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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター3 戦禍の運命<絶望を希望へと換える為に>Act8

最初の一発目は軽微な被害で済んだ。

車体には擦過した際の傷が残っただけで済んだのだが。

乗っている誇美の心には大きな傷としこりが残る結果となった。

何故ならば、邪躁の重戦車に宿っている者が誰なのかが分かってしまったから・・・

闘いの始まりを告げる一発目は、邪操の重戦車から放たれた。

開距離600メートル程で発射された砲弾は、数十センチの僅差で直撃とはならなかった。


「フ・・・左に避けるとはね」


発砲後の重戦車の中で、


「そっちの癖を読んだのだけど。

 どうやらソレが判ったみたいね」


照準器に捉えたマチハへと語り掛ける声。

ソレと言ったのは、誇美が事前に回避方向を変えた事を言っている。

そしてそれと同時に、重戦車を操るのが<自分>だと判ったようだと見極めた。


「それじゃぁどうするのかな、芽吹きの女神?

 あたしが此処に居るのが判ったのなら、正面切って闘う?」


口元を歪めて語るのは、相手が女神を宿した美晴だと認識したことと、どのようにして闘うのかと興味を掻き立てている嘲り。


「まぁ、どっちにしても。

 貴女が勝つなんて、万に一つも無いけどね」


そしてニヤリと嗤って、次弾を籠めるのだった。



ギャラララ・・・


速度を緩めることなく接近を試みる。

只、真っ向正面へは突進出来ずにいる。


「側面を擦っただけなのに。

 想像を遥かに超えた衝撃だった」


最初の一発は側面の装甲で阻んだ。

もし、避ける方向を変える判断が遅れていたら車体正面に当っていただろう。


「発砲から着弾するまでの秒数から考えて。

 これまで経験したことも無い弾速だったのが判る。

 そんな桁違いの砲弾を直撃されでもしたら・・・」


喩えマチハが最新最強の魔鋼騎だとしても。


「砲塔正面や車体正面の装甲だとしたって、喰い破られるかもしれない」


一番厚い装甲部分でも弾き返せるとは限らない。


「被弾しなければ分からないけど」


貫通される虞があるのに、真正面から突っ込むのは無謀に過ぎないと考えている。

それだから、左に避けた角度のままで接近を試み続けているのだ。


「「車長。このまま接近し続けるのは危険だと考えますが?」」


重戦車に向けて緩い角度を保ったまま進むのを、ミルアは危ないと考えて。


「「ジグザグ走行を執りますか?」」


接近するのは遅れるが、狙いを付けさせない様にするべきだと言って来た。


「いいえ。この角度を維持しつつ接近を計るわ」


だが、誇美は進言を断る。


「回避には速度で対応するの。

 ブレーキを有効に使って射線をはぐらかすのよ」


進行角度を変えるよりも、往き脚の速度によって回避を目指すと答えて。


「そうじゃないと。

 また避ける方角を読まれてしまうから」


最初の一発が証明していた。

回避を読まれているという弱点を克服する為に、敢えて回避行動は控える手を使う。


「次の一発を避け切れば、きっと重戦車だって・・・」

「「解りました!避けてみせますよ」」


次弾を回避出来れば・・・と、誇美が言うと。

操縦を託されているミルアは全力で回避すると答える。


「・・・頼んだわよ」


だけど、誇美の意図していたのは別のことだった。


「美晴が操っているのなら。

 外すのが分かっていても撃つだろう。

 撃った後は、外しようも無い所へと詰め寄るよね」


回避が成功したとしても、接近し続ければ。


「三度目は・・・無いのかもしれない」


解っている。

魔砲の使い手は、最初の一撃は様子見として放つのを。

相手の能力を見定める為に、敢えて必殺弾を撃たないことを。

そして二撃目は、命中を狙いながらも敵への警告とすることだって。

もしそこで敵を倒せなければ。

敵のふところへまで詰め寄り、今度こそ必中必殺の一撃を見舞う。

誇美が3度目は無いと言ったのは、回避することが出来るのは二度までが限界だということ。


「あの砲が3発目を撃つ前に、決着を図らねばいけない」


速度を緩めず、斜め方向からの接近を続ける魔鋼騎マチハの中で、誇美は勝利へと必至の策を執る。



照準器に中戦車を捉え直した。


「フン・・・回避行動は執らないつもり?」


真正面からの突貫ではなくなったが、射撃を惑わす行動を執らずにいる敵に。


「斜め方向から回り込むつもり?

 そんなこと、させる訳がないでしょうに」


照準点を中戦車が進む方向へとずらして。


「先ずは。足回りを潰してあげようか?」


斜め側面を見せている車体の下部へと照準を絞る。


「知っている?

