Act 6 一つの希望
ミハルが気を失うと現れるレィの記憶。
以前とは違い、なぜか暗くて。
しかも何かを謀っているかのよう・・・
ミハルとの対比が、まるで光と闇にも思えてしまうのだが?
月明かりに照らされた一人の影。
蒼髪が元の蒼銀髪に戻るのに併せて、顔に掛かっていた翳りも薄れて行く。
「宿命は消えていない・・・果たさねばならない」
俯き加減の口元から漏れ出るのは戦闘人形レィの声色。
「こいつ等の仲間を打ち破って、奴の元へと辿り着かなければならない」
足元に転がる、破壊された人形を見据えて。
「この躰で闘うのにも慣れて来た。
本来の力には及ばないが、並みの傀儡ならば十分抗し切れる」
格闘の末、敵人形を叩きのめした。
素手であろうと機械の人形を破壊し尽くす事が出来たのだ。
「これで武器を手に出来たのなら、手強い相手だろうと臆する必要はない」
敵同様に武器を携えれば、ナンバー付きの戦闘人形であろうと互角の戦いに持って行けるのだと言う。
「それと・・・後は。
いつこの身体を支配するかだが・・・」
いつ本来のレィとなるか、どのタイミングで戦闘人形に戻るのか。
「あいつは私の本性を知っていて、助けるフリをみせた。
しかも一部の記憶を封印するような真似までしやがったんだ」
足元に転がる人形の躯の傍に控える者へと手を伸ばし、
「そうだろグランド?
君は何もかも観て来たから教えてくれたんだろ。
あいつが何かを企んでいるって・・・」
今はグランと呼ばれている友の頭に手を添えるのだった。
犬型戦闘人形グランは、レィの手と繋がると友顔を見上げる。
「がぅぅ~~~(そうさ、レィ!ルシフォルと名乗る混合体は何かを狙っているんだ)」
傍で聴いたら唸りにしか聞こえないだろうが、繋げた手を通して人の言葉が相手に伝えられる。
「が~うがう!(でも、まだ何が狙いでどうしようとしているのかが分からないんだ)」
困ったように唸るグランに、
「そうか・・・ならば。今暫くは様子見に徹しなければな」
表の顔として、ミハルで居ようと応える。
だがグランドである犬型の戦闘人形は。
「がう!がう~?(いっその事!アイツをヤッテしまわないか?)」
束縛を逃れて、一刻も早く宿命を果そうと勧めるのだ。
「慌てちゃ駄目だグランド。
君はグランのままで居ろ。私はミハルを名乗り続ける。
なぜなら、あの男はタナトスとの因縁を持っているのだから。
僅かでもタナトスとの勝負に利用出来るのなら、壊すのはその後でも良いんだ」
しかし、レィは敢えて敵をして利すると言うのだ。
「いつかは奴の狙いが判明するだろう。
その時までは表の顔で接すれば良いんだ、どうせ本気じゃないのだろうしな」
しかも、ミハルの心までも利用するとも言った。
「アイツを愛した・・・ミハルという仮の姿を見せ続けておけば良いんだよ」
「がうぅ~(そうか、レィが愛しているのは一人だけだもんな)」
グランドもレィが心変わりをしていないのを確証し、
「がうがう~?(しかしレィに戻れるのがミハルが気絶した時だけなのが問題だね?)」
出現出来るタイミングが限られていると注意した。
「それは・・・まぁ。確かに問題だよな」
口を歪めて認めるレィだったが、
「ミハルという娘が、損な体質で良かったとでも言っておこうか」
いつもあっさり気絶してくれるからと嗤い返した。
戦闘人形レィが犬型戦闘人形グランと佇んでいる後ろから。
「起きていたようじゃのぅ娘さん?」
医師クーロブ爺が声をかけて来た。
「うむ?」
月明かりに照らされた庭先に観えるのは、ミハルとグラン、それに・・・
「おや?その男は・・・お前さんが?!」
ミハルの足元に転がる残骸を見つけて訊いてくると。
「あ?いえ、気が付いたらこんな状況だったのです」
自分も今気が付いた処だと答えて。
「どうやらグランが、襲い掛かって来た男型人形をやっつけてくれたみたいなのです」
気を失っていた自分を守ってくれたのだと、ミハルが答えると。
「なるほど、さすがは狩猟犬といった処かのぅ」
あっさりクーロブ爺は認めて、
「それはそうと。
ミルアがお前さんを呼んどるぞ。
あの娘が目覚めたようだからのぅ」
家の中で待っていると教えて来た。
「えッ?!マリーちゃんが目覚められたのですね?」
「ほっほっほっ。お礼を言いたいんじゃろう」
飛び跳ねるようにミハルが家へと駆け込むのに道を譲るクーロブ爺。
「慌てんでも・・・お?!」
ドアを破るくらいの勢いで駆け込もうとしたミハルだったが?
バチコーン!
