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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第6章 思い出を穢す者
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Act39 慙愧

リィンへ襲いかかる?!


しかしフェアリー令嬢は臆することなくロッゾアと対峙していた!

寓話や神話に出てくる光景にも思えた。

怖ろしい怪物が少女へ伸し掛かるみたいに感じる。


醜い魔物が獲物へと襲い掛かるかのようだった。



「蘇ったのか、俺の前に!」


掴みかかろうとするロッゾアが吠える。


「いいや、死んではいなかったのだな」


目の前に居るリィンへと。


「ミカエルよ!」


娘と生き写しの顔を観た時、ロッゾアの態度が豹変した。

記憶の中に居る娘と、目の前の少女が重なって見えたのだ。


「お母様って?」


覆い被さって来たロッゾアに、眉を寄せてリィンが質す。


「私はミカエルお母様の娘、リィンタルトよ?」


今にも掴みかかりそうになっていたロッゾアが、その一言で動きを停める。


「な?何と・・・言ったんだ?」


明らかにリィンの一言に動揺しているのが分かる。


「今、お前はミカエルの娘だと・・・言ったのか?」


「そうです・・・ミカエル・オークの子だと言ったのよ!」


顔を歪ませたロッゾアから眼を反らさず返した。


「私はフェアリー家の一族でもあるけど、お母様はミカエル・オークなの」


「ば・・・馬鹿な?!そんな話は聞いておらん!」


ずっとロナルドが秘密を守って来た証。

誰にも知らさず、自分独りが護り抜き通した証拠。

フェアリー家の中でさえ、誰一人知らなかった事実。


「嘘を吐くのもいい加減にしろッ!

 俺の情報網を甘くみるんじゃないぞ小娘」


驚愕が怒りとなり、娘によく似た少女へ向けられる。


「嘘かどうか。

 私もつい最近教えられるまで知らなかったわ。

 でも、ロナルドお父様から知らされたのが真実なのよ」


怒りの表情へ変わったロッゾアへポケットから一枚の証書を取りだして突き付ける。


「観て!これが正真正銘の出生証書。

 ロナルドお父様子飼いの助産婦と医者が残した本物の証明書よ!」


突きつけられた書類には、確かに母親がミカエルと記されている。

そして父の名は、ロナルド・フェアリー。


「な?!」


差し出された証書を掴み取り子細に眼を通すロッゾアへ。


「16年前、あなたはミカエルお母様とロナルドお父様の仲を快くは思っていなかった。

 本当に結婚できるかを怪しんでもいた・・・そうでしょ?」


「そ、それは・・・その通りだ」


呆然と証書を手に、リィンの問いへ答えるロッゾア。


「あの御曹司がフェアリー家から抜け出すなど、思えなかっただけだ。

 既に子まで設けた男が、離縁など出来る筈が無いと・・・」


証書とリィンを交互に見比べ、過去の考えを言い募る。


「あなたはそう考えたのだろうけど、二人は本気で自立しようと思っていたのよ。

 それが証拠に、産まれたばかりのあたしを知らせなかった。

 知らせようものなら、きっとあなたはミカエルお母様とあたしを連れ戻したでしょう?

 ロナルドお父様から取り戻そうとしたでしょう?」


「当たり前だ!

 まだ奴が離縁もしておらんというのに子が出来たのならば。

 婚約など破棄させて連れ帰るのが父親としての義務だ!」


即座にロッゾアは答える。

ロナルドから母子共々取り戻すと。


「やはり・・・ロナルドお父様が憂いていた通りね。

 それだからこそ知らされなかったのよ、ロッゾア」


「な・・・なんだと?!」


やっと状況を把握し始めるロッゾアが、自らの考え方が間違いであったと知らされる。


「娘を思い遣るばかりに、ミカエルお母様とロナルドお父様を追い詰めた。

 二人はあなたから離れていく道を選んでしまった。

 それが悲劇を生んでしまったとは考えないの?」


「なに?俺が・・・ミカエルを殺したとでも言うのか?!」


眼を剥きリィンへ詰め寄るが。


「それは極論よ。

 あたしが言いたいのは、どうして二人の仲を信じてあげられなかったのか。

 なぜロナルドお父様の味方になってくれなかったのって言いたいだけ」


「何故って・・・俺の可愛い一人娘を盗んだからだ」


反対に少女から言い返されてしまうのだった。


「盗むだなんて・・・泥棒が聞いて呆れるわ。

 確かにあなたはミカエルお母様を溺愛していたみたいだけど。

 きっとミカエルお母様は、あなたから逃れたいと考えていたんじゃないかしら。

 娘を偏愛するのは幼い時までにしておかないと、反抗されるものよ」


「そ、それは・・・そうだったかもしれん」


リィンも最近までロナルドからの無理強いを邪険に思っていたから。

母ミカエルの考えが分かる気がした。


「あなたの偏愛が娘であるミカエルお母様を遠ざけた。

 その結果、フェアリー家の呪いを一身に受けて亡くなってしまったのよ!

