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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター3 戦禍の運命<絶望を希望へと換える為に>Act10

魔鋼状態のマチハ。

その砲塔内では、女神の魔法衣を纏う誇美コハルが操縦ステックを両手で握り絞めていた。

勝負を決める為に。

美晴の魂を取り戻す為に。

最新鋭の魔鋼騎として生み出された試作中戦車。

形式名称MMT<マギカミドルタンク>03には、秘密裏に搭載された何個かの装置があった。

その内の一つに、魔鋼機械との連携で発動する車体管制装置がある。

通常時の車内では、装置の存在さえも見つけることも出来ないが。

魔法力を受けた魔鋼の機械に拠って、変化を齎された車内にだけ発現するシステム。

闘いを仕切るメインの搭乗者、つまり砲塔に陣取る車長だけに与えられる既存の概念を超えた装置であり、操縦と攻撃の双方を同時に一人の意志で執り行うことが可能となる物だった。


このような俄かには信じ難い高度な技術を、どうやって開発し、如何にして搭載出来たのか。

単に魔法の産物として扱うには不自然に思えるのだが。


魔鋼状態のマチハ。

その砲塔内では、女神の魔法衣を纏う誇美コハルが操縦ステックを両手で握り絞めていた。


「「管制シンクロ率、80パーセント」」


数本のコードが取り付けられた身体をシートに凭れかけて。


「「操縦、並びに戦闘行動に支障なし」」


車内に流れる音声でのガイドに小さく頷いてから。


「80パーセント・・・か。

 全力を出しているつもりなんだけど」


神力を振り絞っているつもりなのに、100パーセントに届かないのを残念に思う。

芽吹きの女神として現界した誇美ペルセポネーでは、マチハを操るには力不足なのかと。


「だったら。

 闘う姿に変わらないといけないかな」


芽吹きの女神を表した白桃色の魔法衣姿のままだった誇美が、意を決したように呟いた。


戦女神ヴァルキュリアモードへ。

 闘う姿に変わらなきゃ・・・いけないんだよね」


すぅっと、瞼を閉じる・・・そして。


 カッ!


見開いた時、深碧マリンブルーの瞳に映されるのは<闘姫>を表す魔法陣!


「チェンジ!戦女神ヴァルキュリアのコレーと成れ」

 (作者注・コレーとは女神ペルセポネーの処女性を表す略称、若しくは乙女を表した神名)


 ピキィーン!


