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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第4章 光と闇を抱く者 
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Act 7 陽に染められて

ミルアとマリーの一件は、ミハルの策略通りとなった。


二人は大切なモノを取り戻せて。

旅立つ人へと贈るのだった・・・

ジョージア州の片隅にある村で起きた小さな事件は、本部へは報じられはしなかった。


それ故に、準戦闘人形2体からの通信が途絶えたのが人間によるものなのか、事故であったのかを調べられる事も無かった。



一夜明けたクーロブ宅の庭先で・・・



「はい!ミハル姉」


笑うミルアが差し出して来る。


「これ・・・私達の気持ちだから」


マリーも一緒になって手を添えているのは。


「わぁ!これを私に?」


目を輝かせるミハルが受け取るのは、ピンクのリボン。

幅の広い、長さが1メートルはあろうかというスカーフにも准じた生地のしっかりしたリボン。


「マスクにもなるし、寒い時にはマフラーにもなるから」


これからまた旅に出ようとしているミハルへの贈り物だというミルア。


「贈るのなら使える物にしようって。

 被れば雨や雪からも凌げて便利だと思ったの」


二人で考えて決めたのだと言うマリー。


「ありがとう!ミルアちゃん、マリーちゃん」


手渡されたピンクのリボンを、さっそく襟元に巻き付けて。


「どうかな、似合うかしら?」


胸元迄広がる蝶結びを、二人に見せて訊ねてみる。


「うん、ひらひらって、綺麗だよ」


「お姉さんにとっても似合ってます」


蒼銀髪とピンクのリボンが映える。

二人の前には、日の光を浴びて朗らかに微笑む乙女ミハルが居た。



 キラキラ輝く蒼銀髪。

 朝日を浴びた蒼い瞳が輝いて観える。


 まるで神話に出て来る女神のように・・・



「それじゃぁ皆さん、お達者で」


クーロブ爺から貰ったカーボーイハットを振って、ルシフォルが別れを告げる。


「ミルアちゃんもマリーちゃんも、いつまでも仲良くね!

