チャプター2 明日への咆哮 11
それまでとは違い、魔法が齎した変化が現れる。
強力なる魔力を受けた魔鋼の機械が具現化する。
鋼鉄の嵐を捲き起こす。
敵対する者に鉄槌を下さんと・・・
魔法の戦車が本性を表す。
乗り組んだ魔法使いの属性を受けた魔鋼と呼ばれた機械が動き出し。
戦車の容態を変えるのだ。
動き始めた魔鋼機械から噴き出した蒼い光。
その光が車体の内部構造に当ると、操作機械が変化する。
操縦装置も、通信機械も。瞬く間に進化を遂げた。
次世代型の新規車両だった3号車に於いても、更なる進化を齎すのだ。
「うわわ?!走行ハンドルが短いグリップタイプに変わっちゃいました!」
操縦していたミルアの手元で、変化が始まる。
「嘘みたいですっ!アクセルとブレーキがオートマチック乗用車みたいに単純化されました」
続けて足元にある駆動系の操作ペダルからクラッチペダルが無くなり、二つのペダルだけへと替えられた。
「そ、それに。座席も何だか別の物みたいになって。
ヘッドセットそのものがヘッドフォンを内蔵してるみたいなんです」
頭部防御用のヘルメットにもヘッドフォンが内蔵されてはいたが、それを必要としない考慮が為されているように感じた。
「これが。
これがミハル車長の魔法力を受けた魔鋼騎の姿なのですね?!」
目の前で変わった装備に、ミルアは感嘆の声を出した。
操縦装置だけを観ても、これ程の変化を見せたのだから驚くのは当然なのかもしれない。
だが、自分の前で起きた変化だけでは収まる筈はなかった。
「ねぇ、そうですよねミハル少尉?」
感嘆の声と共に、操縦席から後ろにある砲手兼車長席の方へと振り返った・・・
「へ?!え?・・・ええっ?!」
ミルアの眼に飛びこんで来た光景は?
機械が動き始めると、突然視界がブレるのを感じた。
軽い眩暈のような感覚が襲い、目の前が蒼い光に包まれたようにも思えた。
「え?ええっ?」
何が起きているのか、身体の異変が何を意味しているのか。
魔法戦車がどうなっていくのか、未経験の領域へと突入していく感覚に戸惑うしかなかった。
ガクンッ!
と、あまりにも突然。
「ひゃぁ?!」
それまで腰かけていた車長席が後ろ側に押し込まれ。
グンッ!
「お?!」
座っていた椅子自体が変えられていくのに併せて、姿勢も後ろ側へと倒れていく。
「なに?これ?!」
まるでリクライニングシートのような、緩やかに伸び切る姿勢。
「え?あ?うわ?!」
美晴が何がどうなってるのか訳も分からず座席に身を委ねていたが。
突如のこと、両足を預けていた部分が開き始めて。
「きゃぁ?」
開けられた両足の間から操作コンソールが上がって来た。
続けて座席の両側からハンドグリップが起き上がり、美晴の姿勢に併せて固定される。
グリップには各種の操作を補助するようなボタンが設えられてあり、そのハンドルによって戦闘を継続するようだった。
「「これが・・・」」
そして最後に。
これまで3枚の平面パネルで構成されていたモニターが、湾曲した曲面パネルへと変化して。
「「あなたの魔鋼騎。
あなただけが操ることを許された<マチハ>なのよ」」
画面の中央に映し出された審判を司る女神が讃えた。
「「魔砲の異能を受け継いだ人だけが起こせる変化。
あなたの身体に秘められた魔法の発現なの」」
美晴の身体に受け継がれた、双璧たる魔砲の異能で替えられたのだと言って。
「「受け継いだのは美晴だけど。
今は貴女が使いこなさねばならないのよ。
人類を守る為にも、良いわね早春の女神ペルセポネー」」
画面から消えつつ、誇美に語った。
それを眼で追いながら、軽く頷くと。
「これが・・・魔鋼騎。
これが魔法の機械で換えられた本当の姿なのですね」
視界を囲む曲面モニターを見回して。
「今迄の計器類とは次元を異にしてる。
こんな凄い変化を齎す魔法の威力に驚かざるを得ないわ」
これ程迄の変化を齎したのは、魔鋼機械へと魔力を与えた美晴の異能。
高度な魔法力を秘めた、魔砲の少女が為せた業とでも呼ぶべきか。
「もし、此処に居たのが美晴だったとしたら。
この変化をどう受け止めただろう?どう思っただろう?」
強大な魔法力を持つ女神と、人でしかない美晴との違い。
魔鋼機械は女神としての異能力を受けて変わったのか。
それとも人の身体から噴き出す女神の魔法力を、単に人としての物と受け止めただけなのだろうか?
