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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター2 明日への咆哮 20

突然の光弾が大地を切り裂く。

国境を越えて飛んできた弾が、無慈悲に爆焔を撒き散らした。


危機感を覚えたミルアが車長席を振り返った時に観たのは?

星空に紛れて紅い光弾が降り注ぐ。

花火の様に煌びやかな火の玉が地上に落ちると、猛烈な爆焔と化した。


地鳴りのような轟音。

上空から落下して来た火の玉が破裂すると、地面に穴を穿ち鉄片を辺りに振り撒く。

それは空から落ちて来る光の玉を見上げていた者を薙ぎ払う。

何が起きているのかを考える余裕すらなく、爆焔と爆風を受けて斃されていくのだ。

紅い光弾は、逃げることも隠れる術も持たない者を殺戮する為に降り注ぐ。



気が付いた時には、辺りの状況が一変していた。

光の玉が国境付近に墜ち、猛烈なる爆発を伴って炸裂し続ける。


「「三号車!直ちに小隊へ復帰しろ」」


緊急発進に続けて、隊内無線がマリア中尉の命令を伝える。


「「状況の把握の為。補給を受ける為にも。

  ここは一時、撤収する事にする。全車反転180度!」」


身近に落下して来る光弾は未だ無いが、いつ振って来るかは分からない。

戦車の装甲は前や側面に重きを置いてあり、上面は比較的薄い。

上空から降って来る砲弾が直撃すれば貫通する虞があるし、至近弾を受けてキャタピラを切られて行動不能となる可能性もあった。


「「3号車、私に続け!」」


状況の把握をするには踏みとどまるよりも後退した方が良い。

後方に下がってから敵状の観測に勤め、即応の態勢を執るべきだろう。

指揮官であるマリア中尉が撤収を命じたのには、そのような考えであったと思われる。


「車長、ミハル少尉。返答しないと」


命令を聴いたミルアが、応答しようとしない美晴へと忠告する。


「・・・うん。そうだったよね」


力ない声が車長席から帰って来る。

先の射撃からずっと、心に瑕を負ってしまっているからだろうか。


「しっかりしてください車長。

 今は非常事態なんですから!」

「・・・うん」


気を利かして取り成そうとするミルアが声をかけても。

美晴コハルは後方ばかりを気にしているように観えた。


「敵弾が気になるのですか?」

「・・・そうね」


既に反転し終えていた3号車の後方には。


「ハーネットの戦車が・・・」


小さな声で美晴コハルが言った。


「煙を噴いているハーネットの戦車に。

 紅い玉が近寄ってきているの」


その声に、ミルアも後方観測用のレンズにモニターを併せる。


「あ?!」


既に砲火だと認識している光弾が、今しがたまで居た場所へと近付いて来ていた。

もしも、光弾の降り注ぐのが数分も早かったのなら。


「ハーネットも私達も。

 あの光の玉に飲み込まれてしまったかもしれない」


モニターを注視している美晴コハルが言った。


「闘いの証拠も。あそこで果てた魂さえも。

 破滅の爆焔で覆い隠そうとするかのように」


美晴コハルが押し黙っていたのは、悲壮な闘いが齎した疵が原因ではなかった。

散華した魔法少女達の魂を悼んでいただけではなく。

闘いの痕跡諸共、破壊し尽くそうとしている砲撃を憎んでいたのだ。


「死者を冒涜するかのように。

 戦いが終わろうとしていたのに。

 あの光の弾によって、新たな戦闘の火蓋を切られてしまった」


これ以上の闘いが不必要だと言いたげに、美晴コハルが吐き捨てる様に呟いた。


「これがハーネットの言っていた巨悪の存在という物なの?