 いついつまでも、元気で朗らかに!」


後を追うミハルも手を差し上げて、二人へと贈る。


「大切にするね、このリボン・・・それに二人の想いも!」


別れに際しての手向け。

そして受け取ったのは人の心と機械の想い。


二人に逢わなければ知る事も無かっただろう。

二人の想いを教えて貰わなければ気付かなかった。


人であろうと機械の身体を持つ者だろうと、絆は変わらない。

どんなに離れても、想いが同じなら辿り着けるのだと。


それが、<きずな>なのだと。




朝日が昇る野原を掻き分け。


丘に登った二人と一匹に、陽の光が新しい一日の始まりを教える。

旅路は未だ始ったばかりなのだと、終末点は未だに観えていないのだと・・・


「あの子達のように。

 人と機械が手を携え合って生きて行けたのなら。

 きっと未来は、この陽の光のように明るいのでしょうね」


ミハルと同じように陽を浴びるルシフォルへ。


「人と機械が争わずにいられる未来が、いつの日か訪れてくれる気がします」


未来ある希望を願っていると、胸の内を明かせば。


「そうだね、そんな日が来れば良いのにね」


銀髪が陽の光を受けて輝くルシフォルが、ミハルへ向けて手を伸ばした。


「来ますよ!必ず」


丘の上で二人は手を取り合って・・・



昇る太陽のひかりに染められた。







 ・・・人類消滅まで、残り156日・・・





吹き荒れる砂塵。


吹き付ける鋼鉄の嵐。


鋼の弾が飛び交い、爆焔が弾ける。



戦車いくさくるまが縦横無尽に奔り、


数多の煙が棚引いている・・・


そこは戦場であり、鋼の地獄と化している。


人工頭脳を積載する戦車が砲列を揃えて敵を撃つ。

機械の兵士達が戦車を盾として前進を続ける。


それは現代の無敵艦隊。

その光景は人類史上嘗てない規模の機甲戦。

無数の陸の王者達が群れ、無数の破壊が齎される・・・陸の闘い。


上空には無人機ドローンが飛び交い、目標に向けて自爆攻撃を敢行する。

一機が地上へと堕ちれば、数個の目標を破壊した。

数機の無人機が撃墜されれば、下方にある戦車が巻き込まれ破壊された。


飛び交う銃弾。

破裂する砲弾。


光と煙。

炎と爆煙。


地上は戦場と化し、数多の物を無へと返す。

それが人であろうと機械であろうと・・・





「「生き残り達がこれほどの抵抗を見せるとは・・・」」


戦車に載せられた人工頭脳が、崩された陣形を立て直そうと指示を下し続けた。

自車両から観て左側、戦車で言う処の左舷に観える敵の部隊をレーダーで捉えて。


「「優先目標はあの1両。これまでに7両もの味方を葬っている旧式な戦車だ」」


起伏のある地表を走り回り、手近な味方を次々と屠る奴に。


「「囲んで奴の足を停めろ。ドローンで爆殺してしまえ!」」


味方の被害が増えようとも、何としても倒せと命じ。


「「このままでは奴の思う壺に填められてしまうぞ」」


陣形がたった1両によって崩壊しかねないと焦るのだ。

初め100両もいた味方最新鋭戦車が、会戦が始って僅か1時間の内に60両にまで減ってしまったのも焦りを助長させていたのだが。


「「人類が操る戦車は少ない。

  こちらが束になって挑めば、あっさりと片付けられる筈だったのに」」


確かに最新鋭の無人戦車は陸の王者として君臨出来た・・・筈だった。

だが、実際は真逆の結果となろうとしていた。


数両の旧型戦車に、最新鋭戦車は脆くも陣形を崩され打ちのめされたのだ。


100対20の闘いは、数でも圧倒する機械部隊の勝利に終わる筈だった。

その数の暴力を覆させたのは、あの1両が暴れ回ったからだ。


旧型で人が操る・・・蒼い紋章を浮かべる戦車。


双璧の乙女たちが操る、魔女を打ち砕く車両。


人も機械も、紋章を浮かべて戦場を駆ける戦車に畏怖を覚える。


人類を機械の支配から解放するべく集った軍をして呼ばしめた。



 <<魔女殺ストライカーズし>>だと。


 <<魔女を狩る者>>だとも。


戦場を疾走する戦車いくさくるまの名称は、


  <<>を屠り<>を駆ける<>者>


魔女殺ストライカーズしの操る、魔砲の戦車を表していた。




 ズドォンッ!


備砲の10センチキャノン砲が火を噴く。


狙われた機械兵部隊の指揮車輛に穴が穿かれて。



 バッガァーンッ!


堪らず砲塔が噴き飛ばされる。


交戦中の敵車輛が、忽ちにして統率を奪われた。

それに向けて、味方部隊が次々に命中弾を与えていく。



「勝った・・・わね」


双眼鏡を降ろした将が、傍らに控える参謀へと呟く。


「ああ、勝ったようですな」


指揮所に座った少女司令官に、スキンヘッドな参謀長が傅いて。


「これで敵は、組織だった戦闘が困難となりましたからな」


「うん・・・残敵掃討は後方部隊に任せておきなさいよね」


この大会戦が勝利に終わったのだと、二人して宣言したのだ。


「それと。

 マチハには補給に戻って貰おうかしら。

 あれだけ砲弾を消費した訳だから、補充を受けないと次に備えられないわ」


「そうですな、リィンお嬢」


会戦の立役者である旧型の戦車を称え。


「次は戦闘人形がお出ましになられるかも知れないからね」


敵の将でもある戦闘人形バトルドールが、現れる虞があると警戒し、


「その時こそが、あの方々の本意でもあるのだから」


魔女を狩る者として従軍した4人を想うのだ。


「御意」


その想いは参謀として勤めるマックにも通じていた。


「間違いなく現れるでしょう。

 これ程の部隊を失うのならば」


サングラスに隠した鋭い目を敵へと向けて・・・

ミハル達は旅立ち、

リィン達も北上を開始していた。


運命の糸車が再び動き始める時、

敵対する者達にも動きが見られた・・・


次回 Act 8 それぞれの思惑

一足飛びに還ってきた者が知らせた。それは使ってはならぬと・・・

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