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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター3 戦禍の運命<絶望を希望へと換える為に>Act3

誇美の指に填められた翠の指輪。

絆を途絶えさせないように贈られた、想いの篭ったアイテム。

そしてそれは現世と魔界を繋ぐ、唯一つの接点。

焦燥感を滲ませる女神ペルセポネーの声が、彼と伴侶に届けられる・・・

美晴ミハルの指に填められた翠の指輪。

片時も外さなかったのを汲んで、誇美コハルも填めたままにしていた魔法のリング。

離れても想いを寄せ続ける人へと贈った、魔力の籠った秘密の指輪。

現世との唯一と言って良い繋がり。

いいや、現世で生きる美晴ミハルとの唯一の接点と言うべきだろう。


その指輪から送られる悲痛な声が、王宮の一室に流れた。

穢れた世界に君臨する王と、その配下達に因って光の御子が貶められた可能性があると。

信憑性は確たるものではないが、美晴ミハルに宿る女神コハルが偽りを語るとは思えなかったのだ。


「悔しいけど。今の私にはちからになってあげられない」


光が満ちる部屋の中で、王妃は力なく呟く。


「あと少し・・・我慢し続けねばいけない」


闇色の髪を震わせて、赤紫色の瞳で見詰める。


「ここで禁忌を犯せば。

 これまでの辛抱が無為になってしまうから」


視線の先には、贖罪を遂げんとする王が居る。


「陛下が大魔王の務めを果たし終える前に。

 贖罪を終える前に・・・他界へ干渉する訳にはいかない」


贖罪の間と呼ばれる宮殿内の一室で、王と王妃は罪穢れを償う為に閉じ籠っていた。

臣下の奏上を聞くのは王妃が務め。

有事に際しては王が命を下し、王妃が勅命を与える。

幸いにして大きな騒乱は起こらず、半年以上の間、王が部屋を出ることは無かった。


「この贖罪の間で過ごした年月としつきを無かったことには出来ないの」


前の大魔王デサイアが造ったという贖罪の間。

この中では通常の時間の流れとは違い、数倍もの速さで時が刻まれる。

但しそれは外部と隔絶した部屋の中で過ごす時間が早くなったのではない。

室内での時間は現実世界と何も変わることが無い。

つまり、贖罪を遂げるには相応の時間が必要だということの表れでもある。

隔絶された空間の中で、王と王妃は数年もの間償わされて来たのだ。

それが漸く実を結ぶ時が近付いていた。


光の御子へと昇華した美晴の危機にも手助け出来ず、焦燥する誇美を導く事も叶わず。

只、黙々と王宮の部屋で年月を重ねて行くだけだった。そうして過ごす内に。

青年王は偉大なる大王へ。

うら若き妃は淑女たる王妃へ。

声色も姿さえもが、現実世界の半年間という短期日で様変わりしていたのだ。


「例え大切な者に危機が迫るとしても・・・救援にも赴けない」


王妃は身を斬り刻まれるような感覚に焦燥感を滲ませ。


「そうでございましょう、我らが陛下。

 ・・・ねぇ、私の愛する大魔王様」


玉座の王に伺いをたてる。

心より慕う大魔王の考えを確かめる様に。


「辛いか・・・王妃よ」


その想いを汲む様に、大魔王が質して来る。


「・・・誤魔化しても無駄ですわね、陛下あなたには」


黒のドレスを翻した魔王妃が玉座へと向き直り。


「光の御子への暴挙。堕とす程の責めを加えるなど、言語道断。

 今直ぐにでも、穢れし王を討ちに往きたいくらいです」


ふるふると身体を震わせて応える。


「そうか・・・やはり同じ考えだったか。

 俺と似た者同志だな、王妃となった今でも」


怒りを表情に現わさず、威厳を放つ王の顔が僅かに綻ぶ。


「畏れ多い。恐懼しますわ陛下」


ドレスを摘まみ上げて会釈する王妃もまた、淑女の顔に薄く笑みを浮かべる。


「ですが陛下。

 わたくしめが討伐に向かうにしても禁忌に触れるのでしょう?

