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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
少女人形編 最終章<第8章 反逆の狼煙>
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Act50 愛のゆくえ

月への便が打ち上げ準備に入った。

リィンは想い人の下へと駆ける。


最期に手渡さなければいけないと、小箱を握り締めて・・・

ニューヨークで惨劇が繰り広げられていた頃・・・


此処フロリダにある宇宙開発局では、明朝発信するシャトル便の準備が最後の仕上げに懸っていた。



「「面会の方に申し上げます。残り時間は2時間を切りました・・・」」


ロビーに流れる案内を聴きながら、二人は所定の場所へと急いでいた。

搭乗手続きが終えられたからには、急がなければならなかったから。


「急がないと!麗美レィちゃん同様に、冷凍処理されちゃう」


「はい!そうなっては逢えても話す事が出来ませんから」


リィンと少女人形レィは駆ける。

エイジが居る搭乗者ブロックへと。


「これを渡さないと・・・」


ポケットにしまってある小箱を確かめ、リィンは最期の願いを胸に秘めている。


「何です?大事な物のようですけど」


走りながらもポケットに手を伸ばしたリィンに訊ねてみると。


「これ?レィちゃんの好きだった物だよ」


「好きな物ですか?」


ちょっと考えてみたが思いもつかず。


「ほら・・・これだよ」


ポケットからちらりと見せるのは。


白い小箱に納められてある・・・


「ああ!ホワイトチョコでしたか」


レィが好んで口にしていた、あの白い棒状のチョコ。


「これを・・・ね。エイジに託そうと思うの」


「ははは。そうでしたか」


自分が好んで摘まんでいたのを思い出し、苦笑いを浮かべてしまう。


「目覚めたら食べて貰うのレィちゃんに。

 箱を開けてくれたら、きっと通じると思うから」


真剣な表情で応えるリィンに、少しだけ感謝の念が湧く。


「・・・ありがとうリィン」


今迄だったら少女人形としてだけ振舞っていただろう。

だけど、弟を見送るに際しては違った。

もう、人間麗美の記憶としてだけでは収まらなくなっていたから。


「きっと・・・治ったら食べると思うから。

 治して貰えれば思い出すから、リィンとの絆も愛も」


月へ行ってしまう自分の身体に、願掛けするレィ。


「うん・・・そうだよね」


でも、リィンは違った想いをも秘めていた。


「箱を開けてくれたら・・・分かる筈だから」


そう呟くリィンの手が、小箱を大事そうに握った。





搭乗者のブロックには、数名の日本人もいた。

黒髪を垂らした女の子や、傍から離れない男の子。

そのどちらもが研究者かエンジニアの卵なのだろうか。


「どこよエイジったら?」


辺りを見回しても見つけられなくて、リィンは焦って探し回る。

傍らに控える少女人形も目を凝らして探していると、ローマ字表記の名札に気が付いた。


「あ、この名は・・・」


探し回るリィンの脇で、少女人形の眼が捉えたのは?


「あ・・・この名札にある<ミハル・オオガミ>って?!」


思わず声に出してしまった。

どうしてなのか分からずに。


「私の・・・本当の名前だって美琴お母さんから聞いた事がある」


蒼騎麗美あおきれいみが名前だった筈。

だとすればなぜ本当の名だと云うのか。


「生まれる前に神主様から頂いた名前だとか言ってたっけ。

 大神おおがみみことから賜ったのははる

 大神の美だから御美みはる・・・大神おおがみ御美みはる


信心深い母だから故とでも言うべきか。


「麗美と付けたのは、そのはるの一字を加えたかったかららしいけど・・・」


経緯は分かるが、今目にしている名前が教えるのは。


「と、言う事は?

