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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第7章 託された者
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Act47 向かうはフロリダ

恋人達は最後の別れを前にしている。


リィンは月面基地へとシャトルを打ち上げるフロリダを目指していた。

リィンからの説得を呑んだエイジと、集中治療を受け続けている麗美れいみを乗せるシャトル便の出発が予定通り明後日に迫った。


容態を鑑みて、医師団は蒼騎麗美あおきれいみを冷凍状態にて保存するように取計り、同行するエイジにも出発前に同様の処理を行うようにと薦めて来た。

尤も、月面基地へと向かう少年少女達の殆どが、同じように瞬間冷凍処理を受ける手筈になってはいたのだが・・・





 ・・・フロリダへ向かう旅客機の中で・・・




アークナイト社の重役扱いなのは、フェアリー家の令嬢リィンタルトなのだから文句はない。



「でも・・・ねぇ?」


こっそりため息を漏らしてしまう訳は。


「ファーストクラスを独占しているのが黒服のボディーガード達ばかりじゃ・・・ねぇ」


そういう自分だって少女人形なのだから、荷物室送りになるのが筋でもあるのだが。


ファーストクラスの特権か。はたまたリィンがゴネタだけなのかは分からないが、レイもこうしてリィンの傍に居られている。


「それはそうと。先発したエイジ達はもう宇宙局に着いたかしら」


最後の別れを交わしてはいなかったのが、心残りでもある。

だけど、リィンの前では憚れるのは姉の思い遣りからでもあり、二人の仲を知ったからでもあった。


「出発の数時間前迄しか、面会が許されないって言うし・・・」


少しでも面会が叶うのなら、一言でも良いから話したいと願っている。

でも、リィンがフロリダへ向かう本当の理由は別にあるのも知っていた。



「お嬢。オーク社フロリダ工場まで、後2時間のフライトです」


黒服のリーダーであるスキンヘッドが耳元で知らせる。


「うん。分かったわマクドノー」


小さく頷いたリィンがスキンヘッド・・・いや、マクドノーに答える。


「アッチに着いたら、視察すると工場長に連絡を入れてよね」


黒服に取り巻かれたリィンが気怠そうに頼むと。


「はぁ・・・それにしてもお嬢は気まぐれですなぁ。

 急に抜き打ち検査をやるんだ・・・なんて」


「なによ、文句あるの?

 経営者会議で取り決めた機械兵の減産を守っていないって報告したのはどこの誰だったかしら?」


祖父ロッゾアから引き継いだ、権利と責任を果たそうとするリィンの言葉にマクドノーも頭が上がらない。


「まったく・・・思いついたら突っ走るのは前ボスにそっくりですよ」


「・・・それって誉め言葉だと認識しちゃうわよ?」


ロッゾア一の武闘派であり側近だったマクドノーも、おてんば嬢には歯が立たないのか。


「ははは・・・参りましたな」


普段は笑うなんて想像も出来ない男が、リィンの前だけでは相好を崩した。


「本当にミカエル様と見間違える程に美しくなられた。

 そしてロッゾアのボスに負けない位、芯が強い。

 私はお二方を観て参りましたから、良く分かるのです」


「へぇ・・・だったらミカエルお母様のお話しを聞かせてくれないかしら?」


少し表情を和らげたリィンが頼むと。


「はい、その内。

 邸宅へ御戻りになられた際にでも」


この場では話せないが、ロッゾア邸に足を運んだ折にと返された。


「ちぇっ、勿体ぶってぇ~」


少し拗ねた様な仕草をみせたのは、リィンらしい気配りなのだろうか。


「確かに、これから部下を叱責する事になるかもしれないんだもんね。

 話を聞いて呆けた頭になったら駄目だもん。

 マクドノーが正しいんだって分かってるよ」


「流石ですな、お嬢」


納得したマクドノーが、臣下の礼を捧げて後退る。

それを観たリィンが、小脇にタブレットを持って立ち上がると。


「着陸まで、少し休むから・・・傍に来ないでね」


最前列の寝台ソファーまで歩いて行く。


「了解です、ミセス・オーク」


一斉に黒服達が道を開けて平伏する。

でも、少女人形だけは少し間を開けて付き従う。


寝台ソファーに寝転がると思いっていたが、リィンはタブレットを開いて何かを記し始めた。

その様子を望遠レンズで観るレイ。


ー 何かしら?誰かに手紙でも書いている様子だけど・・・


タップしながら、時に指を停めては考えこんでいる。


ー ラブレター?エイジに宛てた?

  ・・・いいや、そんな柔な感じじゃなさそう・・・


指先が震え、何かを口走っているかのようにも見える。


ー 気になる・・・良くないけど解析しちゃおう


読唇術まで少女人形が出来るとは考えにくいが、レイは唇の動きから読もうとした。


ー ん?なになに・・・<ごめん>?