 無限軌道キャタピラって、意外と簡単に外れるのよ」


外れたにしても砲弾の爆発でキャタピラにダメージを与えられるように、弾種を榴弾へと変換させる。

装填されていた魔鋼弾が、わざわざ爆発半径の広い触発信管の榴弾へと再装填された。


「地面に当たっても弾ける榴弾。

 これであなたの足を挫いてあげるわ」


重戦車の目指したのは、マチハの擱座。

片側のキャタピラを切って、動きを止めようとしているのだ。


「当たっても、当たらなくても。

 側面だったらダメージを与えられるんだからね・・・クククッ」


照準器に映り込む中戦車は、車体の斜めを見せている。

車体前方の下方へと倍率を高めて狙いを絞りつつ、


「あなたの足を挫いて。

 その後で・・・ゆっくりとトドメを刺してあげる」


舌なめずりをして、発射把併に指を添えるのだった。



 ドガッ!ギャララッ


砂を噛み小石を捲き、魔鋼騎マチハは突き進んだ。

敵の重戦車との距離は、400メートルにまで近寄った。


「もう、装填は終わっているでしょうね」


モニターに映される重戦車の砲身が、完全にこちらを捉えているのが観て判る。

それなのに、未だ発砲する気配が見られない。


「こちらの考えを読もうとしているのか。

 それともこの一発で勝負を決めようとしているのか」


様子見の一発で、マチハの能力を推し測った筈の重戦車。

この距離からの一撃では回避されると読んでいるのか、発射を控えているとも思える。

初弾で命中させた腕前からも、必中を狙っているとも考えられるが。


「こちらに撃たせようとしているとも考えられるけど」


そもそもが、敵の重戦車は停車したままなのだ。

マチハが狙いを付けるのは容易い。

高初速の魔鋼弾でなら尚更に、命中させることも出来よう。


「だけど、命中させられたにしたって。

 相手にどれ位のダメージを与えられるか分からない」


発砲する事に依る対価を考える。

走行射撃に依る命中は、狙った箇所に当るかは分からない。

もしかすると命中しても、最初にマチハが被ったように軽微な損害だけで終わる虞がある。

それに対し、もしも重戦車が発射のタイミングを捉えて撃ってきたのなら。


「発砲の瞬間、こちらは無防備状態になる。

 速度を緩めて狙いを絞っていたのなら。

 回避運動も速度を変えることだって出来ないんだから」


敵弾を避け切れずに被弾してしまうだろう。


「だからと言って、このままじゃぁ。

 至近距離からの一発を喰らうことになっちゃう」


何も手を打たないでいたのならば、終いには必殺の弾を受けることになってしまうだろうことぐらい、女神でなくても判っていた。


「何を狙っているのか。

 どこを狙っているのかを、見出さなくては」


接近するに従い、誇美は焦りを感じ始めていた。

相手の射撃術は魔砲少女を彷彿とさせている。

狙った箇所へ的確に当てて来るだろう。

だとしたら・・・被弾は必至。


「どこを狙う?何を目論んでいるの?」


発射を控えているであろう重戦車の狙いは何にあるのか。


「一撃で勝利を掴めるには?

 マチハが動いている限りピンポイントへは当てられない筈よね」


自問する誇美が、モニターの重戦車を観測して気付く。


「砲身が・・・水平に近い。

 いいえ、俯角を執っているようにも見える」


重戦車の車高は、マチハよりも高かった。

車体に載せられる砲塔も、そこから伸びる砲身も、マチハより高い位置にある。


「車体下部を狙っている?

 砲塔や車体中部を狙わずに?」


当て易く、命中面積の広い車体中部への照準では無いと判る。


「下部と言ったら、車輪かキャタピラ??

 若しくは・・・足回りを壊す気なのね!」


敵の照準が下方に在ると観た誇美が、その意図を読み切った。


「やはり、二撃目では撃破を狙っていない。

 動きを停めてから、勝負を決めるつもりね!」


それならば、敵を逆手に取ることだって不可能ではない。


「もしも私の勘が当っているのなら。

 次の一手が勝敗を決めることになる!」


モニターに捉えている重戦車を睨み、次の一手を考えた誇美。


「リーン様。お願いがあります」


そしてマチハの守り神へと頼むのだった。




黒い翳りが澱む車内で、砲架の動きが停まった。


「さぁ。その足を停めてあげる」


照準は完璧。

狙った箇所への着弾は間違いない。

発砲すれば、中戦車にダメージを与えられるだろう。


「クククッ!覚悟は良いわね、女神」


発射把併に添えている指が、引き絞られる・・・寸前。


「なッ?!なにぃ?」


照準鏡に捉えていた中戦車に異変が。


蒼き輝を放っている紋章が、一際輝きを増したのだ。


「くッ?!そんなコケオドシにはのらないわよ」


一瞬だけ、躊躇したが。


 クンッ!


発射把併を引き絞る。


 ドッ!ダッダァーンッ!!


真っ赤な火を曳く曳光弾が砲口から飛び出して、真一文字に中戦車へと飛んだ。


「ば?!馬鹿なッ」


その紅い弾を観測していた翳りが、驚愕の叫びを吐く。

そう。

有り得ない動きを見せる敵に対して。


「自分から弾に当たりに行くなんて?!」


命中が避けられないと思ったのか?

自ら被害を被る気なのか?

いいや、己から滅びを受け入れるとでも言うのか?

重戦車に宿った翳りを孕んだ魂が、曳光弾の伸び行先を見詰めて想った。


発砲と同時に車体を射線へと向けた中戦車に戸惑いながら・・・

闇堕ち美晴VS芽吹きの女神コハル!

遂に相手が誰なのかが分かってしまった両名が、決戦を挑む!

なんとしても勝利を掴み取りたい誇美が次の攻撃に際して女神リーンへと願った。

その願いとは、果たして?

一方の重戦車を駆る闇堕ち美晴が、狙い済ました二発目を発射する。

勝利を確信していた弾の行方は?!


次回 チャプター3 戦禍の運命<絶望を希望へと換える為に>Act9

爆炎が巻き起こる中、君が観たのは勝利へと導く異能なのか?!

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