Act4 無意味な戦い
死神人形ファーストの命により、偵察を兼ねた斥候隊が辿り着いた時。
その街は戦場と化した・・・
将からの命令で辺境の小さな町まで斥候に来た30体の機械兵達は、思わぬ抵抗を受けて釘付けにされていた。
勿論のこと、相手は人間達であったのだが・・・・
ガボッ!
指揮を執る軽装甲の斥候隊長の傍に居た兵に、直撃弾が命中する。
ズ・・・ダダーン!
一呼吸後に、命中弾を喰らった兵が消し飛んだ。
周り中に黒煙が棚引き、街への進入路も見通せなくなっている。
その煙の中から如何にして有効打を放って来られるのか?
「「どこかから観測されている?」」
指揮を任された隊長ロボットが、人工頭脳で考えた。
砲撃は一か所からではなく、まばらな建物の数か所から撃って来ているのは分かっていたが。
「「人間共は何か所の陣地を構築しているのか?」」
こちらの兵力を事前に知っていた節は無い。
接近するまでは静まり返った状態だった。
「「このような小さな村落に、我々に対抗できる兵力が置かれてあったとも考え難い」」
隊長ロボットが油断していた訳では無いと、自己の正当性を言い張るのだが。
キンッ!
また前方の煙の中から一弾が跳び来て、
ガスンッ!
後方の機械兵の頭部を吹き飛ばす。
「「またしても・・・何処に観測所があるのだ?」」
こちらの動きを見張っているのは、もう間違いないと。
これでは斥候の意味がない。このままでは街に侵入するまでも無く全滅させられてしまうだろう。
「「既に我々は5体を失った。残りの兵力で殲滅させねばならぬ」」
軽装甲の機械兵に与えられた任務。
街を無力化するだけではなく、在地の人間を駆逐しておかねばならない。
街の規模からして、30体の機械兵で十分だと考えていた死神人形の判断が間違っていたとは言い難い。
そもそも辺境の小さな街如きに、30体の機械兵を送り込んだのだ。
保安官が居るにしろ、拳銃や小銃位の武装では太刀打ち出来る筈も無い程の勢力だったのだから。
しかし目にしているのは、真逆の光景だった。
殲滅されそうになっているのは、襲い掛かった機械兵の方。
的確な砲撃を受け、為す術も無く破壊されていくのは機械兵達。
しかも、未だに人間達がどこに潜んで撃って来るのかさえも分からずにいたのだ。
兵力を分派して搦手から襲い掛かろうにも、どこかから観測されている状況では迂闊に動く事も出来ない。
下手をすれば各個に撃破される虞があるのだから。
この状況で斥候隊長が執れる指揮は。
「「引き返して将に報告するか?被害に構わず突入するか?」」
前者なら将に無能者と誹られる。
後者なら、全滅してしまう虞があった。
進むも死。撤退するも死。
ならば、答えは一つ。
「「全員、直ちに突入せよ!被害に構わず陣地を攻略せよ」」
機械ならば、死とは言えない。
機械ならば命令を実行するまでのこと。
唯、命令を遵守して結果が如何になろうとも果てるまで。
斥候隊は一斉に突撃を開始した。
十字砲火に晒されようと、味方にどれ程の被害が出ようとも。
それが機械の本領だと謂わんばかりに。
小さな街には教会が建っていた。
鐘を鳴らす尖塔が聳え、街の平穏を見守っていたのだが・・・
機械の部隊が襲い掛かって来たのは、まだ住民が避難を行う前だった。
半日前にはハンターから機械兵の群れが迫っているとの警告を受けていたのだが、急には準備が整わなかったのだ。
1週間前に起きた大惨事の報を無線で知っていた警察と、たまたま近くに駐屯していた州兵達が住民保護の為に来援してくれたのが僥倖だった。
州兵の内、約1個中隊規模が街を占拠して防衛に当たる。
その他の兵力で住民を疎開させ、避難が完了した後には街を放棄する予定だった。
防衛を託された州兵の中には、この街の出身者も配属されていて。
どうすれば被害を最小限に留め、敵に痛撃を浴びせられるかを熟知していたのだ。
人工衛星からの観測は機械達が司っているかもしれない状況で、どうやれば良いかを理解している。
上空からの監視を逃れ、且つ又目前のレーダーからも探知し難い防衛陣地を構築した。
則ちそれは・・・
「スモークを絶やすな!観測班からの電話線を切られるなよ!」
中隊の指揮官が、各陣地へと伝令を送る。
「尖塔の観測班に注意を促せ!
