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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター2 明日への咆哮 16

小隊長車から離れた3号車。

残された邪操の戦車との対決が始まる。

誇美は何かを確かめると言っていたが、果たして?

小隊長車から離れて直進する魔鋼戦車マチハ

目標の邪操戦車との距離が詰められて行く中で。


「敵が速度を落とした模様。停車して砲撃を目論むようです」


操縦席の観測モニターを通して解った敵状を報告するミルアが。


「このまま直進して大丈夫なのですか?」


戦闘方法を教えて貰いたいと訊いて来る。


「うん。真一文字に突っかかるのは危険だと思う。

 回避運動を執りつつ接近して。良いわねミルア伍長」


間髪を入れず、車長の美晴コハルが指示を下すと。


「被弾回避を行いつつ、敵車輛に近付きます。

 で・・・その後、どうするつもりなのですか?」


大丈夫なのかと訊いた本当の意味を聴き返してくる。


「なんだか今、確かめたい事が有るって聞こえたんですけど?」

「え?!聞こえちゃってたの?」


突っ込まれた美晴コハルが驚いて訊き返すと。


「あ~。あのですね。

 私も一応、魔法を扱える者ですので・・・聞こえちゃいました」

「あ?あ・・・そっか。じゃぁリーン様の声も?」


魔鋼戦車に乗り込むミルアが、魔法力を持つ者だったのを忘れていた。

魔法力を行使する車内に居るのなら、そこに宿る者の存在を感じてもおかしくはない。


女神リーン様って、仰られるのですか。

 お声だけですが、微かに聴けたと感じられます」

「そうなんだ・・・」


秘密にしておくつもりだった美晴コハル

それが知られてしまって動揺したのだが、いずれは明かさねばならないとは思っていたから。


女神リーン様が御宿りに為られているのは・・・」


部外者には秘密にしておいて・・・と、続けるつもりだった。


「誰にも明かしたりはしませんよ。

 魔鋼騎に女神様が二柱も存在してるなんて。

 普通なら想像さえつかない事でしょうけど」


言葉を遮ったミルアからは、秘密を厳守すると約束されて。


「あ、うん。宜しく頼むわね」


肩透かしを食らったみたいに拍子抜けしてしまった。



 ギャラギャラ・・・


高速走行中の振動が二人の間に、束の間の静寂を与える。


「それで?どう確かめるのですか」

「そうね。直に聞いてみたい事が有るのよ」


車内通話装置を介さず、魔法力の助けを借りて直接会話する二人。


「直にって・・・モールスでも打つのですか?」

「ううん。それじゃぁまどろっこしいわ」


敵との交信が難しいのは百も承知。

信号を敵に送っても返信されてくる可能性はゼロに等しい。


「それではどうやって?」


考えても答えが見つけられないミルアが訊く。


「そうね・・・手で触れて。直接話しかけてみようと思うの」


そして返された答えは、あまりにも現実離れしていた。


「手で触れるって・・・そんなの不可能ですよ」


敵として対峙している車両に近寄れることは有っても、触れるなんて無理だと思ったミルア。


「ぶつけることが出来たって。手で触れるのは・・・」


考え付いたのは体当たりを仕掛けることぐらいだった。


「そうね、それも良い戦法だと思うわ」


双方が無傷で近寄れ、体当たりが敢行出来るのなら、それも良い戦法だと考えたのだが。


「でもね、こっちがわざわざ危険を冒してまでやる必要は無いの。

 確かめるには、手で触れないといけないけど。

 邪操戦車が反撃出来ないようにしてからでも不可能じゃないのよ」

「触れられるように・・・戦闘不能にするのですね?」


二人はいとも容易く言っているが、戦闘車両を沈黙させる困難さを判っているのだろうか。

仮に砲撃が不可能になったとしても、無限軌道キャタピラが動く限りは走り回れる。

反対に走行装置が壊れて動けなくなったとしても、発砲が可能ならば撃ち返して来るだろう。

なにも主砲だけの話ではない。

装備されている車載機関銃や対人擲弾が使用可能ならば、停止しているにしても脅威となるのだから。

車体に近寄り、手で触れようとする者にとって。