 この名札が着けられてあるコンテナに私が・・・」


思わず近寄りバスケット状のコンテナを覗き込もうとしたら。


「あのぉ?私の寝台に何か御用でも?」


先程見た日本人の少女が後ろに立って訊いて来たのだ。


「えっ?!これ・・・あなたのコンテナだったの?」


「はい。名札もオオガミと書かれてあるでしょ」


少女から肯定されて、コンテナと少女を見比べてしまった。


「あ、そうだったんだ。

 ごめんなさい、同じ名前を持つ人を知っていたので」


「同姓同名だったんですね。

 それじゃあ仕方がありませんよね」


相手の少女は屈託のない顔で接してくれる。


「それに・・・ローマ字で書かれていたら。

 日本語ではだいかみって書くんです私の苗字は」


「そうだったのね、これは完全に人違いだったわ」


自分に与えられたのは大神おおがみ

だからこの少女とはなんらの関係も無いと言える。


愛想笑いを造って謝る少女人形レィに向けて、ミハルを付けられた少女が教えてくれる。


「そういえば、奥のコンテナにも私と同名が着けられてましたよ。

 そちらに行けば、知り合いの方に逢えるのではないでしょうか?」


「えッ?!ホント?ありがとう!」


棚から牡丹餅か。

思わぬヒントを貰った少女人形が感謝を言うと、


「急いだほうが。後1時間ほどでゲートが閉まりますよ」


急き立てて手を振ってくれた。


教えられた方へ走り出し、まだ探し回っているリィンの手を掴み。


「リィンタルト!こっちです」


飛び跳ねるように人混みの中へとまぎれて行った。




奥間った空間にエイジは佇んでいた。

傍らの冷凍保管コンテナを見下ろしながら。


「エイジィ~!」


と、呼ばれる傍から。



 どかッ!



少女人形の猛烈な速さは、急な停止が無理だったのか。


「ぎゃんッ?!」


リィンがエイジに激突してしまった。いや、故意にぶつけられたのか?


「はい!到着です」


知らぬ顔の少女人形が転んだ二人に。


「それでは、お済になられましたらお呼びください」


自分は干渉しないと言うのだった。


「え?あ・・・うん」


スタスタと後退る少女人形を二人で見送る。

で、我に返ったリィンが急いで小箱を取り出そうとするのだが。


「リィンちゃん、来てくれたんだね?」


「あ、当たり前でしょ!二人をほっとく訳にもいかないんだから」


敢えてレィを絡ませることで誤魔化そうとする。


「ありがとうリィン・・・逢えて嬉しいよ」


「ばッ、馬鹿!なによ今生の別れでもあるまいし」


どんなに自分を誤魔化しても、好きになった人の声を聴いてしまったら決意が鈍りそうで恐くなってしまう。


ー 早く渡してしまわなきゃ。言いそびれちゃう!


ポケットから白い小箱を掴み出し、エイジに渡そうと思った・・・が。


ー 手・・・手が。指が震えて掴めない?!


どれほど悩み、どんなに苦しんだか。

そして最期の別れに際して、必ず渡そうと用意して来たのに・・・


ー こんなに震えていたんじゃ、エイジだって気が付いてしまう!


手渡す時に震えていたのでは台無しになる・・・そう考えると余計に手を気にしてしまう。


「どうかしたのリィン?」


「な、なんでもないったら!」


耳元でエイジの声がする。

自分に向けられる暖かな声が。

だけど、顔を観ることすら出来なくなって来るのは、箱の中に仕舞ったある物が原因。


リィンは手に気が集中していて分からなかったのだが、傍に寄っているエイジには感じられていた。


リィンが震えているのを・・・別れを惜しんでいるのが。


「言いたい事があるんだろ?先に言えないのならボクから言うよ?」


だから、自分から先に教えておこうと思う。


「月に行く前で・・・なんだけどさ。

 リィンと一緒に居られる間にお願いしようと思ってたんだ」


急に話し始めたエイジに、肩を震わせるリィンが顔を向けると。


「んっと・・・レィ姉さんには内緒にして欲しいだ。

 聴いて貰えるか分からないし、断られたら恥ずかしいし・・・さ」


「なに?とんでもないお願いじゃぁないでしょうね?」


ちょっと顔を赤くしたエイジに、リィンがそっけない振りで訊き咎めるのだが。


「とんでもないと思うのなら聞き流しても良いから。

 これから話すのを黙って聞いて欲しいんだ」


「だぁ~かぁ~らぁ、言いなさいってば」


エイジだから月まで来いとか言うんじゃなかろうかと毒吐いてしまう。


だけど、深呼吸したエイジが話すのは。


「一回しか言えないからね。

 その・・・えっと」


言い出し辛いのか口籠っていたが、


蒼騎あおき衛司えいじは、リィンタルト・フェアリーが好きです。

 とっても大切な女性ひとで・・・その、結婚を前提としたお付き合いがしたいです」


なんと。リィンにプロポーズしたではないか。

途端にエイジが固まってしまう。自分の言葉に因って。


「へっ?!」


そう呟いたのはリィンではなくて、遠くで聞き耳を立てていた姉のレィだった。


「ぶッ!なによそれは?!

