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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター2 明日への咆哮 12

敵との距離を保ちながらの機動戦。

美晴コハルの乗り込む3号車、魔鋼騎マチハは駆けていた。

戦車での闘いが何たるかも知らずに。

無限軌道キャタピラが土を噛み、二本のわだちが残される。

敵味方7両が造り出す14本の溝が近寄って行く。

片方は赤紫の光を挙げ、もう一方からは蒼き輝きを放ちながら。


「こりゃぁたまげた。あれが新型って奴ですかね?」


バックモニターに映る後続戦車を観たレノア少尉が驚いたように訊く。


「いや。あれが魔砲の異能ちからってもんだろうさ」


それに応える小隊長のマリアが。


「確かに新式魔鋼騎には違いないが。

 その性能を引き出せる魔法力を備えている証だ」


砲側監視モニターに映り込む3号車を観て、そう答えるのだった。


「あれが。ミハルの魔法力ってモンですか」


後方監視モニターに大写しになった3号車を横目で見たレノアも納得したように応え。


「やはり、魔砲の属性は伊達ではないってことですね」


頼もし気に<双璧の魔女>の紋章を浮かび上がらせる魔鋼騎へと称賛を述べた。


その画面に映るのは、人を越える魔法力を表した蒼き紋章。

並び立つ者が存在しない、鋼鉄の無限軌道車いくさぐるま


魔鋼の機械が操る者の魔力を以って変えた。

通常時とはまるで別物と変わった車体は、時代を越えた性能諸元を有している。


正面の傾斜装甲は増厚ぞうあつされて、通常徹甲弾なら10センチ級の弾を跳ね返せる。

装甲が増したことに因る車体重量に対応して、エンジン出力も大幅に強化された。

エンジン部分が大型化したことで、それに応じて車体長も幾分か伸び。

その重量に耐えれるサスペンションへと替えられている。

そして最も眼を惹くのが、長大な砲を突き出す砲塔部分。

通常時でも低く傾斜していた楕円形の砲塔だが、更に洗練されていた。

砲が突き出た砲循ほうじゅんが平らになり、その周りは絞り込まれた傾斜部に代わって。

真正面から観た印象は、きつい傾斜を持つ長四角形。

その正面装甲から続く側面部が張り出し、側面後部へと絞り込まれていっていた。

つまり上方から観たのならば、変形六角形の容を採っているのだ。

楕円型の砲塔から角ばりを持った六角形へと変わったのは、まるで世代を後退させたようにも観て取れたが。

傾斜と増厚された装甲を考えれば、一概に旧態化したとは言い切れるものでは無い。

その砲塔から突き出されている主砲は、強力な魔鋼弾を撃ち出せる噴伸砲身ふんしんほうしんと成っていた。口径は127ミリにも達し、既存の戦車ならば一撃で撃破することが可能。貫徹力は、射距離500メートルにて水平装甲を360ミリ撃ち抜ける。

