Act4 孤独な聖戦闘人形<バルキュリア>
闘う者達・・・それは命果てるまで終わりはしないとでも言うのか?
運命を背負う者は抗い続けるしかないのか?
今、彼女は何のために此処に立つ?!
戦車の撃破を目論んだ戦闘人形が斬り倒された。
戦車兵も、敵である戦闘人形達も現れ出た一人の少女に注目する。
戦車砲でも倒せなかったバトルドールを、唯の一撃で斬り倒した蒼髪の少女・・・
「あれが?噂の聖戦闘人形なのか?!」
人間の味方をする戦闘人形を、戦女神と呼ぶ戦車兵。
「同じ戦闘人形だという話だが?」
姿だけを観れば、人間の少女と何ら変わる処が見当たらないというのに。
「観ろよあの娘を!
両手と足に円環を填めてるぜ?!」
機械の戦闘人形達と同じように増幅装置である黒い円環を装着しているのが見えた。
「あれはナンバー持ちである戦闘人形と同じだぜ?!」
攻めかかった人形達にも円環は着けられていたが、目の前に佇む少女の円環より細く小さいのが分かる。
「やはりあの娘が?人形キラーの・・・」
「聖戦闘人形?!」
生き残りの戦車兵達が挙って少女を呼んだ。
人類に味方する戦闘人形だと。
殺戮人形ではない聖なる戦闘人形・・・と。
ザゥ!
紅い瞳が蒼き少女を観測する。
「「形式名称ゼロ・・・零型殲滅人形だと認識する」」
一体を撃破された人形達が、赤外線暗視装置付きの瞳で少女の形式を読み取った。
「「仲間なりや?」」
「「我等と同じ機械の兵ではないのか」」
味方である機械の身体を持つ者と識別し、即座の攻撃を躊躇したが。
「「既に<ゼロ>は破棄された・・・既に機械部隊員としては存在しない」」
「「我等<ファースト>により<ゼロ>は処分された・・・存在なり」」
戦闘人形達の通信は、指揮を司るメインコンピューターに送られる。
瞬時に指揮コンピューターからの指令が齎された。
<<姿を確認せよ・・・モニターに映る画像を転送せよ>>
指令を受けた戦闘人形の紅い瞳が、捉えた画像を転送した。
戦車をバックに、黒い衣装を纏う少女の姿がコンピューターへと送り込まれた。
識別装置は間違いではなかった。
赤外線で捉えた少女は、人間ではなかった。
肉体を透過した画像には・・・鋼の骨格が映し出されていたからだ。
そして・・・円環に映し出されているのは翠の発光。
黒い円環にくっきりと少女が何者であるかが分かる数字が表されていたのだ。
翠の光には<0(ゼロ)>の文字が・・・
<<形式ナンバー<零>に相違なし>>
指揮コンピューターは断定する。
少女が戦闘人形であると。
そして、彼女が自分達機械兵の敵でもある事を。
「「目標を敵と断定。
優先目標として攻撃せよ。直ちに破壊せよ!」」
零の前に居た戦闘人形達が、攻撃態勢を執る。
「「全員で<ゼロ>を破壊せよ」」
一人の戦闘人形に対し、残り6体の機械兵が押し寄せる。
初め戦車を目標としていた戦闘人形達が、踵を返して少女へと向かう様を観た人間達は。
「まさか?一人を6機で襲う気なのか?」
数を傘に掛けて攻撃するのかと卑怯な振舞だと怒りを露わにするのだが。
「いくら聖戦闘人形だって、相手が多過ぎるだろ」
自分達を全滅へと追い込んだ恐るべき人形達に手を出しかねてしまうのだった。
眼前に立ち塞がる悪魔のような戦闘人形達を停めることは出来ないとも感じていたのだ。
「逃げるんだ聖戦闘人形!俺達なんて構うんじゃない」
先程まで一方的に戦車を破壊していた敵戦闘人形が、一人の少女に牙を剥く様を観て見ぬ振りなど出来なかった。
せめて逃げてくれるように叫ぶのが精一杯だったのだが。
ダンッ!
