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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第7章 託された者
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Act48 違反は遺憾

機械兵を作っている工場に少女幹部がやって来た。

取り巻きの黒服達と共に。


そこで観た物とは・・・

・・・フロリダ州 軍事企業オーク社機械兵工場・・・



「し、しかし!これは社長命令ですので」


工場長が黒服達に囲まれて言い募っていた。

場の中心に居る、栗毛の少女幹部へ向かって。


「そうなの?あなたの一存ではないのね?」


冷ややかな視線を浴びせてくる少女からの詰問に。


「勿論です。社のノルマに従ったまでですから」


工場長は自分の責任ではないと言い張った。


「そう?でも、経営会議の議決は知ってるでしょ。

 減産するようにとの訓示は知ってるわよねぇ?

 どうして規定に従わなかったのかしら」


「それは・・・社長に従わなければ辞めさせられてしまうからです」


飽く迄も社長命令には反対できなかったのだと言い繕うのだが。


「どうだか。

 あたしが聞いたところに拠れば、あなたも社長派閥の一員だったわよね。

 オーク家の幹部ファミリーに楯突けばどうなるか知らない訳じゃないでしょ?」


「ひぃッ?!御許しを~ッ。リィンタルト嬢様!」


叱責を受ける工場長が、飛び上がって許しを請う。

怯え慄く工場長に一瞥を投げてから、辺りを見渡す。


工場内部には、山のような新型機械兵が並んでいる。

それも重武装を施された物や人間型のドルイドまで、多数が出荷を待っている状態だった。


「これが輸出されていたら、またどこかの国で悲劇が起きていたのかも」


世界中で争いが絶えず、毎日のように惨劇が起きているのはリィンも知っている。

紛争地帯には人間の代わりに機械兵が送り込まれ、無差別に殺戮を繰り広げている事も。


出荷前の機械兵達は、性能試験を終えていつでも動かせ得る態勢になっている。

スイッチ一つで稼働し、自ら固定具ハンガーに収まり荷積みされるのだろう。


「お嬢・・・あの。お付きの人形ですけど?」


スキンヘッドのマクドノーが、感慨に耽っているリィンへ耳打ちしてくる。


「なんだか・・・その。変なのを連れていますが?」


「ん~?」


マクドノーが観てくださいと言わんばかりに指で教える。

振り返ったリィンも、


「なにやってんだか・・・」


開いた口が収まらなくなった。

黒髪の少女人形レイがしゃがみ込んでいて、その前に居るのは?


「こ、こらッ!あはははは」


笑い声をあげる少女人形も珍しいが・・・


「お座りって言ってるでしょ!」


「がぅ?」


ロボットの猟犬ドーベルマンに懐かれているのは、もっと珍しい。


「・・・はぁッ?」


眼が点。


「あははははっ!

 よし、それでは待てだ。グランド!」


ぐ・・・グランドって?もしかして名前を付けたの?


ポカンとレイを観てしまうリィン。


「な・・・なにやってるのよレィ?」


やっとのことで少女人形に訊いてみると。


「あ・・・すみません。

 この子がじゃれて来てしまって・・・」


ロボット犬の前でリィンに振り返る少女人形の顔は、無垢な少女のように笑っている。


「じゃれ・・・って?

 どぉ~してロボットが見ず知らずの人間に懐くのよ?!」


「あ・・・いやあの。友達だと思っているみたい・・・です」


困ったように小首を傾げてからロボット犬に顔を向けるレィを観たリィンがハッと気が付く。


「あ・・・ごめんレィ。言葉が過ぎたわ」


自分が人間と言ってしまった事を詫びる。


「いえ、そうではありません。

 機械同士なのがこの子には分かるみたいですので」


犬の頭部に手を添えるレィが、気にしていないと返して来ると。


「ふぅん、識別能力が高そうだね」


そう言ってから件の工場長に問いかける。


「あれは?

