チャプター4 災危のマリオネット<悪堕ち少女人形は闇夜に踊る>Act12
光を纏う女神VS闇に堕ちた魔砲少女!
遂に決闘は剣戟へと移った。
変身した戦闘人形の剣技は美晴を彷彿とする。
対する戦女神モードの誇美も煌神剣メタトロンで応じるのだったが・・・
迸るオーラ。
煌めく刃。
火花を散らす互いの思念。
譲れない想いを剣に籠めて、光と闇が切り結んだ。
ギンッ!
漆黒の剣デモンゾディアと煌神剣が切り結び。
ギャィンッ!
双方の魔力で弾かれる。
青と赤の闘気を纏った二つの剣が左右に別れた。
「はっ・・・はぁはぁ」
飛び退いた女神の肩が波打つ。
「メタトロン。大丈夫よね」
聖剣の魔力を気遣った誇美。
「私はまだ、闘えるから」
現実世界では神力の行使に制限があった。
しかも人の身体に宿って全力を発揮するには限りがある。
「時間が許す限り、長引かせなきゃいけないの」
それなのに勝負を急がないのには理由があった。
「もう直ぐ、爺が還って来てくれる。
それまでは勝っても負けてもいけないの。
戦いを長引かせ闇の美晴を釘付けにしておかないと」
煌めく神の剣を握り絞めて続ける。
「戦闘人形から強制的に魂を抜き取って。
この美晴の身体に転移させるの。
だって今夜が、最後のチャンスにしなければならないのだから」
乱れた前髪の合間から垣間見れるのは蒼き瞳。
これを限りと決意を新たに、闘志を滾らせる誇美だった。
「転移の術を放つのなら、これが最期としなければならないの」
美晴を取り戻す。
それが叶うのなら、自分はどんな責めも負うと決めていた。
女神の異能を失うとしたって。
女神として存在できなくなろうと・・・
「私がどうなろうとも・・・美晴を救う」
煌神剣を正眼に構え直し、漆黒に染まる戦闘人形を睨んだ。
「喩え私が大魔王の虜囚に堕ちても。
美晴には生きていて欲しいから」
使徒エイプラハムを魔界へと送り出した時から覚悟を決めていた。
自らがどうなろうと、必ず美晴を助けるのだと。
キラッ!
構えている煌神剣が光る。
主人である誇美へと語るかのように。
「ええ、そうねメタトロン。
保って数分。長引かせられても10分くらいかしら」
女神の異能を維持できる残り時間は少なくなった。
あと数分もすれば聖剣を握る事すら無理となる。
それは剣戟を交わすのが不可能となるのを意味していた。
「なぜ闇を斬らないのかって?
斬ってしまえば勝つからよ。
勝ったら、また穢れた世界へ連れていかれるだけだもん、美晴が」
言葉を介さない意思疎通で剣と交わす。
「確かにあなたの言う通り。
この戦闘人形の剣裁きは脅威にあたる。
闇に堕ちても剣の腕前は美晴だって表れ。
油断すれば女神だろうと痛手を受けるかもね」
既に数分の間、剣を切り結んだから判る。
闇から現れた戦闘人形は、女神と対等以上の剣術を身に着けているのが。
しかも、人以上の機敏性と力を備えているのだ。
「だからと言って斬られる訳にはいかないもの。
だって、この躰は・・・美晴に還すのだから」
剣が誇美の心へと応える様に煌めく。
「ありがとうメタトロン。
私のような半端な女神に仕えてくれて・・・感謝するわ」
決別とも思える感謝の言葉を告げた誇美が。
「いよいよ・・・勝負に出る気ね」
切っ先の前方にいる戦闘人形が漆黒の剣デモンゾディアを振り被るのを観て。
「焦れたみたい。最後の大技を打って来るわ」
今まで以上に強力な邪気を集中しているのが判る。
「弾けるかしら?受け流せるかな?
あの美晴が悪の大魔王を斬った剣技を」
二年前に起きた邪悪との決戦で、当時の美晴と誇美が共闘した折に。
最終局面で放った美晴の大技を想い返した。
「周りから力を集め、一点に凝縮して放つ大技。
あの時は仲間達の聖なる願いを集め、邪悪を斬った。
でも・・・今は真逆。
現世の邪気を強制的に集めて、破滅斬波を撃とうとしている」
睨む先に居るのは漆黒のオーラに包まれた邪悪な人形。
突き上げた剣の上に現れつつあるのは邪気を集う魔法陣。
それが何を意味するのかを見破った誇美だが、打つ手はあるのか?
「残された神力を総動員してでも、耐えなきゃいけない。
今、技を破れば、集まった邪気が暴走してしまいかねない。
そんなことにでもなれば、この辺り一帯が地獄と化しかねないわ」
ほんの一瞬、マリアが潜む森へと視線を移す。
「大事な人達を危険に晒すなんて・・・出来ない」
先んじての攻撃は不幸を招く。
ならば攻撃を一手に引き受けて耐えるより他に道は無い。
「私がどうなろうと、本より覚悟の上だけど。
大切な人達に危害を齎すなんて許せる訳が無い。
それが解っていて、こんな技を打ってくる。
先制攻撃が出来ないと見越しているのね・・・美晴」
全てが計算づくの大技。
一方的な攻撃で、一気に勝負を決めるつもりなのが判るのだが。
「是非も無しってことね。
持ち堪えられ無ければ、それでお終い。
例え無傷でいられたのせよ、神力の殆どを消耗してしまう。
そうなったら・・・」
ゾク!