 現世に関われば贖罪を果すことが出来なくはありませんか」

「その通りだ、王妃みはる

 喩え光と闇に身を別ち合った仲だと言っても関与は出来ぬ。

 他界への干渉は、贖罪の妨げとなるのが必定」


永遠の誓いを起てた王と王妃にあっては、片方が罪を負えば同罪となる。


「それではやはり救いには行けないのですね」


手を出すことは出来ない・・・のかと、王妃が臍を噛む。


「もう暫しの間、時を待とう。

 現世に降りた妹が手を尽してくれているのだから」

「・・・は?!

 そうでしたわね、陛下の妹君が降臨されておりましたわね」


大魔王が言う妹の存在。

闇の妃ミハルがハッと我に返って大魔王へと訊く。


「あのコハルちゃんが。

 シキ陛下の妹君いもうときみだったのを忘れていましたわ」


女神に昇華していた大魔王姫の今を。


「ああ。あれも漸く戦女神らしくなってきた。

 理を司る女神には遠く及ばないが・・・な」

「ミハル伯母様と比べる方が間違っていますわよ?」


冗句を溢すシキ王に、闇のミハルが混ぜ返す。

暫し二人が見つめ合い、頬を緩めていたが。


「フ・・・それにしても・・・だ。

 穢れた空間を造った奴が、堕とした御子をどうする気だろうか?」

「それでございますが。

 現世を狙うやからが堕とすだけで留めるでしょうか」


次なる事態を想像し、危惧を話し合う。


「恐らくは。堕とした娘を利用するかと思われます」


王妃は穢れた王が何を企んでいるのかを推測して。


「現世への干渉を目論み。

 その邪魔となる者を抹殺・・・若しくは捕えようとするかと」


更なる惨禍が起きることを予想する。


「うむ。俺もそうだろうと読んでいるのだが・・・」


大魔王は現実世界へと干渉することが出来ない我が身をもどかしく思うのか。


コハルに教えることも出来ないなんて」


何かを介してでも知らせたいと願う。


「そうですわね・・・うん?そうですわ!」


と。

考えを巡らせていた王妃が思いついた。


言伝ことづてを頼むのは如何でしょう?」


そして大魔王の妃が発案した策とは・・・




保有車両の整備が行われている中、テントで休息を得ていた美晴コハルが起き上がった時。


「なんだ。寝ていなくて大丈夫なのか?」


扉代わりの幕を引き開けて入って来たのは。


「あ・・・マリア中尉」


特務要員達との会議に赴いていたマリア小隊長だった。


「悪い夢でも観たのか。眼に隈ができてるぞ」

「え?あ・・・そ、そうですか?」


咄嗟に泣き隈があるのを見つけられて、慌てて顔を背けてしまう。

焦る美晴コハルの傍にマリアが座って。


「今は二人だけやし。日の本語で話そうや誇美」


柔らかな声で勧める。


「え?あ・・・うん」


柔らかな声に、美晴コハルは頬を緩めて頷く。


「なんか気になる事でもあったんか?

