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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
魔砲少女ミハル最終譚 第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第1章 奪われた記憶
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Act6 疼く傷痕

紅く染まる空。

滅んだ文明。


それは人類の終末を見せられた気がしていた。

重く圧し掛かるような、鬱な気分になってしまった・・・

階段を下りてドアのノブに手をかけた。


 ガコン!


一重目のドアは簡単に開く。

奥のドアノブに手をかけようとした時。


「「お帰りゼロ。少し風に当たってくれないか?

  放射能の除去を試みるからね」」


天井のスピーカーからルシフェルさんが教えてくれた。


「は・・・い・・・」


打ちのめされた私には、力なく答えるのが精一杯だった。



 ブシュゥウウウウ・・・



扉間の空気が勢いよく吸い込まれ、吹きつけて来る風で髪が舞う。


「「これで善し。

  ドアを開けて入って来て」」


風が止むと解錠を勧められる。



 ガクン!ギィイイ~



ドアノブを廻して扉を開けて室内へ戻った。


「お帰りゼロ。どうだった?」


「ががう?」


白銀髪のルシフォルさんと、牧羊犬が待っていてくれた。


「・・・観なければ良かった・・・です」


正直に感想を答えてから、ベットに座り込んでしまう。


「こんなに酷いなんて思いもしませんでした」


頭の中には目にした赤色がこびり付いてしまっていた。

空気までが鉄の匂いに染まっている気がしたぐらい、死滅し尽くしたと感じていたのだ。


「まぁね。

 ギガトンクラスの核兵器が墜ちたのだから仕方ないね」


同意してくれたルシフォルさんが、手に布を携えて近寄って来ると。


「今着ているのを脱いで貰えるかな?

 直ぐに処分しなければいけないんだよ」


私に着替えなさいと服を差し出して来た。


「え?あ、そうですね。汚染された状態なのでしたからね」


差し出された衣服を手に取り、納得したのだけれど。


服を手渡してくれたルシフォルさんが目の前に居る。

ここでは着替えられないんですけど?


「あの・・・ドアの向こうで着替えて来ましょうか?」


だっていくらなんでも恥ずかしい・・・でしょ?


「なぜ?」


なぜって?!いやいやいや!おかしいでしょ男女なんだから。


「あ、あの?!流石に着替えるのは・・・」


「どうして?なにも恥ずかしがる必要なんてないよ?」


ど、どうしてって。恥ずかしいに決まってますからッ!

動揺を隠せず、固まってしまう私に。


「だって、その体を造ったのはボク達なんだから。

 君が知らない事だってボクは知ってるんだよ?」


平然とHなことを宣うルシフォルさん。


「あ・・・あははは。そういうこと・・・ちッがぁあああうううぅうううッ!」


替えの衣服を持ったままで叫んでしまうのは・・・当然でしょ?


「今は私の身体なんですから!

 当人が恥ずかしいと言ったら恥ずかしいんですッ!」


真っ赤になって言い募ってみたのだけど・・・


「そうかなぁ・・・そういうものなのか?」


あまり気にもかけていないようで犬型ロボットの頭を撫でて訊ねる。


「ががうぅ~?」


すると小首を傾げて知らないとばかリ唸るのですが?


「仕方がない。

 ボクが後ろを向いているから着替えてくれないかなぁ?」


「う・・・絶対に振り向かないでくださいね」


このままでは埒が明かないと思われたのか、観ないでおくと約束された私は。


「君も!だからね」


犬型ロボットにも、後ろを向いていてと頼んでおくのを忘れはしなかった。


「ががぅ~・・・」


小首を捻って拒否する仕草を見せる・・・


「観るな!」


「ぎゃんッ?!」


じろりと睨んで文句を言わさない・・・強いぞ私。


二人(?)が大人しく向こうを向いたのを確認してから、なるべく離れた場所に行く。


そしておもむろに手渡された衣服を拡げて見て判ったのは。


「あ・・・ちゃんと女性用だ」


てっきり男性の服かと思っていたのだけど、意外なことにルシフォルさんが用意してくれていたのは女モノだった。


白いブラウスにはセンターにフリルが施されてある。

濃い緑のロングスカートにストッキングタイツ。

ベットの脇にはブーツも置かれてある。


・・・そこまでは良しとしよう。


「・・・なぜに下着まで?」


着替えには紫色で生地の薄いブラとショーツ迄あるんですけど?

