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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第4章 光と闇を抱く者 
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Act2 薄幸のミルア

助けられたミハルは、赤毛のミルアと髭のクーロブの前に居た。


朗らかに話すミルアだったが、どこと無く翳りを感じて・・・

白髪で髭を蓄えた老人クーロブと赤毛の少女ミルアに拠って、ここまで運ばれたのだと知らされたミハル。


「ありがとうございます、お爺さん」


感謝を伝えるミハルに、


「ちょい、ちょい。私もなんだけどぉ?」


ミルアが威張って胸を反らすのだが。


「ミルアは儂が押す大八車の横を歩いていただけじゃろうが」


髭のクーロブお爺さんが威張るミルアを窘めて。


「気にせんでもええんじゃ、娘さん。

 儂等はトンネルの前を通りかかっただけじゃからのぅ」


助けたのは偶然だったと答えると。


「それにしても良くぞ無事だったものじゃわい。

 あのトンネルには魔物が居付いて、中に入った者を生かして還さんかったのじゃが・・・」


ミハルとルシフォルをまじまじと見て、


「ほッほッほッ!さすがの魔物も恋人には敵わんかったようじゃの」


抱き合う男女が恋仲だと、笑って称えたのだ。


「恋人ぉ~?!

 恋人って魔物よりも強いんだ?」


クーロブ爺さんの傍らに居るミルアが、またも茶化してから。


「だったら、機械兵マシンナーズにも勝てるよね?」


今、世界中で殺戮を繰り返している機械達にも勝てるのかと訊いて来た。


「だってさぁ、トンネルのバケモノってのも機械だったでしょ?」


二人が気を失って居た奥で、目玉の機械が破壊されていたのを観たのか。


「凄いよねぇ、お兄さんとミハルお姉ちゃんとでやっつけたんでしょ?

 素手で?それとも剣で?それとも・・・魔法で?」


キラキラ緑の瞳を輝かせて訊くミルア。

それに対して、ミハルは困ったように小首を傾げてから。


「それがねぇ。私はメデゥーサボールの前で気絶しちゃったの。

 どうやって此処に運ばれたのかも分からなかったから」


バケモノを倒したのも、気絶した後で運ばれた事さえも覚えがないと答える。


「ふぅ~ん・・・だったらルシフォルお兄さんが?」


「それかグランか・・・どちらかが倒してくれたと思うのよね」


はっきりとは答えられないけどと、ミハルがルシフォルを仰ぎ見る。


「そうですよねルシフォルさん?」


確かめようと思って訊ねかけると。


「うん・・・まぁ、そう言う事にしておこうかな」


あやふやな答えがルシフォルから返り。


「ボクかグランかなんて関係ないよ。

 大切なのは生きていられたという事実なのだからね」


こうして今話せているのが、肝心なのだと教えられた。


「はい!そうですよねルシフォルさん」


今を生きていられる・・・それだけで、こんなにも嬉しく思える。

頷くミハルはルシフォルの傍にまだ居られると思っただけで心が休まるのだった・・・



が?



