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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第7章 託された者
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Act46 互いの秘密

相思相愛だった二人。


リィンが帰ってきて、迎える少女人形レイだったが・・・

呆けたように上の空な顔を赤く染めている。


玄関で迎えた時から、様子が変だとは感じていたが・・・



「リィンタルト・・・如何されましたか?」


少女人形レイが訳を訊いても。


「はぁあああぁ~~~」


溜息とも生返事とも言えない声が聞こえるだけ。


「どうしたのです?

 帰って来てからずっと思い悩まれておられるようですけど?」


惚けているだけならまだしも、食事も摂らずにいるのはリィンにしては変だ。

それにも増して、顔を赤く染めているのは体調でも崩したのだろうか。


「体温を測りましょうか?」


顏が紅いのは熱のせいかもしれないとレイが気を揉むくらい、様子が変に見えたのだ。


「ほぇ?何か言ったレィちゃん?」


「・・・やはり。風邪でも召されたようですね」


少女人形と云っても訳を知らなければ疑うのも無理はない。


放心状態になっていたのはレィの弟との関係が由縁。

自分リィンの想いを受け止めてくれただなんて、姉である少女人形に宿ったレィには教えることも憚れるから。


「風邪なんて罹ってないから。

 唯・・・意外だったなぁって思ってただけだよ」


なんだか姉であるレィを観ていたら、数時間前のエイジを思い出してしまった。


「ホント・・・あんなに上手いだなんて・・・ホント~に初物ファーストだったのかな?」


聞かれているとは思っていないリィンが口走ってしまう。


「男の子に奪われるなんて・・・あたし、ファーストめてだったのに」


傍に控えているのが少女人形なのを完全に忘失しているリィン。

自分でも気づかない内に唇へ指を添えている事も。



 ピクク・・・



いつものソファーに座って、頬を紅く染めてブツブツ呟くリィンの傍で。


「え?!死神人形ファーストに出遭ったのですか?」


漏れ聞こえた<初物ファースト>の一言に反応してしまう。


「まさか?!ファーストに何かを奪われてしまったのですか?」


しかもリィンは唇に指を添えている?!


「な?!それは赦せませんッ!」


勝手に思い込んで、勝手に怒る。

人間だった頃より今の方が、お間抜けさんになったみたい。

でも、次のリィンの声に眉を降ろす。


「まったくぅ、エイジったら・・・ウフ」



 ピククククっ!



眉は降ろしたけど、頬が引き攣りました。


「まさか・・・エイジの奴?!

 リィンの・・・その。ゴニョゴニョを奪ったの・・・信じられないわ!」


手をプルプル震わせて。

思いっきり見当違いの先走りに激怒する少女人形が居るのですが?



・・・で?



頬を腫らした少女人形レイが俯いてしょげていた。


「ホント~に!姉としても考えものよぉレィちゃんは!」


その前でぷんすか怒っているのはリィン。


「でも・・・話しぶりから・・・到ってしまったのです」


頬にリィンパンチを喰らったのは、二人の様子から想像するに難くない。


「ど~してそーなるのかなぁ?

 あたしとエイジちゃんが睦逢うだなんて・・・レィちゃんってば変態?」


「いやいやいや!あれは言葉のあやですから」


言い繕う少女人形レィと、ジト目で観ているリィン。


「どぉ~だか!

 あたしはまだ処女バージンを捧げる気なんて無いんですからね!」


「・・・ホント?」


敢然と明言するリィンに、今度は少女人形がジト目で訊く。


「う?!そ、そりゃ・・・ゴニョゴニョ(少しは期待したかも)」


「・・・怪し過ぎますね」


ポッと顔に朱が差したのを見逃さなかった少女人形レィ


「まぁ、リィンタルトがエイジを快く思っていたことぐらい知っていますよ」


人間である本当の麗美が臥せている間に、二人の仲が発展したのを嬉しく感じていたのは事実。


「でも、エイジの方もリィンタルトを求めるなんて。

 近親者として少し驚きましたので・・・」


姉としてとは言わず、二人に近い者として答えた。


「なぁ~んだ、レィちゃんも気付いていたんだね。

 だったら最初から言ってくれたらよかったのにぃ~」


「・・・あの状態でどう言えば良かったのですか?」


一人呆然と頬を染めている状況で、弟と進展しましたかなどとは訊ける筈もない。


「ま、まぁその。

 彼が月に行く前に、あたしの願いのいくらかは叶ったんだってこと」


「ほほぉ~ぅ?相思相愛だったようで?」


ジト目継続中の少女人形レィだったが。


「え?ちょっと待ってください。

 彼・・・つまりエイジが月に行くと仰られました?」


「そう・・・言わなかったっけ?」


突然聞いた一言の重大さを、リィンは事も無げに返して来る。


「き、聞いてはおりません。

 月へ行けるのは一組2名迄の筈?!

