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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター2 明日への咆哮 17

抗う敵に突貫する魔鋼騎マチハ。

勝負の行方は未だ決まってはおらず。

本当の勝利に向って突き進む誇美の作戦は?

緩慢な後退を続けている邪操戦車に、飛んで来た砲弾が突き刺さる。


 ゴッ!


車体正面下部に食い込んだ弾が容易く装甲を貫いて。


 ガゴンッ!


前輪に連結する変速装置を破壊した。


 ギャリッ・・・ガガガッ!


途端に邪操戦車の行き脚が止められて。

意図しない停止に、駆動輪から送り出されていたキャタピラがたわんで外れ落ちる。

地上との接点であるキャタピラを外され、前にも後ろにも、右も左にも動くことが出来なくなった。

それは攻撃も回避もままならなくなった、無力な戦車の姿。


 ギュリッ!


でも、走行が不能となっただけで闘えなくなった訳ではない。

被害は発動機エンジンには及んではいない。

エンジンが動き、電力を供給し続けられているのなら砲撃が可能だったから。


正面装甲に穴を穿かれた邪操の戦車は、開口部から薄く煙を吐き出しながらも砲塔を旋回させ続けている。

その姿は、死に瀕した巨象のように。死に抗う生きとし生ける者を代弁するかのように。

己に破滅を齎そうとする悪魔へと、最期の抵抗を表すかのように・・・


 ギュリギュリ・・・


動く事が出来なくなった邪操の戦車が、敵わずとも一矢を報いんと砲塔を旋回させ続けていた。



発砲すると、命中を確信していた美晴コハルが命じた。


「急発進!全速で接近しつつ邪操戦車の左舷側に回り込んで」


急停止し射撃を終えてから発進まで、その間僅かに数十秒。


「は、ハイッ!」


仕留めたと思い込んでいたのか、驚いたミルアの反応が遅れたぐらいだった。


「次発も信管を作動させたりしない。

 装甲を破る事もしない・・・めり込ませるだけにするから」

「は?それじゃぁ、敵を倒せないと思うんですが?」


次の射撃も内蔵された火薬を爆発させないと言う美晴コハルに、怪訝な表情になって聴き質すミルア。


「倒しちゃったら駄目だから。

 さっきも言った通り、話しかけるのが目的なの」

「まさか・・・本気だったのですね」


女神の異能で語り掛けたいと願う美晴コハルに、今更ながら驚くミルアが。


「了解です!やってやりましょう」


改めて美晴コハルが求める通りに操縦すると答えると同時に、アクセルペダルを踏み込んだ。


 ドギャッギャッ!


急激な加速で再度の突進が始められ、一気に間合いを詰めていく。

動きを停められた敵邪操戦車の砲塔が、狙いを定めようと旋回し続ける。

対してミルアは、敵の右舷側に進路を執る・・・勿論、それは欺瞞だった。

ほんの僅か左に進路を向けたが、


「目標の左舷側に回り込みますッ!」


邪操戦車の砲塔が旋回を辞めたのを観て取り。


「敵、発砲!」


右舷側に進路を逸らしたと思った敵が、それに応じて射撃して来るのを読んでいた。


 ドムッ!


発射焔が瞬き、敵砲弾が側方を掠め去る。

逸った敵が発砲したのを観て、


「敵が次弾を装填するまでに、接近します!」


次の発砲までの間に左舷側に近寄ると報じてくる。


「よし!敵の砲塔旋回が追い付くまでに勝負を決めるわ」


接近を図り続けるマチハと、邪操戦車との距離は100メートルを切った。

もう、倍率を上げた照準器に頼らなくても命中は間違いない。

しかし、美晴コハルの狙いは砲塔の基部というピンポイント。

いくら優秀な砲だとは言え、走行射撃では狙い切れたものでは無い。


「側面に回り込んだら、急停止。

 スタビライザーで揺れが収まり次第に撃つわ」


先程の射撃よりも更に入念に照準を計る。

撃破を狙っての砲撃ではなく、飽く迄も敵の反撃能力を奪い去るのが目的だったから。


 ギャラギャラギャラ!


