Act 6 魔女殺しと鍵の御子
ストライカーズと呼ばれる4人。
その容貌はリィンの瞳に焼き付けられる。
中でもオーリア隊長は特別だった・・・
ドアに凭れ掛かっていたパスクッチが、ゆっくりとリィンの前へと歩み。
「君が鍵の御子と呼ばれるリィンタルトだろう?」
左の瞳にリィンを映し、何かを計るように訊き質して来る。
「そこのマクドノーから聴いていたんだが。
破滅を齎す者に対抗できるのは鍵の御子だけだというが、本当だろうな?」
蒼い瞳にリィンの顔を捉えたまま、嘘偽りでないかを質してくる。
「お嬢に対して失礼だろうが!傭兵パスクッチ」
辛辣な問いに、マクドノーが割って入る。
「お前等魔女殺しを雇ったのは俺だぞ。
依頼者を差し置いて、リィンお嬢へ詰問するなど以ての外だ」
傭兵としてパスクッチを雇い入れ、リィン奪還を依頼したマクドノー。
頭ごなしに一喝し、不埒な問い掛けを受け流そうとしたのだが。
「奪還は完遂した。
今は依頼主でも傭兵でもない」
動じないパスクッチは事も無げに言い返すと。
「今の俺達は、魔女を狩る者として此処へ来た」
ドアの外に居る者へと、目で合図する。
「魔女・・・機械の人形。
悪魔に拠って野に放たれた戦闘人形を狩るのが俺達なのだ」
入って来いと・・・仲間へと教えたのだ。
「マクドノーのおっさん、アタシ達を忘れちゃぁいないよねぇ?」
グローブを填めた金髪娘が入るなり、マクドノーへと質して来る。
「この子が鍵の御子だという証拠を観たいんだけどさぁ?」
銀髪で両足に太腿迄あるロングブーツを履いた娘からも。
そして最後に入って来た青みを帯びた黒髪の娘が、
「こちらがリィンタルトさんですよね?
私達は魔女殺しと呼ばれる4人組です」
自分達があの戦車を操っていた者だと紹介した。
パスクッチを先頭に、3人娘が並ぶ。
隊長を名乗るパスクッチは白色の。
グローブを填めた金髪の娘は黄色。続いて入って来た銀髪娘は緑の。そして最後に入って来た娘は青の特殊戦闘服を身に纏っている。
それぞれの属性か、はたまた任務を表す為なのかは分からないが、色分けされた衣服には其々に異なる装備が着けられてもいた。
「魔女殺しの皆さんなのね?」
4人を観て、リィンが質しなおす。
「まだお礼を申し上げていなかったわ」
純白のドレスの裾を軽く持ち上げ、貴族の礼を表して。
「助けて頂いて感謝致します。
アタシはリィンタルト・F・オーク。
フェアリー財閥とオーク家、双方の血を受け継ぐ者です」
先ずは自己紹介を述べてから、
「パスクッチ隊長さんが仰られた通り、鍵を開く者でもあるのです」
紋章が浮き出たドレスの胸元を開いて見せる。
「これがオーク家を受け継いだ証。
そして破滅兵器を以って、世界を統べる者の証でもあるの」
紫に染まる槍と大蛇の紋章。
それが言わんとしているのは、兵器を稼働させることの出来るのを秘められた御子の証。
左の蒼い瞳で紋章を観たパスクッチ。
浮き出た紫色の紋章から、何かを計ろうとしていたが。
「信じよう、君が鍵の御子であると」
再び髪で左目を隠して、
「だとすれば、君は何を望む?