正に陸の王者として君臨出来得る性能へと変わったのだ。


大地を噛んで高速力を弾き出す無限軌道キャタピラ

不整地を突き進む車体が大きく揺れ動く。

当然のこと、突き出た砲身もそれに併せて揺れ動く。

これでは狙って撃ったとしても命中は覚束ない。まぐれで当たるくらいのものだろう。

高機動中の戦車から発砲するのなら、余程の接近戦でしか命中を狙えないのだ。

だから・・・


 ガタンッ!グラグラ・・・


魔法の戦車であっても、地形を変える事は出来なかった。

敵への接近を試みて走り回るなら、射撃することは徒労に終わる。

威嚇としては成立するが、命中を求めるのなら揺れを押さえなければならない。


「まだだ。まだ距離が遠い」


一旦、機動戦に持ち込むのを狙ったなら。


「射撃を狙って停めたら、忽ちにして墓穴を掘るぞ」


先に車体を停めたら、動いている相手を狙えるが。

愚直な相手ならばいざ知らず、少しでも射撃を経験した者であれば動き回る標的に当てる難しさを知っているだろう。

偏差射撃を行う前に軌道を変えられ狙いを外されて、射撃が外れでもすれば戦いの優位性をも失いかねない。


「停まるな!先に停まった方が不利になるぞ」


急激に接近する中、先に射撃する機会を窺い合い続ける。

マグレ当たりを警戒する双方がジグザグに進路を変え、相手の出方を探り合う。


「奴等が撃ってきても相手にするな」


行進射撃を敢行して来ても、余程運が悪くなければ当たる訳が無い。


「だが、念の為に発射光を観たら回避行動を執れ!」

「了解っ!」


小隊長車で指揮を執るマリアが、操縦を任されるレノアへと命じた。


敵との距離は縮まり続けている。

小隊長車である一号車の操縦席にある速度計スピードメーターは、不整地にあるのにも拘らず45キロを表示していた。

敵の速度はこちらよりも遅いが、相対速度を合算すれば70キロは超えているだろうか。

双方が、真一文字に突き当たるのならば、それこそ瞬く間も無くぶつかっていただろう。

そんなことになれば、敵味方関係なく損害を被る事となるのは必定。

喩え魔法の戦車とは言え、敵弾を弱点に受けたのならば無事に済む筈もない。

性能の劣った戦車が強敵に勝つとすれば、弱点を突くしか道は無い。

反対に勝る者が手傷を被らずに倒すには、優れている長所を活用して一方的に叩くしかない。


高速で機動する標的に。

況してや整地されていない荒れ野での交戦が、如何に難度の高い戦闘なのかを判っていたのだろうか。

現世で戦車に乗って初めて実戦を経験する・・・彼女が。



 ガタタンッ!


新型魔鋼騎だとは言え、不整地を高速機動中の車体は揺れに揺れて。


「くぅッ?!これじゃぁ狙っても直ぐに照準環レクチルから飛び出しちゃう」


砲塔に設置されている測距眼鏡しょうじゅんきょうからの映像を睨む美晴コハル

画面には8倍に望遠された邪操戦車がのめり出しては、消えていく映像が映されていた。


「当てるだけでも無茶みたいなのに。

 一発で討ち取るなんて無謀な試みだわ」


さすがの新式照準装置でも、砲身がブレ動いていては狙いも定められない。


「停車する?停まれば揺れも治まって狙いが付けられる。

 でも、一両を狙って撃てても。他の敵から撃たれてしまうかも?」


停止して攻撃を敢行するのなら、命中を期待出来る・・・が。


「そうですねミハル少尉。

 一両を撃破出来たって、他の奴等に滅多打ちに遭い兼ねません。

 それじゃぁ元も子もないって話しですよね」


相手が単騎だったら勝利の可能性もあるが。

敵味方が相乱れている場合には、横合いからの射撃にも注意を要した。


「停まって撃つには、こちらが遮蔽物に隠れているとか。

 相手が余所観したタイミングを逃さないとか。

 よっぽどチャンスが来ないと無理でしょうね」


ハンドルを握るミルアが、戦闘に不慣れな車長へとフォローする。


「な、なるほど。だからマリア小隊長は停まらない訳ね」


優秀な車体を操っているのにも関わらず、停車砲撃を行わない訳を諭されて。


「射撃のチャンスを見定めているのね」


闘いの奥深さを、改めて知ったようだった。


「そうみたいです・・・けど。

 案外に早く訪れるみたいですよ」


肯定するミルアが、声を引き締めて返した時だった。


「え?!」


モニターに捉えていた邪操の魔鋼騎だが、瞬間だけ揺れが抑えられた。

・・・そう感じた瞬間。


 ガッ!


砲身がこちらを捉え、仰角が僅かに上げられたと感じた。


 ドォンッ!


瞬く暇もない一瞬後。

砲口が光を放った。


「回避ッ!」


砲塔で照準鏡画像を観ていた美晴コハルよりも先に、操縦桿を握っているミルアが反応した。

敵に対して右舷方向に傾進していた進路を、すかさず左へと切ったのだ。

射距離500メートルで撃ち出された砲弾が、紅い光の尾を曳きながら跳んできて。


 ドガッ!