 双方の国に災禍を齎す、非業の砲弾だというの?」


モニターに映し出されるのは、弾幕射撃によって炸裂し続ける爆煙。

その猛火と黒煙がハーネットが宿っていた戦車を飲み込んでいくさまだった。


「まるで私達の闘いが終わるのを待っていたかのよう。

 敵味方から邪操戦車の痕跡を絶って。

 フェアリア側からの攻撃であったように見せかけているみたいだわ」


闘い倒したのは、確かに旧式なフェアリア製の戦車だった。

邪操の痕跡を消せば、傍から観ればフェアリア軍の保有戦車だと思えるだろう。


「と、言うことになれば。

 ロッソア軍から観れば、フェアリア軍からの攻撃を凌いだと言える。

 数両の戦車を破壊し、陣地を守ったということになる」


この戦闘を防衛した側としておおやけに発表し、戦闘の正当性をプロパガンダするのなら。


「これを期に、侵攻を拡大しようとする者が居るということ。

 ロッソア軍の中に、戦争へと発展を目論む邪悪なる者が存在している証」


ハーネットの憂いが現実のものとなり、二つの国が干戈を交えようとしている。

それを防ぐ手立てが見当たらないのが現状だった。


「でも、ミハル車長。

 私達の戦闘は、ロッソアの将兵だって観ているのですよ。

 現実を捻じ曲げても、嘘だと直ぐに証言されてしまうのではないですか?」


それまで黙って操縦に徹していたミルアが口を挟んで来る。


「ロッソア軍を襲った邪操戦車を倒したのが。

 フェアリア側の戦車だと証言してくれると思うのですけど?」


操縦に専念していたミルアが訊く。

既に後方を映したモニターから眼を放してはいたが。


「一つ言っておくわミルア。

 最初に光弾が着弾したのはどこだったか覚えてる?

 爆焔が瞬き始めたのは、どこからだったかしら」

「え?!ええ~っとぉ・・・ハッ!」


思い出したミルアが、再び後方観測用のレンズにモニターの画面を切り替える。

そこに映し出されていたのは。


「あ・・・越境して来たロッソア軍陣地が?!」


少し小高くなっている国境付近。

元々がフェアリア国境警備隊が滞在していた建物が崩れ去り燃えている。

そこを占拠して陣地に使っていたロッソアの侵攻部隊。


「まさか、自分の国から攻撃を受けるだなんて。

 思わなかったんじゃないのかしら・・・」

「うっ?!」


モニターには盛んに炸裂し続ける榴弾とロケット砲弾が映し出されている。

八特小隊が引き上げても続き、国境周辺はクレーターだらけになっている。

そこに塹壕を掘って守備に就いていた将兵が無事である保証は無い。


「侵攻していた部隊が撤退した様子は伺えなかった。

 邪操戦車の襲撃で応戦態勢を執っていたのも分かっている。

 私達が交戦している最中でも、逃げずに踏みとどまっていただろう」

「それなのに。なぜ同士討ちのような砲撃を?」


同胞が守っている陣地に向けて撃ちこんで来たのか。

ロッソアの後方部隊は、現場の状況を把握できていなかったのだろうか。

侵攻先遣部隊が交戦もせず無傷の状態にあることが分らなかったのか?


「事前に相当の準備をしていないと、これ程の攻撃は出来ない筈。

 それに、タイミングから観て思うんだけど。

 砲撃する部隊に連絡を送った者が存在しているんだと思う」


疑問を投げかけたミルアに答える代わりに、美晴コハルが事実を元に憶測を話す。


「タイミングですか。

 現れた邪操戦車隊を撃破出来た後・・・ですよね」

「そうね。マリア中尉とミーシャ少尉が残った二両を撃破した直後だった」


出現した邪操戦車が撃滅されたのを、何者かが砲撃して来た部隊に通報したのだとも思える。


「電話や無線だったら、傍受される虞がある。

 味方が維持している陣地への砲撃を敢行したのだから、知られてはならない。

 況してやフェアリア側には絶対に知られては不味い。

 それならばどうやって・・・」


夜間で見通しの悪い中、国境付近の丘陵を跨いで状況を把握できていたとは考え難い。

戦車戦が展開されていた草原を見渡せれる場所があるとすれば、侵攻部隊の居た丘の上ぐらいだろう。

それに拠って考えられたのは、砲撃を受けた部隊の中に内通者が居たということ。

それともう一つ、理由は判り兼ねたが、砲撃の開始を知らせたことだ。


「昔ながらの狼煙のろしだったり、篝火かがりびみたいなものだったのかな」


後方の砲撃部隊に知らせるには、事前に打ち合わせていた方法がある筈。

それが分れば、この砲撃がロッソア側の自演だと証明できるのだが。


「あ?そう言えば!」


記憶を辿っていたミルアが思い出す。


「ミハル車長が邪操戦車へと向かった時でした。

 ロッソア陣地の方から光が瞬いた気がしたのです」

「光?」


一瞬で消えた光の事を思い出し、あの光が信号だったのではと思い至った。


「そうです!ただの一度だけでしたが、確かに光が観えました」

「発光信号の類だったのかもしれないわね」


前線部隊からの光が、後方部隊にとっての信号であった可能性は高い。

だが、僅か一度きりの光で砲撃を開始できるのか?

砲撃を命じた指揮官が戦線を拡大する意図があるとでも言うのか?


