Act10 遥かなる旅立ち
<ミハル>と名付けられた私。
目指すはタナトス教授が居る場所。
そして目的は・・・人類再編計画の頓挫!
残された時間の内に、タナトス教授がいる場所まで辿り着かねばならない。
人類に残された時間・・・それと。
「ボクの命が尽きてしまえば、君に託さなければいけなくなるんだよ」
放射能に冒された躰が、いつまで保てるのか分からないと。
「良いかい、ミハルさん。
タナトス兄が最終段階に入る前に、演算処理機構まで辿り着かなければいけない。
もしもボクの身体が保てないと分かった時にはね。
君に・・・全てを託してもいいかな?」
「全て?」
託されるのは人類再生計画を停めるだけではないのだろうか。
タナトス教授を闇から救うだけではいけないのだろうか?
「そう・・・全てを。
この世界を変えられるのなら、誰も傷つかない平和な世へと変えて欲しい。
人が人を殺める戦争の惨禍を停めれるのなら、人類の補完は成し遂げられる。
タナトス兄を闇から救えないのなら、君が新たな世界を生んで欲しいんだよ。
本当ならボクがその役目を担う筈なんだけどね」
「人類の補完・・・」
闇に染まっている兄が目指す世界を、書き換えてくれと頼まれた。
万が一、ルシフェルさんの身に何かが起きた時には、私が役目を引き継いでくれと。
「既に機械が暴れ回っているのは知っての通り。
機械の代弁者が公表したのは、殲滅波動を発射するまで残された日数は180日。
ミハルさんが目覚める1週間前からカウントが始っているんだ」
「残されたのは180日も無いと・・・」
僅かの日数でタナトス教授の居る場所に行かねばならない。
しかも機械達が邪魔して来るのは火を見るよりも明らか。
「二人では無理でも、どちらかが辿り着かなければ人類は破滅してしまうんだ。
・・・分かるかい?ボクの言った意味が」
「だから・・・私に託すと仰ったのですね」
出来る事なら二人で辿り着きたい。
タナトス教授に、少しでも人としての思い出があるのなら。
ルシフェルさんと、この躰を観たのなら考えを改めてくれるかもしれないから。
「勿論、ミハルさんの記憶が戻ったのなら・・・だけどね」
自分が本当にミハルと言う名なのか。
それ以前に、あの娘とはどんな繋がりがあったのか。
無くした記憶を取り戻す事が出来るのか。
「いいえ、私の記憶なんて・・・破滅を防ぐ方が優先事項ですから」
「記憶を取り戻せなかったら、ミハルさんは元には戻れないんだよ?」
優しいルシフェルさんは、私を気遣ってくれるけど。
「その時は・・・ミハルで一生を終えても良いんです。
ルシフェルさんのお役に立てれるのなら、小さな話なのですから」
私個人の希望よりも、世界を救う方がずっと大きな目的なのだから。
「ありがとうミハルさん。
二人でタナトス兄の元まで行こう」
決意を汲んでくれたルシフォルさんが、大きく頷く・・・
「ががぅッ!」
と、今迄伏せの体制だった犬型ロボットが起き上がり。
「ががうッ!がうがぅ!」
自分も一緒に行くのだとばかリ、吠えて見詰めて来る。
「そうかそうか。君も一緒に行くと言うんだね?」
「がう~ぅ!」
質したルシフェルさんに、犬型ロボットは尻尾を振って応える。
「そっか。君を置いて行く訳にもいかないよね」
「がうぅ~」
当然だと言わんばかりに頷く犬型ロボット。
「分かったわ・・・」
人懐っこい表情を見せてくるロボット犬に。
「そうね・・・君も名前が必要でしょ?
私があなたの御主人に代わって命名しても良いかな?」
「がぅッ?!」
いつまでも犬型ロボットなんて呼ぶ訳にもいかないでしょ?
ガシ ガシ ガシ!
と・・・いきなり床を叩くロボット犬。
「ふ~ん、何か教えたいようだね?」
その仕草にルシフォルさんが、顎へ手を添えて考え込むけど。
私は既に決めた名前があった。
「本当の御主人様から頂いた訳じゃないから、仮の名前として・・・」
「がうぅ?」
ピタリと足を停めて私を見上げて来る。
「・・・君の名は・・・グラン。
この大地を駆ける犬、大地から産まれた新造犬。
だから君は・・・グラン」
大地と新型を掛け合わせて名付けてみたの。
「ががうぅ~ッ!」
ピンっと耳を張り、ビンと尻尾を起てて。
「がうがうがう~ッ!」
私の付けた名前に喜んでくれた・・・のかな?