しかもやたらと露出が強いみたいですが・・・そうですか?


ー これは?ルシフォルさんの趣味なのかしら?


表は到って普通でも、中は派手好みとか?


着替える手を停めてルシフォルさんをジト目で観てしまう。


ー まぁ、この躰を造った人だから。

  それ相応の好みがあるんだろうなぁ・・・


変な納得感が沸き起こるけど、このまま着替えないのも時間の無駄だから。


 バサ・・・


思い切って貫頭衣を脱ぎ捨てる。


「あ・・・そっか。寝ていたから着けていなかったのか」


胸にあるべき布が見当たらなかったのは、仕方がないのは分かる。


「・・・って。そう言う事だったのか」


でも、下ぐらいは穿いていても良かったと思う。

着替えの中に下着が含まれていた訳が分かり、一頻り納得感が漂った。


「それにしたって・・・ねぇ?」


改めてというより、初めて新しい身体に眼を向けた。


ー 細身の身体なのに、出る処はかなり立派だと思ってはいたんだけどねぇ・・・


下着を着けてから眺め降ろして思うのは、これが大人の身体なのかってこと。

白い肌に紫の下着が妖艶さを醸し出している・・・

なんて、自分で言えた道理ではないのだが。


ー なんだか身分不相応な気になっちゃうのは・・・なぜ?


身体に身分も糞もある訳がないが、なんだか立派過ぎる気がしてならない。


「まぁ、ブラウスやスカートが真面で良かった・・・かな?」


着替え終えてブーツを履くと、落ちつけた。

落ち着いてから、自分が暗い気分から解放されたのが分かって。


ー もしかしたら・・・ルシフォルさんは初めからこうなると分かっていて?


外に出るように勧めたのも、戻って来たら着替えを用意していたのも?


ー 私に気を遣ってくれているから。

  どんな気持ちになるのかを分かっていて・・・


まだ振り向いても良いとは言っていないから、ルシフォルさんは向こうを向いたままだ。

その背中を見詰めて感謝の念を抱く。

この人はロボットの私を普通の人と同じに思ってくれているのだと。


もし私が本当のロボットだったら、こんな人間に背いたりは出来ない。

ましてや襲い掛かるくらいなら自己崩壊してしまいたくなるだろう。

機械の身体に、少しでも人間らしい感覚こころがあったのなら。



「ちゃんと約束を守ってくれましたね、ありがとうございます」


着替えを終えたから振り返っても善いと呼びかけた。


「いや、当然じゃないか・・・ほぅ?」


振り返るルシフェルさんが、私を観ると。


「やはり・・・似合うよ。そっくりだ」


褒めてくれたのだけど、気になる一言を残した。


「あの・・・誰に似てるのでしょうか?」


「あ、いや。それは・・・」


空かさず訊いてみると、意外にも口籠られてしまう。


「この躰のモデルの方でしょうか?」


「そ、そうだね。その通りだよ」


肯定するルシフェルさんが、いつになく動じている気がした私が。


「もしかして・・・ルシフォルさんの好きな方ですか?」


「も、もしかして?!それは・・・違う・・・ぞ」


歯切れが悪い。さては図星でしたか。


「その方は?今どこで・・・

 いいえ、どうなされているのでしょうか?」


少し不味いとは思ったけど、訊いてみることにする。


「・・・亡くなったんだ。今から3年前にね」


ー ・・・え?ええッ?!


