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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター5 よみがえる絆 <黄泉から再起する女神は望みを諦めない>Act13

想いは同じ、もう一人の美晴を取り返すだけ。

現世で二年前に巨悪と対峙した時と同じように。

再び二人が共闘するのを示唆していた・・・

嘗て大魔王の王女として魔界に在り、光を得た後に女神へと昇華した誇美ペルセポネーと。

稀代の魔砲少女の姪として現実世界に産まれ、運命に翻弄された後に冥界の王妃へと成っている美晴が互いの手を取り合った。


「光の御子である、もう一人の美晴を救う為に。共に闘うと誓うわ」


冥界からの再起を誓った誇美が手を差し出す。

念願だった御子の救出を遂げる為に、力を貸して貰いたいとの想いから。


「悪魔からの奪還は危難を伴うわ。

 でも、コハルちゃんになら出来ない事は無いと思う」


握り絞めた拳に力を籠め、二人は決意を秘めた瞳で交し合う。


「喩え困難だろうと諦めないで」

「ええ。諦めるものですか」


想いは同じ、もう一人の美晴を取り返すだけ。

ガッチリと握り締めた手と手が表すのは。

二年前に巨悪と対峙した時と同じ、再び二人が共闘するのを示唆している。


「二人共、昔から諦めるのが嫌いだったからな」


妹と妃が握手を交わすのを観ていたオルクス王が笑って呟く。


「強大な敵と対峙した時でも。

 仲間を庇い、なりふり構わずに戦った。

 喩え自分が窮地に立とうとも、最後の勝利へと向かって」


未だ人間として現実世界に居た頃に観て来た二人を想い。


「人と精神世界の住人を超えた絆。

 今此処で再び繋がろうとしている。

 魂の国である冥界で、新たなる奇跡を産む為に」


未来へと繋がる絆が生まれたのを確信して。


「陛下?なにを御笑いに為られているのですか」


その様子を垣間見ていた宰相タナトスが問うと。


「うん?いやなに。

 余のはかりごとが半ばまで叶ったのでな」


腹心の部下へと意味を教えるのだった。


「なるほど、確かに。

 王妃陛下と王妹殿下が一つに為られ。

 穢れた世界を駆逐するさきがけとなられる。

 正に本来在るべきお姿・・・と言うことですかな」

「ふむ・・・それもあるが」


宰相の答えに、軽く肯定を表したオルクス王だったのだが。


「コハルには、もっと期待をかけているのだ。

 この魂の国を人間界以上の楽園に。

 天界と呼ばれる神の国よりも穏やかな世界へと。

 与えられた真の神能ちからを解き放って・・・」


妃と手を取り合うコハルに向けて、希求するかのように眼を細めて言った。


「陛下。

 やはり御気持ちは変わりませぬのですな」


タナトスは冥界の王オルクスが何を求め続けるのかを知っていた。


「ああ。

 余が大魔王に成ったのも、本当の願いの為だったからな」


問われたオルクスは尚も妃とコハルを眺めて答える。


「在るべき処へと還す。

 それだけが・・・俺の目的なのだから」


