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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第7章 託された者
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Act45 愛すればこそ

会議の結果、月面基地への道が開かれた。

だが、リィンは行けないと言う。


代わり行くことになるのは?

合弁企業となったアークナイト社。

主力を少女人形ドールから工作人形ドルイドへと変換、増産を開始していた。


人形研究室も閉鎖を余儀なくされると決まり、人員の配置転換が強行されようとしていた。


「老いぼれには良いタイミングじゃったのかも知れんのぅ」


荷物を手にしたヴァルボアが室内を見廻してから出て行った。


「ヴァルボア博士。これからどうなされるのですか?」


廊下で出会った職員が訊いて来ると。


「儂か?そうじゃのぅ、フロリダ辺りにでも行くとするかの。

 あそこは年中過ごしやすいと聞いていおるからの」


ニューヨークから遠く離れた場所で暮らすと答えるのだった。


「フロリダですか?そう言えばエイジ君達もそちらに向かうとか?」


「おお、3日ほど後じゃったかのぅ。

 やっとこあの子も駄々を捏ねんようになったらしいのぅ」


年嵩のヴァルボアにとっては孫にも等しいエイジを案じていたらしいのだが。


「月の研究所も捨てたものではないと言い聞かせるのに骨が折れたわい」


がははっと笑ってから、


「麗美君も弟が一緒なら・・・目覚めた時に安心するじゃろうて」


月面へと二人で向かうのを良しと言うのだった。


「ホントに。でも、良くリィンタルト嬢が認めましたよね?」


職員が悪気無く訊いた時だけ、ヴァルボアの表情が曇ってしまう。


「そうじゃのぅ・・・あの子にはあの子なりの理由があったんじゃろう」


曇った表情のまま、ヴァルボアは天を仰いだ。

遠い月の彼方へ向かう筈の二人よりも、地上に残る決断を下した娘を想って。


「そうじゃろうリィンタルト嬢?」


記憶に残るリィンの笑顔を思い出し、傍らに居る少女人形に宿る者へも訊ねたかった。


「人の幸せは何処にあるのじゃろうな?」


手に携えた荷物の中に、とあるメモリーを納めてあるのを確認して。


「記憶か・・・必要が無ければ良いのじゃがのぅ」


大切な物を持つように、しっかりと握り締めるのだった。








 ・・・ニューヨーク アークナイト社顧問室・・・



「どうしてなのでしょう?このような偽名を付けられたのは」


航空便のチケットを指で弾くのはユーリィ顧問。

対しているのは二人の母である蒼騎あおき 美琴みことだった。


「いけませんでしょうか、ユーリィ顧問?」


いつの間にか老けてしまった美琴が答える。


「本来あの子が名乗るべきは、この姓名なのですから」


「名乗るべき名・・・ですか?」


繰り返し訊ねるユーリィの手にあるチケットに記された名。


「ミハル・オオガミ・・・日本語では何という意味なのでしょうか?」


記されたフルネームの意味を訊ね返すと、美琴は微かに笑みを溢して。


「神として見張る・・・大いなる神が人を見詰めているのだと教えているのですよ」


「神・・・ですか?」


返された意味を理解したのか、ユーリィはそれ以上繰り返さず。


「彼女は月の女神にも成れるのでしょうね」


向かう先で女神となれるのではと、ジョークとして贈るのだった。




顧問室の隣にある部屋では、母に付き添って来たエイジとリィンが向かい合っていた。


「なによ。まだ何か言い返したい訳?」


「・・・・」


そっぽを向くリィンと見詰めて黙り込むエイジ。


「はっきりしなさいよ!男の子なんでしょ」


黙ったまま言い返して来ないレィの弟に、


「あたしは行けなくなったって教えたでしょ!

 それなら弟であるエイジに頼むのが筋じゃないの!」


顔を向けずに言い放っていた。


「どうしてだよ・・・いきなりそんなこと言われても」


やっと声を出したエイジだったが。


「リィンちゃんはあんなにも一生懸命姉さんを目覚めさせようと苦労したのに。

 眼を覚ました瞬間に傍に居られますようにって願っていたじゃないか!