瞳の魔法陣が発動し、瞬時に魔法衣が花吹雪と化して弾け飛ぶ。

薄桃色の花弁が舞い散り、誇美の姿を包み込んだ。


白桃色の髪に金色の粒が纏わり着き、髪を金色へと変えて。

煌めく金色の髪が神々しさを醸し出す。

しなやかな少女の身体に、花弁が舞い落ちて。

胸の中程で桜の花弁がブローチと成り、そこから一気に蒼いレオタード状の内部装甲服を形成される。

幼い顔に対比するような豊かな胸も、キュッと括れた腰も、大き過ぎないお尻も包み込まれ。

魔法攻撃からのダメージを軽減させる装甲服を装着した後で、白い魔闘衣が形成される。

各所に光をイメージするラインが入り、神力を高める数式文字が設えられて。

女神を表す聖なる白の上着は、青いラインとのコントラストが眼を惹く。

華奢でしなやかな足を覆い隠すスカートも、青いラインが入っていて。

闘う意思を表した紅い紅玉が眼を惹くブーツへと繋がっていた。


「よし!一気に戦闘力が増したわ」


変身を遂げると、誇美が実感した。


「「管制シンクロ率、100パーセント」」


機械からの報告を受けずとも。


「やれる!」


金色の髪、青い瞳。そして闘う女神の姿と成って。


「制限時間内で決めてやるんだからね」


女神ペルセポネーとして邪操の戦車を倒すと意気込んだ。




直撃弾を受けた中戦車が、爆発煙を突き破って現れる。

車体前面中央部に榴弾が命中した痕跡が在るだけで、何らかの損傷も受けているようには見えない。


「馬鹿なッ?!いくら榴弾とは言え、焦げ目しか付けられないなんて?」


狙いは外されたが、直撃だった筈。

高初速の10センチ砲弾を受けてもビクともしない強固な装甲だったのか。

それとも榴弾の信管が命中より先に作動してしまったのか。


「そんなことがある訳が無い」


先の一発は中戦車の運動性能を計る為に撃った。

そして今撃ったのは、動きを停めるべく狙い打った弾だった。

想いもかけぬ行動を見せられたが、直撃弾によって損傷を与えられたと考えていたのに。


「真正面から突きかかって来るなんて?!」


煙を突き破って現れた中戦車が突進し、砲身を擡げている姿。

それは予想もしなかった反撃の狼煙。


「く・・・くははッ!

