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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター4 災危のマリオネット<悪堕ち少女人形は闇夜に踊る>Act1

補給と休暇を兼ねて訪れた温泉郷。

約一ヶ月にも及ぶ前線勤務に疲労が蓄積していた八特小隊。

僅かな間だが、憩いの時を得られることになったようだが・・・

大型トレーラーや軽装甲車、それにトラックが駐車しているのは、戦場から離れた温泉郷。

車列が駐機している広場から離れていない所に、数軒の湯屋が軒を連ねている湯治場だ。

紛争が起きなかったのなら、湯治客でそこそこ賑わっていただろう。


「閑散としてますねぇ」


湯屋の周りを散策しているミルア伍長が、周りを見回して話す。


「前線が60キロ先に在るからな。

 ここも危険区域に指定されてるんじゃないのか」


それに感化されたミーシャ少尉が溜息交じりで応える。


「まぁな、それもあるが。

 ここに軍の慰安所があるのを嫌って、訪れないってのが実情だろうさ」


一軒の宿に掲げられたフェアリア国旗と赤十字旗を見上げ、そこが傷病兵の病院に指定されていると気が付いたレノア少尉も続けた。

前線から退いて来た傷病者を受け入れて、治療と湯治を行っているのだろう。

さして大きくない宿を借り上げているぐらいだから、傷病者の数も知れているだろうけど。


「なんにせよ、私等にとっては好都合なんだが。

 他の部隊にとやかく言われずに済むんだからさ」

「まったくだよ。休暇ぐらい静かに休みたいからな」


二人の少尉は補給と休暇を兼ねた、一時的な後退を歓迎している。

約一か月もの間、酷使した身体を休められると踏んでいるのだから。


「ミルアも早く宿に来るんだぞ、良いな?」


小隊は補給が終わるまでの間、一軒の湯屋を借り切って宿泊する手筈になっていた。


「あ、はい。もう少し後で向います」


二人の上官を見送るミルアが、広場を振り返る。

そこにはトレーラーに積載されている八特小隊の戦車が荷室の中に収められていた。



「ほんまに美晴みはるやったんか、コハル?」


屋外から隠蔽されているカーゴルームで、荷台に載せられている魔鋼騎マチハを見上げてマリア中尉が訊く。


「そうだった・・・と、思われます」


砲塔に拠りかかる誇美へと。


「正確に言えば、以前の美晴とは異なる美晴だったと感じました」

「異なる・・・って、どんな?」


実際に二人が会った訳では無いのをマリアも知っている。

それなのに訊き直したのは、どこかに異変を感じたのに違いない。


「それは・・・そう感じただけで」

「言葉を交わしたんか?女神の異能って奴で」


マリアが何かを感じ取ったと思った誇美が、言葉を濁そうとするが。


「あ・・・いえ、会話は成立しませんでした」

「そやったら、なんで美晴だと思うたんや?

 どうして異なる美晴だなんて言うたんや、誇美?」


誤魔化そうとしたのに、マリアが鋭く追及する。


「う・・・それは、その」


確かに誇美が言った通り、会話は成立していなかった。

それは事実ではあったが。


「話は出来へんかったのに、どうして美晴やったと?

