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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター5 よみがえる絆 <黄泉から再起する女神は望みを諦めない>Act10

王と王妃に誘われ、向った先は宮城の庭園。

変化の乏しい冥界にあって、そこだけは別世界だった。

砂と岩だけの景色が広がる冥界とは思えない色彩に、誇美は感嘆の声を漏らす・・・

場を替えると命じた通りに、謁見の間を出た王と妃。

取り囲んでいた臣下に一礼し、誇美と爺も後に従う。

広間の奥には、玉座に座れる者だけが使うことの出来る廊下があった。

つまり王家キングズ回廊ロードと言う奴だ。


王と妃が先に立って歩んでいるのを、後ろに従う誇美が眺めて。


「幼い頃から観て来たけど。

 あの頃から美晴が慕っていたのを思い出したわ」


ポツリと思い出話を溢した。

白銀の髪の王と青紫の長い髪をティアラで飾った王妃。


「二人共が、あの頃から姿形が変ったけど。

 心は昔のまま・・・想い合っているのが観える」


王の背丈は伸び、肩幅が広くて漢らしさを感じた。

妃となった美晴ミハルも背だけではなく、女を感じる姿に成った。


「6年だっけ?ミハルが何とかの間で過ごしたってのは。

 私の知っている美晴みはるとは、随分と違うのよね」


王の横で微笑を浮かべている横顔を観て、誇美は淑女と成った経緯いきさつを想って。


「愛されている・・・の、よね?」


囚われている美晴には観ることの無かった艶美さが気になった。


「6年って、短いようで。相当に永いみたい・・・」


現実世界では半年。

それが粛罪の間と呼ばれる空間では6年が経ったと聞かされた。


「その6年の間に、王妃に相応しい心得を身に着けたのも凄いけど。

 少女の身体が大人のひとに成ってるのは、もっと凄いことね」


ドレスを纏う淑女になっミハル。

顔立ちも、姿を含めて大人の女性と成ったの眺めて、感慨に浸ってしまう。


「私も。誰かと6年を伴に過ごせたら。

 あんなに大人っぽく艶やかになれるのかしら」


ふと、自分の未来の姿を重ね合わせるように思いを巡らせて。


 ちらり


後に従うエイプラハムを垣間見てしまう。


「・・・なにかございますか、姫様」


その視線に気付き、問われた誇美だったが。


「な、なんでも・・・ないわ爺」


慌てて言い繕って。


「・・・鈍感」


心の中でエイプラハムへと舌を出していた。



冥界の主たるオルクスの居城。

役所の集まった主要たる場所を離れた所に、王と妃にしか入る事の許されていない癒しの場が在る。


「はわわわぁ~っ?」


思わず感嘆の声が漏れた。


「此処は?ここが冥界だなんて思えないんだけど」


今の今迄、冥界には草木が無いとばかり思っていたのに。


「此処は天界の庭園だったの~?」


テラスの設えられた庭園には草花が満ち溢れていて、誇美の眼を輝かせる。

キョロキョロと辺りを見回していると、テラス席に向かった王妃が呼ぶ。


王妹コハル殿下、こちらへ」


庭園の中程に設えられたテラス。

その中にはテーブルと椅子が並べられてあり。


「お気に召されるかは判りませんが・・・」


甘い香りを点てるお茶や菓子が置かれて。


「どうぞ、お座りに為られますよう」


妃ミハルが席へと就くように勧めて来る。


勧められた席は、オルクス王と対面に在った。

まず先に王が席へと座るのを、宰相タナトスが介添えし。

然る後に、横に腰かける妃に傅いてドレスが皺にならないよう気を配る。


「ありがとうタナトス卿」


短く謝意を述べた妃が、まだ立ったままの誇美へと向き直り。


「エイプラハム卿。エスコートを」


傍に控えているエイプラハムへと促した。

告げられた爺は胸に手を添えて会釈を返すや、誇美の身近へと寄る。


「姫様。どうぞ・・・」


椅子を曳き、勧めると。


「姫様。飲食はお控えになってくださいませ」


誇美の耳にしか届かない小声で忠言を加える。


「?」


その意図が掴めず、僅かに眉を顰めて爺の顔を覗き込むと。


「・・・判った」


ただ為らない表情を汲み取って、聴き入れると返すに留めて。

そして何食わない表情を浮かべて、爺に任せて座ると。


「ありがとう爺」


了解したとの意味を交えて、軽く爺へと頷くのだった。



 コポポポ・・・・


カップへとお茶が注がれる音。


 コトン・・・


ソーサーが机に置かれた音。


全ての所作が完璧だった。


「どうぞ、お召し上がりくださいませ」


メイドやボーイが居ない円卓で、妃が自ら茶を点てた。

甘い香りがカップから流れ、卓上の菓子や果物からも良い匂いが棚引く。


「うむ。ミハルの煎れた茶は国髄一だからな」


ティーカップを摘まみ、香りを楽しんだ王が一口啜り。


「やはり、美味い」


茶の味を褒める。


「どうした?飲まないのか」


と、身を固くしたままの誇美に訊く。


「え?ええ、まぁ。

 喉が渇いた訳でもありませんし。それに・・・」


応じた誇美が、少々不思議そうな顔で。


「兄上様は、あの、その。

 神だというのに飲み食いされるのですか?」


神格の者だと言うのに飲食が必要なのかと問うと。


「うん?