「ぬぁにぃ~をぉ~イチャついてるのかなぁ~?」


二人が寄り添う隙間に、ミルアが割って入る。


「私はあなた達を見込んで助けたのよぉ。

 化け物を倒せるくらいの腕前を買って、クーロブお爺ちゃんに助けさせたんだからね」


ルシフォルとミハルの真ん中に押し入るや、


「イチャつく暇があるなら、機械兵マシンナーズを倒して貰いたいんだけどぉ」


勝手な注文を突きつけて来た。


「機械兵?」


どう言う話なのかと、訳を質す前にクーロブ爺が語り始める。


「すまんが儂達の話を聞いては貰えんじゃろうか?」


舌っ足らずなミルアに代わり、訳を話すというと。


「え?ええ、伺いましょう」


ルシフォルが応じる。


「あれは核の炎が撒き散らされた日のことじゃった。

 ここらは被害が出ずに済んでおったのじゃが。

 遠隔作業用の機械達が襲い掛かって来たんじゃ、事もあろうに儂等の村に」


あの日、世界中に機械を狂わせる電波が飛んだ。

人間を敵とみなして襲い掛かるようにと。


怪電波に因って、無線誘導される機械達が反乱を起こした。

それは此処ジョージアでも同じ。

電波が届く場所なら、機械達は人に対して無差別に襲い掛かったのは言うまでもないだろう。

それは機械を使役して富を得る人間達への反乱だとも言えた。


「機械達の一部は、組織だって人を襲い始めるまでになったんじゃ。

 保安官シェリフ達が防戦したんじゃが、数で押されて殺られてしもうた。

 銃を持つ者達が闘ったが、同じ結末を迎える事になったのじゃ」


人の暮らしに欠かせない存在となった機械。

食事を造る、畑作業を熟す、治安を守る・・・何もかもを機械に頼っていた。


人がやるべきことまで機械に任せてしまえば、反逆されたらどんな事になるのかを自らの身で知らされたのだ。

享受されるべき幸せの裏側に潜んでいた、機械の裏切りという不幸を。


機械兵マシンナーズと化した機械の群れの中に、人間の少女と同じ姿の者が居たんじゃ。

 そ奴が群れのリーダーとなって村々を襲ったのじゃよ。

 人を見れば殺め、機械があれば仲間と成して。

 まるで悪魔の如く、残忍で冷淡じゃった」


「少女型の人形ロイド?」


少女のかたちを執った機械の人形かと、ルシフォルが質すと。


「そうじゃ、あれは世間で戦闘人形バトルドールと呼ばれたアンドロイドじゃ」


戦闘人形バトルドール・・・」


機械工学の教授だったルシフォルも、その名は知っていた。

高機能で戦闘力の高さが売り文句の、少女を模したロボットの一種。


「その戦闘人形が統率していると言うのですね?」


「そうなのじゃよ。

 そ奴に率いられた機械兵達が、方々を荒らしまわり帰ってくるようなのじゃ」


聞き耳を立てていたミハルも、ミルアやクーロブが言いたいのが分かり始めて来た。


「機械兵達をやっつけろと・・・仰るのですか?」


ルシフォルが難しい顔で問いかける。


「全てとは言わん。

 じゃが、奴だけは倒して貰いたいんじゃ」


「奴・・・つまり、戦闘人形ですね?」


機械を束ねる悪魔の様な人型のアンドロイドを?

機械兵マシンナーズの中心的存在でもある戦闘人形を?


「そうじゃ、そ奴を倒して貰いたいのじゃよ」


「ボク等に出来るとお思いなのですか?