誰を・・・とは、言わずに。


「左様でしたな。

 陛下は粛罪の間に於いて。

 念願を果たす為だけに魔界を替え。

 冥界を創るに当っては、誰かが継ぐに値する世界を求められた」


魂の探求者で、冥界の宰相。

オルクスの願いに添える術を使役するタナトスが頭を垂れて傅く。


「誰か・・・ではない。

 もう次なる王は決めているのだが。

 肝心の妹が奥手なものでな」


視線を誇美へと向けた王が溢すと。


「いやしかし。

 王妹殿下は穢れ無き女神にございますれば・・・」


タナトスも苦笑いを零して後を受ける。


「余りに近い関係だったのが災いしたのか。

 アヤツもコハルも一向に添おうとしないのが、玉に疵だ」

「如何にも」


王と宰相は、妃と妹姫の傍に居続ける従者を揶揄して笑った。



「折角の兄妹会談だったのだが。

 姫様とお妃様が共に起つ話に成り代わってしまったか」


誇美に付き従うエイプラハムが溜息交じりに呟く。


「しかし姫様のたっての願いなのだから、仕方があるまい」


人間界に居た頃から、光の御子を取り戻すのだけが誇美の念願だったのは分かっていた。

それを知りながら傍に寄り添い、女神の使徒と成って見守って来た。


「冥界にも友が居た。

 いいや、本当の友が此処で待っていたと言うべきだろう」


魔界で王に見初められて王妃に選ばれたのが、人のでしかない美晴。

臣下の多くが異議を申し立てても大魔王シキは、頑なに手放そうとはしなかった。


「タナトスから漏れ聞いた。

 若は大魔王も神も、人から産まれたと考えている。

 人の想いが形になっただけの存在だと。

 故に、いつかは本来の姿を取り戻さねばならないとも・・・」


大魔王から冥界の創造神と成ったしき、オルクスを名乗った王の願い。

それは、いつの日にか神を捨て、人の世界で生きる未来。


「ルシファー大帝陛下も、一度は念願を叶えられた。

 識天使ミハエル妃陛下と伴に在られ、若と姫様をお産みに為られた。

 それを知られたわかも、妃陛下と共に還らんとお考えなのだろうか」


子を成す。

魔界の贖罪の間で夫婦めおととなってから6年。

契りを交わした二人に、どうしても創ることの叶わなかったこと。

大魔王でも、神であろうと成し得ない。

どれだけ愛し合ったとしても子を産む事だけは叶わなかった。


「自分の出生を思い返し。

 妃陛下を愛おしむ若ならば。

 尚更に愛の結晶が欲しいと思われるのであろう」


どれだけ異界で睦み合おうと叶わぬ願いなら。

この世界から抜け出しても構わないと思っているのだろう。

人間の居る現実世界へと戻れるのなら、戻りたいと考えているのかもしれない。

それが叶う方法が有るとするのならば・・・


「若は。

 王の座を誰かに委譲する気なのかもしれん」


魔界で堕神デサイアがシキへと王の座を譲ったように。


「それが誰なのか・・・判り得ぬが。

 神の築いた世界の王に相応しいのが誰なのか」


神が創りし世界を統治出来るのは、神のみの筈。

唯一の神オルクスの後を任されるのは誰だと言うのか?


「まさか若は?

