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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター2 明日への咆哮 13

次なる砲弾が襲い来る!

敵、邪操戦車が虎視眈々と狙い続けるのは3号車。

果たして誇美は勝利を掴めるのか?

射撃を終えた後、速力を増した邪操の戦車。

第一撃が至近弾に終わったのを観て取り、直ちに修正をかけて狙いを定めようとしている。

砲塔を旋回させ、砲身に僅かな仰角を擡げさせて狙いを絞ってきた。


「次射が来る!」


先の一撃を回避出来たのは、ミルアの好判断が齎した結果だった。


「次も、このマチハを狙っている」


先行するマリアの一号車を狙わず、後続している美晴コハルが乗る新型魔鋼騎マチハに狙いを絞っているのがモニターに映し出されていた。

どうして一号車を狙わないのか、なぜ後続する二番目の車両を狙っているのかが、戦車戦に疎い誇美には理解し難かった。


「回避運動を継続する?

 それともこのままマリア隊長が命じたまま直進すべき?」


被弾するのを懼れる誇美が、一瞬躊躇したが。


「隊長車との連携を維持しないと。

 勝手な行動は不測の事態を産むだけだわ」


チラリと対峙する邪操戦車の後方に控える、もう一両を確認して。


「距離は離れているけど、有効射程内に捉えられている。

 下手に動けば後方の敵に狙撃されかねない」


距離と進行角度を観て、単騎での戦闘では無いのを改めて認識する。


「やっぱり。小隊長車から離れないように務めるべきね」


僅か十数秒の間だったが、ミルアとの会話を打ち切り周囲の情勢を顧みた美晴コハルが声に出すのを控えて考えた。


「いつマリア中尉が命じても仕損じない様に・・・」


標的の邪操戦車が次の射撃を行う前にマリアが発動を命じてくれるか。

初弾の正確さから、次の砲撃が命中すると懼れての迷い。

だが、手練れの上官でもあるマリアを信じて命令を守ろうと考え直した。



3面モニターに映し出されるのは、後続する3号車と側方を並走する敵戦車。

後方50メートルの位置を守り続ける3号車を狙う邪操戦車が、砲身を擡げて次の射撃タイミングを狙っている。


「撃つなよ。今、撃つなよ」


双方が共に側面を晒している今。

喩え常識を超える性能を手にした魔鋼騎だと言えども、側面のやや薄い装甲では敵の弾を弾き返すのは難しい。しかも、対している邪操の戦車も魔法で強化された弾を撃ってきたのだ。命中弾を喰らえば、損傷を受けることは想像に難しくない。下手をすれば搭乗員も只では済まないだろう。


