Act11 母の想いは奇跡を呼ぶ
奪還成ったリィン。
その瞬間をリィンの視点で。
彼が如何にして救出したのかを!
死神人形が紋章を観て狼狽えた時だった。
壁をぶち破って装甲運搬車が飛び込んで来た。
囲んでいた機械兵達を薙ぎ倒して・・・
ドガッ!
目の前が土埃で霞んでいく。
靄がかけられたように、死神人形でさえ霞んで影絵みたいに朧気にしてしまった。
「え?!なにが?」
味方なんてどこにも居ないと思っていた。
周り中を機械兵達に囲まれて、逃げ出すチャンスは訪れないと覚悟していたのに。
飛び込んで来た車両から死神人形を守ろうとしたのか。
それとも事態の急変に人工頭脳が混乱したのか。
ジャリンッ!
手枷に繋がっていた鎖を、機械兵が放り出した。
ドサッ!
「あぅッ?!」
足枷を填められたまま、床に投げ出される。
今迄吊り下げられていた身体が床の上に叩きつけられてしまった。
でもそれは、やっと自分の意思で身体を動かせられることを分からせてくれた。
ー 逃げ出すチャンス・・・だよね?
痛む身体を無理やり起し、足枷が邪魔で歩く事すら出来ないけど。
歩くのが無理なら這ってでも逃げ出そうと・・・
藻掻くリィンが身体を反らした・・・その瞬間。
がばっ!
黒い何かが身体を抑えつけた。
グィッ!
巻き付いて来たモノが脇腹を掴む。
ヒョィッ!
掴んだ勢いのまま、身体を持ち上げられてしまう。
声をあげる間も無く、何かに再び拘束されたのだと分かった。
分かったから喉から悲鳴が出そうになった。
「嫌ぁ・・・むぐぅッ?!」
やめて・・・と、叫ぼうとした口を塞がれた。
「んんッ?!」
塞がれた・・・けど。
驚いた・・・本当に。
口を塞いできたのが誰かの手だったから。
人形や機械なんかではない、人の手だと分かるから。
大きな手の平が。
ごつごつした感じの手がアタシの口を塞いでいる。
そう・・・金属の冷たさじゃない、人の温もりを感じられた。
ー 誰?アタシを助けてくれるの?
口を塞いで身体を掴み上げるのは・・・誰?
驚いたアタシが声を出さないようにと、口を塞いだのだと分かるまで数秒も要しなかった。
でも、その数秒の内にアタシを掴み上げたまま走り始める。
・・・裏口へと。
アタシが連れ込まれて来た裏口へ、猛然と駆け出した。
粉塵が舞う教会の中には、未だに大勢の機械兵達が居る。
その中には、あの呪わしい死神人形だって健在だろう。
アタシが居なくなったのに気が付かない筈が無い。
機械の頭脳で直ぐに探し始めてしまうのが眼に見えてる。
そうなったら人の足で逃げ切れるとは思えない。
だとしたら、この人が乗り物に連れ込んでくれるのを祈るだけ。
そう・・・今のアタシに出来ることと言えば、祈ることぐらい。
口を塞いでいる人の服装は黒かった。
どこかで見た気がするのだけど、誰だったかは思い出せない。
思い出せないけど・・・なぜだか懐かしく感じる。
とても身近だったような・・・きっとアタシを知っているんだと思う。
だって・・・危険を冒してまで助けようとしているのだもの。
裏口を出られた。
そしてそれが見えた。
人が乗っている黒い車が、ドアを開け放って停まっているのが。
ドサッ!
アタシを抱えたまま、後部座席へ飛び込んだ人が。
「出せ!追手が来る前にここから離れろ!」
大声で運転席の黒服を着た男の人へ命じた。
「お嬢の奪還に成功したぞ!二度と奴等に渡すんじゃねぇ」
吠える声が耳を打つ。
さっき感じたのが嘘ではないと。
今、聞こえたのが幻では無いのだと・・・
「マ・・・マクドノー?!」
恐る恐る声に出してみる。
座席に飛び込みドアを閉め、運転手に命じた後。
掴んでいた手を緩め、口を塞いでいた手を放した人を仰ぎ見て。
「マクドノー!」
スキンヘッドなボディガードの名を呼んだ。
サングラスを外す男がアタシを見詰めている・・・ううん、観てくれている。
「お嬢・・・」
険しい顔を綻ばせて、アタシを未だにオーク家のお嬢さんだと呼んでくれる。
「お待たせしましたリィンタルトお嬢・・・申し訳ございません」
サングラスを外して詫びてくるマクドノー。
「もっと早くお救いせねばいけませんでした。
このような戒めを填めさせてしまう前に・・・」
アタシに填められたままの手枷足枷へと手を伸ばし。
「御許しくださいお嬢。
このマクドノー、一生の不覚でございました」
謝罪と共に。
バキンッ! ギリギリ・・・バキッ!