襲い来る6体が目前まで迫った時だ。
聖戦闘人形は横っ飛びに空を舞った。
人間には出来よう筈も無い跳躍力で、戦車の前から飛び退いたのだ。
「そうだそうだ!逃げてくれ」
自分達の声が届いたのかと思った一人が囃し立てる。
しかし戦車長ははっきりと彼女の目的を悟っていた。
「違う!彼女は奴等から俺達を護ろうとしたんだ」
「え?!」
3人の乗員達が戦車長が何を観てそう呟いたのかと振り仰いだ。
「聖戦闘人形は俺達を護ろうとしたんだ。
俺には彼女が小さく頷くのが見えたぞ!
奴等が彼女へ集中している間に逃げろと言ったように見えたんだ」
戦車長は零の後ろ姿を追いながら唇を噛む。
「彼女は機械の人形かも知れないが、心は人と同じという事か」
たった独りで群がる6体の人形を相手にする零に、
「彼女は戦闘人形ではない。彼女こそ・・・新造人間だ」
人類の仲間。人間の仲間。そして・・・闘う少女だと呼んだのだ。
「逃げて・・・今は」
脚力を通常時の3倍まで高めて飛び退いた。
脚の黒い円環へ動力を集中する。
「私に任せて」
右手の<紅の剣>への動力を減じて。
戦闘力を発揮する胸の動力炉からの配分を、両足に注ぎ込む。
「あの子達は諦めてはくれないでしょうね」
ちらりと後方から追い縋る<ナンバー無し>の少女達を垣間見て呟いた。
「それが・・・機械兵という存在」
人間ではない・・・が、人間そっくりのリアルドール達。
追い縋る少女達は、紅い瞳を自分に向けてくる。
「私も同じ機械・・・だけど!」
脚力に物を言わせて、零は二百メートル程を走り抜いた。
もうここまで来れば、戦車を闘いに巻き込む心配は無いだろう。
後方に置き去りにされた6体の戦闘人形達も、僅かに遅れて到達する。
「だけど・・・私は。
私にはやり遂げなければならない約束がある!」
6体の戦闘人形達は、零を取り巻くように散開し始めた。
それぞれが手に持った・・・強化兵器を携えて。
ビシュッ!
口上を述べる間も無く、少女兵器が光弾を放つ。
紅き光弾は瞬時に零に届く。
ギィンッ!
戦車をも貫く光弾が、紅き剣で弾き飛ばされる。
ビュンッ!
頭部に炸薬を仕込んだ矢が襲いかかる。
零の頭部を狙い澄ました矢だったのだが・・・
レィの蒼き瞳は矢をスローモーションのように映し出す。
蒼き瞳は飛び来る矢を、超高感度カメラによって射角を弾き出す。
フッ
僅かに顔をずらし、矢を避ける。
しかも体内に仕込まれたレーダーに因り、背後に居る者の角度をも想定していたのだ。
グワッ!
外れた矢が、後ろに回り込もうとしていた一体に突き当たった。
レーダーに映し出されていた熱源が戦闘不能となったのを感知する。
「これで・・・残り5体」
周りを囲もうと目論んだのが、却って仇となったのか。
「「攻撃せよ!躊躇せず目的を完遂せよ」」
最後にやって来た戦闘人形が檄を飛ばす。
それに因り、取り巻いた5体の指揮を執っているのが判った。
「赤髪で槍を持った子が・・・5体の長か」
左目で槍を持つ人形をインプットし、右目で他の動きを図る。
5体の内、飛び道具を持った者が4。
至近戦で勝負を着けるのが一番だが、問題は・・・
「槍の子を第一目標とする。残りは動きを封じておけば良い」
指揮を執る槍の人形から攻撃する。
指揮系統を麻痺できれば、残りの人形は混乱するだろう。
その間隙を突けば、勝負は自ずと決する。
「紅き剣シェキナ!」
目標を決めたレィが右手の剣に発動を命じた。
と、同時に動力を右手に集めて。
「戦闘ッ!」
レーザー剣の能力値を限界まで引き上げる。
ビキビキビキ!