100メートルから50メートルに。

数秒で最接近を果し終えて・・・


「停車!発砲するわよ」

「急停止ッ!」


以心伝心。二人の粋が合う。

キャタピラが地を噛み、車体の揺れがサスペンションに吸収されて。


魔鋼騎マチハの砲身が的に向けられ・・・


射撃管制システムに頼らず、モニターに大写しになった砲塔基部を睨む。

照準環のど真ん中に、砲塔と車体を繋ぐターレットリングが映し出されていた。

緊張した指先にトリガーが触れて。


「あーったぁ~れぇーッ!」


気合を込めた叫びと共に、引き絞った!


 グワァンッ!


ほぼ、ゼロ距離射撃にも近い距離で放たれた砲弾。

瞬く間も無く邪操戦車に突き当たる・・・と。


 ガキンッ!


砲塔を旋回させる歯車状のターレットリングに食い込んだ。


 ガックンッ!


その衝撃で、旋回途中の砲塔が跳ね上がって傾いた。


「あわわッ?!強過ぎちゃった?」


砲塔を傾けた邪操戦車を観て、想像以上の破壊力に驚く。


「内部の砲弾が誘爆しちゃわないかな?」


搭載されてあるだろう予備砲弾が、衝撃を受けて爆発してしまうかもと怯えたのだ。


 シュウゥ~・・・


だが、砲弾が食い込んだ部分からの薄い煙以外に差し迫った損傷は見受けられず。


「やった・・・かな?」


見事に的を捉えきったのが分って。


「はあぁ~。成功だよね」


全く動かなくなった砲塔と、空回りを続ける駆動輪を観て。


「中には未だ、話せる魂が健在ってことだよね」


闘う術をもぎ取られた邪操戦車を見詰め直して、言い切るのだった。


車体前面下部に穴を開けられ、砲塔を傾けて停止した邪操の戦車。

通常の戦車戦なら、既に大破放棄されて然るべき損傷具合。

人が操る戦車だったのなら、とうに搭乗員は脱出していただろう。


 ギャリ・・・ギャリリ・・・


エンジンは停められず、キャタピラが抜け落ちたというのに駆動輪が空転を続けている。

その様は、まるで死を拒み続ける人の姿にも似て。


「宿った魂が、断末魔の喘ぎを続けているみたい」


ポツリと聞こえるのはミルアの溜息。

宿らされた魂が、無念の叫びを吠えているように捉えているのか。


「どうされますか?

 こんな状態では話し合うことなんて出来そうには思えないのですが」


滅びを拒むかのようにも観える。

苦悶し、呪われた我が身を嘆くようにも観て取れる。

断末魔の邪操戦車に宿る魂が、倒した相手の言葉に耳を貸すとも思えない状況なのを憂いて。


「かまわないわ。このまま左舷に着けて」


杞憂するミルアに、再接近を命じる美晴コハル


「私に任せて。確かめるだけだから」


目的は話し合うことでは無いと告げ、


「どうしても聴きたい事があるの」


この対戦の理由を仄めかすのだった。



 グルングルン・・・


まだ駆動輪は回り続けている邪操の戦車。

その直ぐ脇、二メートルと離れていない所に魔鋼騎マチハが停まった。


「周りに不穏な影は見当たらないし。

 遠方で交戦中の小隊長達も有利に闘っているみたいね」


レーダーと目視によって辺りを警戒し、安全を確認してから。


「周囲の異変に気を配っておいて、ミルア」

「了解です、ミハル車長」


敵状の監視を任せ、危急の時は呼び戻す様に頼んで。


「魔鋼状態の解除。通常戦闘モードに移行して」

「はい。魔鋼機械を停止させます」


今迄、美晴の魔力で動いていた魔鋼機械を停めるように命じると。


「機械停止。魔鋼騎状態から脱します」


 シュウウウゥンッ!


