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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第2章 奪うモノ 奪われるモノ 
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Act8 囚われのリィン

魔女ファイブを倒した一行が、次に向かうのは?!


勿論、パスクの街。

当然のこと、リィンの奪取を目指すのだ!

車列を組んで丘を登る。


2両の装甲運搬車の後方には6両が位置し、総数8両がパスクの街へと走っている。


運搬車に続く5両のRV車の殿に陣取るのは、旧式だが強力な10センチ口径の主砲を備えた一両の戦車。


機械兵を積載し、単縦陣を執る装甲運搬車の指揮官席には、銀髪の少女型人形蒼穹の魔女ファイブの姿が見えた。

オープントップの指揮官席に座上する魔女ファイブは、刮目したかのように眼を抉じ開けた状態でピクリとも動きはしなかったが。




「マクドノーの兄貴。

 巧くいくんでしょうかねぇ?」


装甲運搬車2両から15メートル程、後方に位置したRV車の運転手が助手席に陣取ったマクドノーに訊くのだったが。


「パスクッチの野郎に任せて行おくんだな。

 俺達はドンパチの隙にかっさらってしまえば良いだけなんだ」


「へぇ・・・そんなもんですかねぇ?」


これから向かうパスクの街には、総数2000近い機械兵達がたむろしている筈だった。

敵兵力を考えても、普通に交戦していては救助も糞もないとは思えるのだが。


「巧くいくのかなんて考えていられるか。

 何が何でもお嬢を取り戻すんだ。

 このチャンスを逃してしまえば、二度と奪還出来ないと思え!」


「へ、へぃ!」


マクドノーは唯一度の機会を逃すなと言う。


「尤も、この機会を逃すのなら俺は生きてはいないだろうがな」


そして決死の覚悟を仄めかしたのだ。


「見敵必戦!生死は懸かってこの戦に在り・・・だ」


ぎろりと最前列の装甲車両に乗っている魔女ファイブの後ろ姿を睨みつけて、リィン奪還を誓うのだった。



 キュラキュラキュラ・・・



無限軌道キャタピラが軽快な走行音を奏でる。

殿に位置した魔千破マチハの中では、無線手キャミィがモニターを眺めながら鼻歌を歌っている。


「ふんふんふ~ん♪」


映されているのは自車両の画像では無い。


「ちょっとこ、右に寄れ・・・そうそう。フンフン~ン♪」


補助の装甲装置を右に倒し、車列を先導する1両目を右に向かわせる。


「おい、キャミィ。

 鼻歌なんて歌ってる場合かよ」


左に座る本物の操縦士ラミアが悪態を吐く。


「いやいやラミアさん。キャミィが歌ってるのは<ワルキューレの騎行>ですから」


今は仕事が無いアルが聞き耳を立てていたのか、キャミィが何を考えて鼻歌を歌っているのかを知らせる。


「ほら、キャミィさんはこれから何が起きるのかを感じ取っておられるんですよ」


敵の真っただ中に突っ込もうとしている今、張りつめた緊張感が漂っていたから。


「敢えて道化を演じられているんですって」


「おい、アル。アタシは道化で歌ってるんじゃないってば」


モニターを見詰めたままでアルへと応える。


「奴等にヴァルキューレの存在を知らしめてやってるだけだぜ?」


頬を歪めてニヤリと嗤い、


「そら・・・観えて来やがった」


モニターに捉えた街を指差すのだった。


車列はキャミィが誘導している。

殿の戦車の中で、短距離通信を活かして走行装置を乗っ取った状態で。

2両の装甲運搬車の自動運転装置を魔女殺ストライカーズしと呼ばれる装備で操り、こちらの思う通りに走らせていたのだ。


目の前にあるモニターに映されるのは、1両目のカメラと連動させてある画像。

それにより運転を司り、且つ又、敵状を探ろうとしているのだ。


「街の外周には重装甲型機械兵が輪形陣を採ってやがる」


2000もの兵力を持った敵が、何かの襲撃に備えているのか。


「あの教会らしい尖塔を持つ建物辺りが本陣かな?」


まばらな建物が散見でき、その中でも取分け目立つ建物に着目した。


「厳重に守りを固めている処からして。

 おそらく司令部を教会の中に設けやがったな」


教会の周りには何重にも機械兵が集っていて、


「リィンタルトとか云う目標も・・・居るんだろうな」


見当違いとは考え難い情勢だった。


「何か確実な証拠でもあればなぁ・・・」


まかり間違って居なかったら、人質を盾にされてしまう虞がある。

人質を解放する事も出来なくなり、悪くすればこちらがとんでもなく不利となる。


「それに・・・お客さん達が無謀な突撃を仕出かすかも知れないし」


キャミィはRV車に分乗したマクドノー達を憂いた。


「ふふ・・・心配性になったみたいですねキャミィさんも」


不意に砲主席のアルから話しかけられる。


「その為の人形ではないですか」


アルは砲主席の射撃モニターを指差して、


「それが魔女ファイブを倒した目的だったでしょ?」


背後のキューポラを振り仰いで。


「ねぇ・・・そうでしたよね隊長?」


口を噤んだままの隊長に伺いを立てる。


キューポラに備えられたレンズを見据えたままのパスクッチに。


「奴等は勘繰らないでしょうかね?」


操る手を停めて振り仰ぐキャミィが訊ねると。


「ああ、これからが正念場だぞキャミィ」


機械兵の乗る2両の運搬車を操っている無線手に言って聞かすのだ。


「奴等に教育してやれ。騙される事の愚かさを・・・な」


「は、はい。やってやりますから!」


隊長パスクッチが騙せと命じ、キャミィは事も無げに頷いた。


一体どうしろと?何を以って騙せと言うのか?