 エイジが一緒に月へ行くのなら、リィンタルトは・・・まさか?」


以前から情報として聞き及んでいた。

月面基地まで運ぶシャトル便には、人数制限がかけられているのを。

多くがオーク社に関係する人々の予定だったが、未来のある技術者や研究者が選ばれる運びと変わっていたのは、ユーリィ達の努力の賜物だった。


「聞いてなかった?

 月の裏側に行けるのは、未来を約束された若者達なんだよ。

 技術や研究者の卵さん達しか行けないように変えられたんだ」


「だ、だからと言って!リィンタルトが行けなくなるなんて?!」


いつの日からだろう。

リィンが月の話をしたがらなくなっていたのは。


その訳が明かされた気がした。


「なぜ?あんなに私が目覚めるのを渇望していたじゃない?

 どんなに苦労したか・・・どんなに苦しい目に遭ったか。

 それなのに・・・なぜなの?」


もう人形である事を忘れてしまった。

本物の自分れいみとして、どうしても納得できなかったから。


「理由が・・・聞きたいんだよね?

 じゃぁね、あたしにもレィちゃんが隠している秘密を教えてくれる?」


だが、反対に問われてしまった。


蒼騎あおき麗美れいみは、悪魔タナトスとの対決が控えていることを隠し続けている。

その理由はヴァルボアやエイジにしか明かしていない。

対決すれば、間違いなく記憶の自分は消えねばならなくなると考えたから。


「・・・今は、言えない」


少なくとも、まだ早いと思うから。


「それじゃぁ・・・あたしもだよ」


どんなに辛くても教える訳にはいかない。

少女人形として傍に居るのなら・・・尚更に。


「レィちゃんのことはエイジに託したの。

 間も無く打ち上げられる月への便に、二人で乗って貰うの」


答えられないと言っていたリィンが教えるのは。


「あたしの代わりはエイジしか居ないでしょ?

 それに・・・あたしは技術者エンジニアじゃないから」


エイジが技術者の卵だとの意味を含めて。


「レィちゃんは学者さん。エイジは技術屋さん。

 ふたりは条件を満たしても居るんだよ」


新しく決められた月面基地へ行ける条件に適っていると言う。


「そして・・・あたしは。

 単なる甘ちゃんの令嬢でしかないんだよね。

 月への旅行なんてしゃれ込める立場でも身分でもないんだよね」


だが、リィンタルトという財閥の令嬢は行くことが叶わないとも。


「それが・・・ね。

 今、あたしが言える理由なんだよ?」


少し声が潤んで聞こえるのは何故?

何がリィンを苦しめている?


少女人形レィのレンズも聴音器も、頑なに話さないリィンに向けられていた。

理由を少しでも分かろうとして。


そして・・・気付いた。


「リィンタルトは宿命さだめを背負わされたのではありませんか?」


その一言にリィンの身体がピクンと震える。


「私と同じように・・・」


背けられていた顔がゆっくりと向けられて。


「あたし・・・も。

 レィちゃんと同じって言いたいの?」


哀し気に微笑む顔には涙が光っていた。


「そっか・・・じゃぁ、二人共いつの日にか分かるよね?

 今は秘密だけど、時が来たら分かるんだよね!」


涙を堪え、無理に微笑むリィン。

話せない程の理由があるのはお互い様だと笑うのだ。


「ええ。近い内に・・・必ず」


健気な少女の笑顔と涙に、レィも頷いて応える。


「あはは・・・近い内にか。

 あたしもそうなんだ。レィちゃんに話せると思うんだよ」


それは嘘ではなく、間も無く訪れる。

リィンはあの日以来、ずっと思い悩んで来た。


ロッゾアから渡された錠剤を呑んでしまってから。

世界を破滅から救うのが、自分に架せられた運命なのだと分かったから。


「きっと<その日>が来たら・・・

 一番最初にレィちゃんに知らせるよ」


「はい。私も・・・リィンタルトに教えて差し上げます」


二人の宿命。

終末を回避する為には、自らを滅ぼしてでもやり遂げねばならない・・・運命。


だが、運命は二人を引き裂こうとする。


互いの宿命さだめを語る日。

その日は間も無くやって来る。


レィが予言したように・・・・

二人は話せず。

ただ、最期の日が来るのは理解していた。


その日が迫っている事も・・・


月への道を託したリィン。

エイジとの別れに居てもたっても居られず。


目指すは宇宙局のあるフロリダ・・・


次回 Act47 向かうはフロリダ

世界企業と成ったオーク社。その工場がフロリダにもあると言うが?

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