「自動ドアなんじゃが・・・」
ガラスの扉に顔からぶつかった娘へと。
「遅かったかのぅ・・・」
信じられないものを見る様な、呆れ果てた顏を向けていた。
「はらひれ・・・きゅぅ~」
顔面を強打してしまった損な子が、ふらふらとリビングへと入ってみれば。
「あ・・・ドラム缶娘だ」
ミルアが呆れた様なジト目で観ていた。
「うん、確かにそうねミルア」
その傍に居るのは・・・
「マリーちゃん?!」
名を叫んだミハルの目に映るのは、群青色の瞳を輝かせるマリーベル。
「操られなくなったのね!」
闇色の髪、白い肌。そして人一倍大きい目をした少女人形が笑っている。
「おかげさまで、ミハルお姉さん」
外で聴いた金属製の音声ではなく、明るい少女らしい声が返される。
「自分の意識で話せるのね?」
人形というよりは人の意識を持つようにも感じてしまう。
「人と同じように・・・自分で考えたのを言葉に出来るのね?」
「ええ。元々私には対話出来る人工頭脳を搭載されていましたし。
ママやパパがいろんなお話をしてくれましたから」
自意識により対話が可能で、しかもミルアの両親から話し方まで教わったという。
それに・・・ミルアの両親をパパ、ママと呼んだのだ。
「そっか・・・あなたには両親が居たのね。
ミルアちゃんと同じ・・・姉妹としての両親が」
姉妹だと言っていたミルアも。
嘘偽りなく、マリーも認めていたのだと分かり、
「辛かったわね、二人共」
犯行によって両親が亡くなったのを悔やみ、
「でも、御両親は天国で喜ばれているわ。二人が元に戻れて」
二人の仲が元の鞘に収まったのを祝うのだった。
祝うミハルに、二人が顔を併せて頷いた。
「ありがとうミハル姉」
感謝の言葉がミルアから贈られて。
「助けて頂いてありがとうございました」
悪夢から救ってくれたとマリーが喜んだ。
「あ・・・いやそれは。
私は何も出来なかったから・・・ね?」
単にドラム缶娘となって掴みかかっただけだったから・・・とは、言わない。
「カメさんを捕まえた作戦を考案しただけだから・・・」
立案した計画が巧くいっただけだと謙遜したら。
「そうじゃないだろ、身体を張ったじゃないかミハルは」
どこまで聴いていたのか、不意にルシフォルが口を挟む。
「電撃を喰らって気絶する位、真摯に向き合っていたじゃないか」
「え・・・まぁ。その・・・気絶したのはドジでしたけど。あはは」
苦笑いで誤魔化そうとするミハルの肩に手を置いたルシフォルが、
「それはマルアちゃんとマリーちゃんを想ったからこそだろ。
二人の仲を取り戻す為に、必死になっていたからだろう?」
ミハルの蒼い瞳へと語り掛ける。
「ミハルは二人の想いを自分のことのように思った。
奪われそうになっているマリーちゃんの想いを繋ぎ止め、
失いかけているミルアちゃんの希望を叶えようと。
誰の為でもなく、それは失いかけた自分を取り戻す為だったのではないのかい?」
紅い瞳のルシフォルが訊く。
蒼い瞳の中に居る記憶へと。
「そんなことは・・・」
真剣な眼差しで質され、真摯な言葉で訊かれて。
「私には、たった一つだけの約束があるのですから」
失った物よりも大切な約束があると答え、
「それにルシフォルさんが居て下さるのですから・・・」
今は大事な人の傍に居られるからと、
「今の私には、失った物より大切な人が居ますから」
肩に載せられたルシフォルの手に、細い指を併せて微笑むのだった。
「ミハル姉って・・・好き好き光線放ちっぱなしだよね~」
「うん、惚気られちゃうとぶん殴りたくなるね」
ミルアとマリーがぶぅぶぅ囃し立てる。
「そうじゃのぅ。
致すのならダブルベットでも用意するかのぅ?」
で・・・何てことを言うんだ、この爺は!
「お前さん方を連れて来れて良かったんじゃ。
ミルアもマリーも。人の子も機械の子も救えたのじゃから」
でも、感謝の言葉には裏表がなくて。
「この世界も、やがては二人のような仲に為れれば良いがのぅ」
人も機械も分け隔てなく、
「それが本当の未来であれば、救われるじゃろうがのぅ」
温かく接する事が出来たのなら、幸せな未来が来るだろうと。
「はい!そうですよねクーロブお爺さん」
大きく頷いたミハルが、
「うん!そうだよね」
マリーと目を併せるミルアが、
「きっとそうだね!」
人形として産まれた姉妹のマリーが。
「いつの日にかは希望が叶うんだ!」
微笑み合って人と機械の共存が未来なのだと声を揃えるのだった・・・
ミハルの中に潜むレィ。
でもルシフォルには分かっている?
そうなるように仕向けていたのか?
二人が騙し合っているのを、ミハルだけが知らない。
いつの日にか、ミハルはレィの記憶と替わってしまうのだろうか?
それは・・・いつだろうか?
次回 Act 7 陽に染められて
旅立ちは朝日の下で。
陽の光に照らされて、ミハルは希望の明日を夢見るのだった・・・




