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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第2章 奪うモノ 奪われるモノ 
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Act7 魔女を狩る者<ストライカーズ>

砲撃で3両を仕留めた<魔千破マチハ


飛び退いた魔女はどこかに忍んでいる筈だが?


これからが魔女殺ストライカーズしの闘い。

魔女を葬る者達は、如何なる手を使うのか?

率いて来た部隊が、瞬く間に使い物にならなくされた。

今迄闘って来た人間達とは全く別次元の相手だと知らされる。


待ち伏せを喰らったのは自らの油断だったが、敵の正体を掴めた今は攻守が逆転したのだと考えた。


「見えるのは唯の1両だけ。

 如何に戦車であろうが、私の弓にかかれば何ほどの事もあるまい」


丘を回り込んで来た車両は、ジープや軽車輛などでは無かった。

太い砲身を突き出した無限軌道キャタピラ付の装甲車両。

人間が戦車と呼ぶ、戦闘兵器で陸の王者。


「近寄れば一撃で倒す事も出来るが。

 私の得意は遠距離戦なのでな・・・」


弓を構えてニヤリと笑う魔女ファイブ


「残りの2両を仕留めに来た瞬間に、こいつを喰らわせてやる」


そして弓につがえる矢は、蒼いやじりが付いている。


穿牙りゅうが尖鋼弾せんこうだんでお前の装甲を喰い破ってやる」


特殊な弾を鏃に着けた矢。

それ自体が脅威でもあったが、


「私の放つ矢は特殊徹甲弾よりも早いぞ!」


距離300メートル位は訳も無いと。

戦車砲並みの速さで弓を放つとも言うのだった。


蒼穹そうきゅう魔女ファイブとも揶揄される所以が、得物である弓矢に表されている。

まるで悪魔の放つ矢の如き、蒼白き<だん>を撃つ事が出来ると言うのだ。


「さぁ出て来るが良い。私の前へと!」


隊を壊滅へと追い込んだ戦車へ向けて、番えた矢を引き絞る魔女ファイブ

狙うは唯の一撃。

まるで那須の与一のように、1本の矢で的を打ち破ると意気込んでいた。




「どこかに潜んでいるのは間違いない」


操縦を託されたラミアが全方位を映したモニターに注目していた。


「しかも逃げ出さずに・・・」


パスクッチ隊長が言っていた通り、魔女はどこかからこちらを見ていると感じていた。


「この魔千破マチハを狙ってやがるんだろう」


自分の車両に付けられた徒名。

魔女を千体も破る・・・魔女殺ストライカーズしの車体らしい徒名でもあったが。


「レーザー砲でも持って来ない限りは、そう容易く撃破されないぞ」


防御力には、相当の自信が伺える。


「この操縦の戦女神、ラミア様がハンドルを執る限りは!」


自信の裏には、培った技量が元手となっているようだ。


「さぁ!魔女殺ストライカーしの時間だ」


アクセルを吹かし、ハンドルを押し込んで前進を開始する。

どこかに潜む魔女を警戒しながらも。



高感度熱源体感知装置で観測を続ける。


「「まだ・・・見つからないです」」


アルの声がイヤホンから流れ出る。


「うむ。もっと離れた場所に潜んだのか」


手に携えた細長いサーベルのような剣に着いた装置を指で探り、


「近寄らなければ手出し出来ないんだがな」


こちらとしては近接戦闘を欲しているのだと呟く。



「オーリア隊長。ラミアが前進を始めた」


傍らに居たキャミィが左手のグローブを外して鋼色に輝く装置を確認する。


「アタシの方はいつでもやれるよ」


金属の腕にあるスイッチを押し込んで、装置を稼働状態へと持っていく。


「ストライカーユニット、作動完了!」


敵の姿も見えない内から、準備を始めたキャミィへ対し。


「キャミィはいつでも抜かりが無いな」


そう言ってウィンクを送るパスクッチ。


「は・・・ひゃい!オーリア隊長が傍にいるかられす」


しどろもどろになるのはキャミィがパスクッチを慕っているからなのか?