 愛玩ロボットの類なのかしら?」


機械兵工場にしてはオカシイと睨んでの問いだったが。


「いいえ、あれは最新鋭のロボット犬なのです。

 臭覚や聴力を以って敵を探り、且つ又強力な脚や顎で破壊する。

 云わば高性能狩猟犬とでも呼びましょうか・・・」


「馬鹿ッ!そんなものを造って良い訳が無いでしょ!」


一言でリィンの逆鱗に触れてしまう。


「い、いやしかし。

 自己学習能力をも備え、人に近い人工頭脳を備えてありますので・・・」


「大馬鹿者ぉッ!ペットならいざ知らず。

 戦闘用に動物型を造るのは、世界条約違反なのを忘れていたんじゃないでしょうね?!」


逆鱗の追い打ちか。


「まさかこれも社長命令だと、言い逃れする気じゃないでしょうね?」


「まさか・・・いや、そのまさかですが?」


逆鱗を超えたリィンの頭から湯気が昇る。


「きぃ~ッ!怒髪天人~ッ!マクドノー!!」


傍らに控える黒服を呼びつけて、


「社長を査問会議にかけなさい!

 これが世間に知れたら、オーク社もアークナイト社も破産だわ!」


「ひぃッ?!わ、分かりやしたぁ~」


流石のスキンヘッドなマクドノーでも、怒り狂ったリィンには押されてしまうのか?


「お、おい!リィンタルト嬢の御命令だ。

 直ちに本社へ連絡を入れろ、今直ぐにだぞ!」


不運な工場長の胸倉を掴み上げて、一言の文句も返せなくするマクドノー。


「ひゃ、ひゃいっ!」


凄腕ボディガードの威圧に押された工場長が、へっぴり腰で屋内へと駆けて行った。


「なんてことなの。

 抜き打ち検査に来て良かった。

 危なく世界中に拡散する処だったわねレィちゃん・・・って、おい!」


ほっと気を抜いて少女人形へ振り向くと、まだ和んでいる・・・



挿絵(By みてみん)


「はい?」


「がぅ?」


機械人形ドール同士仲が宜しい事で・・・・





「そう?グランドって名前をあげたんだねぇ」


「はい、大地グランドから思いつきました」


ジト目で観ているリィンに、狩猟犬モデルのロボットが尻尾を振っている。


「きっとこの子は実用前の試験機だったのでしょう。

 闘うよりは人の命令を聞くように設定されているみたいですから」


「ふむぅ、試験機で良かったわ。

 実機が製造されでもしていたら大変なことになったかもしれないもん」


レィの説明に胸を撫で下ろすリィン。


「くす・・・リィンタルトも一端の経営者になられたようですね」


「むぅ・・・その言い方には棘があるッ!」


いつの間にか大人びた雰囲気になりつつあるリィンが微笑ましくて、レィなりの気遣いを言っただけなのだが。


「あ、そんなつもりでは無かったのですけど。謝ります」


頭を下げて謝罪する脇で。


「がうぅ~」


レィを気遣うのか、はたまた自分も怒られたとでも思ったのか、グランドも伏せの姿勢を執る。


「あはは!これはなかなかの主従関係ね。

 いや、仲の良い友達とでも言うべきでしょうね」


少し笑ったリィンだったが、真顔になると忠告して来る。


「レィちゃん、それにグランドに教えておくけど。

 絶対に軍用ロボットだと、他人に漏らさないでよね。

 社の為でもなく、あなた達の友情の為なんだからね!」


「はい、バレればグランドが解体処分に処せられてしまいますから」


レィにもリィンが心配してくれたのが嬉しく思えた。

懐いてくれたグランドを、処分しないでくれたのだから。


「グランドも・・・よ?」


「がぅ?」


リィンが質すと、小首を傾げる仕草を見せる。


「フフフ!よく見たら愛嬌があるじゃない。

 宜しいグランド。本日只今から、このあたしリィンタルトの家来に命じるぅ!」


「ががぅぅ???」


笑顔のリィンに命じられても、意味が解っているのかどうか。


「良かったわねグランド。これからも一緒に居られるんだよ?」


レィが機械の犬に微笑みかける。


「しぃかぁ~しぃ!勝手な行動には厳罰を与えるぅ~」


「・・・まぁ、御主人様が御主人様だけに。苦労するかもしれないね」


リィンの御ふざけに、少女人形レィが刮目して応じるのは致し方ないのかも。




二人と一匹がふざけている傍で、マクドノーが部下からの報告を受けていた・・・が。


「なんだと?!

