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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第4章 光と闇を抱く者 
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Act3 奪えぬ想い

ミハルはミルアを追って井戸端まで来た。


そこで二人は戦闘人形マリーについて語り合う事になるのだが・・・

トンネルがある山が南に観える草原の家。


ここは村から離れた一軒家で、医師クーロブが独りで住んでいた。

あの日までは。悲劇が街を襲うまでは・・・



「マリーと私はね、本当の姉妹のような間柄だったの」


水を汲みに出たミルアと一緒になって井戸端に座り込んだ。


「マリーはね、戦闘人形を卒業して私の元へ来たんだ。

 あ、卒業というのは、形式が古くなったって意味らしいの」


思い出話を始めるミルアの傍で、微笑むミハルが耳を傾ける。


「ジャパンのTONYトニーっていうメーカー生まれで。

 綺麗な濃い紫色のストレートヘヤ―で、群青の瞳が輝くの」


「へぇ、戦闘人形ってお洒落なんだね」


思わず相槌を返してしまうミハルだったけど。


「古くなったから戦闘人形として務まらなくなったの?

 務まらないからミルアちゃんの元へ来たの?」


二人がどうして出逢う事になったのかの馴れ初めを訊こうとして来る。


「それは・・・運命の出逢いとでも言った方が良いのかも。

 偶然通りかかった機械解体屋さんに、マリーが居たの」


「解体業者に引き取られていた・・・って?」


廃品扱いになっていたマリーベルを、ミルアが見つけたのが事の起こり。


「そうなんだよミハル姉。

 マリーはもう少しでスクラップにされる処だったの。

 ボロボロの機械達の中に紛れ、もうすこしで金属の塊になっちゃうところだったんだ」


「それを・・・ミルアちゃんが助け出したのね?」


話にのめり込んだミハルが、思わず身を乗り出して質すと。


「正確に言えば、ママが買い取ってくれたんだけどね。

 駄々を捏ねた私に手を焼いたからって、後で言われたもの。

 解体業者から引き取って、リストア業者に新品同様にまで直して貰って。

 それから・・・天使マリーベルって名前を与えてあげたの」


馴れ初めと命名の謂れをミルアが教えてくれた。


「そっか。ミルアちゃんはマリーの生みの親だったわけね」


一度は破棄された人形を生まれ変わらせたのだからと、ミハルが言えば。


「そうかな?仲の良い姉妹みたいな間柄だったんだけど」


少し笑ったミルアが答える。

だったのだと、過去形を使って。


「パパもママも。

 きっとマリーが殺したんだ。だって・・・だって。

 拳銃を片手に持っていたもん。

 だって・・・私を避けるように走って行ったんだもん」


殺害現場で観てしまったようだ。

それだから犯行を目撃したと思っているのだが。


マリーが犯人だと思い込んでいるミルアから零れた一言に、ミハルは不審な点に思い当たる。


「ちょっと待ってミルアちゃん。

 あなたが目撃したのは、犯行後の話でしょ?

 実際に銃撃音を聞いた訳でも、撃った瞬間を観た訳でもないのよね?」


「え?!あ・・・うん。

 外出先から帰って来た直後だったから」


訊き質されたミルアが記憶を辿って教えると。


「うん、それでマリーとは何か話したの?

 どうして御両親を撃ったのかって訊いてみた?」


「ううん。顔を反らしていたし、なんだか苦しそうに左胸を押さえていたから」


更にミハルが問うと、犯行直後に遭遇したと思われるマリーの姿を答える。

怪電波によって操られたと思われ、犯行に及んだとも考えられたが。


ー もし・・・マリーが御両親を殺め、更にミルアちゃんを待っていたのなら。

  なぜ帰って来たミルアちゃんを撃たなかった?

  それよりどうして走って逃げた?顔を会わせないようにしてまで?


考えた結果に導き出されたのは。


「もう一つだけ訊いても良い?

 ミルアちゃんの御両親が亡くなっていた場所は、荒らされた跡があった?

