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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター1 拗れる思惑 12

一夜明けて、八特小隊は目的地へと出発した。

車列は国境へと向って走り続ける。

その先頭を往く車両の中には、3名の特務尉官が乗り込んでいた・・・

一夜明けて、野営地エンカウンターを後にした八特小隊。

車列を為して向かうのは、国境に近い目的地。

その先頭を走る軽装甲車に乗っていたのは特務要員の3名だった。


「いよいよこれからですね、一等尉官様」


後部シートに身を置いているリィタ一等尉官に向かって、アンナ三等尉官が話しかける。


「良いのよアンナ。

 此処だったらルナって呼んだって、誰にも聞かれはしないから」


操縦席と乗り組み員席とは防護壁ぼうごへきで隔離されて、ドアを開けなければ声は漏れない構造だった。


「それはそうですけど。念には念を入れておけと・・・」


リィタと名乗っている一等尉官の正体が分かっているアンナは、チラリとアクァ三等尉官を観て口籠る。


「なんだよアンナ。

 私は警戒を怠るなとは言ったが、この中は密室に近いんだ。

 ルナ様の仰られた通り、誰にも聞かれはしないんだからな」

「は、はい」


外見の位は同じ三等尉官なのだが、どうやらアクァの方が先輩らしい。


「そ、それでは。

 ルナ様、もう間も無く紛争地帯に突入しますが・・・」


少し言葉を切って質問するアンナ。


「この後、どうやって紛争の解決を目指すのですか?」


興味からの質問ではない。

ルナの護衛を任される者として、知っておくべきだと考えたのだろう。

しかし、質問を受けた当のルナは気にするでもなくこう答える。


「別に。

 こちらからは、な~んにもしやしないわよ」

「へ?」


はぐらかすように返して。


「諍いの相手が不審な行動を起せば分かるだけだから」

「え?え・・・っと?」


質問したアンナを戸惑わせる。


「い、いや、ですが。

 現状ではロッソア側が攻勢をかけているのですよ。

 何が不審な行動なのか判然としないではありませんか?」


紛争当事国であるロッソアが、目立った不審な攻撃に出るとは考え難い。

国境を侵犯するだけに留めているのは、急激な戦闘の拡大を畏れているとも考えられた。

それはそうだろう。

意図しない戦線の拡大は、イコール全面戦争を意味しているのだから。


「それはロッソア側が。

 一か所の国境を侵犯して来ただけに留めている事でも証明できます。

 全面戦争を狙って来ている訳ではないとも考えられるのですが」


相手が不審な行動を起こすかも知れないと言ったルナに反応したアンナ。

現状では紛争が拡大する可能性は、まだそれほど高くないと見込んでいると返す。


「もし、紛争が拡大するとすれば。

 我がフェアリア軍が越境攻撃するしかないと思いますが」


自衛の為に送られた部隊が、わざわざ越境までして攻撃をかけるとは考えられないし。

そもそもが、侵攻出来るだけの戦力を持ってはいないのだから。


「そうだな。アンナの言う通りだ」


聞き役に回っていたアクァが同意するが。


「・・・だがな、アンナ。

 何か忘れてはいないか?」


同意とは反対の言葉を吐く。


「こちらが送る増援部隊の事を・・・さ」


自分達が向かっているのを喩えにして。


「え・・・しかし。

 この小隊規模の増援ぐらいでは。

 戦況に変化を与えられるなんて思えないのですが」


アクァの例えを理解し切れなかったのか、小首を傾げ乍らアンナが応えるが。


「解っていないな、アンナ。

 私が忘れていると言ったのは相手の事だよ。

 対峙するのはロッソアだけでは無いだろう?」

「え?あ・・・?!」


紛争相手のロッソアを意味した言葉では無いのだと教えられて。


「闇から現れる機械兵でしたっけ」


漸くにしてルナが言った意図を悟る。


「邪なる機械の兵器が現れているそうだぞ。

 そいつらの意図を知ることも重要なことなんだ」

「邪操の機械兵が・・・紛争の発端かもしれないと?」


やっと、ルナの言葉に含まれていた意味が解った。


「そう。

 悪意に満ちる奴等が、両国の間に諍いを望んでいる。

 二つの国が互いに憎み合い、共に滅びへと向かうようにと」


それまで黙って車窓を眺めていたルナ王女が答える。


「双方が共倒れとなるように・・・ですか?」


答えられたアンナは、少しの疑問を感じて訊き返した。


「本格的な戦闘を経て、戦争へと拡大させるのが目的なのでしょうか?」


ロッソアとフェアリア双方が、戦争によって滅ぶ。

そうなるように目論んでいるのかと、訊いたのだが。


「それもあるかも知れない。

 いいえ、奴等の最終目的はもっと頭抜けているわ」

「え?!二つの国を亡ぼすよりも・・・ですか?」


その答えは想像を超えていた。


「一年戦争の故事を考えていた?