  何度も謝っているけど誰にだろう?


口元ばかリ気にしていたから気が付けずにいた。


ー あ・・・泣いてるのリィン?


潤んだ瞳に涙が溢れそうになっているのを。

誰かにお別れを告げようと記しているのだと分かってしまった。

その誰かというのが、多分エイジだろうと言う事も。


ー そうよね、帰ってくるまで相当の月日が必要になるんだものね・・・


人間である麗美の身体が治るまで。

月面基地からの帰還便が何時になるのか。

何も知らされていないから、リィンも別れるのが辛いのだろうと思ったのだ。


唯、リィンが何かを秘めている事が気にはなっていたのだが。


記し終えたリィンが、タブレットからマイクロカードを抜き取って上着に仕舞い込むと。


「もしかして・・・ずっと見てた?」


傍まで近寄っていないレイに訊いて来た。


「え?!いえ・・・」


本当は最初から最後まで見ていたのだけど、咄嗟に観ていないと誤魔化してしまう。


「・・・うん。その様子だったらホントだね」


少し涙で紅くなった眼を向けてくるリィン。


「え?・・・ええ、まぁ」


何を記していたのか迄は観てはいないが、誰かに送ろうとしているのは分かる。

だが、こちらから訊くのも気まずい。


「さぁ~ってと!

 これを渡したら思い残すことは無いよ」


と・・・リィンから話が振られて来た。


「思い残すとは?何を渡されるのです?」


敢えて誰にとは訊かない。

何を渡すのかと問えば、はっきりするのだから。


「ん~?お手紙だよ」


すっとぼけて来るリィンに、もう一度問う。


「何が・・・思い残すことなのでしょうか?」


その答えによっては別れの意味が変わると踏んで。


「んん~?遠くに行く人へ伝えたい事があったから書いたんだ」


「いや・・・あの?」


はぐらされたレイが、問い詰めようとしたのだが。


「知りたい?だったらもう少し後でね」


完全に出足を砕かれてしまった。


「はぁ・・・それじゃぁ今度はホントにお休みぃ~~」


そう言うと、寝台ソファーでレイに背を向けて横になる。


「あ?!はい・・・お休みなさい」


これ以上の追及は無理だと分かり、リィンの背を観るだけに留めるレィ。


少女人形レイから顔を背けたリィンの肩は、小刻みに震えている。

それは休んでなんかいない証拠。

どうしても耐えられなくなった少女の心を表してもいたのだ。


「ごめん・・・ごめんねレィちゃん。

 あたしはエイジに嘘を吐いてしまったの。

 二度と逢えないのを知っているのに・・・約束しちゃった。

 だから・・・謝らなきゃって・・・ごめんって・・・」


後から後から涙が溢れて来るのを停められなくて・・・


「ロッゾアお爺ちゃんの願いを遂げてあげなきゃ。

 それが地球の人々を救う結果になる筈だから・・・」


手紙へ記したように。

綴った文と同じように、謝り続けるリィンだった。








 ・・・フロリダ州の田舎道・・・



「気候は温暖かもしれんがのぅ・・・田舎じゃのぅ」


周り中、小麦畑が延々と続いていた。

その中をキャンピングカーで爆走しているのは・・・


「しかし、このような辺鄙な場所に彼が住んでおるとは。

 まさに奇々怪々じゃのぅ?」


何を以って奇々怪々なのかは知らないが。


「儂をこの地迄引き寄せおったのじゃから、しっかりもてなして貰おうかの」


誰に?


「このヴァルボアが直々に探しておるとは、雲隠れしたタナトスも思わんじゃろうて。

 その義理の弟でもあるルシフォルと云う機械博士を訪ねなければならん!」


タナトスの行方を探るヴァルボアは、単身フロリダに住むというルシフォルの元へと出向いて来たようだが。


「ふむ・・・月面基地へあの子達が向かうのは、もう明日の事かのぅ」


キャンピングカーを炉端で停めて、ナビに映った日付を確認し。

その手で目的地を再確認して思うのは。


「あの子達が帰って来るまでに決着が図られれば良いがのぅ?」


タナトスの野望をレィから知らされていたヴァルボアも、事が明るみになる前にと急いでいたのだ。

もう間も無く完成してしまうタワーとの因果関係も気にして。


想いを巡らせ、ため息を吐く。

そして二人の子が向かう天空へと顔を上げる。


夜空を見上げるヴァルボアの眼に、煌々と夜道を照らす月が揺れていた・・・

悲しい運命に翻弄されるリィン。


二人の約束が果たせなくなると分かっていても、

会わねばならないと心に秘めていたのは?


次回 Act48 違反は遺憾

別れを告げる前にやることはやらなきゃ!・・・だねっ!

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