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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター4 災危のマリオネット<悪堕ち少女人形は闇夜に踊る>Act15

瀕死の誇美は抗う。

美晴を託したマリアが逃げ果せられる時を稼ぐ為に。

譬えエイプラハムの犠牲が無駄になろうとも・・・

女神が宿る事によって生命いのちを維持して来た美晴の身体。

しかし今、宿る者が居なくなり魂の抜け殻となった肉体は、息絶えようとしている。

このままの状態ならば、そう時間を置かずとも命の灯が消えてしまう。

まさに死の淵に在ると言えよう・・・


必死だった。

全く身動きしない美晴の身体を担ぎ、後を観ることも無く駆け続ける。

息が上がり、流れる汗をも拭かず。

唯ひたすらに走り続ける。


「死なさへん!こないな所でくたばるんやないで」


担いでいる美晴の身体が重く感じる。

意識が美晴に少しでもあれば、こうも重くは感じられないだろう。

担がれている自覚があれば、ほんの少しは掴み掛かってくれた筈だ。

それが今、まるでサンドバックを担いでいるようにも思えてしまう。

背中にズシリと重みが載せられ、駆ける間ずり落ちそうになるのを堪えるだけでも余計に神経を削られる。


「ウチが守ったる!

 美晴の命を守ったるさかいにな!」


そうだとしても、諦められる筈もない。

大切な友を。大事な人を。

幼馴染で愛する娘の命が絶えようとしているのに。


「死んだらアカン!死んだらあかんのや」


背負った身体から温もりが奪われていく。

微かに感じられていた鼓動さえも・・・弱まり続ける。


「守ったるって、約束したんや。

 女神にも誓こうたんや。せやから・・・諦めへん!」


どうすれば美晴を死の淵から救える?

何をすれば命を途絶えさせずに済む?


「判らへん・・・ウチには解らへんのや。

 美晴を救うには、どうすればええのんかが解らへん!」


悲壮な形相で駆け続ける。

幼馴染を救う答えを導く事も出来ずに。

唯・・・闇雲に駆け続けた。



光に刃が突きたてられた。

紅い光を放つ凶刃が、芽吹きを司る女神の意志体を貫いた。


「う・・・あ」


光の中で傷口を押さえて蹲る誇美ペルセポネー

肉体を抜け出た光の意志体である女神が傷付いた。

精神世界で産まれた女神であろうとも、戦闘人形の腕の中に隠し持っていた剣は斬れるのだ。


 ブゥンッ!


紅く光る刀身部分の長さは、それほど長大ではない。

精々が短剣ダガーと呼ばれるくらいの刃渡り30センチにも満たない物。

その短刀で光は突かれた。

物質世界の剣では、精神世界の女神が斬れる筈は無かったのに。


「これで・・・終焉おわりだ」


蹲る女神に戦闘人形マリオネットを操る者が突きつける。


「人間が造った人形で、お前は滅ぼされるのだ」


紅い光を放つ凶刃を。

それは魔法の剣ではなく、戦闘人形が元々忍ばせていた紅い光を放つ実在の武器。

この時代じだいには存在する筈の無い光線レーザー剣ならば、そこに存在するあらゆるモノを斬れたのだ。

そう・・・存在するものならば、何であろうとも。

喩え、実体の無いに等しき<光を纏う者>であろうと。


「う・・・人が・・・造った?」


女神の生命力を顕す金色の滴りが傷口から零れ落ち、苦悶の表情で悪魔の言葉を反芻する。


「そうだ。この混沌を創造したのも人間。

 そして幾度も破滅を与えたのも、また然り。

 この人形こそが、神に成らんとした人の奢りから産み出されたのだ」

「・・・え?!」


悪魔の人形から知らされた。

この世界が混沌カオスだと。

人が混沌を導き、世界を破滅に導いた・・・と。


「う・・・嘘よ。この世界はまだ・・・」


苦悶する女神は拒絶する。

しかし、悪魔は女神へと知らしめる。


「滅びておらぬと言うのか。

 ならば何故、この人形が存在するのだ。

 なぜ女神を斬れる光の剣が在ると言うのだ。

 この世界では造る事の出来ないレーザー光線剣が在るのだ」

「・・・それは」


言い返そうにも答えられなくなる誇美に邪悪は続けた。


「お前達こそが紛い物。

 このステラの真実さえも知らない愚かな傀儡。

 創造主が造り出した、仮初めの存在に過ぎないのだ」

「そんな・・・嘘よ」


この世界自体が虚ろだと。

創造主たる者に因って造られた存在なのだと。


「私達が仮初めなんて・・・ある訳が無いわ!」


拒絶する女神が、紅い光を放つ剣先を睨んで叫ぶ。


「天界も現実世界だろうとも。

 多くの命が自我を以って生きているんだから」


傀儡くぐつと吐き捨てられては黙っていられない。

自分達は現実に生きているんだと叫んでしまう。


「それでは何故、この剣で女神が斬れる?