リィンタルトとしてではなく、鍵の御子としてどうしたいと言うんだ?」
機械に対抗する者として。
悪魔に組みする魔女を狩る者として訊いたのだ。
「決まってるわ、そんなの。
悪魔の野望を叩き潰してやるだけよ」
人の世界を守る為に。
愛する人を再び迎えられるように。
「ニューヨークの悪魔が棲む塔まで辿り着いて。
人類を・・・奴が望む破滅から救うのよ!」
タナトスが創造主になるのを防ぎ、人類に平和を取り戻すのだと。
リィンは果たせるのなら、身を犠牲にしてもやり通す決意だった。
パスクッチからの問いに、決然と答えるリィン。
そう言うのが当たり前だと思い込んでいたのだが。
「それでは訊く。
どうやって成し遂げられるのか。
如何にしてニューヨークの敵本拠まで辿り着けると言うのかを」
改めて問い直されてしまった。
想うのは易いが、実現は相当に厳しいのだと。
「敵は人類ではない機械の兵達だ。
死をも恐れず、命令に実直な相手を敵に回して。
如何にして本拠迄辿り着けると言うのかを教えてくれ」
「え・・・そ、それは・・・」
問われ直して言葉に詰まる。
攻め上れば何とかなると思っていたが、改めて問われると答えが出て来ない。
「お嬢を擁して仲間を集えば・・・」
助け船を出そうとしたマクドノーでさえも返答のしようも無く。
「血路が開かれる筈だ」
闘う内に見つけられるだろうと、リィンを擁護するのだったが。
「そうだ、マクドノー。
戦いに必要なのは、その場その場での的確な判断能力。
闘う内に血路が開かれるようにするのも、軍略の一つだろう」
受けたパスクッチも初めは肯定していたが、
「だが、将たる者が搦手に位置するようでは兵は集えん。
兵は常に将を観て動く。
将の一挙手で、戦意は如何様にも動くものだ。
ならば、リィンタルトは将である器か?
将だと言うのなら、先陣を切る意気込みを見せなければならないのだぞ」
令嬢育ちの穏やかな顔を見せるリィンに、戦闘の何たるかを知らしめようとしてくる。
「先頭に立って戦えるのか?
それ次第で士気を鼓舞し、仲間を集えるかが決まる」
そしてリィンが先頭に立って闘うべきだと進言して来たのだ。
「アタシに・・・将が務まるかしら?」
「務まらないとか出来ないとか思うのなら、端から辞めておけば良い」
簡単に辞めれる筈もない。
鍵の御子であるリィンが悪魔達から逃げ惑っているだけなら、いつの日にか人類は駆逐されるだけだろう。
闘う事を諦めたら、残された人々に待っているのは破滅だけだろう。
「辞めれる訳がないじゃん」
ポツリとリィンが呟いた。
「アタシが手を拱いていたら、それだけ余計に人が殺される。
野望を砕かなければ、人に待っているのは破滅しかないのよ」
グッと手を握り締める。
決意を掴むかのように。
「だったら・・・パスクッチ隊長の言った通りに。
アタシが先頭に立って攻め上れば良いのよ!」
自らが将たる器へと昇華するのだと。
敵を畏怖させ、味方を鼓舞する為にも。
リィンの声を聴いたパスクッチが口元を歪ませる。
一人の少女が決断した姿に、自分の意志を絡ませて。
「リィンお嬢が、決断されるのなら。
俺が傍でお守いたします・・・最期まで」
傅くのはマックの愛称を与えられし騎士。
一命を投げ打ってでも護らんと。
「ありがとうマック」
傍に居ると誓うマックに、リィンが改めて頼んだ。
「アタシと一緒に、タナトスを倒しましょう」
悪魔の化身、タワーの主。
そして人類の敵となった者を倒すのだと。
「勿論です、リィンお嬢」
姫に傅く騎士の如く。
リィンとマクドノーは誓いを起てる。
「そうよ、アタシは闘わねばならないの。
ロッゾアお爺ちゃんに託され、エイジにも約束したんだから。
必ず悪魔から、地上を解放してみせるから!」
自らが先頭に立ち、闘い進むのだと。
蒼き瞳を決意を滾らせるリィンタルト・フェアリー。
凛々しき少女は、戦いを前に想いを新たにするのだった。