 姫様を呼び寄せたのは、女王に据える気なのか」


幾度となくエイプラハムは聞いていた。

オルクス(=シキ)王が誇美に期待しているのだと。

その訳が王の委譲に在るとするのならば・・・


「姫様を黄泉に帰する存在に為そうと謀られるのか?」


冥界に属する存在になるには、黄泉のモノを身体に摂りこむ必要がある。

反対に冥界に属そうとしないのなら、頑なに食を摂らねば良い。

だが黄泉から帰還した後に、再び生きて黄泉に来たいのならば。

一年の内の数か月間だけ黄泉に滞在すれば良い。


天界に在りながら、冥界でも過ごす。

早春の女神ペルセポネーとして天界に在りながら、冥界の女王でも在り続ける。


「姫様の御心おこころを試そうとされていたのか?」


今迄人間界に関与して来なかった大魔王シキ。

悲運に見舞われた光の御子にさえ助け舟を出さなかったのは。

女神と成った誇美の力量を計り、女王の器なのかを見定めていた。

そして悪魔との決闘で疵付いた時になって、漸くの事で手を下したのだ。


「それならば。

 儂が姫を御守り続ければならぬ」


爺としてだけではなく、女神の使徒としての務め。

いいや、本当はそれだけの理由である筈もない。


「孫や娘を見る目ではなく。

 大帝陛下の命に添い奉るだけでもなく。

 儂はコハル姫を・・・慕っているのだから」


髭の爺は言葉を選んだ。

<慕って>いると言ったが、<愛おしく>想っているのは間違いない。

それが永き間に育まれた<熱い想い>なのだろう。

つまりそれは、二人が両想いだという表れでもあるのだが。



ブツブツと呟き、誇美を観ている爺を片目で観た王が。


「いや。

 どうやら余の思い違いだったかもしれんな。

 誇美とコイツは、もう相当に惹かれ合っているようだ」

「ほほう?されば、計画を推し進められては?」


側近中の側近、宰相のタナトスに打ち明ける。


「委譲に伴って神格化した暁に。

 新王の誕生後に名乗るべき名をお選びでしたな」

「ああ。冥界の王たる者に相応しい名を」


計画が遂行された後、次なる王へと冠される名まで用意していると告げたのだ。


「新しき王と。添い続ける妃。

 正に新たな冥界の始まりに相応しい」

「陛下の御代を礎に。新たなる王の治世となりましょう」


慇懃に頭を垂れるタナトスに、オルクスは頷く。


「妹の真の力で。黄泉は永久の平穏を迎えられるだろう。

 それが余の真の願いであり、美晴きさきの希望と繋がるのだから」


妹である女神ペルセポネーの真の神能ちから

早春を司る女神であり、芽生えを司る女神でもあるペルセポネー。

その異能が齎す結果がオルクス王の願いに通じるのだろうか。


「御意」


王と宰相は、計画の実現を計る。

いつの日にか、この冥界を変えてくれる存在だと二人に目を添えて。



固く握手を交わした二人だったが。

気が付けば王と宰相、それに使徒扱いの旧臣の眼が向けられているのが解って。


「何だか知らないけど。

 兄上と宰相、おまけに爺の眼が・・・痛い」

「気にする事は無いと思うけど?」


誇美が表情を引き攣らせて手を離すと、王妃ミハルは頬に指を充てて考えてから。


「それなら。

 二人っきりで計画を練りましょうか?」


テラスから再び場所を替えるのを勧めた。


「そうよね。

 奪還作戦の詳細を詰めないといけないわよね」


光の御子を取り返す作戦を練ると言われては、同意するより他はない。


「それなら・・・陛下。

 妹君を御借り受けしても宜しいでしょうか?」


同意を得た王妃が、オルクス王に承認を求める。


「良いだろう。

 まだ時間に余裕もあることだからな」

「はい。私共は部屋にて打ち合わせ致します」


認可を得た妃は私室にて懇談すると返し、


「誇美殿下、参りましょう」


王に一礼を捧げてから、誇宮城の中へと歩み出すと。


「兄上様、タナトス宰相。

 暫しの間、席を離れますことを御許しください。

 エイプラハム卿、待っていなくても大丈夫よ」


王と宰相、それにエイプラハムへと離席する旨を告げる誇美が妃に続いた。


「姫様。くれぐれも・・・」


独りで向うと告げたコハルに、爺が忠告とも採れる言葉を吐くと。


「心配いらないわ、爺」


気遣いを感じ取って答え、


「じゃぁ・・・後でね」


一瞬だけ神妙な表情を浮かべた誇美だったが、直ぐに笑顔を浮かべて応えと換えた。

王と宰相、それに爺が見守る中。誇美は妃と共に宮城へと入って行く。


「姫様。くれぐれも油断為されまするな。

 王も妃も。姫を冥界に縛り付けるかもしれないのですぞ」


果してエイプラハムの考えは正しいのか?

冥界の王妃は芽吹きの女神を凋落しようと目論むのか?

宮城の一室で・・・何が起きようとしているのだろう・・・

それぞれの想い。

オルクス王と宰相タナトスは何を謀ろうとするのか?

エイプラハムの思惑通りならば誇美を冥界主に据えようとしているようだが。

一方の妃は誇美との会談に連れ立つ。

そこで話されるのは光の御子を救う手立てだけなのだろうか?


次回 チャプター5 よみがえる絆 <黄泉から再起する女神は望みを諦めない>Act14

夫婦が求めるのは絆の証。王と妃の6年を想う誇美が知らされるのは・・・


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