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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第3部 魔砲少女ミハル エピソード8 第2章 Phoenix Field <不死鳥の戦場>終焉を求める君への挽歌 
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チャプター1 拗れる思惑 10

幻のように消えた姿を瞼に焼き付けて。

王女ルナリィーンは女神に逢ったようだと呟くのだったが。

一方、古城を後にした誇美が帰隊すると。

そこには眠らずに居たミーシャの姿が。

なんだか様子がおかしいのだが?

月の中へ消えて行ったかのようにも観えた。

白桃色の髪と蒼い瞳が印象的な少女の姿が眼に焼き付いて離れない。


「本当に女神だったのかしら?」


夜空を見上げて呟く。


「それにしては、あまりにも俗物ぽかったな。

 話し方も、なんだか人間臭かったし・・・」


夜風に靡いた前髪を手串で掻き揚げ、感想を溢すルナリィ―ン。


「それに彼女が私を乗っ取っていたようじゃぁ無いみたいだし」


突然意識を失って、目覚めたら古城の見張り櫓で星明りに照らされている。

意識を取り戻してみれば、不思議な少女が傍に佇んでいたのだ。

初め、意識を奪われ拉致したのではないかと勘繰ったのだが、どうやら見当違いのようだった。

名前を聞きそびれた少女は、自分の事をルナリィ―ンであることを知っていて、尚且つ自ら女神であると明かして来たのだから。


「早春の女神だとか言っていたわよね。

 芽吹きの女神なんて、この世に存在しているのかしら?」


再び蘇るのは、月明かりに映し出された彼女の姿と・・・


「宙を飛べるなんて・・・私達が造った魔鋼武具マギカアーマーを装着していないのに」


開発した新魔鋼騎の秘密を漏らして。


「・・・やっぱり、ホントに女神だったのかも?」


信じ難いとかぶりを振るしかないようだった。



「ルナ様?!こちらに居られましたか」


一つしか無い櫓上への階段を駆け上がって来たのはアクァ尉官。


「急にお姿が観えなくなって。心配しました」


息を切らせている処をみると、辺りを探し回っていたと判る。


「アクァ?!善く此処だと分ったわね」


不意に現れた護衛を任されている王室警護官アクァを観たルナリィ―ンの顔が華やぐ。


「はい。お声が城の上方から聞こえたもので」

「あらま。そうだったのね」


答えたアクァが見張り櫓を見回して。


「どなたかとお話されているものと思いましたが・・・」


辺りに人影が無いのを訝しんでいるようだ。


「え?あ・・・っと。そう」


腰に提げている剣に手を据え、不審者に備えているアクァを観たルナが。


「不思議なに出逢ったのよ。

 私の正体を見破っていてね、それでも尚且つ守ると言ってきたのよ」


もうこの場には居ない少女のことを話すと。


「護ると言って拉致しようと画策したのではありませんか?」


余計に辺りの気配を伺い、王女を守ろうと眼を吊り上がらせた。


「大丈夫よアクァ。もうどこかに消えちゃったんだから」

「消えた?アンナのように次元の狭間にでも逃れたと?」


敵から守るかのように、ルナを背に庇うアクァの問いに。


「違うわ。

 まるで・・・そう。魔女のように。

 ううん・・・月の中へ帰ったみたいに観えたわ」


月を見上げて答えるのだった。


「あの明るく綺麗な・・・微笑みを浮かべて」

「ルナリィーン殿下?」


落ち着き払ったルナの声に、アクァも危険は無いと判り。


「まるで女神に逢われたかのように感じますよ?」


月を見上げたルナへと振り返る。


「・・・そうね」


逢ったのは見知らぬ女神だったのかも・・・そう思ったルナは静かに頷くのだった。





足取りも軽く、野営地へと返って来た美晴コハルを見つけて。


「随分とご機嫌じゃぁ~にゃいか?」


寝酒を煽り続けていたミーシャが、酔いの廻った紅い顔で出迎える。


「え?あ、はい。いろいろとありまして」


直ぐ近くまで近寄った美晴コハルがミーシャを観ると。


「夕食を終えた後から・・・飲み続けておられたのですか?」


真っ赤な顔で呂律がおかしいミーシャに訊く。


「あ~そぅ。ちっと寝れなくてにゃ~」