 それで告白したつもりなの・・・って?

 プ、プ、プ、プロポーズじゃないのそれって?!」


聞き間違いかと初めは思っていたらしいが、固まる弟を観てやっと理解出来た。


「あなたが結婚するなんて・・・私はどうしたら良いのよ?」


リィンの事を愛おしく想っているのに、弟に奪われてしまう・・・のはこの際良しとして。


「リィンに子供が出来たら・・・伯母さんになるじゃないの?!」


いや・・・そうではなくって。


「ははは・・・抜け殻になりそう」


混乱した少女人形がしゃがみ込んで耳を塞いだ。



「ど、どう?ボクのお願いだけど」


告白してから何も言わないリィンに、恐る恐る訊いてみる。


「・・・バッカじゃないの」


と、返って来たのは震えるリィンの罵声?


「ホント・・・馬鹿よ。大馬鹿者よ」


顔を逸らして罵るのか?


「そんな大事なことを、この場で言うの?

 エイジは月に行っちゃうんだよ・・・」


震えている・・・怒りに?

でも、逸らした顔の下にある手の上に落ちるのは?


告白された瞬間、リィンの心の中で澱んでいた霧が晴れて行った。

愛したひとから受けた最大で最高の言葉セリフ

もう諦めかけていた願いを、もう一度叶えたくなった。


心の中では歓喜を覚え、それとは裏腹に顔には出せない。


「それなのに・・・エイジったら。

 あたしをどれだけ待たせる気なのよ。

 婚約したって言っても、何も証拠が残せないのに!」


本当は素直に頷きたかった。自分の気持ちに従いたかった。

だけど、これ以上求める訳にはいかないと律したつもりだったのに。


急にエイジが手を掴んで来た。


「証拠なら・・・此処に有るよ」



 ツィ・・・・



右手の薬指に填められていく感触。


「え?!」


背けていた瞳が捉えてしまったのは。


「ボクがリィンを想う気持ち。

 リィンが受けてくれるのなら、外さないで欲しいんだ」


・・・蒼く輝く指輪リング・・・

まるで魔法のかけられた指輪のように、美しい輝きを放ち続ける。


「あ・・・あ?!ああ?!」


まさか。

本当に用意していたなんて。


「これ。ボクが研究していた魔法が籠められてあるんだ。

 いや、魔法じゃなくってリィンを護るおまじないかな」


「あ・・・あああ。あた、あたしッ!」


受け取れない・・・って、言えなくなった。

涙が後から後から湧き上がって来て。


ー 馬鹿馬鹿馬鹿ぁッ!この大馬鹿者ぉ~ッ!


どうして自分から言い出さなかったのだろう、と。

馬鹿と云うのは自分に向けられた罵り、決心して造ったトリックの箱を渡せなくなりそうで。


ー どうしよう?!どうしたら・・・


求愛されて、求婚されて。

幸せで、嬉しくて。

それなのに・・・自分は嘘を吐かねばならない。


「馬鹿ね、指輪を外したら婚約が解消されると思うんだ。

 だったら、エイジが帰って来るまで外さないでおくわ。

 帰って来た時に・・・外してやるんだから」


「そう?じゃぁ帰って来たらエンゲージリングに替えようか」


偽りの言葉でもエイジには効き目が無かった。

却って期待するかのように微笑まれてしまう。


「だッ、だからッ!指輪を外すんだって言ったのよ」


「じゃぁ、今外す?」


小首を傾げて突っ込まれてしまうと、リィンには返す言葉が見つけられなくなる。


ー イジワルぅ!エイジのイジワル。

  外したくないに決まってるじゃない!

  どんなに希望が少なくっても、皆無じゃないんだからぁ!