先に車長席で停止ボタンを押し込んでいた美晴に続き、同乗者安全装置の働きで動き続けていた魔鋼機械だったが。

ミルアが解除ボタンを押した事で完全に停止した。

機械に内蔵されている青い水晶体が回転を停め、魔法力抽出による変化を元の状態に戻した。

それに伴い車体の内外が、元の通常状態の戦車へと戻る。


「それじゃぁ、少しの間。頼んだわよ」

「はい。車長も気を付けて」


車内が元の状態に戻されていて、操縦席に居るミルアの少し心配気な顔が覗き見える。


「うん」


大丈夫だと言い聞かせるみたいに、ほんの僅か微笑んだ美晴コハルが、砲塔上部のハッチ把手に手をかけると。


「行って来るわ」


一言を残して車外へと躍り出た。


魔鋼状態を脱した折、誇美の戦女神ヴァルキュリアモードも解除していた。

それ故に、衣服もフェアリア魔法軍戦車搭乗服に戻されていた。


 ザッ!


魔鋼騎マチハから飛び降りた美晴コハルの前に、闘う術を失った邪操戦車が停まっている。

まだ暗い草原に、鋼鉄の塊が蹲っていた。


 ガランガラン・・・グルグル・・・


後部の駆動輪を空回りさせながら。


 ズズ・・・ズズリ・・・


描かれた赤黒い邪操の紋章からは、未だに邪な気が流れ出ている。

それは宿った魂が、まだ滅んでいない証なのだ。


「聴いてくれるかしら?駄目だったら・・・どうしよう」


邪悪な気配を感じて、話を聴いてくれるかが不安になる。


「ううん。気弱になってどうするの誇美わたし


だけど、確かめたい一心で前を向く。


「あの子を救う為なんだから!」


凛とした瞳に力を籠め、


「今こそ。女神の異能ちからを使う時よね」


差し出した右手に神力を集める。


 ザッ!ザッ!


一足ごとに気を高め、一歩踏み出す毎に神力を集中させて。


 スッ!


動きを停めた邪操戦車へと触れる。


 バチッ!


赤黒い邪な異能と、光を纏う清き神力が鬩ぎ合った。


 バチ!バチチッ!!


光を嫌うかのように赤黒きスパークが、美晴の触れた箇所から飛び散る。


「これ以上、あなたに危害を加える気は無い。

 私はあなたと話がしたいだけなの」


語り掛けた美晴の姿は、女神の異能を行使することにより変わっていく。

普段の黒髪が、誇美ペルセポネーの白桃色になり、黒みを帯びていた蒼い瞳がマリンブルーとなり。


「私も魔法使いだから・・・教えて貰いたいの」


更に右手から出されている神力が高まって。


「この中に宿る魂に教えて貰いたいの。

 あなたが居た空間で起きた出来事を。

 あなたに何が起き、どうして宿る事になったのかを・・・」


 ドンッ!


眩い光が邪悪なる翳りに打ち勝ち、紋章から噴き出していた光を止める。


「それと・・・知っているなら。

 教えて欲しいの、穢れた空間に輝が現れなかったかを」


 シュオオォ~ッ!


停止した二両の戦車を浮き上がらせる程の光が現れる。

まるで別世界から来た聖女のような淡き光に包まれて。

身体から聖なる輝を溢れ出した女神ペルセポネーの姿が、そこにあった。

遂に動けなくなった邪操の戦車。

作戦は成功裏に進んでいたが、本当の勝負はこれからだ。

誇美は戦車に宿る魂と交信できるのか?

邪悪に染められた魂が答えてくれるのだろうか?


次回 チャプター2 明日への咆哮 18

君の求めに応じた魂が語るのは?悲運を嘆く苦悶の声だけなのか?

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