 必要だとか不必要とか、関係ないでは無いのか。

 飲食が齎す癒しや満足感が、神であろうと心地良きものならば。

 況してや、この国のモノに属するのだとすれば尚の事だ」

「へ・・・へぇ~。

 なんだか納得したような」


神が直接何かを飲み食いする必要が無いのは、精神世界の住人ならではのこと。

魂の存在である神や霊魂に、お供えしても無くならない事は誰でも知っている通りだ。

そして冥界に来ている誇美も、快復に勤めていた間に何も飲み食いしていなくても問題は無かった。

只、食べなくても平気なだけで、飲み食いすることは出来るのだが。


「・・・ん?待てよ」


茶を飲む王を前に、何かが引っ掛かった誇美が爺を横目で観ると。


「・・・<ふるふる>」


無言で小刻みに首を振る様が伺えて。


「確か兄上様は<この国のモノに属する>とか、言っていたわ」


漸く、爺の言葉の意味に気が付いた。


「冥界のモノを食してしまえば。

 この世界を受け入れたことになる。

 黄泉の国に属してしまう・・・ことになるのね」


それを知っていたから、爺が忠告したのだと解って。


「この世界から抜け出せなくする・・・気なの?」


咄嗟にオルクス王とミハルを名乗る妃を睨んでしまう。

だが、王は何食わぬ顔で茶を飲み。王妃は茶菓子を手に採り口へと運ぶ。


 パリ・・・


「まぁ!この御菓子って。ローヌが造ったのね、凄く美味しい」


妃は喜色満面で菓子を頬張り、


「上に載せられてある柘榴ざくろも、良いアクセントだわ」


見た目の麗しさと美味に笑顔となって。


「どうかしら王妹コハルちゃんも。おひとつ・・・」


勧めて来るのだったが。


「・・・いいえ、私は。

 失礼かとは思いますが、それよりもお話を聞かせてください」


飲食よりも先に、伏せられている話を聞かせて欲しいと頼んだ。


「ふむ・・・」

「あら。そんなに逸らなくっても」


すると王と妃は残念がるが。


「ならば。

 どれから知りたい、コハル?」

「昔話は・・・後回しのようね」


誇美の真剣さに、気後れして訊いて来る。


「初めに。

 私の記憶が失われている訳を。

 なぜ冥界送りになったのかも、併せて教えて欲しい」


二人に向き合い、真摯に応えて貰いたいと頼み。


「それに・・・此処には居ないと妃様の秘密も。

 偽りの無い真実を・・・明かして貰いたいのです」


隠し立ては無用だと、真剣に頼むのだった。


「うむ。此処に来る迄の記憶を取り戻したいのだな」

「私と光の御子が生み出された秘密を知りたいのね」


対して二人は意を得たとばかりに頷き合って。


「それならば。

 此処に居る宰相も一緒になって教えた方が良いだろう」


オルクス王が傍らに控えた魂の探求者を垣間見て言う。


「でしたら。

 わたくしは現世での最期を。

 それに、何故今が在るのかも、お教えしなければなりません」


妃は躊躇う事もせず、誇美へと向き直って告げる。


「それが光の御子にされた娘の秘密でもあるのだから」


穢れた世界に囚われた、もう一人の秘密を明かすと。


「聴いたのなら。

 コハルちゃんがどうしたいのかを教えてくださるのかしら」


知った後に、誇美がどうするのかを問うのを忘れずに。


「勿論。決めたいと考えています」


謁見に来る時に決めていた誇美は、即答で返す。


「その為に、兄上様と会いに来たのですから」


自らの記憶を取り戻し、秘密を明かせたのなら。

これから自分が為すべき事が決められると踏んでいた。


「だから・・・教えて。

 私が天界に居た頃の出来事も。

 もう一人のミハルが歩んだ道も。

 そしてペルセポネーが進むべき未来を!」


どんなに苦渋の選択を迫られるにしても。

これから先を如何にして歩むべきかの道しるべが必要だったから。


「覚悟は・・・出来ていると。

 それならば、心して聴くが良い」


オルクス王は宰相へと向けて合図を送る。


「ははっ!」


命を受けたタナトスが、術式を唱えて答えとする。


 ブオンッ!


円卓の先に魔法陣が現われ、次いで中空に映し出されるのは・・・


「先に教えておくが。

 此処に映し出されるのは、紛れもない記憶の一片。

 コハルから失われた真実を映し出す」


タナトスが放った術で、映し出そうとしているモノに注釈を加えるオルクス。


「その後に。

 現世での秘密を、ミハルの記憶で紡ぎ出す。

 途中で辞めることは出来ないと、心しておくが良い」


そして決して後戻りが出来ないと、忠告するのを忘れなかった。


「・・・判ったわ」


覚悟を仄めかされても、誇美は動じない。

蒼き瞳に決意を滲ませ、中空に描かれる物語を待った。


「・・・ならば。

 始めましょうか・・・コハルちゃん」


妃が開始を宣じ、宰相タナトスへと命を下す。


「お始めになって。宰相卿」


それを合図に。

始められたのは。


悲劇の始りであり。

光と闇の記憶でもあった・・・

遂に明かされる事実。

宮城のテラスで語られたのは、女神コハルが望んだ秘密。

それを聴いた時、悲劇を受け入れることができるのだろうか?

自らの歩んだ過去の事実が、重く圧し掛かったとしても・・・

(作者注)

次話では、オルクスや妃ミハルの辿った過去を掻い摘んで披露することはございません。

本編で何度か語られてきた物を並べ立てても意味が薄いですから。

冒頭部分では、既にタナトスから見聞きした後という設定でスタートを切るようにしてあるのを、ご了承頂きたいと思います。


次回 チャプター5 よみがえる絆 <黄泉から再起する女神は望みを諦めない>Act11

知らされた事実に心を傷める。あの娘のことを想えば焦るばかりだったのだが?

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