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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第2章 奪うモノ 奪われるモノ 
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Act13 奪われたモノ 奪われるかもしれないモノ

逃げ行く者達を紅い瞳が追っていた。

奪われたモノを追うことすらせずに。

どこにそんな余裕がる?

どうして焦りも見せない?


その訳とは?

パスクの街からも望見出来た。


荒れ野に棚引く発煙弾の煙と・・・



ファーストに報告、我が方の3機が撃破されました」


いちいち報告されずとも分かっている、それくらいは。


「更なる追手を向かわせましょうか?」


伺いを立てるなら追撃隊を組織しておけば良いだろうに。


「ああ、追いつける奴が居るのならな」


一番機動力のあるホバークラフトを差し向けておきながら、追撃に失敗したのだぞ。

こちらにはもう、奴等に追い縋ることの出来る戦闘機械は存在しないのだ。


「追いつけなくとも追撃しない訳には。

 本部からの至上命令も届いておりますから・・・」


「そうだな・・・20体程の機械兵を追撃に廻しておけ」


追撃しても見失うのが分っているのに・・・無駄な兵力を欠く訳にもいかんだろうが。


機械兵の事だから見失っても帰っては来ないだろう。

命令が覆されない限りは、動力の続く限り果てしなく追うだけだ。


「どのみち、還っては来ないだろうからな。損害は少ない方が良い」


「は!直ちに追撃隊を組織します」


機械兵の部下が復唱して離れていき、身近な兵を募り出した。


「まったく・・・融通の利かない奴等だ」


本部からの命令を拒む事すら出来なかったのかと、半ば呆れて腰に手を据える。


「追撃しなくとも、あのの方から戻って来るだろうに」


死神の異名を取るファーストが、電子頭脳に記憶した画像を巻き戻して。


「まさかリィンタルトが鍵の御子だったなんて。

 ロッゾアのじじいに誑かされたわ」


リィンの胸元に浮かび上がった紋章を思い出す。


「捕らえて蹂躙するとかなんとか言っておいて。

 まさか紋章を手渡していただなんて・・・あの化け狸めが!」


紫色に浮き上がったオーク家の大蛇が槍に絡み付いた紋章。

どうやって体内に取り込ませたのかは知らないが、タナトスの野望を頓挫させることが出来る唯一の鍵だというが。


「やっぱりリィンタルトという娘は、とんでもない不幸を背負っているようね」


死神人形ファーストはリィンを不幸だと罵り、


「だったら、この私が終わらせてあげないと・・・いけないよねぇ?」


運命を途絶させれるのは自分しか居ないと嘲るのだ。


「タナトスに献上するなんて勿体ないけど。

 奴は言ったわ、必要なのは鍵だけだと。

 奪い去った後は、弄ぼうが殺そうが勝手にしろって・・・ね」


悪魔タナトスに必要なのはリィンではなく、飽く迄も装置に必要な解除キーなのだと。

それさえ手に出来たのならば、リィンを如何にしようが構わないと言って来たらしい。


「つまりは・・・生かしたまま捕えて来いってこと」


殺してしまえば鍵も失われかねないと危ぶんだのだろう。


「おまけに・・・手出しをするなと釘を刺しやがった」


仮に貞操を失えば、鍵も失う可能性があるのだとか。


「まぁそうなると、処女を散らさなかったのは幸いかもね」


この街まで来る間に、手を出すのは可能だった。

睡眠薬で昏睡状態だったリィンを穢すのは簡単なことだった。

だけど、気が向かずに放置していたのだったが。


「公開処刑を企てたのが、唯一の誤算。

 もしタナトスに知られずにいられたのなら。

 私がタナトスに成り代わって支配できたのかもしれないわね」


誤算と言えば語弊がある。

もしも仮にタナトスに知られなかったとしても、どうやってリィンの鍵を手に出来た?

鍵の存在を自分だけの物にしたとして、リィンが素直に従うとも思えないが。


「奪う方法は、私が一番良く知っているもの。

 身体に教え込んでしまえば、抗う事なんて出来なくされるのよ。

 快楽と苦痛を同時に叩き込んでしまえば、人間なんてどうにでも出来るわ。

 私がそうであったように・・・ね」


死神人形になった過去を思い起こし、人間の弱さを知り尽くしたのだと言う。


「貞操を破らなくても、快楽も苦痛も叩き込める。

 私の復讐を遂げるのには、リィンをズタボロにしてやれば済む。

 そして予てからの欲求をも満たし、その上で地上を私の物としてやれば良いのよ!」


リィンを手にした暁には、タナトスをも誑かして世界の覇権を握らんと欲したのだ。


「その為にはねリィン。

 タナトスの元へ行く前に、私の元に来なければいけないの。

 だって・・・そうしなければいけなくなったんじゃなくて?」


ニヤリと哂い、懐からあるモノを摘まみ出す。


「あなたが眠っている間、何もしてこなかったと思う?