 相手は戦闘に特化されたロボットなのですよ、

 メデゥーサボールみたいな機動性の無い機械まものとは物が違うんですから」


事も無げに言うクーロブに対して、ルシフォルは無理だと応える。


「従える機械達も健在だとすれば、近寄ることだって難しいでしょう。

 その状況で、如何にして戦闘人形バトルドールと闘えと言うのです?」


教えられた状況化を鑑みて、戦闘人形と直接闘う事すら難問だと考えているのだ。


「それじゃが。

 奴は間違いなくやって来るのじゃよ、此処に。

 単独若しくは少数の部下を伴った形で・・・」


無理だと答えるルシフォルへのクーロブの回答は。


「数日を経ずにマリーベルは、間違いなく此処へやって来る筈じゃから」


「数日を経ずに・・・どうしてそう言い切れるのですか?」


間も無く現れると言い切る根拠は何処にあるのかとルシフォルが質した時。



「私・・・お水を汲んで来るわ」


目を伏せたミルアが不意に部屋から飛び出して行ってしまった。


「あ?!ミルアちゃん?」


気になったミハルが、痛い身体を庇いながら追いかけて出て行く。


二人の姿を目で追っていたクーロブ爺だったが、観えなくなるとルシフォルへと向き直り。


「お若いの。

 どうしてかと問うたのぅ?」


「ええ、教えて貰えませんか。その訳を」


哀し気に瞼を閉じるクーロブ爺が、質して来たルシフォルへと話すのは。


「奴・・・アヤツの名はマリーベルという。

 元は戦闘人形としてではなく愛玩人形としてミルアの傍に居ったのじゃよ。

 それがあの日を境にして仇になってしもうたんじゃ」


「ミルアちゃんの人形だった?!それがどうして仇と?」


瞼を伏せたまま答えたクーロブ爺。

仇となったと言った訳に気が付くルシフォル。


「まさか・・・マルアちゃんの身内の方を?」


「その・・・まさかじゃよ」


傍に居た人形に裏切られ、身内・・・つまり最も近い存在の親近者を殺められたのだと。


「マリーベルに拠って・・・マルアは孤独ひとりになってしもうたんじゃ」


「そうでしたか・・・可哀想に」


友達として傍に置いて居た人形が、両親を惨殺したと教えるクーロブ爺。


「それで?どうして此処に現れると仰るのです」


方々を荒らしまわっている機械兵マシンナーズを統率しているのなら、此処へと来るのは偶然なのか。

それにしては数日を経ずにやって来ると言っていたが?


「それはのぅ若いの。

 アヤツはミルアを殺さなかったツケを払いに来るからじゃ。

 唯独り生き残らせてしまった失敗の尻拭いを遂げに来るからじゃよ」


機械兵マシンナーズを統率する戦闘人形マリーベルの、唯一つの汚点。

それは最も親しかったミルアを殺害出来なかったという命令違反にあった。

人類を敵に回した機械にあっては、許されない欠陥ともなる行為。


それを回収するには、生かしておいた娘を消去するしか拭えないのだろう。


「数日前、此処より30キロ離れた街が灰燼に帰した。

 そこにマリーベルの姿があったと聞いておるのでな。

 距離と方角から観て、奴が此処へと向かっておるのは容易に判断できるのじゃよ」


「殺さなかったというのですか?

 殺せなかったとでも仰るのですか。

 それなのに・・・今度こそ殺めに来ると?」


機械なのに命令に背いたのか。一度目に限りは?


「その辺りの実情は、ミルアに質したとても分からんのじゃよ。

 じゃがのぅ、今度会えば・・・間違いなく手に掛けるじゃろう」


次は無いと。今度という今度は、間違いなく殺そうとするのだと言い切る。


「じゃからお前さん方に逢う前は・・・

 儂等はフロリダへ逃げようとしておったんじゃぞ」


「でも。考えが変わった?

 ボクが防護服を着ていたからではないのですか」


トンネルの中もそうだが、抜け出たフロリダ方面にはまだ汚染が残されていた。

逃げ果せたとしても、生き残るのは難しいと思えるからか。


「そうじゃ。

 それにお前さんのガイガーカウンターも観たからのぅ。

 あれ以上奥へと向かえば、放射能に冒されてしまうのが判ったからじゃ」


「放射能から逃れるのは不可能。

 それなら戦闘人形バトルドールと闘ってみる方が得策だと判断された訳ですか」


「当たりじゃ若いの。

 それを担うのはお前さん方の他には居らんがのぅ」


目玉の怪物を倒せるのなら、戦闘人形にも或いはと希望を抱いたのか?


そこまで話したクーロブ爺が、瞼を開けてルシフォルへと向けて。


「お前さんが起き上がれずにいた間、あの娘の身体を調べさせて貰ったんじゃが・・・」


探るようにルシフォルの眼を見ながら、ミハルについて話し出す。


「・・・ミハルの身体に触れてしまわれたのですか?」


「当然じゃろう?傷の具合を調べる為じゃったから。

 だが、思わぬ事を知ってしもうたんじゃが・・・」


ミハルの身体は人造物。

調べられたら人ではない事が容易に分る・・・分かってしまうのだが。


「彼女の身体は人であって人ではないようじゃのぅ。

 そして骨格は金属で造られ、肉体は人のそれと同じ。

 つまりマリーベルと同じ様な物と云えるじゃろうのぅ」


「レントゲンを・・・撮ったのですね?」


眉を顰めるルシフォルが質すと、


「MRI・・・医者の務めじゃから。

 重篤な傷を受けておるのかと思うたからじゃぞ、他意はないのじゃ」


自分は医者であり、意識を失った者を観ただけだと答えて。


「お前さんも・・・じゃろうが。

 体の善いサイボーグとでも言った処じゃろう?

