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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第3章 闘う宿命
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Act10 蒼髪の乙女

倒された人に目を見張る。

メデゥーサボールは未だ滅んでいなかった。


このままなら二人と1匹の運命も・・・だが?!

倒した筈のメデゥーサボールから伸びた触手に。


「嘘・・・こんなの嘘でしょ?!」


ルシフォルとグランが吹き飛ばされてしまった。


「嫌ぁッ?!」


身動きしなくなったルシフォルとグラン。

1分も経たない間に、天地がひっくり返ったようにも思えて。


「ルシフォルさんッ!ルシフォル!」


動かないルシフォルの姿が、ミハルの蒼い瞳に映る。


「助けなきゃ・・・助けないと」


頭の中が真っ白に染まって行く。

喪ってはならない、奪われるのは嫌だ・・・唯それだけが心を締め付けて。


「私がどうなろうと・・・助けなければ!」


   <<ドクン>>


人工頭脳に宿った記憶かこが想いを蘇らせる。


   <<ドクン・・・ドクン>>


「そう・・・助けるの」


白く染まる頭脳・・・たった一つの想いが、何かを呼び覚まそうとしていた。


「ルシフォルさん・・・あなただけは・・・護るから」


頭の中が空白に染まり切る前に、ミハルの身体は駆け寄ろうと走り出していた。





「「くっくっくっ・・・残念だったな、我はまだ滅びぬ」」


路面に墜ちたメデゥーサボールの人工頭脳が倒した相手を嘲笑う。


「「確かに触手の何本かは動かせなくされたが。

  残りの機能は未だに健在。お前等を駆逐できる位は動けるのだ」」



 ズルルル・・・


本体を持ち上げようと蠢く触手。

4本の伸縮器官で眼玉部分を支え、動かすことの出来る1本で横合いを走り抜けようとするミハルを捕えようと繰り出した。



 ジュルル・・・



足に巻き付こうとした触手・・・だが。



 バギャッ!



ミハルの足が踏みつけて潰してしまった。

自らが叩き壊したのにも気付かずに。



「ルシフォル?!しっかりして」


抱き起して必死に呼んだミハルの眼に映ったのは。


「あああああ・・・・」


防護服が引き裂かれているルシフォルの姿。

このトンネルの中には、まだ放射線が残っているのに。


「は、早くここから出ないと・・・」


混乱したミハルはメデゥーサボールから逃れなければならない事も眼中から消え、


「気密性が・・・失われちゃったから」


ルシフォルを放射線から護らねばならないと焦るだけ。


「ルシフォル!眼を開けてください」


防護服を破られただけだと思っているミハルが、必死に眼を覚まそうと声をかけ続けると。


「う・・・ミハル?」


やっとルシフォルの声が。


「逃げなきゃいけない・・・ミハルだけでも」


だが、聞こえたのは自分を置いて逃げるように勧められて。


「嫌です!逃げるのならルシフォルも一緒じゃなきゃ!」


首を振って嫌だと言い、


「それならルシフォルさんだけでも」


逆に自分が身代わりになると言い返すのだった。


「ボクは・・・いいから。

 グランと二人で・・・」


旅の目的を果たして貰いたいとルシフォルから言い渡されるミハル。


「何故そんな事を?

 多寡が防護服を破られただけじゃ・・・」


破かれた服を観て、言葉を失う。


「あ・・・紅い・・・紅く染まってる」


傷口から滲む赤い色に、目の前が翳んで来る。


「し、止血!包帯を巻かないと!血を停めなきゃ!」


腹部に開けられた鍵穴から漏れ出す血が、命が絶たれていくかのように感じて。


「ヤダ、嫌だ!死んじゃ嫌ぁ」


必死に手で傷を塞ごうとするミハルに。


「大丈夫だよミハル。

 ボクは死んだりしないよ・・・君が居てくれるのなら」


傷口に宛てた手を取り、ルシフォルが首を振る。


「今の内に・・・奴が再稼働しない間に。

 このトンネルを抜けて・・・ボク等の目標に向かって」


「そんなこと、出来っこないです!」


握られた手を見詰め、声を詰まらせるミハルが・・・


「ルシフォルと一緒なら・・・どんなに辛くったって我慢できるのに。

 私独りだけで旅が続けられる訳がないじゃないですかッ!」


紅い瞳のルシフォルへ、


「好きなんです、ルシフォルさんが!