リィンの決意を聴いて、広間を後にする魔女殺しの4人。
「これで決まったな・・・・」
含み笑いを溢したパスクッチが、後ろの3人の娘へと告げる。
「俺達が向かう場所も」
自分達の徒名の通りだと。
「魔に魅入られた人形を狩る者として・・・」
パスクッチに促された3人も、決意を秘めた貌で頷いていた。
傭兵としてではなく、魔女を狩る者として共に行くと・・・
決意を知らせた後、4人は何も告げずに立ち去った。
「あの方達も・・・来てくれるかしら?」
魔女殺しの異名を取る4人を観たリィン。
「4人共が、どこかしらに機械を宛がっていたわ」
身体の一部を機械に換え、魔女と呼ばれる少女型戦闘人形と闘っているのだと分かった。
自分も嘗ては少女型人形の操手と呼ばれていた。
誰よりも人形を我と思い、機械の身体を我が身と信じて戦った。
機械に因って人間の能力を凌駕した感覚をも、体験して来たのだから・・・
「リィンお嬢には、奴等の曰くが一目で?」
マックは見識の深さに感嘆したが。
「彼の左目はね、他の者を計れるんだよマック。
3人の仲間だって・・・きっとどこかが増幅されているんだわ」
リィンは一目で喝破したのだという。
「・・・流石は我がお嬢ですな」
マックはリィンにつられて4人が出て行く後ろ姿に目を向ける。
「傭兵として雇う時に知りました。
奴等は機械共に拠って、身体の一部を失い。
奪われた機能をサイボーグ化したのだと」
「そう・・・彼等も。
奪われた者達だったのね、アタシと同じように」
魔女殺しの4人は躰を。
リィンは奪われてはならない大切な宝を。
「だとすれば・・・一緒に向かってくれるよね?」
今は頼んでもいない。
だけど、彼等はきっと自分と共に立ち上がってくれると思った。
「あの方々が魔女を狩る者であるなら・・・」
立ちはだかるのは戦闘人形。
ならば、魔女とも揶揄される人形と闘えるのは魔女殺し達。
「死神人形達だって黙っちゃいないでしょ?」
タナトスとの決戦の前に、死神人形からエイジの指輪を取り戻せるかもしれない。
勝ち続け、敵の本拠に近付ければ。
「勝ち続ければ・・・チャンスが巡って来るんだから」
翠の指輪を奪い返せれば。
「最期はエイジと一緒に・・・居たいよね」
指輪さえあれば、タナトスと刺違えたとしても・・・恐くないと。
リィンは希望を胸に宿す。
魔女殺し達が闘ってくれるのなら、奪還するのが夢ではなくなるのだと。
「それなら、彼等だけに闘わせる訳にはいかない。
アタシだって銃を執る必要があるんだから」
闘うと決めていたリィンが、ボディーガードであるマックを観ると。
「ねぇマック。
アタシに敵の倒し方を教えて。
銃の撃ち方や、弾の当て方を教えてよ」
戦闘人形の操手として活躍して来たリィン。
格闘戦を会得はしていたが、飛び道具には疎かった。
拳銃にしろ、小銃やマシンガン等の火器の扱いは知らなかったのだ。
「リィンお嬢に?
・・・良いでしょう、俺が実戦向きの撃ち方をお教えしましょう」
一瞬躊躇したマックだったが、眦を決したリィンを観ては断る術を知らず。
「訓練は実践に繋がると覚えておいてください」
自分の経験を踏まえて教えると言う。
「分かったわ、マック・・・先生」
にこりともしないでリィンが頷く。
今よりマックは戦闘という名の教育者となるのだ。
「お願いマック。アタシを一人前にして」
敵に遭う前に、身体に叩き込まねばならないと。
仲間の枷にならないだけの戦闘少女へと換えて欲しいと願ったのだった。
青き瞳には何が映った?
魔女殺しの異名を持つ4人はリィンに何を期待したのか?
いよいよリィンも先頭に立って戦うと決した。
一旦決めたのならば、自らも銃を手にしなければならないのに。
次回 Act 7 リィンよ銃を執れ
教師は教え子を見守るだけじゃ勤まらない。知られず手を指し伸ばしてこその恩師だ!