 精神世界の産物である神を、どうして光線剣は斬れるのだ」

「そ・・・れ・・・は・・・」


物質世界の産物である光線剣。

如何なる物質であろうとも焼き切ることは可能ではあるのだが。

存在する筈の無い意志体や、魂を斬る事が出来るのか?


その答えは。


「お前達が神でも、魂と云う存在でもない証。

 そしてこの世界が・・・

 何者かによって創造された、紛い物だという証拠だ」


悪魔は人を誑かす。

悪魔たる邪悪は、逸話を盾に女神を惑わす。


「嘘よ・・・そんなの。

 人の世界が誰かに拠って造られたなんて」


世界の捏造。

誇美には信じ難い逸話だとしか思えなかったの・・・だが。


「はっ?!」


脳裏に過った。

戦場に出る前、エンカウンターの古城で出逢った不思議な少女の姿が。

月夜の晩にだけ現れると言っていた、神々しい人を。

彼女はリーンタルトと名乗り、自らを歴史の傍観者だと言っていた。

繰り返される千年輪転せんねんループの世界で、試され続ける人に審を下す者だとも。


「そうだ・・・あの月夜に聞かされていたんだ」


彼女が嘘偽りを語ったのではないのなら。

つまりは、悪魔が漏らしのたが逸話では無い可能性があるのだ。


「この世界が・・・造られたモノだって」


蘇った記憶で悟らされる。

悪魔が語ったのが、本当の事なのだと。


「漸く解ったようだな。

 まぁ、今頃知った所で何も出来んぞ。

 なにせ直ぐに滅び去る運命なのだからなぁ!」


戦闘人形から、悪魔の嘲笑う声が流れ落ちてくる。


「真実を知ったとしても、仲間にも知らせることは出来ぬ。

 お前の大切な友という奴等を救うことは叶わぬのだ」


紅く光る切っ先を誇美へと突き付けて。


「滅びるのだ女神よ。

 囚われの御子に絶望を与える為に・・・」


最期を。

女神に終焉を・・・与えようと剣を・・・


「ああ。せめて美晴だけでも・・・助けたかった」


突きつけられた剣が一旦引き戻され、次の瞬間には突き立てられるかに思えた。

悔しさや無念さが誇美の胸を焦がし、約束を果たすのが出来なくなるのに絶望する。


「この世界を闇に染め!

 闇でこの星を堕とし・・・無を蔓延させるのだ!」


光線剣を突き出さんとする戦闘人形。

最期に聞こえたのは、悪魔の咆哮・・・異種なる者の雄叫び。


「我らがイシュタルに因り、混沌無ブラックホールを生み出すのだ!」


戦闘人形を操るのは穢れた世界の王。

その正体こそが、無を求める侵略者<異種たる者>。

混沌を求め、世界を無に帰そうと企む、外来種族イシュタルの民だった。


吠える人形が手にした剣を突き入れる。

紅い光線が女神の光へと伸びて。


 ドッ!


光に剣が突き立った・・・その瞬間。



 ドガァアアアアッ!


突然の轟音。

何の前触れもなく、それが始まる。


 ドゴゴゴッ!


大地が揺れ、地表に亀裂が奔った。


 ゴゴゴォオオオオオッ!


亀裂は戦闘人形と女神へと迫り、まるで間を裂くかのように割れて。


 バキバキバキッ!


地中から淡い紫の光が噴きあがり、罅割れた大地に穴が穿かれて。


 ガゴンッ!


その穴から黒い何かが突き出て来る。


 ドガァッ!


地面を割り、黒い・・・巨大な手が現れたのだ。


「何事だ?!これは一体?」


さすがの戦闘人形も、このような状況も予測していなかったらしく慌てふためき。


「なに奴?女神をどうする気だ?!」


女神と戦闘人形の間に割って入って来た黒い手に恫喝したが。


 ギュルッ!