手足の・・・枷を引き千切ってくれる。
機械に拘束されていた証が消され、これでやっと本当の自由の身になれた。
助け出してくれたマクドノーに拠って。
「マクドノー・・・マクドノー・・・うわあああんッ!」
なぜかは分からなかったけど、身体が勝手に抱き着いていた。
どうしてなのかは知らないけど、
「あなたは約束を守ったのよ・・・マック」
勝手に声も出ていた。
しかもマクドノーのことをマックと呼んで。
ビクン・・・マクドノーの身体が震えた気がする。
「ミ・・・ミカエル嬢?!」
驚いたようにお母様の名を呟き、
「ええ・・・それが俺に残された唯一の務めですから」
なにもかもが分かったように、目を閉じて。
ぎゅぅッとアタシを抱き返してくれた。
力一杯・・・それでいてどこか優しく。
マクドノーに抱かれて、やっと本当に解放されたんだと分かって来た。
さっきまで機械達の前で怯え、死神人形の手で凌辱されかけていたのが幻のようだった。
「ありがとう・・・マック。ありがとうマクドノー」
人の温もりが、こんなにも愛おしい物だなんて初めて知った気がする。
それが人の絆なのだと初めて教えて貰った。
ガクンッガクガク・・・ガタンッ!
荒れ地を走る車は激しく揺れる。
不正地向けのRV車だろうと、全速力で荒れ地を走れば当たり前の話だ。
「マクドノーの兄貴、後ろの野郎達が・・・」
運転手さんの声で、アタシとマクドノーが我に返る。
逃げ出したとはいえ、此処はまだパスクの街からそう遠くは離れられていない。
追手を差し向けて来られたら、安堵するには早過ぎる場所なのだ。
「機械共の追手を相手にするつもりですぜ!」
5両RV車の内、4両がジグザグに走っていた。
それは只1両を守る為、執りえる最前の欺瞞行動だった。
どの車両にリィンが乗せられているのかを分からなくしようとしているのだ。
追手が迫ったのなら、自分達が身代わりになって撃たれても構わないとばかりに。
「馬鹿野郎・・・共め。
生きて還るのが、そんなに面倒になったのかよ?!」
部下の黒服達が想っているのは、唯々、マクドノーとリィンタルト嬢を生かして帰らせる事だけ。
自分達がここで果てるとも、二人だけは生かして還したい・・・
マクドノーも、つい今しがた迄同じ気持ちだったから良く分かるのだ。
ー リィンタルト嬢だけでもお救いしなければ! ー
何度も部下の前で吠えて来た。
奪われてからの1週間、何度同じ言葉を吠え続けたか。
ー やっとこの手に取り戻せたのだ、何があろうが手放すものか!
マクドノーの想いは、オーク家に臣下の礼を捧げた者達の共通の誓いでもあったのだ。
ー ミカエルお嬢が導いてくだされた。
娘のリィンタルト嬢を守ってくれと・・・仰られたのだ!
死しても尚、娘を想う母の願いが届いたのだと。
無神論者のマクドノーでさえ、母の想いが奇跡を生んだのだと感じられた。
「ならば・・・お前等が犠牲になろうとも。
リィンタルト嬢を護り抜くのが我が使命!
お嬢を無事に逃れさせるのが我等の天命!
この大義の為なら、死して屍・・・拾う者無し」
死んでも護れ。
生きているのなら死ぬまで守り通せ。
そして果せるのなら、仲間が死んでも振り返るな・・・と。
「合点だ!マクドノーの兄貴」
運転を託された黒服がアクセルを更に踏み込む。
「地の果てまでだって、御守りしますぜ!」
それに併せて4両も加速し出す。
「きっとあいつ等だって・・・その気なんですぜ」
そしてバックモニターに映る戦車を指差した。
「なにせ、一戦交える気みたいですから」
戦車は後部に砲塔を廻し、追手を警戒していたのだったが・・・
砂煙をたてて街から出て来る者が居た。
機械の軍団からリィンを再び捕えようと、追手が差し向けられて来たのだ。
「ほら!パスクから送り狼が出て来やがりましたぜ?!」
モニターには戦車の後を追う、3つの砂煙が見える。
「偉く足が速いな・・・何でしょうかあれは?」
車にしてはスピードが速い。
バイクにしては砂煙が大き過ぎる・・・
でも、乗り物にしては小型の部類に思えたのだが。
運転手がバックモニターを指してマクドノーに訊ねた。
「糞ッ!なんて速さなんだ。
もう直ぐ戦車に追いついてしまうぞ?!」
3つの砂煙に隠れた敵の正体。
それは陸でも水面でも高速力を出せる・・・
「おい待て?!あれは・・・空気浮揚艇じゃねぇか?!」
地を這う浮き輪。
後部に取り付けられた羽根を高速回転させて飛ぶように走る。
「冗談じゃねぇぞ!
あんなのが相手なら、戦車に勝ち目なんて無いぜ?!」
マクドノーがバックガラスに振り返って叫んだ。
追手からは逃げられないと・・・・
逃げ果せたとは云い難い。
未だパスクの街からは離れきれていないから。
追っ手は3機のホバークラフト!
高速力を以って近寄ってくる危険な相手。
追い付かれる前に撃退しなければならないが・・・
次回 Act12 追撃
迫る脅威は撃破しなければ!その為の用心棒だろぅ?