「「ぶぅッ!キャミィだけ役得してるぅ~」」


二人の会話が筒抜けになって、どこかに居るアルが焼き餅を焼いてくる。


「へんッ!アル。良いだろ~」


で・・・言い返すキャミィだったが。


「そろそろ魔女が動き出すぜ、しっかり見つけてくれよな!」


作戦自体は忘れてもいない。お調子者の片鱗も即座に消していた。


「オ~ケェ~ィ!」


却ってアルの方がお道化て返して来る。普段しっかり者の真逆を演じて。


少女達の会話を聞いていたパスクッチだけが分っていた。

二人が緊迫感を自己流で和らげているのだと。

敵の実力が分からない現在、先に打つ手なんて見当たらないのだから。


「奴がどんな技を持っているのか。

 潜んだ位置から想像するに長槍ロングランスを手にしているのは間違いないが」


戦車の近辺には反応が無いようだ。

だとすれば、どこかの窪地から狙っているのだと思うのだが。


「監視地点を100メートル程進めるぞ」


自分達の居場所を、炎上中の敵車輛からもっと離すと命じる。


「奴が撃ったのなら、直ちに位置測定して接近戦を挑む!」


長槍の一撃で居場所が割れたのならば。


「アル!魔女殺ストライカーユニットしで目晦ましをかけろ」


「「アイ!パスクッチ隊長」」


砲手でもあるアルに対しては、装備されたモノによって敵を欺瞞しろと命じ。


「キャミィは背後から・・・やれるな?」


「お任せ~!」


無線手でもあったキャミィが、左腕の装備ユニットを構えて頷いた。


「俺は奴の正面から行く」


柄を握る手に力を籠め、隊長自らが勝負を決するのだとも言う。


「みんな、ぬかるんじゃぁないぜ!」


「「了解ラジャー!」」


近距離用の無線で交し合う3人。

普通の無線だと魔女に傍受される虞があったから、50メートルしか届かないトランシバーの電波域を活用していたのだ。

相手である魔女と呼んだ戦闘人形ならば、あらゆる電波を読み取ってしまうと危ぶんだから。

だから少しでも離れれば傍受出来なくなる弱電波を使ったのだ。

その結果、戦車に居るラミアにも連絡が取れなくなっていたのは痛し痒しと言う処か。



ラミアは時間通りに動かし始めた。

自分の車両で魔女を釣り出す為に。


炎上する敵運搬車まで近寄っても何も起きなかった。


道の真ん中で燃える車体を、丘側で避けて進む。


・・・まだ、何も起きない。


車列の後方には、無傷の車両が2台停まったままだ。


発砲するのなら3両目を過ぎた辺りで撃てば、一度に2台を破壊出来る。

徹甲弾でならば、薄い装甲を突き破って2台纏めて撃破可能だ。


後20メートルも進んだのなら・・・


「撃ちやがるだろ・・・間違いなく」


ハンドルを握った手に力が籠る。


「狙うのなら、このタイミングしかない」


破壊された3両目を過ぎた瞬間、ラミアが後進に切り替える。

ブレーキも掛けずに、いきなりバックにギアを入れた。



 ギャッ!ギギィ・・・ガロロロ・・・・


キャタピラが軋み、停止するや後退を始めた・・・と、同時に。



 ピカリ!



右側から蒼く光る弾が飛んでくるのがモニターに映った。


「砲塔急旋回!」


飛んで来た光の弾に対して、装甲の一番厚い正面を向ける為に砲塔を廻した。


「弾けろッ!」


あっという間も無く蒼白い弾が砲塔右側部分に突き立った。


魔女が放った矢は、青白い炎を吹き出しながら装甲板にぶつかる。

もしラミアがそのまま直進したのなら、砲塔側面部分に命中していただろう。

もし砲塔を廻さずにいたのならば、側面部分に直角で当たっただろう。



 ガギィイイイィンッ!



穿牙尖鋼弾が魔千破マチハの砲塔から弾けて、



 ガガウン!



側面から僅かに離れた部分で爆発した。


「くっ?!貫通はされずに済んだが・・・怖ろしい弾だ」


命中箇所の装甲を削り取り、空中で爆発した特殊弾に脅威を感じて。


「もしも足回りに喰らえば、撃破されなくても動けなくなるぞ」


車輛の弱点である足回り。

そこにもう一度撃たれでもしたら、行動不能にされかねないと言ったのだ。


打ち込んで来た方角を睨み、続けてモニターに表示された発射地点を観て車体を炎上中の敵車輛の陰へと持って行き。


「でもな魔女よ。もう一発が撃てるかな?」


ニヤリと笑い、望遠されたモニターを見る。


魔女殺ストライカーズしを舐めるんじゃぁねぇぜ?」


そしてもう勝負が決まったかのようにハンドルから手を離すのだった。





「「見つけた!」」


アルの声が聞こえるよりも早く気が付いていた。

草原の窪地から蒼白い光が漏れ出ている事に。


「魔千破を撃つようです」


キャミィも敵を捉えられたようだ。



 ビュン!