 あたしのお母様は、オーク家とフェアリー家双方の呪いで殺されたんだわ!」


二つの家の間で翻弄され続けた母への想いが、思わず吐露される。


「あたしはお母様を知らずに今迄生きて来た。

 こんな酷い話ってある?

 互いに話し合おうともしないで、勝手に憎んで・・・

 それなのに、あなたはロナルドお父様だけの所為にしようとしているのよ!」



挿絵(By みてみん)




動揺し始めたロッゾアへ、今度はリィンが詰め寄る。


「あたしだってお母様の思い出が欲しかった。

 せめて本当の母がミカエルお母様だと知らされたかった、もっと早くに。

 あなたがお父様を憎むのなら、あたしはあなたを憎む。

 どうして二人の仲を許してはくれなかったのよ!」


「う・・・あ・・・それは。

 許すも何も・・・俺が愚かだったのだ。

 認めたくなかった。妻との誓いが枷となっていたのだ」


詰め寄られたロッゾアが、両手で顔を覆う。


「俺の妻はマフィアの抗争で殺された。

 愚かだった俺の代わりに撃たれてしまったのだ。

 護り抜くと誓っていたのに、救えなかった・・・」


覆った手の中に想い出が蘇ったのか。

先程までの魁夷は消え、そこに居るのは愛を見失った孤独な男。


「ああ、その通りだともリィンタルト。

 俺は愛する者を悉く喪った愚か者だ。

 愛故に狂気の中へ墜ち、頑なに復讐だけを望んだ。

 ミカエルがどんなに辛かったかも知らず、支配し続けようとしたのだ。

 それが死へと追いやるとも知らず、助けの手を差し出してやることも出来ず」


後悔と懺悔。

復讐だけを望んで来たロッゾアに、リィンは光を与えた。


「だが、これから俺はどう生きれば良い?

 俺から復讐を取ってしまえば、何が残ると言うんだ?」


娘の仇を取るだけに半生を費やして来た男が悶え苦しむ。


「もはや・・・赦しなどが来る訳も無いではないか」


覆っていた手を見詰め、その手が血塗られているのを感じて。


「今更、神に救いを求めても遅すぎる。

 俺は何万と言う同胞を死に追いやって来たのだぞ」


フェアリー家に復讐する為だけに生きて来たロッゾア。

今、孫娘でもあるリィンから闇を祓われようとしている。

娘を喪った怒りに身を焦がせて来た人生から、解き放たれようとしていた。


「大丈夫だよロッゾア。

 あなたはきっと多くの人を救えるようになれる。

 これから生まれ変わって病める人々に手を指し伸ばせられれば。

 きっと・・・ミカエルお母様も喜んでくれるからね」


後悔と懺悔に打ち据えられた老人を、孫娘は慰める。


ミカエルも・・・か?」


「うん・・・きっと喜ぶから」


涙を浮かべて後悔するロッゾアに、そっと近寄ったリィンは。


「だからね、ロッゾアお爺ちゃん。

 ミカエルお母様の思い出を、あたしにも聞かせてよ」


ロッソアの両手を取って微笑むのだった。


「俺を・・・祖父と呼んでくれるのか?」


「呼んでも良いでしょ、ロッゾアお爺ちゃん」


優しい声で呼びかけられたロッゾアの心が解ける。

あれ程までに憎んで来たフェアリー家への呪いが、少女の言霊によって癒されたのだ。


「おお・・・リィンタルト!」


一体いつからなのだろうか。

狂気に囚われて来た男が、本当の歓喜に泣くのは。


「うん、もう良いんだよロッゾアお爺ちゃん」


笑顔の孫娘を前にして、何もかも喪った男が涙する。


やっと今。積年の恨みは霧散した・・・




ー 全くもう。どこで学んだのかしら?


一言も発する必要が無かった。

観て、聴いているだけで胸が熱くなる。


ー 私が同道した意味がないじゃないの


そう思っても、心の中では感激を覚えている。

あの令嬢リィンタルトとは思えない程の立派さだと思う。


ー リィンは私の知らない間に大人になっていたのね


それがこんなにも頼もしく思える。

思い出の中では少女おんなのこだったのに、いつの間にか大人顔負けの賢女となった。


ー まるで・・・浦島太郎になった気がするわ


気が付けば、自分なんて必要ない程の大人になった・・・と。


そして和かな笑顔を観て想うのは。


ー もう私の出る幕は無さそうね・・・


祖父と孫娘は通じ合えたのだと。


二人の抱負を観ていたレイが、ほんの少しばかり気を緩めた。


その一瞬を突いて・・・



 ザシュ!



慰め合う二人の背後から、紅い光が閃いた?!

自ら運命を切り開いたリィン。

復讐に身を焦がしてきた暗黒王ロッゾアを改心させるのに成功したが?


2人の背後から襲い掛かるのは?

その時、少女人形レイは?


次回 Act40 裏切りの刃

リィンを護る為、刃の前に身を晒すのは・・・誰?

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