「あはは。それでそんなに飲まれたんですね」


傍らに置かれてあるラム酒の瓶は、半ば以上空になっていた。

独りで飲んだのなら酔いが廻るのも無理からぬ話だ。


「それにしても。

 ミーシャ少尉って、飲み過ぎたら変身しちゃうんですね?」


紅い顔を観て、普段と違うと笑いかけて。


「だって、ほら。魔法属性の猫耳と尻尾が出てますから」

「うニャ?!」


余程気を許していたのだろうか。

魔法力が駄々洩れ状態のミーシャは知らずに変身していたようだ。


「ニャンと。これは確かに飲み過ぎたにゃ~」

「うぷぷ。もうそれぐらいでお休みになられたら如何ですか」


流石にこれ以上の深酒は不味いと感じたのか、ミーシャはふらふらと腰を上げて。


「そうするかニャ。明日も移動だからにゃ~」


美晴コハルに片手を上げて挨拶の代わりにし、明日の行動を示唆する。


「おやすみなさい。ミーシャ少尉」


答える美晴コハルは片手を振って酔いどれ少尉を見送った。

搭乗員用のテントへと歩いて行くミーシャの背から視線を外し、周りを見回すと。


「あ。マリアさん・・・」


篝火かがりび代わりの焚火の奥。

士官テントの側に置かれた執務用の机に向かっているマリア中尉の姿が観える。


「まだ起きておられたんだ」


机に向かっている後ろ姿を観ると、なぜだか急に気になり始めてしまった。


 すたすたすた・・・


脅かすつもりはないけど、黙って近寄ってしまう。

・・・と。


「帰ったんか。美晴みはる


背中越しにマリアの方から喋りかけられる。


「あ・・・はい。遅くなりました」


どうして自分だと判ったのだろう・・・そう思ったのも束の間。


「自由時間内だからな。気にする事もないだろう」


くるりと後ろへと振り返ったマリアが手にしていたのは。


「それで。どうだったんや、誇美?

 何かを見つけられたんか?誰かに逢えたんか?」


数枚の紙片。

文字らしいモノがびっしりと綴られた、軍用の便箋を手にしたままだった。


「え・・・ええ。

 闘う為のことわりを、教えて貰えました」

「ほぅ?」


手にしている紙片の事は訊かずに、古城での出会いを教える。


「誰かに会ったんか?」

「・・・はい」


少しだけ言い澱んでから、


「稀代の魔砲少女に。

 戦争を戦い抜かれた先代の魔砲少女に」


光の中へと霞んで消えた、魔砲少女ミハルに教えられたのだと応える。


「ほぅ。先代の魔砲少女に・・・か」


美晴コハルからの答えに、フッと表情を緩めて頷くマリアだったが。


「はい。それと女神のような人・・・とも語れましたから」

「女神のような人・・・だって?」


続けられた誇美からの言葉に反応する。


「人が戦争を引き起こすのを嫌い。

 この世界が戦争の只中へと堕ちるのを嘆き。

 平和を求めて努力しなければならないと説かれ。

 最後は・・・あの月へと解け込んで行かれたのです」

「・・・月に消えた・・・か」


リーンタルトとの邂逅を、一部端折って話した美晴コハルに、マリアはポツリと呟くだけ。

気負いもなく淡々と話した美晴を見詰め、少しばかり黙り込んだマリアだったが。


「その女神のような人ってのは金髪じゃぁなかったんか?」


不意に観ていたかのように訊いて来た。


「え?えっと・・・そうでしたけど」


ここで否定したって意味が無いとばかりに認める誇美だったが。


「もしかして、観ておられたのですか?」


見張り櫓の上に居たのを、観ていたのかと訊き返した。


「あ?いやなに。城の方へ一等尉官が歩いて行ったんでな」

「あ・・・そ、そうでしたか」


櫓上を観ていたのではなく、誇美の後にリィタ一等尉官も古城へと向かったから、そうではないかと訊いたのが分って、なんだかほっと胸を撫で下ろした。


「んで。リィタ尉官とは何を語ったんや?」

「あ、はい。戦いへの心つもりと覚悟を・・・です」


答える誇美の表情を探るように、マリア中尉の眼が細くなる。

それに気付いたからこそ、当たり障りも無く嘘にならない範囲で答えた。


「・・・それだけなんか?」

「ええ、そうですが?」


自身の神力を発動させて女神とも思える神秘的な人と対したとは、今の時点では言えそうもない。

それにマリアへ事実を知らせたとして、現状が変わる訳が無いのだから。

でも、同じ魔法少女でもミーシャ達と違って美晴みはるの幼馴染は勘が鋭かった。


「ほんまにそうかぁ?