敵は眼蔵滅法に撃って来るかも知れん。流れ弾なんかに殺られるんじゃないぞ」
街に聳える教会の尖塔の鐘が設えてある場所。
そこに数名が配置され、眼下の敵を見張っていたのだ。
スモーク弾の煙の影響も少ない、敵の死角から味方へと有線電話で連絡を繋いでいた。
「「こちら観測班。敵機械兵の一団が正面から突撃してきます」」
遮二無二突っ込んで来る敵に対しては、砲撃力が足りない。
陣地とは言え、それは唯の民家でしかないのも痛手となる。
「「敵兵力は人型ロボット25!
このままでは突入され兼ねません」」
一斉につき込んで来る敵に対しては、白兵戦しか残されてはいないが。
「こちらには有効な対機械兵装備が無い。
至近距離に迫られては銃では戦えないぞ!」
与えられていたのは小銃と拳銃、それに手榴弾だけ。
距離があれば、先程までの様に小口径の狙撃砲が有効な対抗手段だったのだが。
「後はバズーカ位なものか・・・」
推進砲弾を放てるバズーカだが、近寄られ過ぎては撃てる訳も無い。
まかり間違えて撃ったのなら、撃った本人も巻き添えとなるから。
「避難は完了したか?
残された者は居ないのか?」
中隊長は撤退の時間を計る。
敵に街の中へ侵入されれば、最早手の打ちようがないと考えているのだ。
「「こちら観測所!避難民は味方本隊により3キロ程離れられた模様」」
尖塔に陣取り、観測を継続中の班員が知らせて来る。
3キロしか離れられてはいないが、そこまで逃げおおせれば・・・
「よしッ!これより本隊に合流する。撤退を始めるんだ」
もう任務を全う出来たと判断を下し、即刻撤退すると命じた中隊長。
「「しかし、もう機械共は街に侵入した模様です」」
「なにッ?!」
足の速い軽装甲機械兵は陣地からの砲撃を受けつつも、手当たり次第に州兵目掛けて攻撃し始めていたのだ。
・・・つまり。
「糞ぅ!撤退しながら応戦するんだ」
中隊本部がある教会にも敵弾が降ってき始めて、味方にも被害が発生し始めていた。
小銃で応戦しつつ、じりじりと後退するのが精一杯の作戦行動に貶められる。
自慢の脚力で人間達を翻弄し、備えられた機銃でなぎ倒す。
機械兵の威力は、接近すればする程に高まった。
これまでに20体以上の機械兵が破壊されていたにも拘らず・・・だ。
残りの10体に、80名の中隊員が押されて撤退していく。
それ程までに機械兵の威力は凄まじいものがある。
尤も、既に指揮を執るべき斥候隊長の機械兵は破壊されてはいたのだが。
統率力を喪失したとはいえ、機械兵は任務に忠実だった。
街のクリアリングという命令を完遂する事だけに邁進したのだから。
味方の機械兵が只の1体に為ろうとも。
「総員撤退完了です、中隊長」
部下の小隊長からの報告を受け、一応の安全を確保する事に成功したと感じた。
「奴等の過半数を撃破したようですけど。
なぜ撤退するのですか?なぜ街の防衛を放棄したのでありますか?」
小隊長が勝利したのに・・・と、質すが。
「馬鹿野郎ッ!たったの30体ほどを倒したくらいで良い気になるな。
奴等にはまだ本隊が居るんだぞ。俺達ぐらいで街を死守できるなんて思うな!」
部隊長から事前に知らされていた中隊長が一喝する。
「敵は後衛に2000の兵を備えているんだ。
俺達が歯向かえる相手では無いんだぞ」
たまたま近くを通りかかった狩人が、集団を観たと言う。
機械の群れが北上を続けている様を。
しかもそれには装甲車も在り、ミサイル車両も引き連れていたと言っていたのだ。
「戦術核を撃たれでもしたら、部隊ごと灰燼にされてしまうんだぞ!」
中隊長は機械共が見境無しにミサイルを放つのを懼れていた。
州兵諸共、住民を巻き込まれでもしないかと。
「敵の第2次斥候隊が来る前に、山岳地帯へ逃げねばならない。
いいや、いっその事。敵の裏を突いてフロリダ方面へ回り込んだ方が良いのかもな」
