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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第5章 産まれの謂れ
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Act35 生まれ変わった謂れ

知らされた過去。

悲劇の渦中にいる少女の心根を。


リィンの胸の内に秘められた想いを感じて・・・

集中治療室を覗き込んだリィンの横顔には、決死の表れが浮かんでいる。


相手ロッゾアの出方次第では唯では済まないと分かっていたのだ。


「ロッゾアがもし本当にエリザ姉様とリマダ姉様を殺させた張本人だとしたら。

 あたしがミカエルお母様の娘であったと知れば・・・生涯、表に出して貰えなくなる」


だから窓へ手を添えて、秘めた想いを口に出す。


「でも・・・それでも。

 あたしはレィちゃんを助けたいと思ってるんだよ?」


変わらない想いなのだからと。

そして麗美(レィ)から少女人形レイへと振り返った。


「あ・・・はい・・・」


言葉に詰まる・・・麗美レィの心を持つ人形。


本当なら止めさせたかった。

出来るなら自分の事など忘れて貰いたかったくらいなのに。

でも、口から出るのは・・・


「リィンタルトが・・・願われるのならば」


正反対の言葉が出てしまう。

留める言葉を出してしまえば、人形に宿っている自分を曝け出してしまう。

だから、今の自分に言えるのは。


「私も同道させてくださいませんか?」


護り抜きたい・・・何が何でも!

捕らえられて籠の中の鳥へは堕としたくなかった。


心の内を吐露する声は、思わず強くなってしまう。


「リィン・・・タルトが。

 リィンタルトが捕らえられてしまうのを黙って見過ごせないじゃないですか!

 籠の鳥にだけは・・・させませんから」


麗美(レィ)の声で募る思いを滲ませてしまう。


「うん・・・そうだったよね。

 それがレイの願いでもあったのだから・・・」


少し何かを思い出したのか、リィンはニコリと笑う。


「同じようなことを言ったんだ・・・レィちゃんも」


惨劇の時、フューリーを前にして・・・麗美が願ったのを思い出した。


「ホント、レイは麗美(レィ)ちゃんと似てるね」


何気なしを装って、リィンは壁の向こうを観て言うのだった。


「まるで・・・あの晩の失敗が嘘だったみたい」


クリスマスの晩、自分と同じ場所に居た人へと。




「なんだよリィンちゃん。

 ボクが隠れているのを知っていたのか」


隠れて話に耳を傾けていたエイジが溜息を溢す。


「でも。出るに出られない雰囲気だよな」


リィンはこちら側を向いているが、レイは背を向けた状態。

二人だけの世界に嵌っているモノと読めるのだが。


「それに・・・胡散臭くなったな。

 リィンちゃんが必至の想いだったのには驚いたけど」


ロッゾアとの交渉が巧く運ばなかったら・・・どうする?

もしもリィンが捕まりでもしたら?


「ボクにも何か手伝う事は出来ないかな?」


そうは考えても、思いつく筈もない。


「だとしたらどうすれば良い?」


頭を捻って考えるのだが、思いつくのはどうにもならない事ばかり。


「ええい、こんな衛司エイジだから姉さんが頼りにしなくなったんだぞ」


考えあぐねて・・・自分を罵った時。

リィンの謂れを思い出し、姉の辿った人生を思い出した。


「そうだ!その手が残されていたんだ!」


とっておきの方法を思いついたようだ。

則ちそれは・・・





少女人形(レイ)の背後、死角に隠れているエイジを知らぬ振りで通すリィン。

出てくる素振りも見せないから、ずっと聞き耳を立てるだけに徹したのだろうと踏んだ。


ー きっと、あたしの産まれに動揺したんだ。

  それはそうよね、他人の家族に介入するなんて出来っこないもん・・・


そう思うから、隠れているエイジを悪くは思えない。

出て来ても、何を言ったら良いのか分かる筈もないのだから。


でも、心の内では助けて欲しかった。

好きになりかけているエイジから、留めて貰えたら或いは・・・


「駄目だよね・・・甘えてばかりじゃ」


小さく呟く。

本当はロッゾアの元へなんか行きたくは無かった。

だけど、エイジから教えられた治療を行うには月へ行くしか道は無い。


せめて麗美だけでも月へ行かせ、治療を受けさせてあげたかった。

そうしなければならないと、心に誓っていたのだから。


レイの背後からエイジの姿が消えた。

声をかけるでもなく、一言も交わさずにエイジはどこかへ行ってしまった。


「せめて・・・お別れくらいは言いたかったな」


もう逢えなくなるかもしれなかったから、一言で良いから交わしたかった。

去ってしまったエイジへ悲し気に呟いたのだったが。


「そうよね、いつまでもめそめそしていたらレィちゃんに笑われちゃうもんね」


想いを断つつもりで声に出した。


「だよね?レイ」


何も言わず見詰めている少女人形(レイ)に振り向くと。


「これで踏ん切りが付けた。

 今日はこれで帰りましょ・・・レイ」


僅かに笑みを浮かべて少女人形の蒼い瞳を観た。


「宜しいのですかリィンタルト?」


「うん。きっとまた逢えると思うから」


きっぱりと告げるリィンの眼は、去ってしまったエイジを求めていた。

少女人形(レイ)を透過して想いを寄せた人へ言ったのだ・・・また逢えると。


「そう・・・ですね、きっと」


少女人形は、自分を観て自分ではない人を求めたリィンに気が付いている。

機械の身体には動体感知機能が備えられているのだ。

背後に居た弟エイジを知らぬ筈が無かった。


ー リィンとエイジ。私の居ない間に仲を深めたのね・・・


少なくともリィンは心を寄せている様に思えた。

エイジがどう思っているのかは分からないけど。


集中治療室の中を今一度観て、


ー 私はどうして死ななかったのだろう?