 それにしちゃぁ、えろぅ軽い足取りだったやんか」

「え?!そっち?」


眼を細くして勘ぐっていたのは、帰って来た誇美が明るく思えたからのようだ。

古城で一等尉官に会って、戦いへの心つもりと覚悟を語って来たにしては足取りも軽かった。

だから、もっと他に何かが起きたのか。もっと明るくなれる出来事に遭遇したのかと考えているみたいなのだ。


「そや。何か良いことでもあったんとちゃうんか?」

「え?ええ?い、いいぇええ~べつにぃ~」


追及して来るマリアに、思わずサイドポシェットに手を置いてしまう。

その中には、狒狒の縫いぐるみが隠されていたのだが。


「・・・ものごっつい胡散臭さやで、誇美」

「あ・・・あはは。

 そろそろ就寝じかんですね~。お先に休ませていただきます」


これ以上突っ込まれたら、ボロが出そうで気が気でなくなった誇美が退散を目論む。


「ん~?そんじゃぁお休み。誇美」

「はい。おやすみなさいマリアさん」


慌てふためく誇美に、薄く笑って応えたマリア。

明日も早くから行動が始まるのが分っていたから。


「しっかり休んでおくんやで。

 移動途中で居眠りなんかしやがったら罰則もんやで」

「は、はいぃ。わかりました」


ジョークを交えて就寝の挨拶の代わりとした。


 タッタッタ・・・・


逃げるように士官テントを後にする誇美の背中を眼で追い、微かに笑みを浮かべていたマリア中尉だったが。


 カサ・・・


手にしていた紙片に視線を落とすと。


「まさかやな。

 これからどうなっていくんやろか・・・美晴みはる


書き綴られた文章を眺めて呟く。


「別動隊やて?

 何を目的にした別働なんや。

 ロッソアを煽って、何がしたいっちゅうんや?」


思わず紙片を握り潰して呟いてしまう。


「我が姫と崇める奴等は、何が目的でルナリーン中佐を。

 なぜルナリーン公女殿下を担ぎ出しやがったんや?」


記載されてあった文章には、別働隊を指揮するルナリーン中佐についての報告があった。

それと、八特小隊が目指す目的地が重なっている事も。


「一等尉官に扮したルナリィ―ン皇太子姫殿下との接触が狙いなのか。

 それとも別の目的があっての事なのか・・・判らないが」


篝火が夜風に揺れ、マリアの表情までも揺らしてみせる。


「あの月を見上げてるんだろうか?

 私だけに話してくだされた想いを、未だに捨てずにおられるんだろうか?」


握り潰した紙片から視線を外し、上空に昇った月を見上げて。


「なんでなんや?

 なぜ、汚名を着て迄も誑かす必要があるのです。

 どうして女神を宿してるのを隠しておかねばならないのですか?」


秘めておかねばならないのを心苦しく思っている。

大の親友で幼馴染の美晴にさえ、誤魔化しておかねばならないのかと。


「いつになれば・・・打ち明けて良いと言うんです。

 いつの日に成れば殿下の真実を明かして良いのですか?」


唇を噛み締め、心情を吐露するに留めていた・・・


マリアの手にした一枚の紙片に何が記されてあったのか。

そこに書かれてあることが、不幸を呼ぶとでもいうのだろうか。

一時はルナリーン中佐の配下に加わっていたマリア。

隠された真実を明かせないのを憂うのだが?

想いは拗れ、願いは擦れていくだけなのだろうか。


次回  チャプター1 拗れる思惑 11

若き主君を想う使徒たる者達。守り抜く為には死を賭すつもりなのか?

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