 御両親の周りには他の機械達が転がってはいなかったかしら?」


答えの裏付けとして、証拠を知ろうとして訊いた。


「えっと・・・うん、お掃除ロボットが転がっていたっけ」


「それは、人型ロイド?それとも円盤型?」


ミルアの答えによっては導き出された結果が的を得ている筈だった。


「うん、人型ロボットだよ?」


ー ビンゴ・・・かもしれないわね


壊された人型掃除ロボと、荒らされた室内。

掃除を任されたロボットなら、何処に何が仕舞い込まれてあるのかも把握しているだろう。


「普段は何処に居たのかな?

 ミルアちゃんが外出する時、お留守番しているのなら」


「いつもは二階の部屋に居て、基礎チャージ台で休んでいたわ」


ー やはり。電波が届いた瞬間に犯行に及んだ訳ではない

  即座に銃が仕舞ってある場所へと向かい、御両親を撃てたのは・・・


「ミルアちゃん。

 あなたは勘違いしているみたいね。

 御両親を殺害した犯人は既に破壊されて果てたのよ」


「えッ?!マリーは機械兵マシンナーズの仲間として・・・」


訊き直して来るミルアへ首を振って教える。


「マリーじゃなかったの?」


その問いに対しては首を大きく縦に振り、


「そう、マリーは・・・仇を討ってくれたの。

 御両親を撃った掃除ロボを、操られそうになる身体を推して叩きのめし、

 銃を奪い取って・・・あなたが帰って来るまで持ち堪えていたようね」


「マリーが?!それなのにどうして?」


なぜ話してくれなかったのか?

どうして犯人ではないと言ってくれなかったのかと、ミルアは信じられないといった顔でミハルへと訊いた。


「それはねミルアちゃん。

 あの機械を操る電波がマリーをも狂わせ始めていたからよ。

 ぎりぎりの処で踏み留まって、何としてもあなたに逢いたかったの。

 本当は会って・・・赦しを得たかったんだと思うの」


「私に何を許して貰いたかったの?」


まだ幼いミルアには、言いたい事が伝わっていない。

そう感じたから二人の心を質してみる。


「人形のマリーには心があったのかしら。

 あなたはマリーを姉妹の間柄だと言ったわよね。

 機械の人形でしかないマリーは、あなたを同じように考えていたの?」


少し辛らつだなとは思いながらも、敢えてミハルは悪役を買って出た。


「ミハル姉!

 マリーはね、私にとっては妹であり姉だったの。

 機械の身体だからって心がないだなんて思わないでよ。

 マリーはとても優しくて、とっても思いやりがあるなんだからッ!」


ムッとしたミルアが、途端に言い返して来た。


「マリーは私にとって、世界中で唯独りの存在だったの。

 なんでも打ち明けられて、いつでも助けてくれたわ。

 辛い時なら傍に寄り添い、朗らかな時は一緒に笑い合えた。

 だから心がないなんて言わないでよ!」


必死になってマリーの事を庇うミリアに、ミハルは確証を得たと感じた。


「ごめんねミルアちゃん。

 あなたの言葉ではっきりしたの。

 マリーちゃんがなぜ、あなたに逢いたがっているのもね。

 どうしてあなたから離れたのかも、なぜもう一度あなたに逢いに来るのか、全てね」


「え?それって・・・」


戦闘人形に戻らされたマリーが、なぜミルアの元へと来るのか。


それには悲しい現実に向き合わねばならない結末が、ミルアに迫っても居るのだ。


「ねぇミルアちゃん。

 もしかしたらマリーちゃんと約束を交わさなかったかしら。

 あなたを守るって、あなただけは死んでも護るって交わさなかったかな、彼女は?」


「どうしてそんなことまで分かるのミハル姉は?