 ニューヨークの邸宅が何者かに攻撃を受けただと?」


飛び上がらんばかりに血相を変えたのが分かる。


「なんですって?どういう事なの」


漏れ聞こえた叫びにリィンが質す。


「分かりません、分かりませんが一大事です!」


報告を受けたマクドノーが分からないのではリィンに話しようもない。


「何者かが屋敷に侵入、若しくは外部から攻撃して来た模様なのですが。

 被害の報告が錯綜しているようなのですよ、お嬢」


「攻撃の規模は?

 ロッゾアお爺ちゃんのお部屋は無事なの?」


マクドノーの顔色からただ事でないのが判り、リィンは一番心配している秘密に気付く。


「それが・・・真っ先にやられたみたいなのです」


「そう・・・そっか」


ポツンと溢したリィンが、さっと顔色を変えてしまうのをレィは見逃さなかった。


「マクドノー、誰かにアタシの居場所を教えて来た?

 屋敷に居る人にこちらに居るのを知らせた?」


「いいえ・・・お嬢がお急ぎでしたので。誰にも」


マクドノーが部下を追いやってリィンに傅く。

その耳元へ小声で命じるのは。


「良い?マクドノー。

 明後日の昼にはニューヨークへ戻るから。

 それまでの間は部下達に守りを固めるように伝えて。

 勿論、幹部ファミリーにも不必要な外出を控えるようにって、知らせて頂戴ね」


「良いんですか、直ぐに戻らなくても・・・お嬢?」


眉を顰めるマクドノーに対し、リィンはぼそりと言った。


「ロッゾアお爺ちゃんの屋敷を襲ったのはね。

 間違いなくタナトスの手下だよ・・・あの死神人形の筈」


「え?!まさか・・・またですかぃ?」


ロッゾアを殺した人形が、のこのこと舞い戻ったのかと驚く。


「違うよマクドノー。

 今度はね、ある物を探しにやって来たんだよ」


「ボスの屋敷に?何を・・・ですかぃ?」


そこまで訊いたマクドノーが、リィンの変化に気が付く。

これ以上訊いてはいけないのだと。


「わかりやしたお嬢。

 明後日の帰宅迄、護衛の任をお任せください」


「頼んだわよ、スキンヘッドの敏腕ボディガードさん」


気を遣ってくれたのをジョークで返すリィン。

それだけ信頼されているのだと理解したマクドノーがウィンクを返す。


「いいか、お前達!

 お嬢を死守しろ。誰が襲って来ても御守り申し上げるんだ!

 それがボスへのお礼奉公だと心せよ!」


「了解、リーダー!」


部下達を統率し、守りを固めるマクドノー。


傍らで話を聞き言っていたレィも、また。


ー フューリーが・・・また現れたのね。

  今度は前のようにはいかないかもしれない・・・


再び闘いの幕が開かれるのを覚悟したのだった。



「明後日の朝には旅立って往く。

 それをこの目で観てから・・・見送ってからよ」


その為にわざわざフロリダまで足を延ばしたのだから。


「せめて最期に一度で良いから話さないと・・・託さないと」


眦を決したリィンが、明日に向かって望みを言った。

その傍らでレィも・・・


ー エイジと一言で良いから話しておきたい・・・


微かな希望に縋っているのだった。

 

今しも始まってしまいそうな人類再生計画。

不穏な空気が流れる中、二人は気がつかなかった。

肉親からの悲痛な電話に・・・


遂に動き出す悪魔達。

迫り来る最終戦争の翳。

人類はタナトスの思惑通り滅びるしかないのか?


次回 <少女人形編>最終章!

  第8章 反逆の狼煙

Act49 嗤う死神

災禍が振り撒かれ誰かが死に逝く。君が知らぬ間に・・・

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