 それは・・・声を聴いたからとちゃうんか?」


声を噤んだ誇美を観て、訊き直すマリア。


「その声が、以前とは違うって感じたんやろ。

 美晴の声だったのに、別人のように思えたんとちゃうんか?」

「・・・・」


まるで観て来たかのように話すマリアに、今度は本当に言葉を呑んでしまう。


「何があったんや?美晴は何て言うとったんや?」


言葉を交わしたとは言ってはいない。

況してや声を聴いたとも明言していない。

だけど、誇美の表情から察知していた。


「ウチの言うたんは間違ぉてへんのやろ。

 そやったら。聴かせてくれへんやろか、誇美?」


聞いた言葉が如何なる物だったのかを。

顔を背けたまま、苦し気な表情をしているのを観て。


「そ・・・れは。聞き取れなかったので」


促される誇美だったが、


「唯、美晴の声だと思えただけなのです」


事実を打ち明ける勇気が無かった。

穢れた世界の王に穢されて堕ちてしまったなんて、美晴の幼馴染で想い人でもあるマリアにだけは。


「・・・そうなんか。

 撃破した重戦車に居たのは間違いないんやな?」

「居たかどうかは確証がありません」


一呼吸開けてからマリアが訊いた。

声を聞いたからには、そこに存在していたのではないかと。

それに対しての答えは、不明確だと言ってから。


「だって美晴の身体は・・・此処に在るのですから」


聞こえた声は、肉体から発せられたものでは無いとだけ付け加える。


「・・・ま、そりゃぁそうやけど。

 分離した魂が宿っていたんではないかと訊いたんやけどな」


誤魔化そうとしているのが丸判りだが、マリアは敢えて追及しては来ない。

それはこれまで遭遇して来た邪操の戦車が、全て堕ちた魔法少女達の魂を宿して来たのを知っていたからだ。

もしも、美晴の声を聞いたとするなら。

邪操の機械兵である戦車に捕り籠められて居たとするのなら。


ー 堕ちてしもうた。

  あの美晴が邪悪に染められたって、ことなんやろ・・・


声に出すのも忍び難い。

心に刺さる棘の痛みにも似た、苦痛を感じたマリアだったが。


「そんで?

 もう一回くらいは機会があるんやろ。

 美晴の声がそれを告げていたんとちゃうんか?」

「え?」


あてずっぽうにも思える言葉を投げて来る。

再び堕ちた美晴が現れるのではないかと。


「どうして・・・」


驚いたように瞼を開ける誇美が、咄嗟にマリアを観て。


「そう・・・だったのかも。聞き取れませんでしたけど」


肯定したような言葉を漏らしたが、直ぐに取り繕う。


「ふぅ~ん。ま、そういうことにしといたろ」


勘繰る訳でもなく、マリアはこれ以上の追及は辞めにする。

何故なら、既に誇美から情報を得ることに成功していたから。


「ほなら、ウチは宿舎へ行くわ。

 誇美も遅ぉならん内に来るんやで」


カーゴハッチに手を伸ばし、車外へと出ようとする傍ら。


「そぉや。

 そないな陰鬱な顔、他の隊員達に見せるんやないで女神はん?」


軽く冗談を交えて表情を揶揄するのだった。


「え?あ?!」


顔色を指摘された誇美が、慌てて顔に手を添える。

自分でも自覚があるのか、動揺を隠すように頬に手を当てて。


「もぅ!マリアさんってば」


車外へと出て行く後ろ姿へと怒ったような声をかけた。



 バタン!


ハッチを閉じると、マリアは目の前に居る夕日を浴びる人影へと声をかける。


「聞いてたのか、ミルア伍長」


その言葉の意味は、車内の会話もだが。


「いいえ小隊長。

 あの時は気を失っていましたので」


戦闘中に何が起きていたのか、何かを聞いたかと問われているのを悟り。


「それに・・・今此処に来たばかりですので」


何を問われているのかが判るから。


「そうか。分かった」


荷室から降りて来たマリア中尉が、頷いて横を過ぎ去ろうとする。


「小隊長、ミハル少尉は?」


その横顔へと問いかける。

荷室の中で、どうしているのかと。


「少し。そっとしておいてやれ」


僅かに立ち止ったマリア中尉が、夕日を浴びながら言う。


「お前になら、その意味が解るだろう」


ミルアを見ることも無く、それだけを告げると再び歩き始めた。


「はい」


上官への敬礼も忘れたかのように、トラックの荷室カーゴルームを見上げたミルアが了承する。

この中へと入るのは、もう少し経ってからにしようと納得して。


「ミハル少尉・・・女神のコハル」


一昨晩に起きたことを思い起こしながら。

打ち明けたのなら、どれ程マリアが哀しむだろう。

そう考えたからこそ自分の中に仕舞いこむ事に徹した。

あの晩に聴いてしまった呪われた声。再び現われたら、きっとまた闘わねばならないだろう。

女神コハルは、これから何を為すべきかを独りで考え続ける・・・


次回 チャプター4 災危のマリオネット<悪堕ち少女人形は闇夜に踊る>Act2

カーゴルームから降りてきた誇美が、待ち続けていた娘に気付く。真摯な瞳に何かを感じて・・・

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