女神の身体に悪寒が奔った。
最悪の結末が近付いたのを感じて。
「メタトロン・・・ごめん。
あなたの言った通りになってしまいそう。
剣技を舐めていたのは私だった。
邪悪を舐めていたのは女神の私。
勝負を長引かせてしまった・・・油断の結果が」
剣裁きに集中し、戦術を図るのを怠った結末に臍を噛む。
「だけど!
この躰だけは残してみせる。
憑代を解除してでも・・・死んでも守るから」
女神は死ぬ事は無い。
神にとって死とは象徴的なものに過ぎない。
唯。
滅び去ることになるだけ。
天界からも現実世界からも存在できなくなる・・・だけ。
シュン・・・シュンッ・・・シュゥンッ!
黒い負のオーラが戦闘人形の周りに模られ、剣先へと集まり始める。
「コハルが考えてることぐらい判るのよ。
積極的に攻めて来ないのは闘いを長引かせる為。
どこかから応援が駆けつけると踏んでいるからでしょ」
漆黒の剣を振り挙げ、澱んだ瘴気を集める。
神滅を成し遂げる為に。
「そんなことを赦す筈が無いでしょうに!」
応援が駆けつける前に勝負を決しようと考えるに及んだ。
「クックックッ!
これを受ければ女神だろうと無傷では済まないわよ。
光の属性だろうが闇に属する者だろうが関係ない。
真面に受けたら、大魔王だろうと斬ることが出来るんだからね」
邪悪に歪む眼で女神を睨み、勝利を確信した。
「もしも斬れなくったって。
怯んだ隙を突いて・・・デモンゾディアで斬って捨てる!」
大技を放った後、最接近を図り剣で斬る作戦で。
「勝ったわ。
これでやっと束縛から解放されるのよ・・・フフ」
笑みというより邪な嗤いを溢して。
「さぁ!これでフィナーレよ」
闘いの最終局面へと突き進んだ。
甘んじて攻撃を受けようとする誇美に対し、闇堕ちした美晴は最期の切り札を切る。
これが最期の決戦との認識は、双方共に同じ。
攻撃を加える側も受ける側も、自らの望みを叶えたいだけ。
どんなことをしても、叶えたかった・・・是が非でも。
森の奥で剣戟を観ていたマリアが気付く。
「ありゃぁ何や?!
どっかで観たことがあるような」
記憶から蘇って来たのは魔界での決闘。
まだ日ノ本に居た頃、観たことのある光景。
「あの時は・・・美晴に吹っ飛ばされた後やった。
周りに危害が加わる虞があったから・・・やのに」
光輝く剣を突き上げ、強大な魔法の弾を造り上げた。
そして光の剣士と成った美晴は剣を振り下ろして。
結果、邪悪なる大魔王を斬って捨てたのだった。
「あの時は光に満ちた剣を振り抜いた。
そやのに今は・・・邪気に澱んでいるみたいや」
漆黒の戦闘衣に身を包み、長い黒髪を乱れさせ闇に堕ちた紅き瞳で女神を呪う。
「手を出すなと誇美には強く言い渡されてはいたんやが。
こうなったら坐して手を拱いてはいられへん。
もしもの時には・・・堪忍してやミハル」
ホルスターから抜いていた魔鋼の拳銃を握り直して。
「誇美と約束をしたんや。
美晴を取り戻すと誓う女神を・・・信じたんやから」
安全装置を解除して、小型魔鋼機械を発動させた。
シュリュリュ・・・シュンシュンッ!
剣先に黒い弾が模られて行く。
それに伴い、闇の魔法陣が形成されていった。
「これが神をも斬る魔剣の技なの?」
デモンゾディアと呼ばれる神滅の剣。
悪魔が神との決戦の際に造り上げたという邪悪な剣。
紅く不気味に光る刀身からは死を孕む邪気が溢れ、全てを破滅させ得る威力を潜めているかに見える。
「それでも!
私は負ける訳にはいかないのよ!」
強大な破壊剣波を受けると決めた誇美も、全身全霊を籠めて受けて立つ。
「メタトロン!全力全開で対抗するわよ」
女神の異能を剣先に集め、闇の魔砲に打ち勝とうとする。
キュゥイイィンッ!
煌神剣が誇美の想いに共感して輝く。
光と闇が真っ向から対峙して・・・
「来るわッ!」
裂帛の声。
誇美の瞳に強大なる邪悪な弾が映る!
そして・・・邪悪なる破滅剣波が放たれてしまった!
迫る危機!
最終奥義を繰り出してくる漆黒の戦闘人形に誇美は太刀打ち出来るのか?
悪魔へと堕ちた少女人形を打ち破ることが出来るのだろうか?!
そして宿願だった美晴の帰還を果せるのか?
必殺の剣が煌く時、光が舞い降りる・・・
次回 チャプター4 災危のマリオネット<悪堕ち少女人形は闇夜に踊る>Act13
女神の危機に降り立つ?!それは主従を超えた絆の証!