その答えは数刻もせずに分かるだろう。




「「あれは蒼穹の魔女ファイブか?」」


丘を見張る機械兵が望遠レンズで確認する。


「「電探レーダーに映るのは8両」」


備えられたパッシブレーダーに拠って、金属車両の数も読み取る。


「「最後尾には大型車両の反応アリ」」


戦車故に、反応が大きいのか。


「「事前に知らされた数とは違うようだが?」」


応援を寄越すと言った魔女ファイブからの報告とは相違していたが。


1両目の車両に見える銀髪の少女型人形を拡大望遠し、


「「あれは戦闘人形に間違いない。魔女ファイブだと思われる」」


識別を繰り返し、間違いなく味方だと判断した。


「「何かの理由で増援を増やしたか?

  途中で車両数を増やしたのだろう。

  装甲運搬車は数が2両に減っているのだから」」


報告されてきていたのは、重量物を運べる装甲運搬車が5両だった。

それが今観えるのは2両の運搬車と5両の一般車両・・・それに。


「「機械兵が後部に載せられた戦闘車両・・・戦車だ」」


殿を走る戦車の後部、エンジンルームの上には軽装甲の機械兵が座った状態で1体載せられているのが見える。

それが意味するのは仲間であり味方だということ。


「「増派されて来た味方部隊だと報告せよ」」


疑いもしないで、仲間の部隊の到着を知らせてしまう。

6両の一般車両を調べもしないで・・・



「「魔女ファイブが増援部隊と共に到着したようです」」


今か今かと待ちわびていた。


「そうか!随分待たせてくれたじゃないの」


愁眉を開くのは。


「これでやっと・・・あのを連れて来い!」


教会の演壇に設えた指揮官席で死神人形ファーストが立ち上がり、


「それと・・・全世界へ放送の準備を怠るな!」


人類に対しての見せしめとして、リィンを辱める様を中継しようとしたのだ。


「「既に尖塔の上部にアンテナを設置しております」」


放送の準備が整えられてあると答える部下に頷く死神人形ファースト


「よし・・・お前達はリィンの周りを囲んでいろ」


機械兵を群がらせ、人間が機械に楯突くとどうなるかを見せ占めろと。


「私が純潔を奪い去って飽きたら・・・

 お前達機械兵で、殺さない程度に弄んでやれ」」


凌辱した上で、簡単には殺さないと嘲笑うのだった。





放射能の汚染範囲から抜け出したようだった。

それが判ったのは、今迄とは違う空気の流れから感じ取れた。


それに・・・指輪が教えてくれた気がした。

間も無く何かが起きようとしている事も。


ファンから出ていた睡眠ガスが停まっていた。

身体がガスに拒否反応を示し出してから既に何時間かが過ぎ、いつの間にか頭の中が覚醒し始めていた。

薄暗い照明の中、どこかに到着しているのが分かる。

それはエンジン音が途絶え、揺れも治まっている事からして間違いない。


静まり返った室内で、これから何が起きようとしているのだろうと思う。

囚われの身だが、やるべき事は分かっているつもりだ。


ここから脱出するか、このまま敵手の中で耐えるか。


「最期まで諦めないんだから。

 レィちゃんと誓ったんだから。

 タナトスを滅ぼすって・・・エイジにも約束したんだから」


この先、どんな辛苦が待ち受けていたとしてもやり遂げなければならない。

それしか愛しい人の帰還が望めなかったから。


「う・・・くっ!」


エイジの指輪を観ようと腕を動かすと、途端に痛みが奔った。


1週間も強制的に眠らされた躰では、立つ事さえもままならなかった。

身動き一つするのでさえ、痛みが全身を駆け抜ける。

強張った筋肉、固まってしまった節々が痛む。


「うぁ・・・まるで身体が凍り付いていたみたい」


室内の温度が低かった所為ではない。

無理やり眠らされていた期間が永かったのが原因だった。


「冷凍保存を解凍された瞬間って・・・こうなのかな?」


月に行ったエイジやレィも、この痛みを味わってしまったのだろうかと思う。


「痛いよレィちゃん。

 辛いよエイジ・・・」


涙が毀れ、頬を伝う。

涙は痛みの所為ではなく、辛さの顕れだった。

たった独りにされて、これからどんな辛苦に晒されるのか。

心細さと悲しみに、愛しい日々や人の面影を思い出されてしまい。


「助けて・・・誰か」


運命から逃れたかった。



 ギィ~・・・と、重い音がした。


突然入って来た光で、目が眩みそうになる。


「「命令だ!出て来い」」


機械の声が呼び立てて来る。


「「死神人形ファースト様の御命令だ。早くしろ!」」


光の中に機械兵の影だけが見えた。


「「今より公開処罰が執り行われる。覚悟しておけ」」


忌まわしい言葉を突きつけるけだものの影が・・・

独り・・・唯の一人だけで群がる機械達の前に連れ出されようとしていた。


死神人形の邪なる欲望の餌食とされるのか?

それとも騎兵隊の到着が間に合うのだろうか?


次回 Act9 急襲!

辱めを受け、肌を晒されたリィン。だが、驚愕するのは死神人形の方だった!

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