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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター2 明日への咆哮 4

両国軍が対峙する中間に現われた怪異。

妖しく光る赤紫色の光体。

それが何を意味しているのかを見切ったのは。

人の身体に宿った女神・・・芽吹きの女神コハルだった。

夜の草原に湧き出た赤紫色の発行体。

両軍が対峙する丁度中間で発生した妖しい光は、一つに留まらず・・・



「警報!不明な光が発生。その数・・・5!」


警告を発した夜間見張り員の叫びが、司令部に響き渡る。


「ロッソアの夜襲か?!直ちに総員を起せ」


未確認の情報が、参謀達を混乱させる。


「お休み中の司令官に報告しろ!

 部隊の応戦許可を求めるんだ、急げ!」


更には司令官が不在で、命令を下せる者が居なかったことが混乱に拍車をかけた。

咄嗟の会敵に即応できる態勢になかったのは、この処の平穏さの所為だけではなかろう。


「敵の勢力は?見張り員に詳細を報告させろ」


敵がわざわざ光を放って来たのだ。

存在を誇示するのならば、相応の戦力を以っていると思われた。

・・・だが。


「赤紫の光の外はに何も観えず!詳細は不明」


返された報告は参謀達を動揺させる結果になる。


「それならば、照明弾の類だとでも言いたいのか?!」

「馬鹿者!不明ならば斥候を出して確認しろ!」


二人の参謀が見張り員に対して愚弄し、確認を急がせる。

自分達で確認を取ろうともしない二人に対し、一人の参謀が一言溢した。


「ロッソア側の陣地はどうだ?

 何か動きが観られないのか?」


攻め寄せるのなら、陣地にも動きがある筈だと。

これがロッソア側からの攻撃ならば、陣地から打って出ると考えられたから。

参謀の呟きで我に返った二人の参謀が、矢継ぎ早に命令する。


「敵陣の様子に変化が見られるか?」

「ロッソアの防御陣地から接近を図ろうとする動きは見られるのか?」


再度、見張り員に対して敵状の報告を求めた。

それに対しての答えは?


「ロッソア陣地に動きは見られず。

 いや。むしろ警戒して陣地に配員し始めた模様!」

「なに?!」


報告は参謀達を惑わす。

夜襲をかけて来た筈なのに、陣地を防衛する動きをみせるのだから。


「なぜだ?攻撃するのなら防御など必要ないではないか」

「一部の兵力を割いて夜襲をかけたのか?」


だから、参謀達も的確な対策を採る事が出来ない。

あの赤紫色の光が、ロッソア側からのモノだとする証拠が見当たらないのだから。

出来ることと言えば、部隊を防衛配置に就かせる事だけ。

敵の攻撃に対して、消極的に応じるだけだった。

まさかの事態に、手を拱いたのだ。


それが正しいのか、愚策なのか。

直ぐに分らせられることになるのだが・・・



急変した情勢に、直ぐにも対応出来るのは彼女の警告があったから。


「燃料と弾薬の補充は完了済。

 暖機も滞りなく完了しています!」


整備班からの報告が届けられる。


「未だに司令部からの命令は届きません!」


通信班からは、命令が下されて来ないと伝えられる。

あまりにも唐突だった為なのか。

それとも司令部は小隊の存在を忘失しているのか。


「対応の許可を申請するべきでしょうか?」


無線機に取り付いている通信兵が、小隊長へと命令を求めた。

少し小高くなった見張り場に居るマリア中尉へと。


赤紫色の発行体が現れて数分が経っていた。

5本の光が、澱む様に揺らめいている。

夜間観測用の双眼鏡を眼に充てたままの少尉の傍らに居た小隊長が振り返りざま。


「直ちに応戦の許可を求めろ!

 今なら未だ間に合うと、言って聞かせろ!」


目を剥いて通信兵に命じる。

このまま看過していれば、大変なことになるのが眼に観えているからだ。


「どうだ美晴ミハル少尉。奴等が現われるのは間違いないんだな?」


通信兵に一喝したマリアが、傍らで見張りを続ける少尉へと質す。


「はい。もう時間の問題かと」


星明りの下、草原に現れた怪異。

その正体を見極められるのは、残り僅かの時間だと言って。


「どちらへと向かうかは、その時にしか判りませんけど」


怪異がどちらへ向かって来るかが問題だった。

発行体が実体化した後、ロッソアかフェアリアのどちらへと向かうかによって対応が異なるから。


「それはそうだが。

 こちらに来ないとは断言出来ないのだろう?」

「・・・はい」


双眼鏡を構えたまま、マリアに応える。

フェアリア側への攻撃には、断固として応じる構えなのが言葉の端から判る。

でも、もし反対のロッソアへの攻撃だとするのなら。


「あの・・・マリアさん。

 もし、ロッソアだけを襲ったら・・・どうされますか?」


暫く口籠ってから、恐る恐る日の本語で訊いた。


「敵だから・・・紛争相手国だから。

 手を出さずにおくのでしょうか?」


今は既に、邪操の機械兵だと見抜いている発行体を見過ごすのかと。


「そりゃ~どう言うことやねん?