「ふむ・・・どうやら本当の名前に似ているんじゃないのかな?」
「そ、そうでしょうか?」
飛び回るロボット犬・・・もとい。
グランを微笑ましく観ているルシフォルさんが、
「あの茶髪の娘が御主人様なのかもしれないね。
周りには他に人が居なかったのに、この犬は真っ直ぐ近寄ったから」
画像を思い出して教えてくれた。
「そっか、グランもあの娘を探したいんだね。
見つけられると良いよね、探し出せれば良いんだけどね」
グランと私には共通の目標があるのだと分かった。
<あの茶髪の少女に逢いたい>
私は自分の記憶を取り戻したい。
グランは御主人様の元へ帰りたい・・・と。
「君達はあの娘を追い求めると良い。
道の途中で、何か情報を得ることが出来れば良いんだけどね」
「はい!」「がうぅ!」
一番の目的はルシフェルさんとタナトス教授の元まで辿り着く事。
その途中であの娘に逢えるのなら・・・それが理想だけど。
シェルターから持てる荷物を背負って出発する。
ルシフェルさんは防護服に身を包み。
私はマントを羽織った旅姿で。
牧羊犬タイプのグランには、動力源と飲料食を担いで貰って。
二人と一匹の旅が始まる。
最終目的は人類殲滅を回避すること。
最期の時までに、タナトス教授の元へ辿り着く事。
そして・・・
「私は人に戻りたい。
ルシフェルさんといつまでも一緒に居られるように・・・」
そう・・・私の希望は。
ルシフォルさんが息絶えるのなら・・・人として運命を共にしたいから。
紅の陽が大地を照らす。
大きく傾いた太陽が、荒野に影を伸ばす。
何本もの影が緩やかに動いて、砂漠のキャラバンのようにも観えた。
「目標・・・400メートル前方・・・射角調整・・・」
その影を見詰めるレンズがあった。
「初弾は最前列の重装甲機械兵に撃て・・・」
「「目標捕捉!」」
レンズ越しに敵を睨む・・・
「アル・・・外すなよ」
「「了解・・・です、小隊長」」
イヤホンから女の子の声が流れ出る。
「キャミィ・・・お客さん達にも攻撃開始だと言っておけ」
「「アイッ!オーリア隊長」」
無線手らしい声が即座に応える。
「ラミア!敵に居場所が知られたら・・・」
「「はい!即時、掩体壕から出撃します」」
運転手からの返事にレンズが頷く。
「よし・・・奴等に人間様の怖ろしさを教育してやろう」
ガシャ!
外からの光が途絶える。
金属音が何かの扉が閉まる音をたてた。
レンズが上下にブレ、外された防護マスクから金髪の男の顔が現れる。
「戦闘!対機械兵戦。
敵は12体の1個小隊規模だ、ぬかるんじゃねぇぞ!」
マイクなしで金髪の男が命じる。
「了解!」
狭い戦闘室内で、3人の声がハモった。
「どうやら傭兵達は・・・やる気らしいな」
スキンヘッドの男が顔を歪めて嗤う。
「パスクッチは魔女を好むと言ってたが・・・」
前方には、車体を隠した状態の戦車がある。
「奴が魔女殺しと言われる噂が真実なのか。
とくと拝見しようではないか」
戦車はかなりの旧式に思える。
備砲こそ10センチ口径だが、砲身の長さはそれほど長くないし。
おまけに今時4人も乗員が必要だなんて、100年前に戻ったかのようだった。
「マクドノーの兄貴。奴等は勝てるのですかねぇ?」
傍らの黒服が訊いて来る。
「相手はオーク社製の新型ばかりですぜ?」
双眼鏡に映る敵の姿に、半信半疑らしいのだが。
「まぁ観ていろって。
奴等は海外遠征組の魔女殺しだと言っていたんだからな」
「はぁ?あの男と女子3人が・・・ですか?」
マクドノーと黒服が見詰める戦場で、砲火が開かれようとしていた。
「ああ。
パスクッチ隊長の先祖はイタリアの戦車乗りだったと言うぜ。
女子共も、みんな曰く付きの手練れだそうだ」
「はぁ・・・雇い金が馬鹿高かったですものねぇ」
黒服は、マクドノーとパスクッチの交渉を観ていたらしく。
「良くもまぁ、マクドノーの兄貴を煙に巻きやがったもんだと・・・」
パスクッチと呼んだ相手に怒りを向けていたが。
「俺は実力が備わっていると見越したんだが。
この闘いで証明されるだろうさ、生き残れたのなら」
戦車の砲塔が旋回したのを観て、闘いを傍観するとマクドノーは言うのだ。
「そうですかい?」
黒服はそれでも不満そうだったが、次の瞬間には。
ドゴムッ!
戦車の砲身から弾と火、そして砲煙と爆音が吐き出されて肝を冷やされた。
「初めやがったぜ」
マクドノーはニヤリと笑う。
「あ?!そんな・・・馬鹿な?」
黒服は飛び上がって叫ぶ。
400メートル先で一発の砲弾が齎した結果を観て。
「見事な腕前じゃないか?」
一番先頭を進んでいた重装甲タイプの機械兵から黒煙が昇る。
分厚い装甲を誇る機械兵の急所を一撃で破壊したのが見えて。
「胸に当てても弾かれる虞があったのだがな」
砲弾は比較的装甲が薄く、重要な部分である頭部を吹き飛ばしていたのだ。
「どうやら・・・本当らしいな」
マクドノーが笑うのは、戦車乗り達が魔女殺しだと分かったから。
そして・・・
「奴等なら、お嬢を救出するだろう」
マクドノーが追い求める姫の救出作戦を、パスクッチ達が完遂するだろうと。
戦車が次々に発砲し、敵機械兵を駆逐していく。
それこそが<魔女殺し>
闘えば必ず敵を仕留める・・・魔弾の戦車。
「そう・・・リィンタルト嬢を取り戻すのだ!」
闘いを見守るマクドノーは救出を諦めてなどはいなかった・・・
旅立つミハルとルシフォル・・・そしてグラン!
二人と一匹が目指すのは、人類の補完。
あの娘と再び逢い、記憶を取り戻せるのか?
本当にタナトスを闇から救い出せるのか?
そして・・・リィンは今いずこ?
仲間達が集い、新たな戦いが始まろうとしています。
<ミハル>の物語が再び動き始めます・・・
次回からは 第2章 奪うモノ 奪われるモノ がスタートします!
それぞれの思惑が交差し、それぞれの想いが交わる
戦いの中でリィン達が目指すのは?!
次回 Act1 まだ生きているのなら
君はいつ目覚める?!誰かの助けを待つだけなのか?