 防護服を着ておったから、儂も最初は誤魔化されたがのぅ」


秘密を宿した身体を知ったと言われたルシフォルは。



 チャキ!



腰に隠していた自動拳銃をクーロブ爺へと突き付けて。


「クーロブさん。そのことをミハルに教えて貰っては困るのですよ。

 黙っていると確約して頂けないと・・・撃たねばなりませんが」


隠匿しなければならないからと脅すのだ。


「老い先短い年寄りを脅しても得にはならんじゃろうに。

 若いのが教えたくないと言うのなら、黙っておくだけじゃ」


初めからそんな気はないと返されたルシフォルが拳銃を降ろして、


「ボクにも訳があってね。

 最期まで正体を明かせられないのですよ、クーロブお爺さん」


ミハルにはまだ教えられないのだと言う。


「ほッほッほッ!こりゃまた豪儀な恋人もあったもんじゃ」


二人の身体を知ったクーロブ爺が笑い出す。

二人の秘密を垣間見て、二人が恋仲だと知るから。


「人の垣根を越えた恋も、捨てたものじゃないものじゃ」


「はい、ボクも感じています。人と機械を越えた愛があると」






クーロブ爺とルシフォルが現れる戦闘人形について話している間。



「待って!ミルアちゃん」


追いかけたミハルの前でミルアが空を見上げている。


「急にどうしたの?・・・って」


傍まで来て。

ミルアが空を見上げて涙ぐんでいるのを知った。


飛び出して来た理由は、分からなくもないと思っている。


「御両親が・・・御不幸な目に遭われたのね」


だから慰め代わりの言葉を吐いてしまった。


「はん?!なにを勘違いしているのかしら。

 私は悲しくて泣いているんじゃないわよ、馬鹿」


キッと睨んで来るミルアの顔に、声を噤んでしまうミハル。


「私はねぇ!憎い人形を思っていたの。

 あんなに大事にしていたのに、裏切ったマリーを恨んでいたのよ!」


怒りの表情の陰には、ミハルが観た通り哀しみが現れてもいたが。


「クーロブ爺にあなた達を助けてと言ったのはね。

 アイツに恨みを晴らす為でしかないの。

 ミハル姉とルシフォル兄、それにグランとかいう犬で。

 マリーをやっつけさせようと考えただけなんだから!」


吠えたてるミルアだけど、どことなく怒りが不自然に思えて。


「ミルアちゃん。 

 本当のあなたは憎んではいないのではなくて?」


「な、なにを・・・馬鹿にする気なの?」


気が付いていても言い返して来るのか。

それとも本当に気付いても居ないのか?


「ミルアちゃんは、憎むべき相手を愛称で呼び続けられるのかな?」


「あ?!」


気が付いていなかった・・・自分の心に?


「本当はマリーベルのことを今でも信じたいのよね?」


「あ・・・あ?!」


どうして・・・言い当てられたのだろうと動揺するミルアに。


「だったら。

 奪われた彼女を取り戻してあげれば?

 機械達の中から、本当のマリーを助けてあげれば良いんじゃない?

 あなたは心の中で、そうなる事を願っている筈よ」


微笑みかけて話すミハルの蒼き瞳を見たミルアが。


「ミハル姉って・・・魔法使いだったのね?!」


心の内を見透かしたミハルへと飛びついて来た。


「助けてよミハルお姉ちゃん!

 マリーを悪魔の手先から取り戻してよ!」


両親を殺した相手を恨みもしないで、少女は赦してもいたのだ。

それは本当に心を許した相手への免罪符・・・


両親を惨殺されたミルア。

殺した相手である戦闘人形マリーを心から憎んではいないと見切ったミハル。


だが、不幸はミルアとマリーが築き上げた友情にも陰を堕とした。

人間と機械。

二人の間には消えぬ想いが残っているのか?


次回 Act3 奪えぬ想い

君達には真心があるか?真心こころの絆は消えてしまわないのだから・・・

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