街の外れに置いてあった軍用車両に乗り込みながら、中隊長は避難民達の安全を考える。
「本隊と急ぎ合流して部隊長に進言しよう」
このまま山岳地帯へ逃げるよりも、敵が来た方角へ逃げる方が得策なのだと。
「敵から見えない道を辿り、先ずは隣町へと行く方が良いだろう」
敵を迂回して、敵が来た場所へと向かう。
兵法に則った行動とも言えたのだが・・・
「人間ならば自分が来た方角には目が届かぬものだ」
ポツリと中隊長が言った。
・・・人間ならば、と。
小さな町で人間達が勝利を収めてから・・・4時間が過ぎた。
なかなか戻って来ない斥候隊との連絡が途絶えたと知った死神人形が。
「なんだって?!人間共にしてやられたのか!」
たった1体帰って来た軽装甲機械兵に査問する。
「「街の占拠は可能。但し、人間の部隊により我が方は全滅」」
命令を全うしたから帰還したと答えた斥候機械兵。
「馬鹿!それはこっちが負けたのと同じ事よ!」
一喝し、苛立った目で兵を睨む。
「で?人間共は逃げ去ったのよね。
どの方角に向かったのかは見届けたのでしょうねぇ?」
「「北方に向かったものの如し」」
この斥候機械兵は州兵を載せた軍用車両が、北に走り去る処までは確認して来たようだったが。
「ふむ・・・」
欺瞞行動だとは思いもしていない部下からの報告に、いささか思う処がある様な死神人形が。
「通信兵!本部の観測機構に連絡を取れ。
衛星を使って奴等が本当に北へ向かったのかを調べろと言え!」
軍団の将でもある死神人形の命令を受けて、ニューヨークに本部を置く機械軍総司令部が即時に返答を返して来た。
「「敵人間部隊は北方に在らず。
貴公部隊の後方に廻り込み、6キロ離れた街に到着した」」
人工衛星からの監視により、避難民を乗せた車列を発見したと報じられた。
「くくく・・・やはり。そんな事だろうとは思ったわ」
機械を誑かそうと試みた人間達だったが、遥か衛星軌道から監視されているとは思わなかったのか。
「逃げおおせられたなんて思われでもしたら癪だ。
その町は確かに我々が破壊したけど・・・もう一度壊しても無駄ではないだろう?」
北上する最中のヒマつぶしを兼ねて、第3軍団の演習相手に街を襲ったのを思い出して。
「今度は・・・火の海にでもしてやろうかしらねぇ」
護送車の後方に位置した大型トレーラーに手を差し向けると、
「目標ッ!6時の方角。
6キロ後方の街へ・・・巡航ミサイルを撃ち込みなさい!」
備えられている地対地の巡航ミサイルを撃てと命じるのだ。
「通常弾でも、街の一つくらいは灰燼に出来るでしょう?」
敢えて戦術核を用いず、通常兵器の中で最も破壊力のある弾を選ぶ。
「核なんて使うだけ勿体ないわ。
少しばかり痛い目に遭わせれば、私の腹の虫も治まるからねぇ」
クククッと嗤う死神人形が、
「だって。どうせ半年後には死ぬ絶えるんですもの!」
人間は殲滅されてしまうからと言うのだ。
「「発射秒読み開始・・・」」
トレーラーのコンピューターが目標を選定してカウントダウンを始めた。
「さて・・・と。
後は使い物にならなかった奴の処分・・・ね」
斥候隊で唯1体帰って来た機械兵を横目で眺め降ろし。
スチャッ!
下げていた破壊剣を右手で構え・・・
「お前なんて、私には必要などない・・・」
ビシュッ!
問答無用でレーザー光線で薙ぎ払った。
転がる頭部と胴体。
二つの物体と化した機械兵に、なんらの感情も抱かず。
「さぁお前達!
街に向けて前進しろッ!」
部隊を占拠する為に前進を命じるのだった・・・
パスクの街は無人になった。
機械と人間との戦いは、両者に被害だけが残る結果と成り果てた。
双方が闘った理由は、あまりにも無意味。
双方の被害は全くの無意味だと言える。
こうして機械兵達は小さな町へと入る事となる。
そこで仲間を待ったのだったが?
次回 Act5 砲撃始め!
遂に<魔弾のヴァルキュリー>が牙を剥く!パスクッチ隊の戦闘が始まるのだ!