 あの日以来、ずっと塞ぎ込みっぱなしやないか」

「あの日・・・マリアさんには分かっちゃってるんだね」


傍に腰かけたマリアの声が、心労でふさぎ込む誇美に質す。


「コハルのことや。きっと美晴みはるに関してやろ?」

「う、うん」


巧く否定出来なくて、思わず頷いてしまった。


行方ゆくえの情報でも掴んだんか?」

「う・・・ううん」


穢れた世界へと救出に向かうのが、誇美の目的だったのをマリアは覚えていて。


「邪操の機械がどこから現れるかを聞いたんか?」

「ううん」


出現地点が異界との接点だと分かっているから訊いて来る。

だが、女神と言えども判り得ないのが実情。


「手がかりは・・・掴めへんのやな」

「う・・・う・・・ん」


だけど、最後の質問には声を濁してしまう。


「今現在。美晴みはるはどうしてるんや?」

「う・・・うん。それは・・・」


助けられない焦りと不甲斐なさに、心を乱している誇美が思わず。


「穢れた世界で。邪なる王に貶められて・・・」


教えてはいけない人へと漏らしてしまった。


「貶められた・・・やと?どう言うことなんや?!」

「え?!あ、いやそれは・・・その」


急に肩を掴まれ、驚きのあまり目を見開く。


「本当の事だとは言い切れないんです。

 もしかしたらって話で、確証はないんですから」

「冗談や嘘でそこまで憔悴せぇへんやろ!

 女神な誇美が偽りを見破れん筈がないやろ~に」


肩を強く掴まれ、射る様な瞳で見据えられる。

拒否したいが、心の奥では受け入れ始めている自分が居るのが余計に動揺を煽る。


「判らない・・・ホントに。判りたくないんです」


だから、知らずに言葉が肯定を表してしまった。


「諦めないって美晴みはるは言ったんです。

 穢れた世界に独りで残った時にも・・・委ねて来たくらいですから」


別れた時に聴いた声を、マリアへと教える。

光の御子としてではなく、希望を諦めない人として邪悪に対峙した勇ましい姿を。


美晴ミハルは・・・あの子は。

 いつも諦めずに・・・希望を捨てなかったんや」


誇美の声で掴んでいた手を放し、苦し気に吐露し始めるマリア。


「あの美晴ミハルが・・・堕ちるなんて。

 どんなに苦しくったって、辛くったって立ち上がり続けたんやで。

 それが・・・そんなのある訳ないやろ・・・なぁ、女神はん?」


悔しさに唇を噛み、辛さで目元に涙が湧いている。


「ウチは認めへんことにするで。

 あの子が邪悪に屈する訳があらへんのやから」

「・・・マリアさん」


頬に流れ落ちる涙を振り払い、気丈な声を出すマリアに。


「私だって認めたくないです。

 だって・・・この躰は未だに健在なのですから」


同調する誇美。


「だってほら、私。

 美晴みはるへ身体を還しちゃいないんですから。

 喩え邪悪に染まったとしたって、必ず連れ戻してみせるんだから」


最後には必ず、助けてみせるんだと示してみせる。


「だから・・・マリアさん。

 美晴ミハルのことを悪く言わないであげて。

 喩え邪悪に屈してしまったとしたって、見捨てないであげて」


二人の願いは同じなのだと教えながら。


「分かってるんや。言われんでも判っているんやで誇美」


震える声で願う誇美に、マリアは手を重ねて同意を表す。


「きっと美晴にも。

 ウチ等の想いが届いているやろうし」

「・・・うん」


二人は手を取り合い、そうであるのを願う。

僅かでも希望を捨てず、諦めずにいてくれることを願わずにはいられなかった。


「だから誇美。

 ウチ等は闘い続けるしか無いんや。

 邪悪に打ち勝つ為にも、平和を求める人の為にも!」

「うん!負ける訳にはいかないですね」


囚われの御子を救う為。

闘いを続ける覚悟を決めて・・・


誇美の想いを知ったマリア。

心労と焦燥でやつれて観えるが、想いは断たれていない。

いつの日にか、きっと願いが叶えられる・・・その日が来ると信じて疑わなかった。

一方、連戦の八特小隊に命令が下される。

補給と整備の為に、一時的な後退を認められたのだ。

明後日には戦線から離れることになる小隊では、隊員達が休暇を待ち望んでいたのだが・・・


次回 チャプター3 戦禍の運命<絶望を希望へと換える為に>Act4

救う為には、どちらかの絆が断たれようとも闘わねばならないのか?

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