蒼白き光の尾を牽き、矢が飛んで行く。

間違いなく戦車を狙った一の矢が、音速を超えて目標へと飛んで行った。


「ラミア・・・巧く外せよ」


パスクッチが彼方の戦車を案じたのだが。


「隊長、大丈夫ですよ」


キャミィは確信があるのか、


「砲塔をこちらに向けてますから」


不意打ちにはならなかったのだと言いた気だった。



 バガン!



矢は戦車に命中したようだったが、後退した魔千破マチハを観て無事を確認出来た。


「ラミアの奴、わざわざ当りに行ったな!」


魔女がなかなか姿を現さなかったのを焦れたのか。

それとも自分が操縦する戦車が無敵だと証明したかったとでも言うのか。


「まぁな。ラミアのおかげで奴を見つけられたんだから。

 次は・・・撃つ事も出来ないだろうからな」


どっちにしろ、もう二の矢は放てないだろうとキャミィに目配せする。


その一言で悟ったのか。


「そんじゃぁ、アタシは回り込みますから!」


左手の装備ストライカーユニットを右手で掴み、キャミィが駆け出して行く。

それを合図に魔女殺ストライカーズし達が奔り始めた。



「チッ!今一歩だったのにな」


後僅かに進んでいれば、間違いなく矢で貫けたと思った。


「隠れたつもりだろうが、私には無駄だ」


蒼穹の魔女ファイブは次の矢を背中の背嚢から摘まみ出す。


「外れもしない誘導弾。

 これで燃料タンクをぶち抜いてやろう」


自分が思い描く通りの弾道を執れるを番えて。


「お前達は死を以って償えば良いのだ」


引き絞ろうと弓の糸へ左手を伸ばした・・・時。



 シュン!



至近距離から弾が飛んで来たのだ。


「?!」


声をたてることすら出来なかった。


辺りには気配も感じてはいなかった。

探知機による警報アラームも流れなかったのに。




 バンッ!



頭上で一発の弾が弾けたのだ。


「榴弾か?!」


魔女ファイブは咄嗟に防御姿勢を執る。

頭上で爆発が起きたのなら、まず考えられるのは対人攻撃用の弾だろうと。


だが。



 ファサッ!



降って来たのは・・・短冊状のアルミ紙。



「なッ?!」



その瞬間に警報音アラームがけたたましく人工頭脳で鳴り渡った。


瞬く間も無く、レーダーも通信も。

そして肝心絡みの視力でさえもが不調となってしまったのだ。


「馬鹿な?!こんな近くに人間が忍び寄っただと?」


至近距離から発射された一発の弾で、自分の能力が半減させられてしまった。

いいや、機械の身体は何事も無くても、頭脳は警報が邪魔となって機能不全と化していたのだ。


アルミ箔が辺りに舞い、電波状況を著しく阻害している。

機械の身体が如何に強靭でも、目晦まし状態ではどうする事も出来ない。

しかも自分には、長距離戦に長けてはいたが至近戦では役にも立たない弓矢があるだけ。


「糞ぉ!」


蒼穹の魔女ファイブは混乱した頭脳で事態の打開を考えようとした。

まだ人間の気配は辺りには無かった筈だと考えて。

まだ間に合うと自分へ言い聞かせて・・・


「目晦ましをかけた奴は何処だ?!

 次はこっちの番だからな」


電波を妨害されたのなら、電波兵器のスイッチを切れば済む事。

メインカメラの探知装置も通常に切り替えさえすれば。


「そうかい?でも・・・少し遅かったんじゃないの?」


不意に。

全くの不意に、声が聞こえた。

自らの失態を小馬鹿にするような女の声が。


「なッ?!」



しかも背後から、


「お前の心臓は動いているか?」


女の声が質して来たのだ。


「馬鹿なッ?」


驚愕の叫びをあげ、振り返ろうとした魔女ファイブに。


「機械なら心臓なんて無いだろ?

 心臓部は有るだろうけどな・・・ここらに」


背中に何かが当たるのが判った。

しかも女の声が言った通りの箇所に・・・だ。


「機械の癖に人を殺めるんじゃねぇよ!」


首を廻して背後の敵を睨みつけようとした・・・瞬間!




 バリバリバリ!