「それで戦闘不能にするには、どのようにするつもりなのですか?」

「う~んっと。砲撃で動きを停めて・・・」


敵の行動を停めるには、砲戦で相手を打ち負かすのが手っ取り早いのは分かる。


「どこを狙ってですか?」

「え・・・ええ~っと。車輪とかキャタピラとか。足回りかな?」


でも、誇美にはどこを狙えば良いのかが理解できていないようで。


「・・・もしかして。思い付きで言ってませんか?」

「あ・・・えっと・・・あの・・・」


図星を突かれて言葉を濁した美晴コハルに。


「「車体後部にある発動機エンジンを狙うのはしておきなさい。

  まかり間違えば一発で息の根を停める事にもなりかねないわ。

  動けなくするには、車体前部にあるギアボックスを壊せば間に合うわよ」」


要領を得ない早春の女神に、審判の女神が助け舟を出す。


「「発動機エンジンを壊してしまうのは、発電力を失うということ。

  動力源を失って蓄電池バッテリーが放電し尽くせば。

  そこに宿った者の心臓を停めてしまうのにも等しいの」」


機械の宿命にも似た、宿りし者の最期。

戦車に宿らされた魂に訴えかけるのなら、電力を奪うことは慎まねばならないと。


「車体前部にある変速機ギアボックスを潰せば。

 動く事が出来なくなるのですね・・・そっか」


邪操戦車に宿る魂に訊き確かめたい。

女神の異能を行使するには、手で触れなければならなかった。

相手が簡単に触れさせてくれるとも思えない中で。

動きを停めるだけでエンジンの火を途絶えさせてはいけないと諭され、


「後は。どうやって搭載された火器を使用できなくするか・・・だけ」


反撃が可能な状態では近寄れないと思い。


「砲塔が生きているのなら、旋回して反撃するよね。

 それを停めるにはどうしたら・・・」


全周旋回可能な砲塔を搭載している邪操の戦車。

車体の動きを停められたとしても、動力が繋がっているのなら発砲も可能。

近寄る相手に反撃を喰らわせるのは必定だとも云える。


「「あら?だとしたら砲塔を動けなくすれば良いでしょ?」」

「砲塔に撃てって仰られるのですか?そんなことをすれば」


女神リーンがいとも容易そうに言って来るのを、先の戦闘で思い知らされた痛みを思い起こして。


「車体内で誘爆が起きて・・・爆発するかもしれないのですよ?」


エンジンどころか、車体が破壊されかねないと拒否を表したのだが。


「「撃つにしても、もっとピンポイントを狙うことになる。

  車体と砲塔を繋ぐターレットリング。

  そこに砲弾が食い込めば、旋回が不能になるのよ」」


女神リーンは、砲塔を支える基部に打ち込めと言うのだ。


「え?!砲塔旋回部分に・・・当てろと?」


遠方からでは狙う事は出来ても当てるのは至難の業。


「よっぽど近寄らないと・・・ううん、やらないとですね」


旧式戦車を拠り所とした邪操の戦車。

その砲塔基部は10センチほどしか露出していない。

その僅かな隙間に、砲弾を命中させろと言われたのだ。

困難極まりないとも思えたが、頷いた誇美は迷いを断って。


「これから言う通りに動いてミルア。

 あの邪操戦車を停めて・・・話しかけてみせるから!」

「え?!なにか閃いたのですね・・・了解ですッ!」


邪操戦車とのコンタクトを求めて、


「作戦名!後ろの正面だぁ~れだ・・・スタート!」


・・・訳の分からない作戦名称を冠した闘いの幕を切って落とすのだった。

  


 ググ~ンッ!


邪操戦車の砲塔が的を追って旋回する。

砲塔から突き出される主砲が、仰角を擡げて狙いを絞った。

突っ込んで来るのは、知られざる戦車の一両。

ロッソアとフェアリア両国の戦闘車両を纏めた識別表にも載ってはいない、新たなる魔法の戦車。

対峙した3両の内、速度は別として最も強靭で危険な車両なのは、二両を撃破したことでも判り得た。

その新式にして、最も強力な一両が突っ込んで来るのだ。


 最早、勝ち目はない・・・


一騎討ち状態に成った今、邪操戦車に宿る魂が悟るのに大した時間を要さなかった。

同僚車両が接近戦を挑んで命中弾を撃ち込んだのに、大した損傷も与えられずに討ち取られたのを観ていたのだから。


だからと言って、無碍に破壊されるのは恐怖でしかなかったのだろう。


砲身が3号車に向けられた・・・一呼吸後に。


 バガーンッ!


