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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第7章 託された者
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Act43 託されたモノ

第7章 託された者


フューリーとの戦いが済んで・・・


倒れた祖父の元へ駆けつけるリィンに?!

横たわるロッゾアと佇む二人を観た黒服が、拳銃を取り出して・・・



「ボスを殺ったのかッ?!」


犯人が二人だと早合点し、銃口を突きつける。

興奮する手下の黒服は、飛び出して行った少女人形の事など忘れているかのようだ。


「どうなんだ?!殺ったのはお前達なんだろう?」


血が頭に昇っているのか、状況を把握できていない。

先に飛び出した人形が怪しいなどとは考えも至らない様子だ。


部屋の扉に吹き飛ばされた黒服が、もう一体の少女人形を目にしていなかったのも理由かもしれないが。


拳銃を突きつけて来た男達を観た戦闘人形(レイ)が、護るべき人の前に立ち塞がる。


「私達ではありません。

 ここから飛び出して行った者が、犯行に及んだのです」


リィンを庇い、真実を教えるのだが。


「飛び出して行った・・・だと?」


黒服のリーダーらしき者が、インターコムを取り出して確認を取ろうとする。


「ボスはそいつが殺ったんだな?」


方割れがもう一度質して来た時、レイの背後に居たリィンがロッゾアへと振り返る。


「違うわ!ロッゾアお爺ちゃんは死んでいない」


叫ぶと共に、リィンはロッゾアの元へと駆け寄って行く。


「死んでないだと?!」


叫びを耳にした黒服が、ボスと少女を交互に観る。

だが、死んでいないと答えた少女がボスの元へ走るのを赦す訳も無く。


「動くんじゃねぇ!」


拳銃を構えていた黒服が、許しも無く動いたリィンへ筒先を併せるのが判ったレイは・・・


「くっ!」


拳銃の筒先が確実にリィンを捉えているのが分かる。



 バムッ!



トリガーを引き絞ったのをレンズで捉え、銃弾とリィンが交差する前へと横っ飛びに・・・



 バシュッ!



