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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター5 よみがえる絆 <黄泉から再起する女神は望みを諦めない>Act2

どうして私は此処に居るの?

なぜ記憶が途切れてしまっているの?

思い出そうとすればするほど不明瞭になるのは、何故?

付き添ってくれるミントの勧めもあり、身体に奔る痛みを癒す為もあり、暫くはベットで寝ることになった。

静かな室内で瞼を閉じていると、ここが本当に黄泉の国なのかと疑いたくなる。

それに、どうして私は此処に居るのか。

なぜ記憶が途切れてしまっているのか。

思い出そうとすればするほど、頭の中が靄を被せられたように不明瞭になる。


「どうしてなの?私はなぜ此処に居るの?」


記憶が無いことに因る焦燥感。


「確か・・・大事なことがあった筈なのに」


のんびりと身体を癒しているのが駄目なような。

何か大切なモノを失ってしまったような喪失感も。


「それに此処が本当に黄泉だとすれば。

 私は・・・私も・・・来てしまったの?」


そしてミントの言葉を信じるのなら、黄泉の国へ来たという事実を受け入れるのなら。


「死を与えられたの・・・かしら」


黄泉の国は死者の国という概念が一般的な解釈である。

死を与えられた者が堕ちる世界だとの認識が、天界にも広がっている。

尤も、私が知る限り冥界が実在しているとは聞かされてはいなかった。

天界と現実世界、それに魔界と呼ばれる闇の世界。

三つの異なる世界が在るのは知っていたのだけど。


瞼を開けて陽の光を指し込む窓を見上げる。


「温かな日差し・・・」


この部屋で横になってから、どれだけの時間が経ったのだろう。

目覚めた時にも感じたけど、陽光が優しく感じられる。


「でも不思議ね。

 いつも目を覚ましたら日中だなんて・・・」


温かな日差し・・・それがいつまで経っても変わらない。

何時間過ぎようと陽が傾く気配を感じられない。


「偶然?目覚めれば一日経っている?

 ううん、そんなこと・・・そんなに眠れないわよ」


不自然な陽光に、今更になって気付いた。

目覚めた時からずっと差し込んで来る光に違和感を覚えて。


 パサッ


布団を除けて上半身を起こしてみる。

最初に目覚めた時のような痛みは治まってはいたけど、まだ完治したとは言えない。


「でも、これ位なら我慢できそうだわ」


腹部と背中の一部に奔る痛みは、無理をしない限り堪えられる。


 ソッ・・・


ずっと布団に隠れていた足を動かしてみる。


「つ・・・ちょっと張っているみたい」


腰から足にかけての強張りは、多分筋肉痛のようなモノだと思える。


「これなら少しぐらい歩いても良いよね」


そう思えたからベットから起き上がる決意をした。

なぜなら、陽の光を溢す窓辺に行きたかったから。

窓から外の景色を観て見たかった。

ここが本当に冥界と呼ばれる場所なのかを確認したかったから。


 ふら・・・


目覚めてから初めて自分の足で立ってみた。

床の絨毯に素足で降り立つと、思わずふらついてしまった。


っ・・・立ってるだけでも辛い」


全身に奔った痛みを再確認させられ、ベッドに腰を降ろしそうになる。


「でも・・・外を観たい」


痛みが奔る身体を鞭打って、一歩づつ窓へと歩む。

広い室内。

私が寝ていたベットから窓まで、5メートルくらい離れている。

僅か5メートルの距離が、こんなにも遠く感じるなんて思わなかった。


「くぅ・・・後少し。もうちょっと・・・」


寝たきりだった身体は、僅かな歩行でさえも辛さを感じる。

だけど真実を求める心が、自分が居る場所を知る為に駆りたてた。


 サァアアア・・・


光の音が聞こえた気がした。

いいえ、それは自分の頭から血の気が退く音だったのかもしれない。


「ここは・・・ここが・・・」


光が差し込む窓辺で、私は観た。


「これが・・・冥界」


岩造りの城壁と、広大な・・・砂漠にも似た広大なる<何も無い土地>を。


「此処は・・・黄泉の国なのね」


記憶に残っている現実世界ではない。況してや天界とは断じて違った。

殺伐とした荒涼なる野には、木々や草は見られない。

それは生きとし生きる者が住める場所では無いことの表れだと感じられた。


「本当に・・・死の国ね」


陽の光だと思えていたのは、太陽からの日差しではなかった。

荒漠たる野を照らしていたのは、沖天に在る・・・


「造られし世界を照らすのは・・・仮初めの

 冥王の異能で造りだされた光。

 冥界の王たる者が神だというあかし・・・なのね」


太陽とは別の、光を発する魔法陣。

強力なる異能で作り出された灯りに過ぎないのだ。


「どうやらミントの言った通りらしいわね。

 私は冥界へと来てしまった・・・女神なのに」


荒漠たる景色を観て、やっと判った。

ここが何処なのかを。

ミントと名乗った女性が嘘を吐いてはいなかったのを。


 ガクンッ


それまで耐えていた身体から力が抜けてしまう。

立っていることが出来ず、窓辺で膝から崩れ落ちて。


「死んだ・・・の?