敵わないと知りつつも、邪操戦車は発砲を開始したのだが。

紅い尾を曳く徹甲弾が、突っ込んで来る車体の側方を飛び抜けた。


薬莢が尾栓から排出され、次の砲弾が魂の求めにより装填される。

二の矢が前回の修正後に放たれて。


 バガーンッ!


 ヒュンッ!


またも、当たらずに側方を飛び抜けてしまった。


 どうして当たらない?なぜあの戦車は撃ち返さない?


グングンと近寄って来る新型魔法戦車は、避ける素振りも見当たらない。

自分の射撃が稚拙なのかと、焦燥感に藻掻きながらも射撃を続ける。

このままだと、あと十数秒後には辿り着かれる。

当てても効果があるとは限らないが、せめて一太刀だけでも与えておきたい。

戦車に宿らされて果てた同僚に、報いる為にも。


 バガーンッ!


再度の射撃。これが最期となるも知れない発砲。

近接してきた仇とも呼べるフェアリアの魔鋼騎に、渾身の魔力を込めて放った砲弾だった・・・


・・・のだが。


 シュンッ!


僅かに左側面を通過してしまった。


 ああ、やっぱり。敵う筈もなかった・・・


邪操戦車に宿る魔法使いの魂が、観念を決めて天を仰ぐ。


 消え去るのなら。潰えるのなら。・・・天国に召されたかった・・・


無念の想いか、それとも諦めが最期を求めるのか。

至近距離にまで近寄られた邪操戦車の主砲が諦めを表すように仰角を下げた・・・



速力を増して接近を図る魔鋼騎マチハ。

それに対する邪操戦車は、距離が離れているのに発砲を始めてしまった。

第一撃は、腕前が判る程の的外れな射撃。

続けて撃ってきた次射も、少しだけ進路を変えれば簡単に避けれた。


「「あなたと同じ、新米の射撃手のようね。ペルセポネー」」

「・・・そうみたいです」


モニターの女神リーンが真摯な声で教えて来る。

戦女神の魔法衣を着る誇美コハルが頷く。


「適正も関係なく宿らされたのが判った気がします」


魔砲の異能使いだったら、こんなにも的外れな射撃に終始しないだろうことは、美晴を間近に観て来たから分かる。

戦車の性能からしても、戦車戦を挑める能力が極めて低いと言わざるを得なかった。


「だから・・・後方で待機していたとも云えるのではないでしょうか」


果敢に接近戦を挑み斃された先の一両に比べて、あまりにも稚拙な砲撃だと感じたからもある。


「「そうね。

  だけど、そうだとしても・・・よ。

  最後まで油断してはいけないわ」」

「はい。窮鼠牙を剥くの喩えもありますから」


どんなに相手が弱っているとしても、最後まで油断はならないと気を引き締めて。


「攻撃用意!敵の正面下部に撃ち込む」


砲塔と連動した主砲の狙いを定めて。


「徹甲榴弾の信管を作動させないで撃つから。

 装甲を破って変速機ギアボックスの破壊を目指す!」

「了解ですッ!」


ミルアに射撃を敢行すると告げてから。


「目標はゆっくりと後退中。

 次の砲弾を回避したら撃つから、急停止をかけて!」

「用意、宜し」


射撃のタイミングを教えた。


それは閃く発砲焔を観た後。

僅かに車体を振って回避を終えた瞬間・・・


「今!急停止ッ」

「はいッ!」


魔鋼騎マチハがキャタピラを軋ませて停車する。


ぇッ!」


車体の揺れが収まるか収まらないか・・・のタイミングで。


 ドムッ!


魔法戦車の主砲から弾が飛び出した!

仲間である2両を葬った敵に対する邪操戦車。

自身の戦闘能力では歯が立たないと悟っているようだが。

誇美ペルセポネーは女神リーンの助言を受けつつ挑む。

どうしても彼の車両に宿る魂に訊かねばならないと思い。

破壊するのではなく、話し合う為に無力化を図るのだが?


次回 チャプター2 明日への咆哮 17

交信を求めて近寄るには、闘わねばならない。その時君は何を願う?

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