 どうやったかは知らないけど、やってくれるわね」


少しは動揺したが、勝利を掴むのは自分だと思い直して。


「じゃぁ、教えてあげるわ。

 戦車の闘い方ってものを、コハルにもね」


戦闘訓練を熟していた美晴ミハルが、経験の少ない誇美コハルを見下し。


「一騎討では、中戦車が重戦車に勝てる訳が無いってことを」


宿った重戦車の威力をみせると言うのだった。



二度の砲撃を行った重戦車が動き始める。

接近を図る中戦車魔鋼騎に併せる様に、正面を向けて進み始めた。

その様子を見守っているのは、


「ルナ様。この勝負に何の意味があるのでしょう?」


魔力を表す銀髪を靡かせて、アクァ特務要員が訊ねる。


「そうね。聖と悪、だけでは済みそうにはないわね」


金髪を掻き揚げるルナリィ―ン姫が、傍に控える護衛官へと悲し気に答えた。


「あの子には、どうしても闘わねばならない秘密があるのよ」

「黒髪の少尉でしたっけ。私の知る旧知の子とは別人の・・・」


中戦車に搭乗しているであろう車長を思い起こして。


「ええ。もう一人の私が10年近く前に会った娘では無い様ね。

 名前だけは同一人物を指しているけど・・・」

「はい。日の本から到着した当時のミハルとは違うようです」


二人は以前、美晴と会ったことがあるのか。

見知っているような話振りだった。


「どうして別人物へと変わったのか。

 その訳が、今回の戦闘と関係があるような気がするわ」


ルナは闘う二両を眺めて、


「そして、今回の紛争の根幹にも関わっているとも思えるの」


人と悪魔が闘っているようにも感じていた。


「我々が求める平和が、あの子に託されていると?」


その言葉に、アクァが質す。


「ロッソアの闇と、我が国の闇が関与していると?」


紛争が拡大したのも、始められてしまったのも邪操の闇が関係したのかと。


「それだけではないわ。

 私達の産まれた意味も・・・関係があるかもしれない」


アクァの問いに、関与が無いとは言えないとルナが応えて。


「それもこれも。

 これから次第にはっきりして来る筈・・・よ」


中戦車と邪操の重戦車が闘う様を眺め直すのだった・・・




魔鋼戦車を操るようになって、既に2分が経過した。


「ふぅッ!」


操作に専念している誇美だったが、神力を消耗していくスピードに気付く。


「こんなに・・・消耗しちゃうなんて」


戦女神モードに変身した時には100パーセントのシンクロ率だった物が、徐々に目減りしているのがモニターに表示されて。


「でも、だからと言って辞める訳にはいかないじゃない」


握っている操作ハンドルを掴み直す。


「まだ、諦めるには早過ぎる。闘いはこれからなんだから」


モニターに捉えている重戦車を睨みながら。

残された時間を肌で実感しても。


重戦車が動き始めた。

キャタピラが大地を噛み、車体の向きをマチハへと向けて来る。

双方が向き合った結果、その車間距離は瞬く間に近寄り始める。

その距離、僅かに200メートル。


「射撃準備よし!牽制の砲弾をお見舞してあげる」


真正面を向ける重戦車に対し、誇美は一撃目を発砲する。


「貫通出来なくったって良いんだ。

 美晴にこっちの意志を判らせるだけなんだから」


誇美の意志とは、どんなものか。


「宿る戦車を破壊して、憑代から解放してみせるって。

 その結果、解放された魂に身体を還してあげるんだって」


仮初に宿っている自分の代わりに、あるべき姿へと戻してあげたいと願っている。

それを伝える為の一撃。

邪操の戦車から解放し、魂を元々の身体に入れ替わらせる為の闘いだと知らせたかった。


「例えミハルが闇に屈して堕ちているにしたって」


邪悪に魂を染め抜かれていたとしても、人間へと戻してあげると誓ったのだから。

穢れた世界から取り戻すことが叶わないのなら、この機会は最初にして最期のチャンスになるかもしれないのだから。


「痛いかもしれない。苦しむかもしれない。

 だけど、私にはこうするより方法が無いの!」


操作ハンドルに着いた射撃管制スイッチを解放リバースして。


「受けてみて!これが魔鋼騎マチハが放つ弾。魔鋼弾・・・撃て!」


トリガーボタンを引き絞った。


 ガァアアーンッ!


砲身から紅い火が迸る。

紅い火の尾を曳いた徹甲弾が飛び出す。


 ギュワアアアァーッ


真一文字に重戦車の正面へと飛んだ弾が、モノの見事に車体前面へと・・・


 ガッ!


突き当たり、火花を散らす。


 ギィイイイッ!


しかし喰い破る事は叶わず、傾斜装甲に阻まれた弾があらぬ方へと飛んで行く。


「そっか・・・」


それは半ば予期していた。


「やっぱり。美晴の魔砲力は半端じゃないんだね」


類まれな程の魔力と、圧倒的な戦闘に特化された魔法属性。

稀代の女神を伯母に持ち、人間離れした魔砲の威力を秘めていた美晴。

その魂が宿る重戦車ならば当然のこと、防御力も並みでは無いのは承知していたつもり。


モニターに映されている重戦車のカタログ上のスペックでは、10センチ魔鋼弾の直撃には耐えられる筈では無かった。

それなのに、いとも容易く弾き返されてしまうのには、宿った魔女の属性が関与しているとしか考えられない。


「あの弾き返され方を観たら、装甲は倍くらいあるのかもしれない」


モニターのカタログでは180ミリ前後の装甲を有しているようだが、今対している重戦車は300ミリ程の鋼板を斜めに積載しているようにも思えた。


「当たり具合によっては400ミリの貫通力を必要とするかも。

 そんな強力な砲を装備できる戦車なんて・・・有り得ないわ」


400ミリ・・・つまり40センチにも及ぶ装甲板。

海軍の戦艦級に匹敵する装甲板を有しているのなら、それを貫通するには同じく戦艦級の砲が必要になるということだ。

そんな大口径の砲弾を放てる戦車が存在しているのか?

答えは・・・NOだ。


「でも、どれだけ強力な装甲を持っていても。

 どこかにきっと弱点がある筈。それは・・・」


強固な防御力を誇っていても、地上を動く重量物ならば。


「あなたが示してくれたわよね。

 この世界の万物に足枷があるってことを」


戦車と地表を繋ぐ接点、それはキャタピラであり、それを廻す車輪。


「そして叔母様にだって。

 砲撃だけが戦闘方法では無いって教えて頂いたんだから」


勝利を得る為に、誇美は思いつく。

経験して来た闘い方を、この場で実現させようと。


「これが成功したのなら。

 ううん、きっと成功するに決まってる。

 だって、あの時の美晴は・・・」


制限時間が迫る中、誇美は乾坤一擲の大博打に打って出る!

徐々に消耗していく神力。

残された時間はどれ程なのか。

相手は闇に染められてはいても、双璧を誇る魔砲の少女。

強敵重戦車の死角は存在するのか?勝機はあるのか?

必至必勝を期して誇美は勝負に打って出る!


次回 チャプター3 戦禍の運命<絶望を希望へと換える為に>Act11

君だけが知っていた。理の女神が示してくれた戦い方を、今こそ!


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