時雨一颯
新人若輩者で、誤字脱字日本語の間違い多々あると思われます。どうかその際は指摘してくださいますようお願いいたします。残酷描写が含まれているシーンがございます。
* * *
僕、時雨一颯は、夜の東京を歩いていた。
……霞んでるなぁ。
生まれた時からとはいえやはり肺のあたりがむずむずする。
ここ、元首都東京が「首都」でなくなってから随分と時がたった、とうちの親は言うがこちらは生まれた時から首都は京都府だ。今住んでいる東京が首都だったとは実感の欠片もわかない。
簡単な話だ。人は荒れ、灰色の街並み。霞んだ空気。唯一人っぽく生きているのは僕らのような若者くらいだ。街中もどんよりとしてこんなところが前家族で訪れた京都のような都市だったとはどう頑張っても想像できない。昔の東京の写真を学校で見た時には心底驚いたものだ。
「さて、」
ずり落ちたまだ新しい高校のカバンのひもを担ぎなおし、家に帰る。
僕は今年の春から高校生になっていた。
高校生になったらなんだか新しい出来事に巻き込まれてわちゃわちゃ──みたいなのを想像していたのだが割とそうでもなかったので拍子抜けだ。まぁ、心から望んでいたわけでもないのだが。
学校も学校で中学校の知り合いも多く、あまり中学校の時と変わらない「地味だが普通に頭はいい」というイメージが新しい知り合いの中でもすっかりついてしまった。
やれやれ、と二か月ほど過ぎた高校生活に思いをはせたその時、ボソボソとしゃべる男が細い路地に入っていくのを見た。そこまでは別に珍しくもないのだが、変だったのはその男を追うようにして入った別の男だった。しかも、その男が着ていたスーツの裏地に見えたワッペンは──「機関」のロゴだった。
この国が今の政府になる前もなかなか闇は深かったと聞くが、今の政府に比べれば幾らかかわいいものだっただろう。
まず、今の政府が国の頂点に立つと同時に、首都を京都にした。この時点でもうやばいが、政府がもう上にいるのだから国民たちは慌てても、反対運動を起こしても、何も変わらなかった。それから、国の機関(国会議事堂とか、そういうやつだ)を根こそぎ京都に移し、あの狭い京都に入りきらない分は大阪や奈良に分散させた。その後も無茶なことを推し進め、日本を文字通り変えた。
もちろん国民はその政府について拒否感を覚えたが──人は、慣れてしまうものだ。
今はその政府の支配に表立って反対する人は少ない。
理由は慣れだけでない。もう一つの理由が「機関」の存在だった。
この「機関」というのは、政府の汚れ仕事──汚職、わいろ、その他諸々だ──を請け負っている組織だというのが国民の間の理解だ。そして、関わらないほうが身のためである、こともだ。
僕がそいつらについていったのは気まぐれだった。
なんで国家機関がここにいるのかも知りたかったし、なんだか、まとう雰囲気が普通じゃなかったから気になったのだ。
細めの入り組んだ路地を曲がり、物陰に隠れながらそれとなくついて行ってみる。
果たして、男二人はそこに背中合わせで立っていた。封筒のようなものが地面にある。
「……そこの封筒にある」
「……完了だ」
考えが甘かった。どうやらあまり表に出せない部類の取引か何かだったようだ。
「……そこのやつ、出て来い」
おまけにあっさりとばれてしまった。まずい。
「全部聞いていたな。……こうなったからには仕方ないだろう。」
オリジンのほうの男がこっちにやってくる。
しかもその手には、ナイフが握られている。
奥のほうの男は我関せずとこちらに目を向けている。
終わった、と自分でも情けないが諦めた時だった。
バダン、という鈍い音がして、目の前に黒い人が立っていた。
続く。
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