 奴等の狙いは、そんなちっぽけな目的ではないわ。

 神々に人の愚かさを見せて。

 再び終末戦争へと発展させようと目論んでいるとしか考えられないのよ」

「ま・・・さか?」


終末戦争・・・アンナが驚くのも無理はない。

今より二十数余年前に起きた、魔法大戦が再臨すると言われたのだから。

世界の殆どの国が惨禍に塗れ、多くの人が亡くなった。

悪夢の戦争を予言されたのだから。


「この紛争を停めれなければ。

 いずれは再び神々との終末戦争へと発展しかねないと?」


人が悪魔を呼び込むのは、憎みや怒りを増幅し続けるから。

その象徴でもある戦争は、神々の怒りを買う事にもなる。


「戦争は、始めるのも難しいが。

 一度始められたいくさを終えるのは、もっと難しい」


横でアンナの言葉を聞いていたアクァが、ポツリと呟いた。


「相手が勝利を諦めるか。

 味方が敗北を受け入れるか。

 どちらにしても、おびただしい犠牲を支払わねば終わらない。

 それが戦争という名の悪魔なんだ」

「戦争は・・・悪魔」


戦争後に産まれたアンナ達には、戦争という本質が理解出来ない。

だけども、祖父達の時代に起きた悲惨な事実は教わっていた。


「呪わしき戦争によって。

 再び暗黒の時代がやって来ようとしている・・・が」


近付く暗雲を払い除けるように、アクァがルナへと話を振る。


「仕向けて来る邪操の機械兵が紛争を拗れさせた原因だと証明出来たのなら。

 ロッソア側にも示すことが出来るのなら。

 戦争へと堕ちる前に止めることが可能だと思うのよ」


こちらからは何もしないと最初に言っていた通り、争う相手を特定させるのが目的だと示した。


「なるほど。

 最初の交戦が邪なる者の手で起きたと示せれば。

 ロッソア側も挙げた手を引っ込めるしかありませんよね」


意味を分かったアンナの顏が、パッと明るくなる。


「邪操の機械兵が犯人だと証明しただけでは予断を許さない。

 人間の中にも戦争を望んだ者が存在している可能性も残る。

 欲深い奴等が、何某の目的で干戈を求めているかもしれないから」


アンナとは対照的に、ルナの表情は硬いまま。


「どう出て来るのか。

 なぜ、もう一隊を増援に向かわせたのか。

 彼女が何を狙っているのかが分るまでは・・・」


重く伸し掛かる成否の是非は、とある部隊を率いた人に懸っていると言う。


「八特小隊に対抗するだけなのか。

 私達の目的を邪魔しようとしてくるのか。

 何も分かっていないのが現状なのだから」


そう呟くように話したルナの視線は、再び車窓へと向けられる。

窓の外に拡がる、平和なフェアリアの大地を見守るかのように。

 

「・・・ルナ様。

 もう一人の公女殿下を指しておられるのですね」


アクァが背を向けたルナへと訊くと。

微かに頷くだけに留めて。


「どうして・・・あんなに優しかった義理姉ねぇ様が。

 いつのまにか遠い存在になってしまわれたの・・・」


擦れるような声で呟くのだった。

その声に。寂しげな顔に。

二人の王室警護官は答えを見いだせずにいた。


紛争は二国間の思惑だけに留まらず。

二つの国に跨る蟠りを、更に拗らせ続けていた。

その国で暮す人々の想いをも拗らせて。


そしてついに、悲壮なる戦いの序幕を開くことになるのだった・・・

目的地が近付くにつれて想いは拗れる。

ルナの胸中に流れるのは誰への感情だったのか。


戦闘も辞さない覚悟を決めた誇美。

この先に待っているのは光溢れる未来か?

それとも暗雲垂れ込む闇の中なのだろうか?

いよいよ闘いへと踏み込もうとしている八特小隊。

シン・魔鋼騎が恐るべき威力を発揮する時が近付いた!


次回 チャプター2 明日への咆哮 1

君は生き残ることができるのか?理不尽に抗い続けられるのか?

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