蒼い指輪へ手を添わせて、宝物を抱く少女のように振舞えたら。

でも、リィンは。


「ふんっ!貰ったモノは簡単には返さないってのがモットーなのよね」


何でもいいから言い逃れたくって、そっけない態度に終始する。


「だから・・・外さない。それだけ」


本気で言っているのではない。

震えが止まらない程嬉しいのだから。


でも、今はやり遂げなければいけない。

震えが止まらないのは承知の上で、渡さなければならないのだ。


「あなたが指輪をくれたのなら、あたしもエイジに渡さなければいけないよね」


そう言って、ポケットから勢いに任せて取り出す。

白い小箱・・・ホワイトチョコが詰まっている筈の。


「これ。レィちゃんの好きだった箱入り。

 これをエイジにあげるから、月に行ったら食べて貰ってね」


「あ・・・良く気が付くね。喜ぶと思うよ」


喜ぶのはレィが蘇った時だろう。

でも、その前にエイジは・・・


答えられた瞬間。悲しみが襲い掛かって来るリィンの心に。

でも、勇気を振り絞って注釈を加える。


「絶対渡してね。

 それまではエイジが持っていて欲しいんだ」


「ああ、勿論」


此処までは普通に言える。

エイジだって不審には感じていないようだから。


「それから・・・もう一つ言うね。

 絶対に箱の中身を調べたりしない事。

 食い意地に負けて食べないで。

 どんな中身なのかと開けたりしない・・・で」


昔話にもあった。

興味を示すように仕向ける言葉。

開けてはいけない扉を開けさせてしまう罪作りな言葉を、敢えて使った。


「チョコだろ?分かってるよそれくらい」


気に留めないエイジに、少しだけ心配になる。


「どぉ~だか。もしかしたら毒が入ってるかもよ」


「・・・嘘つけ」


振れるだけ振っておいた。

後はエイジが観てくれるのを願うだけ。


ー あたしはなんて悪い子なんだろう。

  こんなにも愛おしいのに、最期まで嘘を言うなんて・・・


心が締め付けられる感覚に、いっそのこと何もかも曝け出してしまいたくなる。

でも、今そんな事をすれば、きっとエイジは月へ行ってくれなくなってしまうだろう。

自分と道を同じくすると言ってくれる。


それがエイジの為にも、自分の為にもならないのが分かるから。


「預けたからね、エイジ」


「ああ、必ずレィ姉さんに渡すよ」


エイジの手に握られた小箱を一目見てから、填められた指輪の感触を確かめる。


ー ああ、これでもう。

  あたしは思い残す事なんか無くなった・・・


きっとエイジは読んでくれるだろうから・・・二度と果たせなくなるとしても。


「・・・ありがとう。エイジ」


これが最期となるのは、あの日背負わされた時に思い描いてしまった。

でも、最期に贈られた希望に縋りたくなってもいた。


ー この指輪に込められた希望。

  あたしは最後の最期まで頑張れる。

  だって、愛は永遠だって言うんだもんね!


秘めた悲壮なる想いに、少しだけ希望が現れていた。


ー タナトスの野望を食い止めて、人類が残れたのなら。

  きっとその時こそ・・・あたしの方から言うんだ。

  ずっと愛しますって。結婚をお受けしますって・・・


希望を潰えさせない為にも。

この指輪が填め続けられているのなら、叶えさせることだって出来る筈だと想いを新たにして。


「きっと二人で帰って来てよね。

 あたし・・・ずっと待ってるから」


「ああ、約束したからね。待っていてよリィン」


別れを告げる恋人の姿が此処にもあった・・・

ミハル・・・その名をつけた子がもう一人居ました。

そしてレィの隠された名だとも分かりましたが・・・


リィンは大切な宝物を指に填め、想いを籠めた小箱を渡せたのです。

これでもう想い残すことは無いと・・・


姉弟は二人だけの時間を最後に与えられるのでしょうか?

与えられれば何を語り合うのでしょう?

永久の別れになるとレィは心に秘めていた想いを告げれるのでしょうか。


次回 Act51 別離に贈る言葉

最期になると秘めた心で別れを告げる・・・でも君は諦めるなと言った

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