌仲が止めなかったら、どうしていただろう。

 面と向かって問い詰めて、校長にでも報告して、白旗を処分させて……。萌仲のことがなかったら、絶対やらないことだ。

 恨みを買うだけで、俺にメリットがない。俺に怒る権利も、ない。


 でもそれを、ほかならぬ萌仲に指摘させてしまったことがダサすぎる。

 彼女にはそれをする正当な理由があるのに、俺よりも冷静だった。


「……一個だけ、いいカッコしてもいいか?」

「んー?」

「実は、こっそり写真撮ってた」


 スマホを開いて、カメラロールを開く。

 そこには、校舎をバックにタバコを吸う白旗の姿がはっきり映っていた。


「おっ、さっすが~。もしかして盗撮のプロ?」

「不名誉すぎる称号はやめてくれ」

「もしかして私のことも盗撮してる?」

「その手があったか」

「どうせなら今度一緒に撮ろうよ。今は……私がぶさいくだからダメ」


 萌仲のおかげで、なんとか平静を取り戻した。

 さっきまでの俺は、冷静じゃなかったと思う。


 ただ糾弾しても意味ない。その場の勢いで怒るなんてもってのほかだ。

 せっかくのカードだ。一番有効なタイミングで切らないとな?


「ねえ、もう一個、いいカッコしてよ」

「もう一個?」

「うん。ちょっと胸、貸して」


 言うが早いか、萌仲が倒れこむようにくっついてきた。

 ジャージを強く掴んで、俺の肩に目元を押し付ける。


「汚しちゃうかも」

「ジャージだから大丈夫」


 そのまま、萌仲は声を押し殺すように、わずかに嗚咽を漏らした。

白旗は絶対許さないのでご安心を(?)


白旗許さねぇ!

タメ口後輩ギャル可愛い!


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― 新着の感想 ―
[良い点]  いわくありげで素直じゃない主人公とワンコ系後輩のじゃれあいがとても好ましいですね。 [気になる点]  「被害を被る」はよくある重言です。修正することをおすすめします。
[一言] シロハダ…もう絶対許さねぇ! 小説だからいいよな、やっちゃってもいいよな! ってか小説じゃなくてもやるわ。 ゆ゛る゛さ゛ん゛!!
[良い点] 以前退学になった生徒が女子生徒ならエロ同人みたいな要求をされて拒否しての退学だったのかもなぁ……? これは余罪を厳しく追求しなければなりませんね!( ー`дー´)キリッ
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