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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター4 災危のマリオネット<悪堕ち少女人形は闇夜に踊る>Act8

纏った黒のドレスを靡かせ、歌い踊りながら待っていた。

誇美が辿り着くのを。女神が現れるのを。

そして遂に、再戦の刻が訪れる。

女神と闇堕ち魔砲使いとの・・・決戦の時が!

温泉街から少し歩いた場所に、源泉が湧き出す公園がある。

温水が地圧に因って噴き出して池を作り、時には水柱を挙げ天然の噴水と成っていた。

噴き上げられた温水が、月の明かりを受けて煌めく様は幻想的にも思える。

そう。そこは隔世にも思える場所。

月夜の晩に現出した、幻想の世界だった・・・




 ラララ・・・ルルル・・・ラララ・・・


楽し気な声が池の畔から聞こえて来る。


 ランラララ・・・ラララ


独りの少女が歌っている。

蒼白き月光を受けながら。


 サァッ!シュルル・・・


纏った黒のドレスを靡かせ、歌い踊りながら・・・


「遅かったじゃないの」


待っていたのだ。


「早春の女神・・・コハル」


公園に辿り着いた誇美のことを。


肩が露出した黒いドレスを着た、長い黒髪の少女の姿。

月光を受けた顔色は、まるで死者のように青白く。

前髪から漏れる瞳の色は・・・闇に沈んだかのように赤黒かった。


全身黒づくめの少女が、女神を待っていた。

ここで待っていれば、やって来るだろうと読んで。


 ザッ!


月明かりが無ければ、どこに潜んでいるのかも分からないだろう漆黒の少女の前に。


「私が女神だと判る貴女あなた・・・美晴みはるのようね」


黒髪を月光で白く輝かせる誇美が立っていた。

青さを滲ませる瞳で黒き少女を見詰めて。


「ようね・・・じゃないわ。

 あたしはミハル。

 あなたに身体を奪われた・・・魔砲の使い手よ」


応えるのは、ミハルを名乗る翳りを孕んだ漆黒の少女。


「奪ったのではないわ。

 美晴ミハルの命を保つ為に宿っているの」


対峙する二人は、互いの姿を見詰めながら応酬し合う。


美晴ミハルの魂が戻るまで。

 この躰を維持しなければならないのだから」


誇美は美晴の帰還を願い。


戯言ざれごとね。

 魂が戻れないのに維持する必要があるの?

 誇美が現世に居る為の口実でしょうが!」


ミハルを名乗る少女は帰還を否定し誇美を拒絶する。


「まぁ、それも後僅かな間の話。

 あたしの躰ごと女神を滅ぼしてあげるだけ・・・」


そして、口元を歪めて嘲るのだ。


「コハルが宿っている限り。

 身体が死を迎えないから魂も滅べない。

 地獄のような責め苦に喘ぎ続けなければならないのよ」


沈んだ紅い瞳で睨みつけながら。


「・・・だから。

 コハルを滅ぼして。

 身体から魂を抜き去って。

 死を以って全てを終わりにするのよ。あははははッ!」


自らの滅びを願った。

醜く歪んだ顔で哂いながら。


「それが。

 美晴ミハルの願いだと言うのなら。

 貴女は私の知っている美晴ミハルじゃぁない」


嘲る漆黒の少女を見詰めて誇美が呟く。


「約束したもの。

 私は美晴に誓ったんだから。

 必ず助け出すって・・・ね」


蒼く染まる瞳で邪悪な言葉を吐く少女へと訴えかけて。


「穢れた世界で別れる時も。

 美晴は諦めないと言ったのよ。

 女神の私に託し、邪悪から愛すべき人を守ってと。

 その美晴が約束を破る訳がない!」


きっぱりと断言したのだ。

目の前に居る漆黒の少女が美晴ではないと。

・・・だが、しかし。


「あーっはっはっはっ!

 あたしが美晴ミハルじゃぁ無い?