「もしもここが整地された場所だったら。

 奴は接近戦を挑んだだろうか?」


先程の射撃を目の当たりにしたマリアが思った。

走行中射撃を敢行して来たのは、戦車戦に疎い者が何も考えずに撃ってきたと考えたのだが。

その精度から観て、間違いだと感じ取っていた。

あの邪操戦車に宿る者はマリアの思った通りに戦車戦には疎いのかもしれないが、射撃に於いては並外れた腕前を誇っている。

まるで<どこかの魔砲少女>が放って来る弾のように、狙い澄ましてくるのだから。


「それとも・・・私達の射程外からの狙撃を好んだのだろうか」


アウトレンジ砲撃によって一方的に攻め、近寄る事すら許さずに倒す。

正に砲戦の冥利に尽きる闘い方。

それが出来るのが<魔砲>の異能ちからを持つ者だと言い切れた。


「奴は・・・魔砲の使い手なのだろうか?」


ほんの一瞬、マリアの脳裏に過った姿。


「まさか・・・な。

 あのが、アレに乗っている訳はない」


魔法で青みを帯びる黒髪。

凛々しく輝く蒼い瞳の・・・


「ミハルが宿る訳がないんや」


脳裏に浮かんだ少女の顏を否定するマリア。

身体を誇美に託した魔砲少女が闇の中に囚われてしまっているのを思い起こし、最悪の場合を想定しない訳はなかった。


「あの美晴ミハルが・・・邪悪なんかに屈したりはしないんや」


漏れる幼馴染を想う心。

大の親友を想う心が否定し続ける。


「だから・・・ウチは負ける訳にはいかへんのや」


そっと、戦闘服の胸元に忍ばせた写真へと手を伸ばし。


「本当の美晴に逢えるまでは・・・」


秘める想いを声にした。


「?!」


だが、次の瞬間。

想いに耽るほどの間も無く、マリアの眼がモニターに映った変化を捉えた。

邪操の戦車と、3号車の位置を一目で確認すると。

両方の戦車が進む路面の状況を鑑みて、この一瞬が最も適したタイミングなのだと判断を下す。


「これから僅かの間、起伏が無くなり車体の動揺が治まる。

 奴ならまず間違いなく、チャンスと見て発砲するだろうな」


揺れが収まることにより、砲身の揺れも小さくなる。

完全とはいかないだろうが目標を捉えるチャンスになると読んだ。


「そのチャンスを生かすも殺すも。

 焦った方が手痛い失策を呼ぶんだ」


相手にとってのチャンスは、こちらにとっても好展開と成り得る。

戦闘に於いては、チャンスをものにした方が勝者となるのだ。


「奴が次弾を込めれるかが勝負の分かれ道だ」


食い入るように見詰めるモニターには、後続する3号車へと砲身を向けた邪操戦車が揺れている。


「・・・いよいよだ。いくぞ美晴こはる


そして小隊長車が僅かな平坦地へと走り込んだ・・・瞬間。


「レノア!左回頭っ、急旋回!」


喉頭マイクに向かって吠える。


「3号車!我と共に一斉回頭しろ」


敵の居る方角へと、車体を急旋回させろと命じた。


「了解ッ!小隊長」


レノアは待ち構えていた命令に即応して車体を切り返す。


 ガラガラッ!ギャッギャッギャッ!


無限軌道キャタピラが大地を噛み、左の転輪が急制動を掛けたのに対して右側の転輪が回転を上げる。

その機動によって車体が大きく左に振られて傾きながら回り込んで行った。


「ミハル・・・ついて来い、遅れるな」


後方を映すモニターを片目で捉え乍ら、マリアが呟く。


「側面を晒した状態から正面を向けれるように。

 少しでも被弾面積を小さく出来るように・・・」


急激な進路変更のタイミングは、懸ってそこにあった。

狙われている美晴の3号車を少しでも守る術があると言うのなら。

マリアが下した決断が間違いではないと言えた。

高い貫通力を誇る魔鋼弾に側面を狙われたら、喩え重装甲の魔鋼騎とは言え不安は拭えない。

どうせなら、一番装甲の厚い正面で受け止める方が幾らかはマシだろう。

そして、敵の射撃タイミングを読み、先手を打つ事を目論んだ。


急激な進路変更は、敵にとっては意表を突かれたと言えたが。

高速走行中に進路を変えるのは、急速に速度が落ちてしまう欠点があった。

しかも狙撃を狙う者にとっては、相手から射撃のタイミングを貰ったような物。

速度が大幅に落ち、急激な進路変更により被弾回避もままならないのだから。


 キラッ!


星明りで砲身が煌めく。

邪悪なる魔鋼の戦車が一両に狙いを絞り切った。



「撃ってくるぞ!」


マリアは気が気では無くなっていた。


「早く!早く正面を向けろ」


3号車の回頭が立ち遅れて観えたからだ。

このままでは正面装甲を向けきれないまま、敵弾を喰らう虞があった。


「早くッ!」


何度か目の急かす声を挙げた時。


 ドダァーンッ!


狙い澄ました邪操戦車の主砲が火を噴いた!


「しまっ・・・!」


後悔の声が吐き出された・・・


 ガッギューンッ!


紅い火の尾を曳いて来た敵弾が、美晴の3号車に吸い込まれるように当たった・・・


 ギィイイインッ!


狙った通りなのか、それとも不本意な弾となったのか。

敵の魔鋼弾が当ったのは、マリアの狙った通りの場所。

戦車で最も装甲が厚いとされる砲塔の正面部分だったのだ。


 シュウゥウ~・・・


破裂した砲弾が白煙を吐き、命中箇所を隠していた。


「大丈夫か?美晴こはる


白煙で煙る砲塔。

やがて煙が晴れた時、マリアは観た。


「これが魔鋼騎マチハの威力って奴なのか?

 それとも・・・誇美めがみの神力の賜物なのか?」


かすり傷しか受けていない、魔鋼騎マチハの姿を。

進路を変えて被害を軽減させようと努めた結果は。

新式魔鋼騎マチハの装甲が敵弾に優った!

砲塔正面に命中した敵邪操戦車の弾は貫通することが出来なかったのだ。

しかし、命中弾は搭乗者に衝撃を与える。

その被害は?損傷度合いは?

かくて戦車戦は非情の結末を迎える・・・


次回 チャプター2 明日への咆哮 14

痺れる身体。震える指先。だが、彼女の指はトリガーを引き絞った!

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