強烈な電撃が、左の脇から心臓部へ襲い掛かって来た。


「ぎぃッ!やあああぁあああぁッ!!」


苦悶の声が辺りに流れ出す。


「ああ・・・・・」


途中で音声が途切れる。

マイクの電力もショートしてしまったのか、身体中から放電スパークさせられて。


「び・・・ビ・・・ビ・・・」


強烈な電気ショックを受けた人間の様に、身体の自由を奪われてしまった。


それでも心臓部分の人工頭脳だけは護り抜かれた。

数刻も経てば体の自由を取り戻し、復讐の為に闘える状態になれるだろう。

普通の機械兵よりも数倍強度のある戦闘人形ならば。



放電の為に髪の毛を逆立て、目を剥く蒼穹の魔女ファイブ


「お前には天使の声が聴けるか?」


立ち往生する魔女の前に金髪の男がやって来る。


「魔女ならば悪魔と契約しただろう?

 魔女ならば自ずから人の命を奪うだろう?

 お前は・・・魔女か?それとも唯の傀儡にんぎょうなのか?」


手にしたサーベルを左の胸へと突き付けながら。

サーベルの先にはキラリと輝く宝石が着けられている。

透明で、何よりも光輝くダイヤモンドが先端に付けられたドリル状のサーベル。


「どんなに硬い金属でも、どれほど分厚い装甲でも。

 これにかかれば歯が立たないぜ・・・魔女よ?」


柄にあるスイッチを押し込むと、先端部分が高速回転を始める。

それはオイルの液を吹き出すドリルの刃。

何よりも硬いダイヤを仕込んだドリルサーベルなのだ。


「ぎ・・・ぎ・・・ぎ・・・」


言葉にならない呻きを漏らし、魔女ファイブが呪いの瞳を男へと向ける。


「そうか・・・お前には人への恨みでもあったのか?」


剣先が胸に5センチまで近付く。


「残念だったな魔女よ。

 俺達も機械共に恨みがあってな・・・・」


剣が魔女に突き刺さり・・・



 ブチブチブチ



「次に生まれ変わるのなら、天使の声が聴こえる人になりやがれ!」


内部の胸部装甲板をも貫いていく。



 ギャリギャリギャリ・・・・ブツン


「が?!」


目を剥く戦闘人形。


「俺達は魔女の呪いを奪う。

 俺達は天使を奉じる者にだけ傅く。

 そして俺達魔女殺ストライカーズしは、人間ひとなのだ!」



 バリン!



「ビ・・・ビュ・・・・」


目を剥いたままの姿勢で固まる魔女ファイブ

心臓部に穴を穿かれ、呪いを解かれた人形は滅び去った。


「吸血鬼の最期も、心臓に杭を打ち込まれるんだぜ?」


魔女と悪魔をなぞらえたパスクッチのサーベルが引き抜かれる。



 ドサ・・・



機能を停められた戦闘人形が斃れ去る。


「今回も勝ちましたね、オーリア隊長」


魔女ファイブが斃れ、後ろに居たキャミィの姿が見えて。


「ああ。今回も・・・だ」


サーベルに着いた汚れを一払いしたパスクッチが。


「次は彼女を奪い返さねばならん。

 こいつより余程手強いと考えておかねばな」


倒れた魔女ファイブを見もせずに、丘の彼方へと視線を巡らして。


「マクドノー達に連絡しろ。

 このまま一気に救出戦になだれ込むと・・・な」


傍らに来たキャミィにも、そしてアルミ箔を撃ったアルに対しても。


「コイツにも一役買って貰うとしようぜ。

 計画通りに・・・奴等からリィンタルト嬢を奪う為に・・・な」


次の一戦にむけて、気合を入れ直せと言ったのだ。


「アイ!隊長」


二人は目配せを交わし、こちらに向かって来る車両に手を挙げた。


遠くから戦闘を傍観していた5両のRV車へと・・・

魔女ファイブは自らの油断から滅び去った。

敵に心臓部の演算機構メインコンピューターを壊されて・・・


近接出来たのは魔女が油断していたからなのか?

それとも対魔女装備ストライカーズユニットと呼ばれる武器の所為なのか?


どちらにしたって、奪われてしまったのは魔女の方だったのだが。


かくして前哨戦はストライカーズの完全勝利に終った。

そして、この戦いが齎したのは・・・


次回 Act8 囚われのリィン

目覚めさせられたリィンに迫る影!それは獣如けだもののごとき言葉を吐いた!!

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