 それこそ買い被り過ぎだと言うのよ。

 コハルも受けてみれば分かるわ。

 穢れた世界の王の責め苦を。

 死にたくなる程の辛苦を受け続ければ、約束なんて反故にするわよ」


漆黒の少女が嗤う。

約束を破ってでも滅びを求める理由を明かして。


「あたしも抵抗したわよ、初めの内は。

 でも、無駄だった。

 囚われの身には、王は凶悪で強大過ぎた。

 何度も・・・いいえ、数えるのが嫌になるくらい。

 あたしは・・・嬲られ続けたのよ」

「ま、まさか・・・美晴が?」


耳を疑う言葉に、誇美は絶句する。


「ウフフ・・・あはは。

 なにを驚いているのよ女神。

 闇が光を穢すのは決まり事じゃぁないの。

 王が光を奪い、闇に染めるのは当たり前。

 当然のことじゃないの」

「美晴の光を奪って・・・邪悪に染めた?」


穢れた世界の王に因って闇堕ちしてしまったのは当然のことだと言い切られて。


「染めた・・・そんな生易しいモノでは無い。

 数えきれないくらいの猛りを。

 計り知れない量の穢れを浴びせ注ぎ込まれて。

 生身だったら破裂しちゃってたわ、きっと・・・ね」


想像もできない苦しみを匂わせられてしまう。


「女神と言えども、アレを受ければ。

 死にたくなってしまうでしょうね、間違いなく」

「・・・うっく?!」


悍ましい想像が誇美の脳裏に浮かぶ。

無数の闇に取り巻かれ、絶望に瞳を澱ませる美晴じぶんの姿が過って。


聖なる者が光を奪われ、穢れを注がれる。

それだけでも想像を絶するのに、終わりなき責め苦を受けてしまえば。


「どう?死にたいと思うのは当然じゃないの」


嘲るように漆黒に染められた少女が訊く。


「女神が宿ってるから死ねないのよ?

 あたしを苦しみから解放してくれないの?」


おもねる様に。


「・・・解放してあげたい。

 だけど・・・今では無いわ」


だが、問い掛けに誇美は拒絶を示す。


「滅びを以って解放するだなんて。

 承諾できないし、何の解決にもならないもの」


打ちのめされていた表情を引き締めつつ。


「私は約束したわ美晴ミハルに、必ず助けてみせるって。

 答えは聴けなかったけど、あの子の瞳が応えてくれた。

 諦めないからって・・・信じているって。

 凛々しい瞳に希望の光を燈したままで」


美晴を名乗る漆黒に染まった少女を指す。


「あなたは滅びを欲した。

 それは解放ではなく、絶望を意味するわ。

 そんなことを私の知っている美晴が望む訳が無い。

 ・・・本当にあなたは美晴なの?」


ビシリと黒き姿を指し、美晴なのかを問い直した。



漆黒に染まった少女と、月光を浴びる女神が対峙する。

二人が対峙する様を見守っていたのは・・・マリアだ。


「あれが?ミハルやって言うんか?」


二人から離れた場所に隠れて、成り行きを見守っているのだが。


「顔や身体つきは似通っているみたいやが。

 ウチの知っている美晴とは随分違うんやがな」


誇美の前で口上を垂れているのは、ドレスを纏う黒髪の少女。


「美晴の瞳は綺麗な蒼色なんや。

 あんなに赤黒く澱んでなんていないんや」


前髪の間から漏れる瞳を観たマリアが言う。


「もしも本当の美晴だとしたら。

 あの体は偽りの身体っちゅうことや」


漆黒の少女が美晴では無いことを。

美晴の魂だとするのなら、あの体に宿っているのだと言う事を。


「偽りの身体・・・魂の入物いれもの

 そうやとするんやったら、あれは、あの体は・・・」


誇美から聞いた事があった。

魂の拠り所にするには、元から魂を持つ者は適さない。

美晴のように魂が抜けだした者なら可能だが、今を生きる人には魂が混同して不可能に近い。

どれ程の強大な闇魔力だとしても、生きる人への完全転移は、憑代の魂と宿る魂とが鬩ぎ合うことから無理なのだ。

だとすれば?