もしも回避しないで前進していたら、命中していただろう所に着弾する。


「あ・・・あぶな~」


着弾点を観て、美晴コハルが胸を撫で下ろすかのような声を出す。


「あれはマグレ当たりを狙った弾ではなさそうですね。

 偏射も的確だったし、弾種も撃破を狙って来ていました」


それに対しミルアからは、危険度が増したのを教えられる。


「敵も魔法の戦車。

 旧式とは言えど、侮れない貫通力を持っているものと思われます。

 装甲の厚い正面だったらいざ知らず。

 側面や後部を狙い打たれたら、痛撃を受ける虞があります」


大地に食い込んだ敵弾を観て、瞬時に破壊力を推し測った。


「そ、そうだよね。被弾したくはないわよね」


戦車戦という物を、まだ良く理解しきれていない美晴コハルでも自車両が弾を受けることの意味ぐらいは分かる。


「アイツが最も危険だと、小隊長は感じておられたんでしょう。

 遠距離での砲撃戦では当てられたとは思えません。

 反対にこちらが手痛い損害を被っていたかも。

 だから、一撃で倒そうと接近戦を選ばれたと考えます」

「あの射撃を見せられたら、納得せざるを得ないわ」


分離した他車には眼もくれず、二両の先鋒を切る邪操戦車を目標と定め。

その難敵を打ち倒す為に接近を目論みたという。

確かに、機動戦に持ち込んだのはマリアの命令だった。

そして敵に遠距離での狙撃を諦めさせたのはマリアの勘が確かであった裏付け。


「敵の動きを観ただけで分かっちゃうんだ。

 やっぱりマリアさんって、昔から賢い魔法少女だったもんね」


数年前、日の本に居た頃を思い出した誇美こはるが呟く。


「敵を見抜く洞察力って言うの?

 美晴ミハルが暴走しちゃうのを停めれた訳だよね」


少女時代に見知ったマリアの聡明さや思慮深さを思い起こしていると。


「「いよいよこれからよ。気を引き締めなさいコハル」」


思い出に浸りそうになった誇美を叩き起こす声が頭の中に入って来る。


「え?!リーン様?」


思わず我に返った美晴コハルがモニターへと視線を向けた途端。


「車長っ!今度はこちらが仕掛ける番ですよ」


ヘッドレストから警告するミルアの声が流れて。


「「二号車へ命令!左急旋回を以って敵を正面に捉える。

  目標は砲撃した一番目の邪操戦車。魔鋼弾を装填しろ!」」


覆い被さるように、隊内無線からマリアの声が響き。


「「号令一過、直ちに旋回。

  目標に対して射撃せよ!」」


攻撃を仕掛けよと厳命してきたのだ。


「でも?!もう一両には?対処できませんが?」


素早くモニターを一瞥して、後方に続く戦車を無視するのかと訊いた・・・


「「構わん!命令に従え誇美コハル」」


・・・のだったが、即座に言い含められてしまう。

しかも、マリアが口走ったのは<女神>の名だった。


「あ?!え?は、はい!」


気付いてはいたが、マリアも必死なのだと悟らされて。


「急旋回し砲撃を敢行します!」


復命の旨を答えた。


「「よし!

  生きて還りたければ、敵を撃て。いいな?!」」

「わ、わかりました!」


ほんの僅か。

マリアの心に触れた気がした。

戦場に在っては敵に打ち勝つしか、生き残れる道が無いのにも。


指先で戦闘射撃が可能となるように各部のスイッチをオンに切り替える。

命令がいつ発っせられても動転しないよう、即刻射撃管制システムを稼働させた。


「魔鋼弾装填完了。準備宜し!」


半自動装填装置に次弾が載せられたのを確認し、車体の操縦に専念し始めたミルアへと報じて。


「小隊長車に注目。命令を受けたら間髪を入れずに回頭。

 射撃のタイミングは私が計るわ!良いわねミルア」


砲戦に即応できるだけの時間的余裕を得られた。


「了解です。ミハル車長」


命令を受けたミルアも緊張を顔に出してはいるが、悲壮感は微塵も感じられない。


「さて。奴にどでかい一発を喰らわしてやりますか」


しかも、緊張している美晴コハルにジョークまで溢して来るのだ。


「・・・言うじゃない。

 そうね、特別な一発をお見舞いしてやらなきゃね」


戦場の中で、戦闘中の車両の中で。

二人の戦士は顔を綻ばせた。

この一瞬の後に起きる射撃に全力を注ぎ込むと言うのに。


二人が言葉を閉ざした・・・その途端だった!

敵弾が大地を抉る。

邪操の魔法戦車からの一撃。

その威力と的確な照準に戸惑う美晴コハル

果たして敵の攻撃を掻い潜って勝利を手に出来るのか?

戦車の機動戦は、どちら側にチャンスを齎すというのだろう?


車体が軋む!高速機動中のコックピットで目にしたのは?

次回 チャプター2 明日への咆哮 13

号令一過、敵弾を避けようと舵を切るマチハ?!チャンスをどちらがモノにできるのか?

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