「す、すみませんでした!余計なことを訊いて」


私は謝罪するしかなかった。

本当に気の回らないことを訊いたと後悔して。


「いいや、本当なのだから。

 いつも笑顔を絶やさない女性ひとだったから義姉ねぇさんは」


姉・・・お姉さんだと仰られた・・・好きで当たり前の話だ。


「兄のお嫁さんだよ。

 君のモチーフになっているのはね。

 まだ新婚だったのに・・・亡くなってしまったんだ」


「そ、そうだったのですか」


つまらない事を訊いてしまったと、お詫びするつもりだったのだけど。


「そうだな、この際だから君に聞いて貰うとしようか」


モチーフになった姉のお嫁さんで、義姉の話を私に聞かせると言うルシフェルさん。


「もしかしたら記憶を呼び覚ませるきっかけになるかもしれないしね」


飽く迄も私の事を想ってくれているのだと分かったからには、断る理由なんて見つけられない。


「聴かせてくださいますか?その方との絆を」


だから私の方から望むと答える。


「ああ、少し長いけどね」


にっこりと笑ってくれたルシフォルさんが、私と並んでベットに腰を降ろした。


「そうだな・・・どこから話そうかな」


遠い記憶を探るかのように瞼を閉じ、


「あれは兄が紹介してくれた日だったかな・・・」


思い出を紡ぎ始めた。


「今から4年前の春だった。

 その頃はボクも機械工学を修めていて。

 人形ドールと呼ばれるロボットの製造に心血を注いでいたんだけどね」


「はい・・・」


聞き手になった私は相槌を打つ。


「兄はボクとは違って人間工学を修め、それなりの成果を積み上げていたんだ。

 人が不幸せなのは不治の病が原因だとか言ってね。

 人の命を延命させれる方法を模索していたんだよ」


そうルシフォルさんが話した途端だった。


 ズキ!


また頭痛が襲い掛かって来た。

聴いた内容に思い当たる節でもあるのだろうか・・・分からない。


「兄は学会で人の記憶を脳波から検出できると報告した。

 その記憶をメモリーに封じ、機械の身体に埋め込めば。

 それはもう新たな命にも等しく、延命したのと同じだと言っていたんだ」


 ズキ! ズキン!


聴くたびに頭痛が襲う。

聞かされた内容が重く伸し掛かってくるような錯覚に捕らわれてしまう。


「丁度その頃だったかな、義姉ねぇさんを紹介されたのは。

 君そっくりの綺麗なひとでね、歳も兄よりずっと若くて。

 こういったら語弊があるけど、兄には勿体ない位だと思ったものさ」


 すぅ・・・と。


痛みが消え、ルシフォルさんの声が聴きとれるようになった。


「あら?ルシフォルさんも義姉さんに一目惚れされたんですね」


辛くなくなったから茶化せられる。


「あ、いや。そうではなくて・・・そうかな?」


「そうですよ。人妻に一目惚れするなんていけませんよ。その・・・」


此処まで話して貰っていたのに聞いていなかったのに気が付くと。


「その方は何というお名前だったのですか?」


亡くなったという義姉さんの名前を教えて貰っていない事に。


「ああそうだったね。

 兄のお嫁さんになる女性ひとの名はね、ミハエル。

 ミハエル・ターナーになる筈だったんだ」


 ズキン!


今迄で一番の痛みが頭を過った。


「兄、タナトス・ターナーのお嫁さんになったのにミハエルさんは・・・」


 ギリギリギリ!ズキン!!


まるで鋸で頭を斬られるような頭痛が襲い掛かった。


「ターナー?タナトス・・・タナトス・ターナー?!」


目の前が真っ暗になって来た。

自分でもどうする事も出来なくなる程の痛みを伴って・・・・


ルシフォルの兄は・・・

タナトス・・・タナトス・ターナー?!


その名を聴いた途端に、私の意識は飛んでしまう。

記憶に名残があるのか?

それとも機械の身体が反応したのか?


次回 Act7 呼ばれた名

夢の中で声が聴こえた。私を呼ぶ人の声が<その名>を告げたのだ?!

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