 愛してしまったんですあなたの事を!

 だから・・・私を独りにしないでぇッ!」


告白を・・・裂帛の叫びと共に、別れないと告げたのだ。


「ありがとう・・・ミハル」


ぽつりと応えるルシフォル。


「ボクが言えるのは感謝の言葉だけ。

 そして・・・同じ言葉を君へ・・・贈りたい」


受け入れると答え、繰り返すと誓い。


「目覚めてくれた時から・・・好きだった。

 ミハエルではなく、その体に宿った君に・・・だよ」」


愛の告白を返して来たのだ。


「え・・・はい!」


機械の身体には心臓が無い・・・筈だったが。

告白返しを受けたミハルの左胸は爆発しそうなくらい高鳴った。

これ以上ないまでの歓喜を覚え、身体の内から命の炎が燃え盛るのを感じた。


「嬉しい・・・もう、あなたの為になら何でもできる」


防護マスクにおでこを宛がい、


「だから・・・死なせたりしない。

 ルシフォルの為なら、私は・・・護るだけ!」


心から願った。

大切な人を護り抜く力が欲しいと。


神が居るのなら与えて欲しいと。

愛する人を救える希望ひかりがあるのなら。




 ザゥッ!



ルシフォルをそっと横たえ、ミハルは振り返る・・・敵に向かって。


「ルシフォルを傷付けた奴を赦しはしない。

 私の大切な人を奪おうとした奴を許せない」


蒼銀髪が、風もないトンネルの中で揺蕩いだす。


「命をなんとも思わない奴を許しはしない。

 魂さえ穢そうとする機械共に、容赦なんてしない!」


ミハルの蒼き瞳が敵を睨みつけて。


「お前が悪魔の手先だと言うのなら。

 私は聖なる破壊をお前に与えてやる・・・この手で!」


右手をメデゥーサボールに向けて突き出した。



 ブゥン!



ミハルの怒りが頂点にまで達した時だった。


右手首に緑色の光が小さく燈った・・・


「私・・・は」


弾けるようにミハルの意識が掻き消え、新たな存在が姿を現す。


意識を失うのと同時に、瞼が閉じる。


ルシフォルを喪いかけた時、頭の中で何かが蘇った。

真っ白に染まる意識、そして心までも。


空白になる頭の中で・・・靄が立ち込めていた記憶に光が差し込む。

失ったと思われていた記憶の片鱗が、再び光を手にした。


翠の光・・・小さな光の中にゼロの数字が浮かび上がる。



 ざわっ!


ミハルの髪が蒼さを濃く放って。


 

 バチ・・・バチバチ!


毛先から蒼い放電スパークが飛び散る。


「・・・再び戦いの場に目覚めた。

 私の宿命は・・・まだ終わってくれなかったか」


声のトーンが変わる。


「いいや・・・交わした約束を果たす迄は終わらせない」


瞼がゆるゆると開け放たれる。


蒼い瞳はミハエルの物。

険しい表情は、愛しい人を奪われそうになったミハルのモノ。



 ザゥッ!



靡く髪は聖なる色。

放電するかのように揺蕩う蒼い髪。


それは戦闘少女レィが全力を出す時に見せる色・・・


「どうやら・・・私はまた。

 新たな容れ物に宿ったようだな」


ミハルの意識が消えた時、喪われた筈の記憶たましいが呼び覚まされた。

怒りに燃え、我を忘れた時に現れ出たのは、果たして悪魔か女神なのか?



「おい、そこの眼玉親爺。

 復活祝いでも受け取って貰おうか」


ニヤリと哂うのは、蘇りし戦闘少女の余裕か。

それとも?


「私の逆襲・・・それはあいつを打ち砕く迄終わらないからな」


復讐に蘇っただけなのか?

どうして大切なことを言わないのか?


「手始めに・・・お前をぶっ壊してやるから覚悟しなよ?」


メデゥーサボールを睨みつける蒼き瞳。

蒼き髪が弾けるように靡き、トンネルの中で舞い踊った。

蘇った戦闘人形レィの記憶たましい


どうやってなのかは不明だが、間違いなくレィだ。

しかし、蘇ったレィは過去とは違った。

自分を殺そうとした死神人形を恨んでいる?

仇を討つのが蘇った目的だと謂わんばかりに・・・


次回 Act11 翠の輝

青き瞳は翳っていないか?君は何を企む?なぜ大切な想いを口にしない?

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