9ミリの弾が戦闘人形の腹部へと突き当たる。

黒い人形の服が裂け、弾が当たった部分に穴が穿かれる。


「ば、馬鹿な奴・・・なッ?!」


人間なら致命傷にもなりかねない弾痕を開けられてしまったのに・・・


「リィンに銃口を向けるな!」


弾を当てられても少女の姿を執る人形は、何ともないかのように睨んで来たのだ。


「嘘だろ・・・おい?」


撃った黒服が恐怖に顔を歪ませる。

まるで不死身のバケモノを観てしまったかのように。


「警告するわ!次を撃てば只では済まさない」


蒼い瞳で睨んで来た戦闘人形に、黒服達は銃を下げるしかなかった。





一発の銃声がロッゾアを死地から呼び戻す。


「馬鹿者共が・・・俺の孫娘だぞ」


凶刃に倒れた暗黒王ロッゾアの声が、黒服を怯えさせた。


「ま、孫って?仰いましたか?」


「娘の子・・・リィンタルトだ。

 今後は幹部ファミリーとして扱え・・・分かったな」


有無を言わさぬ会長・・・いいやボスの声に。


「・・・へぃ。御意のままに」


黒服達は挙って平伏するのだった。


その一部始終を見聞きした戦闘人形レイが、


「すまないリィン。

 私に出来るのはこんな事ぐらいなんだ」


腹部に開けられた銃痕に手を添えて、護れなかったのを詫びるのだった。



仰向けに倒れているロッゾアに駆け寄り膝を着いたリィンが叫ぶ。


「しっかりしてよ、ロッゾアお爺ちゃん!」


横たわるロッゾアは瀕死の重傷を受けてしまっている。

二度も刀傷を受けて、即死しなかった方が奇跡なのかもしれない。


「おお・・・リィンタルト。

 無事だったようだな・・・良かった」


瞼を開けたロッゾアが、娘そっくりのリィンを観て安堵したように笑う。


「何が良かったのよ!こんな酷い傷を受けたのに!」


衣服に染み込む赤い色に、リィンが顔色を変えて叫ぶと。


「お前を護る事が出来たのなら・・・本望なのだよ」


「本望って?!どうしてッ?」


笑顔のままロッゾアがリィンへ手を差し出す。

その手をしっかりと両手で掴んでやると、


「俺はリィンタルトに救われたからな。

 娘にそっくりな孫娘に、復讐の愚かさを教えられたのだ。

 自らの過ちに気付かせてもくれた・・・感謝しかない」


あれほど憎み、積年の恨みを晴らそうと目論んでいたロッゾアなのに。


「ミカエルの娘だと知らされるまで。

 ロナルドとミカエルの仲を教えられるまで。

 俺は自分の中だけで怒りを増大させていった・・・

 悪魔に身を落としたかのように」


祖父と呼んでくれるリィンへ、詫びとも懺悔ともとれる言葉を贈る。


「その俺をこうして人間らしい心へ戻してくれた。

 最期を人間として迎えることが出来そうだ、ありがとうリィンタルト」


「最期なんて言わないでよ!まだ死んじゃぁ駄目よ」


感謝を贈るロッゾアに、涙を湛えた目で訴えかける。


「そうしたいが・・・もう死神に出遭ってしまったのでな。

 死に至らしめた者達の元へ、謝罪しに逝かねばならんのだよ」


留めようとする孫に、もう死は避けられないと返して。


「だが、死に逝く前に。

 お前に託したい物があるんだよ」


「あたしに?」


何かを渡すというロッゾア。


「ああ、この世界を・・・俺の孫娘に託したい」


「・・・世界?」


世界とは一体どう意味なのかと、リィンが訊き返す前に。


モゾッと動いたロッゾアが、片方の手で一粒のタブレットを摘まみ出して。


「これを・・・呑んでくれないかリィンタルト?」


「この錠剤(タブレット)を?」


手渡される青いタブレットを不思議そうに見るリィンへ。


「そうだ、これは魔法の錠剤。

 俺が呑む予定だったが、もはや用無しになってしまった。

 代わりに呑んでくれないか孫よ」


「・・・分かったわ」


祖父が最期に手渡して来たのを、無碍に断れなかった。

どんな魔法の錠剤かは、呑んでから訊けば済む事だと思い・・・



 コクン



ひと息に飲み込んでしまう。


「呑んだよ、ロッゾアお爺ちゃん」


「・・・そうか。これで世界はリィンタルトのモノになる」


ほっとしたかのような表情となったロッゾア。


「どういう意味なの?」


世界が自分のモノとなる・・・その意味は?


「俺を裏切った奴の手には渡す訳にはいかんのだよ。

 世界を牛耳ることが出来る・・・いいや。

 リィンタルトに拠って世界を変えることが出来るようになるのだ」


「あたしに因って?」


飲み込んだタブレットには、何が秘められてあるのか?


「リィンタルトが死なない限り・・・

 溶けた錠剤に隠されてある創造主である証は消えない。

 モンスタータワーに建造される破滅兵器を動かす鍵。

 喩えタナトスだろうが、お前には手を出す事が出来なくなったのだよ」


黙って祖父の話を耳にしているリィンには、何を意味するかが分からず。


「呑んだ錠剤が世界を変える鍵だったの?」


「簡単に言えば、リィンタルトが思う通りの世界を造れるのだよ」


世界を意のままにしようと画策したロッゾアが、タナトスさえも欺こうとした起死回生の錠剤。

自分も含めて人類を滅ぼそうと考えているのが判った時、破滅兵器に仕掛けを設けたのだろう。


「タナトスが創造主となれば、災禍は無限となる。

 俺は邪なる野望の果てに、奴の開発した再生計画に便乗してしまった。

 悪魔のような破滅機械を造らせ、タナトスを神だと欺き通し。

 挙句の果ては・・・裏切られてこのザマだ」


今迄の経緯を孫へ話すロッゾアだったが。


「奴はまだ錠剤の秘密を勘付いていない。

 装置が稼働状況となった時、初めて知る事になるだろう。

 もしリィンタルトがタナトスを阻むというのなら。

 タワーにある・・・天と地。

 両側から奴の野望を阻むと良い。

 だが、もしも間に合わなかったら・・・」


自分が為せなかった野望を果せと言うのか?

