Act6 拭えぬ過去
最上階へ続く回廊
今まさに宿命とも呼べる戦いの幕が開こうとしている。
だが?
なぜ2人が?
どうして戦闘人形となってしまったのだ?
最上階へと続く階段の前に現れたのは・・・
・・・赤髪の死神人形。
腰に下げた破壊剣に手を置き、リィンの元へ向かおうとしているレィの足を阻んだ。
「くたばり損ないが」
嘲るように呟く<ファースト>。
「・・・・」
右手に紅き剣を携えたレィは答えない。
阻む戦闘人形を見据えるだけ。
「このまますんなりと彼女の元へ辿り着けるとでも思った?」
掠れた声が、向き合う二人の過去を知らせる。
「お生憎だったわねプロトタイプ。
此処に私が居ることなんて分かっていたでしょうに」
階段の前にあるスロープ上から、聖戦闘人形レィを見下ろす死神人形。
そして、ゆっくりと剣の柄を握り締めて。
「また・・・敗れ去ると分っているでしょうに。
今度こそ最期だって分かっている筈よ・・・レィ。
いいえ、レイミ・・・蒼樹麗美だったらね」
破壊剣を抜き放ち、レィ目掛けて突きつける。
剣を向けられたレィだが、唯相手を見据えたまま動こうとしなかった。
「フ・・・臆したかレィ?」
一度は倒した相手。
そして何度闘おうが負けるとは考えてもいない<ファースト>が、余裕の笑みを見せる。
だが・・・
「過去のレィは確かに負けた。
だけど・・・<ファースト>は思い違いをしている」
「フン・・・なにを?」
相対する戦闘人形の瞳が交わる。
紅き瞳の<ファースト>に対し、レィは碧い瞳で見据えている。
「私は<ファースト>の知っている戦闘人形ではない。
お前に負けた、以前のレィではなくなったから」
剣を構えるでもなく、唯上目遣いに仇敵を見据えているレィ。
「以前の?そう言えばそうね。
お前の身体は私に焼かれてしまったのですものね」
ニヤリと哂う<ファースト>が、赤外線カメラに切り替えてレィを観る。
「何者かに外観を造り替えられたみたいだけど。
中身は確かにプロトタイプ・零だって分かっているわよ」
シリコン製の肌を透過し、鋼の骨格が透けて見えた。
機械の身体・・・超高強度ジェラルミンで形成された骨組みと。
「だってほら・・・プロトタイプである製造番号<零>が刻まれてある」
胸部に刻印された<0・ゼロ>が透けて見えていた。
<ファースト>に因り、聖戦闘人形が戦闘人形のプロトタイプだと断じられると。
「そう・・・だけど。
此処に居る私は・・・あなたの知る<零>でも<麗美>でもない」
半眼になって聖戦闘人形が教える。
「フン・・・だとすれば?」
言葉の意味を探る訳でもなく、只単に名前だけが違うのかと哂う<ファースト>へ。
「私は生まれ変わり、そして知った。
戦闘人形の宿命と、絆の重さを」
眼を閉じるレィの口から紡ぎ出されるのは・・・
「だから・・・約束を果たす。
どんな罪を背負おうとも・・・喩え旧友を打ち破ったとしてもよ<フューリー>」
聖戦闘人形レィの髪色が蒼くなる。
高出力の動力を放つ証・・・そして。
「フューリーが邪魔をするのなら、排除するだけ。
誓いの邪魔な存在だとしたら・・・倒すだけ」
開け放つ瞳も蒼く染まっていた。
「な・・・んだと?!」
<フューリー>と呼ばれた死神人形の顔が引き攣る。
自分を睨みつけて来る戦闘人形が、まったく別のモノへと代わっていく様を観たから。
体内に仕込まれた戦術兵器に因って解かってしまうのだ。
「おまえ・・・いつの間に?!」
驚愕の計測値が頭脳であるコンピューターから教えられて。
「私と同等の異能値を持てるようになった?!