動力を集められた剣の形が歪に変わって行く。
直線刀だったシェキナは、太さも長さも・・・そして。
ガキンッ!
レィの求めに応じて、何か所も屈折した巨剣へと成ったのだ。
「破壊剣よ、私の敵を討ち砕け!」
剣を腰溜めに構え、レィが目標を捉える。
「標的を撃破後、4体を攻撃する」
まるで誰かに命じるように、レィが叫んだ。
「Go!」
圧倒的有利な状況であっても、戦闘人形は油断などしなかった。
尤も、機械兵であるドールが人のように余裕をみせる訳も無いが。
敵が自らより強敵であろうとも、機械の兵には関係が無い事だった。
課せられた命令を完遂するだけの存在なのだから。
仲間が全滅しても、目標である零を破壊すれば良かったのだから。
だが、彼女達が目的を果たす事は出来なかった。
戦闘人形である彼女達は、身体に流れる潤滑油を吹き出しながら活動を停止させられることとなる。
ガッ!
紅き剣から伸びたレーザーによって槍を持つ指揮人形が、いの一番に動力源を断ち切られて動けなくなる。
接近戦を想定して作られた戦闘人形は、長槍でも届かない距離からの一撃を防げなかったのだ。
そしてレィが考えていた通り、残された4体は動きを停めてしまった。
指揮を執っていた人形からの指令が途切れて。
ザゥッ!
次の瞬間、レィが動いた。
動きを停めた4体へと。
ザシュッ!ギンッ!ドゴッ!ズシャッ!
瞬きする間もない程の時間。
人間を完全に凌駕する動きで、レイが舞った。
いいや、4体を悉く撫で斬ったのだ。
横殴りに胴体を寸断される人形。
そのままの角度で剣が奔り、動力源を孕んだ腹部を斬られる人形。
やや角度を上げた剣に因り、脇から肩口を斬られる人形。
そして、最後の一体が漸く動こうとした矢先に。
「ごめん・・・」
本来が仲間である戦闘人形零が謝った。
ごろん・・・
紅き剣が薙ぎ払った後。
最後の戦闘人形は首から上を失ったまま停止してしまった。
茶色い潤滑油を吹き出しながら・・・
停止したまま固まってしまった5体の真ん中で、零と呼ばれる聖戦闘人形が佇む。
そして僅かに顔を挙げて見上げるのは・・・
ザ・・・・ザザザ・・・
モニターに画像が映されなくなった。
「本当に死に損ないね・・・あなたは」
途切れた通信によってブラックアウトしたモニターを見詰める影。
「これだから・・・絶対なんて信じられないのよ」
嘲笑うかのように呟くのは、掠れた少女の声。
「リィンが言っていた通り・・・此処へ来たのね」
悪魔に抗う少女の名を呟くのは・・・誰?
「それじゃぁ・・・もう一度。
あなたを破壊してやらなきゃ・・・駄目よねぇ」
聖戦闘人形を?
「だって・・・私が一番なのだから。
あなたより勝っているのだと分らせてあげなきゃいけないよねぇ」
消えたモニターの前で嘯くのは。
モニターに映る姿は・・・聖戦闘少女と同じ。
いや・・・同じように見えるだけ。
邪に嗤う顔は似て非なるモノ。
赤髪と紅い瞳・・・
そう。
戦闘人形で死神と揶揄される<ファースト>だった・・・
バトルドールを倒した聖戦闘人形レィ。
だが、ほんの僅かな静寂が訪れただけなのか。
彼女を待ち構える者が・・・
モニターに映る姿を見ていたのは<死神>だけではなかった。
あの日を思い出していたのは?
リィンは再び逢えると喜ぶのだが・・・死神も喜ぶ。その理由とは?
次回 Act5 約束
微かな想いは君に届くのだろうか・・・・