 それなのに・・・なぜ?なぜ急に?!」


顔も見せないリィンの後ろから言い募る。


「まるで・・・姉さんがどうでも良くなっちゃったみたいじゃないか」


苦し気に。そして辛そうな言葉を突きつけられる。

レィの弟だから、尚の事心に突き刺さる。


「そんなことない・・・よ」


否定するのがやっとだった。


「あたしだって行きたかったんだよ・・・本当は」


「じゃぁ?なんでだよリィンちゃんッ?」


後ろでエイジが立ち上がるのが判った。

真剣に理由を聞かれているのが痛いほど分かる。


「言ったでしょ、行けなくなっちゃったの」


「だから!理由を聞かせてよ」


初め、エイジ達の両親へ持ちかけることにした。

二人の両親から言い聞かせて貰おうとリィンはユーリィからの助言を聞き入れた。

麗美を救う方法が月面基地へ向かう事だと教え、付き添う人数に限りがあるのも。

両親はリィンの言葉から付き添うのは自分だと勘違いしてしまった程だが、

弟であるエイジを説得して貰いたいと持ちかけられては黙って頷くより他なかったようだ。


「御両親にも伝えたわ。

 一人しか付き添えないって言ったじゃないの」


「それならリィンちゃんが行くべきじゃないのか?!」


ズキリと棘が刺さる。

出来るのならそうしたい・・・分かっている癖に・・・と。


「あなたなんかと立場が違うのよ、あたしは!」


暗に秘めた。

自分がオーク家とフェアリー家の両方に重要な立場となったと。

でも、本当の意味は知られたくなかった。


「そんなことを言ったって。

 いつもレィ姉さんのことしか考えていなかった癖に!」


「そ・・・そうよ。今はやるべきことが多過ぎるのよ」


本当は否定したかった。

今でもレィの事だけしか考えたくは無かったのに。


「あたしには、月へ行ってる時間が残されていないだけ」


それは嘘ではなく、託された時間をも表している。


「なぜ?何を独りで背負おうとしてるんだよ?

 レィ姉さんと同じように、何を託されようって言うんだよ?」


言い返して来たエイジの声に、リィンの心臓は大きく打った。


「レィちゃんと?何が同じだと言うの?」


「う・・・それはつまり」


訊き返されたエイジは約束を思い出して口を噤む。

今迄だったら必ず聞き返してしまっただろうけど、リィンは追及は出来ない。

レィが何かを秘めていたのは薄々感じ取れてもいたし、訊き質してしまえば自分の秘密も明かさねばならなくなってしまうだろうから。


「違うんだよエイジ。

 ごめんなさい・・・無理強いを迫って。

 でもね、これだけは知っていて貰いたいの。

 あたしがずっとレィちゃんを大切に思っているというのと・・・」


どんなに自分を誤魔化しても、エイジには打ち明けて来た。

辛い時、悲しい時・・・そして。


くるりとエイジに振り返ったリィンが叫んでしまう。


「エイジが大好きなことを!

 離ればなれになるのがとっても辛いんだって」


泣いてはいけないとユーリィにも言われていた。

どんなに悲しく辛くても、別れの前に涙を見せてはいけないからと・・・だけど。


「あたしだって一緒に行きたいんだよぉ!

 大好きな二人とお別れなんて嫌なんだからぁ!」


もう、無理だった・・・我慢の限界を超えていたから。


「好き!好き!大好き!エイジが大好き!」


縋りつくように飛びついたリィンを受け止めるエイジ。


「ボクだって!」


ぎゅっと抱き締め、見詰めてしまう。


「好き?あたしが・・・」


大粒の涙で頬を濡らすリィンが求めている。


「好きなら・・・奪ってよ」


そっと瞼を閉じて。


「もし、愛してくれるのなら・・・」


何もかも奪って欲しいとリィンは想う。


「駄目・・・」


「え?!」


断わられたと思ったリィンが訊き返そうとした瞬間。


「黙っていてよリィン」


名を呼ばれた・・・”ちゃん”抜きで。


「え?」


少し驚いたリィンが薄く瞼を開ける。

その眼に映ったのはエイジが瞼を閉じていく顏。


「・・・あ?!うん・・・」


暖かな温もりを感じて、素直に従えた。

心がこんな時でも高揚するのを停めれなくなる。

互いに心臓の音が唇を通して繋がったように感じる。


願ったよりも、ずっと長く絆を感じた。

初めてを許し・・・優しく奪ってくれたのが、こんなにも愛おしく感じられる。


「あはは・・・ありがとうエイジ」


唇を手で覆って微笑めた。

手で覆ったのは恥ずかしいからではなく、エイジとの絆が愛おしかったから。

残った感覚を忘れまいとの想いからだった。


「もぅ・・・絶対に忘れないからエイジを」


「当たり前だろ。

 ボクだって戻って来たらもう一度・・・」


返された言葉でリィンは知った。

エイジは約束を交わしてくれたと・・・そして。


「レィちゃんと行ってくれるんだよね?」


「あ・・・うん」


自分の願いを聴き遂げてくれたのだと分かった。


「きっとよ。

 きっと二人で帰って来てね・・・いつまでも待ってるから。

 どんなに時を越えてでも、どんな姿になっても・・・

 生まれ変わったとしても・・・だからね」


これが今生の別れになるのだと匂わせてしまう。


でも、鈍感なエイジには伝わったのかどうか。


「きっと!約束するよリィン」


「あ?!こらッ!」


また抱き寄せられて・・・


「必ず・・・リィンの元に帰るから」


耳元で優しく呟かれてしまったら・・・


「うん・・・うん!その時はもっと・・・ね?」


エイジの肩へ手を載せて。

嬉し涙で頬を濡らした・・・

リィンとエイジ。

2人の愛が成就する時が来るのだろうか?


悲しい宿命を背負ったリィンの願いは叶うのだろうか?


次回 Act46 互いの秘密

宿命を背負わされた2人。秘めるのは互いのためなのか?

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