ロッゾア帝国を造れとでも言うのか?


「心優しい娘ミカエルの子よ。

 お前は神となるか?それとも魔王と化したいか?」


冗談で話しているのではないのは、真剣な瞳を観れば分かる。

神か悪魔か・・・成るのは聖か邪かという意味とも採れた。


「そんなの・・・分からない。

 だけど、不幸を撒き散らす悪魔にだけは成りたくないわ」


「それで・・・良い」


フッと微笑んだロッゾアが眼を閉じてしまった。


「ロッゾアお爺ちゃん?!」


微笑と共に瞼を閉じた祖父ロッゾアを呼んで。


「まだ逝かないで!

 あたしにミカエルお母さんの思い出を話してくれるんでしょ?!」


約束した昔話を聞かせて欲しいと願うのだったが。


「ああ・・・ミカエル・・・か。

 俺は娘の元へは逝けないのだろうなぁ。

 それに・・・妻の元へも」


罪を自覚して、地獄に堕ちるのだと溢すロッゾアへ。




 ・・・シュル・・・



結っていた、母ミカエルのピンクのリボンを。


「ロッゾア・・・お父さん。

 私よ、ミカエルですよ」


そっと手に取らせて、父と呼んでやった。

死の狭間にいるロッゾアには、リィンの声とミカエルの声が重なって聴こえたのか。


「ああ、ミカエル。

 俺は謝らねばならない、不幸を齎した原因は全て俺にあるのだから」


「いいえ・・・全て赦して差し上げます。

 だって、私の娘を護り抜かれたではありませんか」


母の声色を使い、癒しを与えるリィンに。


「そうか・・・許してくれるというのかミカエル?」


暴虐を繰り返してきた父ではなくなった。

娘を愛する慈父に戻って、許しを乞う・・・


母ミカエルになり切って、リィンが心からの謝罪を受け入れて。


「はい・・・ロッゾアお父さん」


母であるのならば、きっと祖父を赦しただろうと・・・


「ああ・・・これでやっと・・・」


暗黒王とまで呼ばれた男が、死ぬ間際に微笑を浮かべる。


・・・娘から許された・・・


安堵が、手渡されたリボンを握る手から徐々に力を失わせ・・・



挿絵(By みてみん)




「赦せよ娘。俺は孫に悪魔と対峙する運命を託してしまった。

 世界を孫の手に委ねてしまったのだ・・・」


閉じてゆく瞼の端から涙がこぼれて行き・・・


「俺にはどうしてやることも出来なくなる。

 地獄へ堕ちてしまう俺には、見守ってやる事さえも出来ないのだ」


掠れる声で最期を迎える。


「せめて・・・お前だけでも護ってやってはくれないか・・・ミカエルよ」


もう耳を澄ましていなければ聞こえない程の声で。


「神の御子よ、どうか(リィンタルト)に加護を・・・」



・・・・・・

・・・・

・・



フッと。


息が停まる・・・息絶える。



「?!お、お爺ちゃん?」


まるで突然の死が嘘のように穏やかな顔で逝ってしまった。


「ロッゾアお爺ちゃん?!」


孫に看取られて・・・・


「嫌だよぉっ!」


一声叫んだリィンが、ロッゾアに覆い被さって泣いた。


巨悪と目されて来た暗黒王の最期は、あまりにも穏やかな死を賜った・・・


託されたモノ・・・

それはあまりに大きく。

そしてあまりにも辛い・・・


少女には計り知れない。

世界の運命を握らされるなんて・・・


次回 Act44 跡目選び

オーク社の経営を巡る内輪喧嘩に、リィンの渇が落ちる?!

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