今、目の前に居る美晴を名乗った少女の身体は?


「気が付いているんやろうな、誇美も」


物陰に潜んだまま、マリアは悟った。

これから起きることを。

光と闇が対峙した後には、何が待っているのかを。


「本当に美晴の魂やと云うんやったら。

 ウチはどちらの側につけば良いんやろな」


闘いに発展するのが目に見えていたから。

そっと腰に着けたホルスターを撫でて。


「いざとなれば、こいつを使わなきゃならへん。

 その時に狙わなきゃならんのは・・・どっちなんやろな」


ホルスターのホックを外し、拳銃のグリップを握る。


「なぁ聖なる魔鋼の拳銃よ。

 光か闇か、どちらを撃つべきなんやろか。

 お前ならどうすべきか判るやろか」


そう言ってホルスターから抜き出した拳銃は、軍用拳銃ではなかった。


 カシュッ!


グリップエンドから弾倉を抜き、装弾された弾を確認する。

弾倉に装填されているのは、魔法を籠められた特殊弾。

引き抜いた弾倉に装填されてあるのを確認したマリアが、再度装着すると。


 ガシャッ!


遊底を引き、初弾を装填させる。

そして親指で発火安全ノブを引き下げて。


「宿りし女神か。

 仮初めの身体を持つ幼馴染か。

 放つべきはどっちなんや?」


決めかねる様に呟いたが。


「せやけどな魔鋼銃よ。

 ウチはもう・・・半ば決めてるんやで」


魔鋼銃から視線を外し。


「約束を守ろうとする者を護るって決めてるんやから」


あの日誓ったのを忘れずに。

大切な想いを守る為に。


「迷いを打ち消すには、確証が必要や。そうやろ誇美?」


対峙する二人を見詰め、決断を促す様に呟くのだった。




背後にある物陰からの視線を感じていた。

自分と同じように決めかねているのだと思って。


「本当の美晴だと言うのなら、答えてみてよ」


突きつけた指の先に佇む少女へと。

決断を促す為に。


「死んでしまったら。

 もう二度と逢えなくなるのよ。それでも良いの?」


公園に向かう道中で交した話を実現させる為に。


「あなたの想い人にだって、逢えなくなるのよ?」


死を欲するという少女へと問いかける。


「煩いわね。

 今更会いたいと思う方が可笑しいのよ。

 それとも何?改心を促しているのかしら。

 お門違いも甚だしいにも程があるわよ」


その答えには愛の感情など微塵もない。

戸惑うことすらなく、拒絶を匂わせているのだから。


「それが本心だと言うの?

 愛おしいとは想わないの?

 再び逢ってみたいとは思わないの?」


拒絶を表す顏を観た誇美が、最後の賭けに出る。


「どれだけ穢されたって。

 どんなに薄汚れたとしても。

 想い人は還って来てくれるのを待っているのに?」

「煩いと言ってるでしょ!

 あたしにはもう、愛なんて失われたの」


勤めて冷静な言葉を投げかけてみるが、返って来るのは失望の言葉だけ。


「それじゃあ。

 愛した人を忘れたというのね。

 初めてキスを交わした人も・・・その人の名も忘れたというの?」


その問いが最後となる。

それが決断を下す賭けだった。



賭けを仕掛けた誇美の瞳が、僅かに背後へと向けられる。

漆黒の少女からの答えを聞く前に。


「此処に来る前に聞いたから。

 私だって知らなかった真実を。

 美晴とマリアさんしか知り得ない、日の本での一幕を」


それはマリアから告げられた事実。

日ノ本を離れようとしたマリアと美晴の在りし日の出来事。


「愛を確かめ合った二人。

 想いの丈を告げた美晴がマリアさんとキスを交わした。

 二人共が初めてで。忘れることは出来ないって言われたんだよね」


幼馴染で好き合う同士だった美晴とマリア。

もし、本当に漆黒の少女が美晴ならば、迷いなく答える筈だ。


「そうや、誇美。

 その答え次第で、ウチは決めるんや」


視線に気づいたマリアが頷く。

我が意を得たと謂わんばかりに。

そして二人が聴いた答えは?