「それでも。
美晴がどう思おうと、私は闘わなければならないの」
魔鋼騎に乗り込んだ時から、美晴の代わりに戦うことを決めた時から。
「この躰を元に戻すと決めたんだ。
どんなに身を堕とすことになったって」
決然と瞳をモニターへと向け、金髪の女神に誓った。
「この<マチハ>と共に。
穢れた者達と闘うって決めたのだから!」
戦女神として。
美晴を救う為にも。
闘うと誓うのだった。
と、我に返った美晴の耳に。
「車長?!そこに居られるのですか?ミハル少尉?!」
戸惑いの声がシートのヘッドレスト部分から流れ出して来て。
「あ?ミルア。何処に居るの?」
モニターに邪魔されて車体前部が見通せなくなったのに気が付いた。
「どこにって。操縦席ですよぉ?」
「操縦席・・・あ、そうだったね」
車長席と操縦席は変化前ならば、2メートルも離れてはいなかった。
話そうとすれば生でも会話出来た位の距離だったのに、今は双方の間に壁で仕切られたような感覚がある。
「座席にあるスピーカーから声を聴けるんだけど。そっちは?」
「はい。操縦席も同じ様な物です」
操縦員席と全般を指揮できる車長席との間は、隔壁によって仕切られているようだ。
互いの意思疎通はスピーカーを通しての会話と、
「あ。これって・・・そっちにもモニターはあるの?」
「ええ、勿論。車外を映し出していますけど?」
何かを見つけた美晴が訊くと、ミルアは即時に応えて来て。
「それじゃぁ、モニターにある車内交信スイッチに触れてみて?」
「え?ええっと・・・これですか?」
促されるまま、モニター下部に映るビジュアル会話スイッチを押してみた。
ブンッ!
その途端、画面左下部に美晴らしい顔が映されて。
「わ?!これってミハル少尉ですよね?」
シートに凭れ掛かっているミハルの周りには、観たことも無い砲塔内部が映し出されていた。
「そうだよ、ここがマチハの中。
魔鋼の異能で変化した魔鋼騎の戦闘室内部なんだ」
なぜだか落ち着き払っているようにも感じる美晴に違和感を持つミルア。
ふと、座席の座る姿をよくよく観て。
「あれ?ミハル少尉って紅銀髪だったかなぁ?」
モニターに映し出されているミハルを不思議そうに見て。
「銀髪と言うよりかは、どちらかと言えば白髪に近いかな。
それに薄く赤色が挿しているようにも観て取れるけど?」
髪色が変わって観えるのも、ここが起動中の魔鋼騎だからと変な納得をしてしまう。
「まぁ、今はそんなことよりも。
差し迫った戦闘を乗り越えなきゃ・・・ですよね」
そう思ったミルアが話を挿げ変えて。
「戦闘に関わる操縦システムに異常はみられません。
車長の方は如何ですか。砲撃に問題はありませんか?」
敵との交戦に支障が無いかと質した。
「問題が無いとは言えないかも。
こんなシステムに触った事なんて無いから」
「そこは・・・思いっ切ってヤルしか無いでしょう?」
誰からも動かし方や射撃システムを教えて貰えない状況で。
いくら魔法少女とは言えども使いこなせれるとは思えなかった。
「簡単に言ってくれるわねミルア」
「そこは・・・魔砲の力を信じるべきでしょう?
だって、ミハル少尉は魔砲少女なんですから」
真剣に思い悩んでいた誇美に、ミルアはジョークを交えて言って来た。
魔砲の異能力は、こんな時にだって威力を魅せるのだと。
「ふぅ・・・わかった。ヤルっきゃないみたいね」
開き直った訳ではないが、そうするよりは方法も見当たらないのが現状。
だったら、言葉通りにヤルしかなかった。
「それじゃぁ。マリア小隊長の命令通りに」
「突撃しますか?」
目の前に敵に。
二両の邪操戦車に向けて。
「うん、往け!マチハ全力前進!」
「イエッサァー!」
蒼き双璧の紋章を浮かべ上がらせた魔鋼騎が突貫する。
聖なる蒼き輝を滾らせ、邪悪たる相手に斬り込むのだ。
「戦闘ッ!目標は邪操戦車。魔鋼弾装填!」
両手でハンドグリップを握り絞め、大きく映し出された戦場を睨み。
初めて、魔法の戦車戦に突入していくのだった。
突き進む魔法戦車。
邪操戦車と対峙する<魔鋼騎マチハ>が遂に本性を現す。
魔砲の使い手だった美晴の身体で。
人の魔力を超えた異能を秘めたまま。
変った車体。換えられた性能。
闘う為に生み出された魔法戦車とは、如何なる姿なのか?
換えられた車内と同様に、車体も変えられた筈。
一体どのように変ったと言うのだろう?
次回 チャプター2 明日への咆哮 12
魔鋼騎マチハの姿。その勇姿は陸の王者たるや?