 女神の私が?どうして・・・」


記憶が閉ざされていて思い出せない。

冥界に居ることから考えて、死を賜ったのが判ったのに。


 カチャッ!


どれだけ記憶を呼び覚まそうとしても無理だった。

窓辺で座り込んだ私が呆然と外を観ていると・・・


「まぁ!コハル殿下。いかがされたのです?!」


部屋に入って来たミントの声に気付かされる。


「無理にベッドから降りられたのですね?!

 それなら私をお呼びくだされば宜しいのに」


優しい声が心配を表しているのに。


「あ・・・ごめんなさい。

 どうしても外が観たくなってしまったから」


近寄るミントに顔を背けてしまう。


「あなたが言った通り、ここが冥界なのかが知りたくて」


教えて貰ったのに疑ってしまったのを心苦しく思って。


 フワッ・・・


窓際で座り込んで俯く私に、ミントが傍まで来ると。


「それで?

 コハル殿下の眼には、どのように映りましたか?」


私の手を取り立ち上がらせてくれる。

もう一度窓から眺め降ろせる位置にまで起き上がれるようにと。


「此処が私の申した通りの国だと・・・思われますか?」


陽の光にも似た、温かな光を浴びる大地を見渡せる窓辺へと手を携えてくれる。


「ええ。温かな光の許なのに。

 草木が一本も生えていない・・・荒漠たる世界。

 まさにミントの言った通りの場所だと思うわ」


その優しさに触れて、私は率直に応えるのを躊躇わなかった。

此処が、黄泉の国であることを認めたのだ。


「本当に在ったのね。冥界と呼ばれる世界が」


外の景色を眺め、傍らに控えるミントへと訊く。


「草木も生えない荒涼たる世界。

 それなのに温かな光に満ちているだなんて。

 冥界と呼ばれるに相応しい場所よね」


皮肉に聞こえるかもしれないけど、これが私の第一印象。

この世界を作った王は、草花を愛でる心を持ち合わせていないのかもしれない。

それとも、何かの理由で生えてこないのかもしれないのだけど。


「砂と岩だけの世界。

 温かく見える光に彩られる茶褐色の土地。

 ここが現世でも天界でもない証」


観えるのは一面が茶褐色に染まった大地。

まるで変化に乏しい荒漠たる砂漠みたいな殺伐とした世界。

そう・・・亡者の魂が行き着く場所にも思えたのだ。


「神と云えども全てに万能とはいきません。

 冥界の王でも楽園を造れるとは限らないのです」


暗澹たる思いを吐露した私へ、ミントが注釈を加えて来る。


「それだからこそ。

 オルクス陛下は・・・殿下をお迎えになられたのです」

「冥界の王が・・・私を?」


そして、私をこの地へと招いたと教えるのだ。


「この世界を造られる前から。

 陛下は妹君であられる女神を想い。

 この地を遥かに住み良い国にする為にも。

 芽吹きを司られる女神様を、お求めになられておられたのです」

「芽吹きの・・・早春の・・・女神を?」


冥界の王オルクス神が、小春神の私を。

何故なにゆえに?今になって何故なぜ


「はい。

 陛下は芽吹きを司る女神・・・ペルセポネー様に。

 実の妹君に冥界を変える力を借りたいと思し召しなのです」

「私の神名しんめいを知っているのね、冥界の王は」


春の神として天界に昇華したコハルではなく。

草花の芽吹きを司る、早春の女神としての名であるペルセポネー。

冥界の王はペルセポネーと知った上でこの地へと招き入れたようだ。


「今少しの辛抱です、コハル殿下。

 お身体を癒されました暁には、必ずや御対面が叶うでしょう」


未だ、私の身体が完治出来ていないのを判った上でミントが言う。

対面には、もう少し時間が必要なのを。


「陛下も、お逢いする日を待ち侘びておられますから」


私の兄だと云う王が待っているからと。


「そうね。訊きたい事が山ほどもあるからね」


それに応える私も。


「どうして今になって逢う事になったのかも、含めてね」


会って確かめたかった。

この冥界へと来た理由と。


「私は何を。奪われてしまったのか・・・もね」


ここに美晴が来ていないのかを確かめたかったのだ。

ここは冥界。

そして魂が行き着く先だと教わった。

女神でも死ぬの?それなら私は・・・

この世界に彼女も居るのか?居るとすれば逢ってみたいと思った。

でも、逢いたくはないとの葛藤も無いとは言えず。

今は唯、ミントの勧めるとおりに過ごすだけだった・・・


次回 チャプター5 よみがえる絆 <黄泉から再起する女神は望みを諦めない>Act3

記憶に残った愛しい人の顔。今はどうしているのだろうと心を傷める乙女が居た。

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