 私とマリーが誓い合ったのが見えているの?」


二人は互いの身を案じ、助け合うと約束したのだろう。

それ程迄の仲に成れるのなら、マリーには心というモノが存在していたと考えられた。


「やはり・・・交わしていたのね二人して。

 だとしたら、マリーちゃんは御両親を助けられなかったことを許して貰いたいと願っているわ。

 操られてしまいそうになる身体の・・・自由が利かなくなる前に。

 手に持った銃を奪って貰い・・・撃って欲したかったのではないのかしら」


「え?そんな?!」


当時の情景を思い出して、ミルアは絶句する。


「そんな・・・でも確かに顔も向けずに銃を差し上げて来ていた?」


狙いも付けないで・・・と。

つまりそれはミハルの言葉が間違いではない証。


「もう耐えきれなくなったマリーちゃんは、あなたへ手をかける前に離れる決断を下した」


押し黙るミルアへ、諄々と説く。


「機械は自ら壊れることを許されてはいないでしょ?

 他人の手でしか壊れることが出来ないから、撃って欲しかった。

 でも、あなたは気付いてくれなかったから、危険な目に遭わせない為に逃げたの」


「私を・・・守る為に?」


うん・・・と、頷いたミハルが。


「そしてマリーちゃんは、約束を果たせなくなるのを許して貰いたいの。

 いつまでも護っていたかったけど叶わなくなったから。

 機械の身体を操られた状態なら、いつの日にかは手を出してしまうと思っているの」


「そんな・・・それじゃぁマリーが此処へ来ようとしている訳は?」


ミルアの口からとうとう言い辛い真相を訊いて来る声が耳を打った。


「良い?ミルアちゃん。

 マリーちゃんがあなたに逢いたがっている本当の訳はね。

 あなたに拠って停めて貰いたがっているの。

 あなたの手で・・・機械の身体を動かなくして欲しいと願っているのよ」


「え?ええッ?!まさか・・・」


残酷な告知だと思う。

でも、知らさなければいけないと感じたから。


「彼女は・・・マリーベルは。

 ミルアちゃんの手で死にたいと願っている」


「い・・・嫌ぁッ?!」


突きつけてしまった彼女の想い。

マリーの心が未だにミルアを想っているのなら、あまりにも残酷な結末を生むのを教えてしまった。

でも、そうしなければマリーがミルアを手に掛けてしまうのも事実なのだと。


人形少女の中に心が存在しているのなら、大切な人を護ると約束を交わしたのなら。


「他の誰でもない、ミルアちゃんに許して貰いたい筈よ。

 人を殺めるだけの存在に堕ちてしまった自分を。

 操られるだけの傀儡にんぎょうにされてしまったのを」


「そんな?!助けてあげられないの?」


最初は両親の仇だと思い込んで、憎もうとしていたミルアから。

今はなんとかして助けたいと願う声が聴こえた。


「彼女は願っている、壊される事で助けて貰えると。

 きっと手にした銃で撃ってくれと差し出して来る。

 左の胸をあなたへ向けて、そこに弾を撃ち込んでくれと晒して来るわ」


人形の心臓部は左の胸にある。

そこを撃ち抜かれれば、動力も思考力も、両方が破壊されてしまうから。


「そんなの嫌!出来っこないから」


拒絶するミルアは必死になってミハルに縋り付き、


「助けられないの?助けてあげられないの?!」


助けを求めてくる・・・が。


「私には二人を同時に助けることが・・・」


無理にも思えてしまう。


だが・・・思い当たる節があった。


それは?


ー 私には蘇らせて貰えた方法があったんだわ!


そっと左の胸に手を充てて思いついた。


「ねぇミルアちゃん?

 もしかしてだけど、マリーちゃんの身体に疵が着いても構わない?」


「傷・・・って?酷いことをしないのなら」


ミルアには闘った結果、傷つくと思えているようだが。


「要は、操られなくすれば良いって事」


ミハルには、とある作戦が頭の中に描き出されていた。


「機械の身体を侵犯したウイルスを、削除してやれば済むんでしょ?」


一体それはどうやって行う気なのか?


ミルアの求めに応じるミハル。

儚く消え去ろうとしているマリーを想い、

助けようと必死に縋りつく少女を庇い・・・


そして決戦を迎えるにあたり考えあげた作戦は?


次回 Act4 カメさんを捕まえた作戦?!

作戦名は於いて置き、どうやってマリーを救うのか?

(この作戦名にピンと来たら・・・フェアリアを読み直してみてね?!)

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