 無防備に眠るリィンに、このファーストが手をださなかったと本気で思う?」


摘まみ出したモノを手の中で弄んで。


「誰が渡したのかは知らないけどねリィン。

 あなたはこんなモノを指に填めていたらいけないのよ」


蒼く光る指輪を嘲て、


「代わりに私から贈ってあげたわ。

 同じ色、同じサイズの・・・発信機入りの指輪をね」


気が付かれない間に、すり替えておいたのだと。


蒼い指輪を、陽の光に翳して死神人形が顔を歪める。


「まったく忌々しい。

 これを渡した奴って、どれだけリィンを愛していたのやら。

 もしもリィンが指輪に仕込まれた技に気付いていたのなら・・・

 道中で目覚め、逃げ出されていたかもしれないわ」


それだから手枷足枷を填め、鎖で拘束したくらいだった。

指輪の他にも隠し持っているかもしれないと危ぶんだからだ。


「最新鋭のレーザーメスに超長破壊波。

 どっちにしても機械の身体を持つ者にとって恐るべき武器になる」


指輪に仕込まれてある技は、リィンが気付いていたのならば脅威に他ならないと。

自分が貞操を奪おうとした時に放たれでもしたらことだと思い、奪っておいたのだが。


「きっと分かる筈だわ、あのリィンなら。

 大切な指輪が挿げ替えられているのに。

 だとすれば、必ず取り返しにやって来るでしょうね。

 危険を冒しても、この死神の元へと」


それだから追撃を中途半端にしていたのか。

逃がしたリィンが戻って来ると踏んでいるからなのか。


「仲間達は奪い返したつもりでしょうけど。

 本当に奪ったのは・・・この死神人形ファーストなんだから。

 リィンの運命も世界の覇権も全て、奪ってやるのよ!」


タナトスの野望を逆手に取り、自分が奪うと画策するファースト。

復讐だけに飽き足らず、今度は世界を奪うのだと欲望に染まる。


「フフフ・・・最後に笑うのは。

 奪われたモノじゃなくて、与えた者だって分かるでしょうよ」


発信機を内蔵した偽物の指輪が機能していた。

どんどん離れて行くのがしっかりと分かる。

与えた偽物を本物だと信じている証だ。

指輪をすり替えられたなんて思いもしないのだろう。


「分かった時、あなたはどうするのかしら?」


指輪を外す・・・いいでしょう。

指輪を填めたままなら・・・どこへ向かうの?


「決まってるよねぇリィン。

 返して欲しいのなら、来なきゃいけないわよねぇ」


リィンにとってかけがえのない指輪なら。

愛した相手からの指輪だとすれば、奪い返さなければならない筈だと。


「返して欲しかったら、死神人形まで連絡を取りなさい。

 私の部下達はいつでもあなたの傍で待っているわ」


発信機の電波を辿り、部下の一部を貼り付かせるように命じてあった。

準戦闘人形とでも呼べる機械兵に、リィンを見張るように言い置いてあったのだ。


「忍びに気付いた時には、私と会いたくなるでしょうね。

 指輪リングが偽物だと分かったのなら、返して欲しいと言うでしょう?」


そして機械兵はリィンに持ちかける。


「返して欲しくば、死神人形ファーストの処まで来いと知らせてあげるわ」


タナトスにも知られずに、リィンを奪える方法。

それは忍んだ機械兵が直接話す事。

通信などではなく、音声を以って知らせれば良いのだと。


「後は・・・リィンがいつ、やって来るかだけ」


もう決まったかのように言ってのける。

もう一度リィンを捕らえられると断言したのだ。


「楽しみね・・・その日が」


蒼い指輪を懐に戻し、消えて行く白煙を眺めて。



「よし!我々も出立するぞ。

 目標は本部であるニューヨーク!

 人類共を駆逐する者達が生産される機械の街へと!」


部下を促し、全兵力を以って進撃するのだと命じる。


「途中の街など、全て燃やせ!

 抵抗する者など皆殺しにしてやるのだ!」


指揮車に乗り込み翳した手を振り下ろす。


「我等は機械。

 我が軍は無敵。

 そして我が第3軍の進路は北だ!」


2000に近い機械兵が行進を始める。

陸上の無敵艦隊アルメダが北へと向かう。


「リィン・・・待っているわ」


反対の方角へ振りかえる死神人形ファーストが、目を細めて嗤う。


「またの機会を・・・」


奪われたモノ。

奪われるかもしれないモノ。


そして・・・次回こそが最期になるだろう。


人類の消滅まで・・・残りは168日・・・

死神人形ファーストは嗤っていた。

逃げても無駄なのだと・・・そして。


リィンは死神に見初められてしまった。

必ず再び手に出来るからと。


救出は無駄足だったのか?

人類の希望は死神に捕らえられてしまうのか?


二つの運命が動き始め、二つの旅路が始まるのです。


次章は二人が如何にして戦いに身を置く様になるかを語ります。

二人の周りの存在にもスポットを向けたいと思うのです。


さぁ!闘うのかミハルよ?

いけ!鍵の神子リィンよ!


次回 第3章 闘う宿命 Act1別つ旅路

二人は同じ時を歩む・・・運命の子

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