 誇美はロッソアに組みしろって言いたいんか?」


答えるマリアも、日の本語で訊き返して来る。


「違います。

 私が聞きたいのは、マリアさんがどうしたいのかってことなのです」

「小隊長としてやなく、ウチがってことかいな?」


それにコクンと頷いてから。


「昔、日の本に居た頃は。

 マリアさんも魔鋼少女マギメタガール隊員だったじゃぁありませんか。

 あの頃は邪操機兵と対峙していたのを覚えていたから」


今より二年以上も前。

二人が日の本に居た頃の思い出。

マリアと美晴が共に闘っていた相手が、邪なる者に因って操られた機械達だった。

突然地中から現れ出て、人々に襲い掛かろうとする悪意の塊。

世界各国に現われ、魔法少女達を攫う。

まるで神隠しのように・・・手がかりさえも残さずに。

その邪操の機械兵が現れようとしているのだ。


「あん頃は。

 純粋に闇を憎んでいたからな・・・」


訊かれたマリアがポツリと溢す。


「世界とか国とか。

 かけ離れ過ぎて考えたことも無かったんや」


今は違うとでも言いたげに、首を振るマリア。


「そやけど、今は違うんや。

 ウチも一端の軍人になってるんやし。

 背負わされた任務かってあるんや・・・」


聞こえるのは自嘲を籠めた悲しげな声。


「部下を危険な目に遭わせとうは無いんや」


相手から闘いを挑まれなければ、応じたくは無いと言いながら。


「喩え、どれ程の無慈悲を見させられたって・・・」


掠れる声は、マリアの本心ではないのを窺わせる。


「でも、マリアさん。

 心優しきあなたは、人が悪魔に襲われるのを見捨てられますか?」


項垂れそうになったマリアに、誇美の言葉が投げられる。


「え?なんやて・・・」


それが何を意味しているのかを悟らされて。


「軍人としてでは無くて。

 独りの人間として、見捨てておけますか?」

「それは・・・」


でも、分かっていても即答する事は躊躇う。

自分の立場から、躊躇わざるを得なかったのだ。


「今は昔とはちゃうんや。

 自分勝手な行動は、部下を危険に晒す事にもなるんやで」


だから肯定とも否定ともつかない、曖昧な返事をしてしまう。


「それなら。

 私とマリアさんだけでも良いじゃないですか。

 三号車に二人で乗って、救援に向かったら・・・」


誇美の意見は、マリアを驚かせる。


「馬鹿な?!

 そないなこと、出来る訳がないやろ」


拒絶するが、


「部下が納得する訳があらへん・・・」


内心は誇美の勧めに嬉しく想ってしまう。


「それじゃぁ、皆に説明してみればどうなのです?」

「邪操の機械兵を討つって言うんか?

 侵攻して来たロッソアを攻撃するのではなく。

 まるで守るかのように闘うと告げるんか?」


心の内では、そうするべきだと分かっていても。

皆の同意が取り付けられるとは思えなくて訊き返してしまった。


「解っている筈です、マリアさんなら。

 奴等の狙いが何処にあるのかを。

 邪悪なる者達が紛争を拡大しようとしているのを」

「・・・う?!」


小康状態になった紛争が、このままいけば落ち着いていくかもしれない。

両軍が共に引き下がれば、外交によって修復するかもしれないのを。

邪悪なる者が望んでいない事も・・・解っていたから。


「特務要員さん達が求めていたのは。

 両国の間に疑念が存在している訳を調べることの筈です。

 邪操の機械兵に因って戦火が拡大するのを見逃すことではない筈です」

「リ・・・いいや、リィタ一等官が望んでへんと?」


言葉を尽して求める誇美に、眦を開いたマリアが頷いた。


「そや!我らが皇太子姫殿下も仰られていた。

 平和の為に闘うべきだと!

 邪まなる侵略者と闘うべきだと。平和を崩す奴等から護れと」


思わず大声で応じたマリアに、誇美は力強く頷き返す。


と。その時だった。



 ズゴゴゴ・・・ガラガラガラ!


赤紫色の光を伴った、何かが闇から湧き出る。


 ガギャッ!メキメキメキ・・・


草原の地中から。

5本の光の下から・・・地を割って這い出て来る。


 ギャラギャラ・・・キュラキュラ・・・


無限軌道キャタピラの音が草原に響き渡り。


 ガラガラガラ・・・ギュルルグル・・・


石と砂を振り落とし、禍々しいまでの姿を晒した。


「出て来ましたね・・・漸く」


双眼鏡を胸元へと降ろし、傍らに居る小隊長へと目配せした。


「ああ。美晴の予言通りにな」


それに応えるでもなく、マリア中尉が顎を引く。


「あれは。

 女神コハルの言った奴等に間違いない。

 人に仇為す・・・悪魔の姿だ」


発光する敵の正体。

それは機械兵の姿とは違ったが・・・


「あれを見るんや美晴。

 車体に刻まれているんやろ?」

「はい。あれは・・・」


キャタピラを履いた装甲機体。

砲身を突き出した砲塔を有している車体に。


「戦車ですよね?

 だけど、あの紫色に光っているのは?」


澱んだ様な光を発している・・・絵模様。


「あれか?あれはなぁ・・・魔鋼の紋章や」

「魔鋼?!それじゃぁ?」


歪んだ魔法の証。

魔と鋼を掛け合わせた、闘いのしるし


「今は教えてる暇なんてあらへんで、美晴」

「え?!あ・・・はい」


次々に地中から姿を現わす戦車を観て、マリアは決断を下す。


「戦闘準備やで!」


身を引き締める誇美の肩へと手を添えて。


「はい!マリア中尉。

 皆に命令を下してください」


その力強い手に頷いて、誇美も求めた。

闘いも辞さないと決めていたから。


「よし!

 総員戦闘準備!

 全車で敵を粉砕するッ!」

「はい!マリア小隊長」


二人は踵を返して愛機の元へと駆けるのだった・・・


邪操の機械兵が現われようとする中。

誇美は一抹の不安を払いのけることに成功した。

マリアを説得し、邪悪なる敵に敢然と挑もうとする。

遂に初陣の時が訪れる。

魔法の戦車を操って、悪の野望を打ち砕かんと・・・


次回 チャプター2 明日への咆哮 5

戦機は熟す。人として戦いに挑む君は、正義を貫けるのか?!

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