「もし、敵の指揮官が国境紛争を侵略戦争に拡大しようと謀るのなら。

 この後に待っているのは・・・」

「そんなまさか?!」


一人の悪意ある者により、戦闘が激化してしまうと懼れた美晴コハルに対し。

この後、敵軍が雪崩の如く押し寄せて来るのではないかと怯えるミルア。


「この砲撃が準備射撃じゃぁないことを祈るわ」

「ロッソア軍が越境攻撃を仕掛けるだなんて」


今迄は両国の国境線問題から起きた紛争で収まっていた。

それが本格的な侵略になるかもしれないと懼れるミルア。


「仮にロッソア軍が攻撃を始めたにしても。

 フェアリア側が防衛に徹したら防げる筈よ。

 だって、今は未だ一軍の指揮官が暴走したに過ぎないのだから」


だけど、美晴ミハル少尉からの言葉で落ち着きを取り戻せた。


「そう・・・そうですよね。

 ロッソアが宣戦布告してきた訳でもありませんからね」


無理やりに納得させたのか、ミルアは冷や汗を掻きながらも状況が改善するだろうと言って。


「一時的には攻め込まれるかもしれませんが。

 外交を通して決着をみるかもしれないですし」


戦線が拡大しないことを願うのだった。


「そうね。

 この戦闘を通じて見聞きしたのを、彼女が黙っている筈も無いから」


そして。

危惧を話した美晴によって締め括られる。


「今夜の戦闘だけではなく。

 誇美コハルの闘いを通して、真実を暴いてくれると信じてるわ」


まるで自分を他人の様に話して。


「ふぅ・・・同じ女神だって言うのに。

 仮宿りするのも疲れるわねぇ・・・ペルセポネー?」


・・・は?!


「う・・・うう~ん。あれ?私ってば、何か話してた?」


・・・へ?


「審判の女神リーン様の声が聞こえていたようだけど?」


・・・あ?


「ちょっと?ミルアってば。

 どうして痛い目で見てるのかな?」


・・・乗っ取られていたのですか、美晴コハル少尉は?


「ねぇ、ちょっと。何か言ってよミルア?」

「はぁ。道理で何時になく思慮深いとは思いましたが」


どうやら状況の把握を一役買われたリーン様が、美晴コハルの身体に乗り移っていたようだった。


「なにか。棘のある言い方をするわね」

「いえ。いつもながらミハル少尉って、損な女神なんですね」


溜息を吐くミルアに、納得できていない美晴コハル


「しょうがないでしょ。リーン様の方が上級神なんだし!」


魔鋼騎に宿る女神には太刀打ちできないからと言い訳すると。


「でも。しっかりと聞かせて貰っていたから。

 今後の展開も、大体の予測が出来たからね」

「さすが!上級神様は損な女神を導かれるのに長けていますね」


以後の収去を計れるようになったと話した誇美に、ミルアの突っ込みが炸裂した。


「・・・まぁ、本当だから反論できないけど。

 今回の戦闘はこれにて終了ってこと。

 今は後方に退き、状況に応じた作戦を練るに徹するべきね」


軽口を交えて対応策を練るべきだと言う美晴コハル


「そうですよね。今はどうするべきかを問う前に。

 相手側の出方を観るべきだとは思います」


先程までとは別人のようになった美晴(コハル)を観て、少し元気を別けて貰えたような気がするミルア。


「それじゃぁ。これからどうしますか?」


操縦桿を握り直し、アクセルに籠める力を増して。


「そうね。小隊の最後尾で続行して」

了解ラジャッ!」


後方の砲撃は、流石に勢いが無くなっていた。

穴だらけとなった草原と丘。

各所で砲弾穴が出来、辺りが煙に覆われて。

そこでどんな悲劇が起きたのかを覆い隠していた。


未来あすが来れば。

 夜の闇が払われ、朝日が昇れば分かるだろう。

 今夜、この地で何が起きたのかが・・・」


モニターの片隅で。

金髪の女神が憂いていた。


未来あすを奪われた者達がいることを知らせるだろう」


人同士の醜い争いを嘆きながら。


「こうなる事を防ぎたかったのではなくて?

 あなたがこの地を訪れたのは・・・

 不必要な殺戮を求めた訳では無いでしょう?」


彼女あなた>と呼ぶ者により、戦いが防げたのではないかと。

戦場へと来た<彼女>に因って、凄惨なる戦いが無意味とならないように願い。


「現世の女神は・・・果たして何を求めるのか?」


審判を司る女神のリーンが、答えを欲していた。


戦闘は新たなる局面へ。

ロッソア軍に巣食う闇が牙を剥いた。

侵略を正当化する為なのか。

戦いを非情なる物へと深化させようと目論むのか。

砲撃はさらなる戦いへの序曲となる・・・


次回 チャプター2 明日への咆哮 21

女神が言った<彼女>とは?身分を隠した王女もまた、戦いの趨勢を慮るのだが・・・

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