巨大な手は、弱くなった光を。

光を纏った女神の身体を掴むと。


「この女神を連れて行く。

 我が治める国へ・・・滅びと共に奪い去る」


聞く者を震え上がらせる程の冷たい声が、黒き手から流れて。


「な?!なんだと?女神を何処へと連れて行くというのだ?

 そもそも貴様は・・・誰なのだ!」


侵略者を宿す戦闘人形が聴き質した。


「我が治める世界へ。

 人が冥府と呼ぶ・・・黄泉の国。

 地下冥府の王にして、冥界の王。

 我が名は・・・オルクス」


巨大な黒き手は女神を包み込む様に掴む。

光の化身、女神を略奪するかのように黒き手で捕えた。


「冥界の王だと?この世界に冥界が存在するのか?」


穢れた世界の王で異種たる者でも知らなかった。

魔界が変えられたのを、魔界が消えて冥界となったのを。


「王と名乗ったオルクスよ。

 その王が何故なにゆえに女神を欲する?」


滅びを与えられようとする女神を求めるのか?

いいや、光線剣で貫いた今。

滅ぶのは必定だと思えたが。


「現世で滅びを与えられし魂の行先は黄泉。

 故に我の手で連れて行くのが女神への礼儀。

 高貴なる者への作法と心得るべきなり」


黄泉の王からの答えに、異種たる悪魔は細く笑む。


「なるほど。

 現世で滅びし魂が黄泉路を迷わずに逝くようにか。

 なれば・・・その女神を渡そう。

 黄泉で悔やみ悶え続けるのも一興だからな」


一旦黄泉へと入れば、二度と戻れることは無いと断じて。

それが黄泉路を下るということ。


女神と言えど、天界や現実世界へは二度と戻れない・・・

つまり今後、邪魔をすることが出来なくなったのを意味し。

滅びたにも等しいと判った故の算段。

それが地下冥府の約定だと知った上で、渡すと言ったのだ。


「黄泉で藻掻き苦しみ続ける様が、目に浮かぶようだ」


黒き巨大な手に掴まれた女神を、戦闘人形が嘲笑った。


「女神は我が貰い受ける。異存は無きや?」

「よかろう。早々に連れて行くが良い」


地下から湧いた手が誇美を束縛しながら承諾を求め、悪魔が宿る戦闘人形は認めた。


「貰い受けるぞ・・・現世の穢れよ」


承諾を受けた手が、地下へと引きずり込む。

穢れ無き女神を・・・誇美の意志体からだを。


「去るが良い。この世が果てるまで」


穢れた世界の王たる者が、滅びを与えた女神を見送る。

黄泉の国へと・・・甦りの無い冥府へと堕ちていく様を。


 ゴゴゴゴォッ!


再び大地が揺れ、罅割れが巨大な手が消えて行くのにつれて閉じていく。


 ゴゴ・・・・・


そして、騒音が掻き消された後。


「逝ったか」


悪魔の宿る戦闘人形が溢した。

遂に宿敵を斃したと。


「ならば・・・次の一手に移らねばな」


嗤う漆黒の人形がゲートを開く。


「人形を送り込み、人間共を戦禍に叩き込まねば」


 シュンッ!


宙に開いた門へと舞い上がり、


「いよいよ・・・ロッソアとフェアリアが干戈を交えるのだ」


まるで月夜の晩に魔女が舞い踊るかのように戯れて。


「あーっはっはっは!」


嘲て、哂って・・・門の中へと帰った。


それは悪夢のような月夜の晩。

魔女が舞い狂い、光を奪い去った夢幻の宴。

そしてまた、新たなる輪廻りんねの幕開けだった・・・

冥界の王は女神を奪った。

滅びの淵に堕ちた誇美を悪魔から略奪したのだ。

遂に穢れた世界の王は目的を果した?

女神は黄泉に囚われるのか?

そして人類に未曾有の災禍を齎さんとする悪魔の手が伸びる?!

死を迎えんとする魔砲少女の美晴は助かるのだろうか?

さまざまに運命が交差する中、希望は途絶えてしまうのか?


次回 チャプター5 よみがえる絆 <黄泉から再起する女神は望みを諦めない>Act1

目覚めて初めて観たのは、見知らぬ天井だった・・・そして現われたのは?!

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