プロトタイプの癖に、お前を凌駕した筈の私と同じ力を持てたんだ?」
死神人形は、蒼く染まる宿敵を観た。
それは一度倒した時とは、全く異なるレィだと分かった。
「フューリーには感謝しなくてはいけないのかも知れない。
機械の身体だからこそ、強化できたとも言えるのだから」
人間ではこうはいかなかっただろうと話すレィへ。
「うッ?!煩いうるさいッ!
闘う前から勝っているつもりなのか<零>よ!
それに今の私は<ファースト>だ。フューリーではないのだ!
お前達の知っているフューリーは、とうに消えたのだ」
怒りを露わにした戦闘人形01<ファースト>が叫ぶ。
「タナトスに叶えて貰った・・・お前を殺す為に!
全てを手にする麗美を殺し、幸せなお前を壊す為だけに!
私は機械となったのだ・・・戦闘人形として生まれ変わったのだ!」
憎しみを増幅する<ファースト>もまた、髪を逆立てて対峙した。
赤髪が乱れ舞う。血に飢える獣の如き瞳が仇敵を睨みつける。
「減らず口はそこまでだと知りなさい零。
お前を魂までも切り刻んでやる!
3度目はあり得ない、今度こそ・・・殺ル!」
「そうね・・・私も2度殺されかけたわ。
3度目は・・・御免被るからね、レィの友達だったフューリー」
二人が対峙する空間に、戦慄の風が巻き起きる。
だが、どうして?
なぜ?二人は対立する存在となったのか。
二人が言い合った2度とは、何を表すというのか?
二人を見詰めるマリンブルーの瞳。
モニターに映し出された戦闘人形を固唾を呑んで見詰めるのは。
「レィちゃん・・・だよね?」
栗毛の乙女が呼んだ。
「前とは別の顔形だけど・・・私のレィちゃんだよね?」
モニターに映し出された聖戦闘人形レィを見守るリィンが居る。
「約束を果たす為に?
私に逢いに来てくれたのよね?」
モニターへ手を伸ばせば、想いが届くとでも言うのか。
リィンはキーボードを弾くのを停めて話しかける。
「どうしてなの・・・どうして?
二人が仇なんかになってしまわねばならなかったの?」
赤髪の戦闘人形<ファースト>に堕ちたフューリーと。
「なぜ争わなきゃいけなくなっちゃったの?
あんなに闘うのが嫌だったレィちゃんが・・・」
髪を蒼く染める聖戦闘人形レィに想いが届かなくても。
二人が剣を交えるのは2度目のこと。
死神人形とかしたフューリーによって一度は倒されたというのに、レィは再び舞い戻って来た。
「レィちゃん・・・あなたは此処に居てはいけないのよ。
だって本当の麗美ちゃんは・・・約束の地に居るのだから」
モニターから一瞬だけ宇宙を見上げる。
過去を思い起こし、一度だけ祈った。
「レィちゃんはあそこで時が来るのを待っている筈なの。
魂が戻るのを衛司ちゃんと待っている筈だもん」
リィンは空を見上げて祈るのだった。
大切な人の魂が、再び肉体へと宿る時が来るのを。
「だから・・・私に構わず・・・往って」
人類最期の時が迫る地球上で、唯独り悪魔に抗うリィン。
彼女がなぜ此処に居るのか。
どうして戦闘人形達は闘い続けねばならない宿命なのか。
「神様・・・お願いです。
どうか二人を御守りください。
私のお友達を・・・悪魔から救って!」
モニターに写り込む二人が剣戟を交わそうとする刹那。
リィンは神の加護を求めて祈る・・・
この世界がどうして禍の坩堝と化したのかを思い起こし。
なぜレィ達が人形に堕ちてしまったのかと嘆きながら。
「だからレィちゃんを!
私だけの戦女神へ休息を与えてあげて!」
二振りの剣が交わる瞬間、リィンの想いは過去へと飛んだ。
幸せだった頃の温かい日差しの中へと・・・
運命の決戦が始まろうとしていた時・・・
リィンは2年前の出来事を思い起こす。
まだ平和だった頃の記憶が蘇る・・・それは何も知らずにいた少女の思い出
幼き少女は戦いもゲームだと思い込んでいた。
自分達の世界に闇が迫っているとも知らずに・・・
次回 Act7 優しい眼差し
無邪気な15歳だったリィンはドールと共に・・・