「忘れたわよ!男なんて皆、ケダモノなんだから」


喚くように言い放つ漆黒を纏う少女。

誇美の賭けに乗って返した答えには、昔日の面影など微塵も残されてはいなかった。


「ああ。そうか・・・そうなのね」


答えを聞いた誇美が俯く。


「判ったわ。

 あなたが美晴であってミハルでは無いことが」


胸元に両手を宛がい、


「そして。

 私の美晴ミハルが別に居るってことも」


蒼きひかりを放ち始める。

それを観た漆黒の少女が顔を歪めて。


「何を言ってるのよ。

 あたしは正真正銘の・・・」


美晴だと言い張ろうとするのだが。


「否定なんかしていないわ。

 だけど、最初から感じていたのよ。

 貴女は昔の美晴ではないって。

 負けず嫌いで馬鹿の付く程真っ直ぐなでもない。

 心優しく自己犠牲も厭わない、損な子なんかじゃない」


俯き手を胸に添える誇美が言い切る。

徐々に輝きを増す両手を突き出し始めて。


「邪悪に屈し、悪魔に身を堕とし。

 況してや死の絶望を望むなんて・・・有り得ない。

 やっぱり貴女は・・・あの子じゃぁない。

 私達の美晴とは違うのよ!」


凛とした蒼き瞳で邪悪に染まる少女を睨んだ。


「煩い煩い!

 あたしは魔砲の使い手!

 この世で最も強力な魔法少女なの!魔砲少女の美晴なんだから」


偽者と断じられた漆黒の少女が吠えた。


「そんなに言うのなら。

 あたしが美晴だって証を見せつけてやる!

 女神にも引けを取らない魔力を。

 闇に与えられた魔力ちからで判らせてやるわ!」


全身から邪気を噴き出して。


「無駄なおしゃべりが過ぎたわ。

 それじゃぁ始めましょうか・・・死への輪舞ろんどを!」


ドレスが騒めき、黒髪が舞う。

その姿は、呪われた魔女にも等しく。

澱んでいた紅い瞳には怪しい光が差す。


「観るが良い!

 これこそが穢れた世界の王から授けられた身体。

 女神を滅ぼせる・・・双璧の魔女の姿よ!」


漆黒の少女が変わる。

絶望を纏った邪悪なる衣装へと。


黒髪が舞い、紅き瞳で敵を睨む。

ドレスの所々で紅い魔力を秘めた珠が瞬き、提げている手の中で澱んだ塊が容を造り始める。


「さぁ!始めるわ。死への輪舞を!」


自らを双璧と名乗った魔女が牙を剥く。

光の化身である女神に対して。


「そうね。

 あなたが並び称する者が無いと言うのであれば。

 私が超えて見せてあげる・・・から」


受けて立つのは早春を司る女神。

コハルと呼ばれた幼子ではない、戦いを辞さない戦の女神。


「トランスフォーメーション!

 戦女神ヴァルキュリアモード!

 邪悪を罰する女神と成れ・・・チェンジ!」


両手を伸ばし、蒼き輝を身に纏う誇美。

瞬く間に、穢れ無き白の魔法衣姿へと変わる乙女コレー


光を纏う白き者と、邪悪に染まる黒き者。

遂に再戦の時が来てしまった・・・


女神は光の衣を纏い、闇に堕ちた魔女は漆黒に染まる。

遂に再び始められる決戦。

今度は戦車ではなく生身での闘い。

圧倒的な魔力の鬩ぎ合いと化す光と闇の戦いは、何を魅せるというのだろう?


次回 チャプター4 災危のマリオネット<悪堕ち少女人形は闇夜に踊る>Act9

瞼をこじ開けろ、眼を瞠れ!これが戦女神と魔女の熾烈なる戦いなのだ!

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