  ・・・死んでしまえば良かったのかも知れないな・・・


リィンをここまで追い詰めている自分へ罵った。


ー そうだったら今頃。

  リィンとエイジが恋人になれていたのかも知れない・・・


自分が死ななかったばかりに・・・二人を巻き込んだままだとも。


ー いっその事、今直ぐ治療具を停めてしまいたい!


少女人形の今なら、ドアを破って中へ入り込み破壊出来るだろう。

・・・だが。


ー それが出来ないから苦しんでいる。

  この姿を世界に教え、タナトスの野望を砕く。

  悪魔の行為を停めなければ、リィンも全ての人をも死に追いやるのだから!


生まれ変わった少女人形(レィ)として。

人の命を弄ぶタナトスの野望を、決して野放しには出来なかった。

事実を知る一人として、なんとしても停めなければならないと考えていた。


・・・そう。

本当に人形へ宿った時から、ずっと思い描いていた。


ー タナトスは本気だ。本気で人類を再生させようとしている。

  創造主になり、思い描いた通りの世界を造ろうとしている!


それを阻止するには、人形へ宿った自分が最初に消えなければならない。

蒼騎 麗美という記憶の傀儡にんぎょうが、存在していてはならないと考えた。


だから誰にも知られずに、消えようと思っていた。

リィンにだけは知られたくなかったのは、悲しむだろうと思ったから。

もしかしたら本物の自分も蘇れなくなるかもしれないのだから・・・


哀しい現実を前に、レィは正体を告げずに逝こうと決めていた。

蘇った折に告げたヴァルボアでさえも躊躇った程の悲痛な考えを。



「きっと、リィンタルトは守りますよ。

 逢うと決められたのであれば・・・必ず」


願うのであれば、少しでも力になると約束した。

どれほど困難な話だろうと、果たさせてみせるとレィは誓う。


「私はその為に生まれ変わったのですから」


少女人形へと宿った。

タナトスの実験だけでは宿れなかった・・・と、思いたかった。

自分が最期まで願い続けたから。

リィンを護りたいと願ったから宿れたのだと考えている。


ー そうでなければ、私は悪魔に生み出された傀儡にんぎょうでしかない


タナトスという現実の悪魔が産んだ、人に刃を向ける機械にしか過ぎないと。


ー だから抗う。だから護り抜きたい・・・リィンだけは!


機械の身体を手にした今、力の限り抗おうと思う。

人ならば出来なかった死を超越した決断も、やり遂げてみせると誓えた。


「そう・・・きっとです」


眦を決してレィが応える。



「プ・・・ホント、レィちゃんみたいだね?」


不意にリィンが笑った。


「レィちゃんなら同じ事を言ったよね?

 本当のレィちゃんと同じだよね」


笑顔には相応しくない真っ直ぐな瞳で呼ばれてしまった。


「そう・・・ですか?

 私には分かりかねます」


視線を外し、言葉を濁すのが心苦しく思う。


「うん!きっとそう言ってくれるよ」


声が弾んでいる。

リィンは少女人形でしかない自分に感謝してくれた、と思う。

でも、心の奥に棘が刺さるのを感じてもいた。


ー ごめんリィン。今はそれだけしか言えないんだよ


泣けるのなら泣きたいくらいに切ない。

本当のことを言えたのなら、どれほど安らいだか。


ー リィンが悲しむのを観たくないんだ。

  愛しいリィンを悲しませる結果になるのが分っているから・・・


唇を噛む素振りさえ見せてはならない。

どんなに辛くても、正体を明かすのはリィンの為にならないのだから。



「さ~て、今日は家に帰りましょう。

 勿論、麗美(レィ)ちゃんのお家へ・・・だよ!」


「え?!どうして・・・なの、ですか?」


いきなりリィンが宣言して、レイは驚きの声を張り上げる。


「ん~?どうしてって・・・

 最期くらい思い出の場所で寝たいじゃない?」


「い、いやそれは。フェアリーの屋敷に戻らなくては?!」


最期なら、ロナルドと一緒の方が良いのでは?


「いいの!ロナルドお父様には昨日お別れを言っておいたから」


「しかし?!ユーリィ様や屋敷の者達へも」


手を振りながら歩き出したリィンを追って止めるように勧めるレイへ。


「言ったでしょ、思い出の場所って。

 どうしても今夜泊まりたいのよ。

 あなたと逢えたから・・・絶対にね!」


一度言い出したら聴かないのは、出逢った頃から変わらない。


「あたしにとってはね、レィちゃんのお部屋が楽園(パラダイスなの」


「ぱ、パラダイス・・・って?!お待ちください!」


慌てる少女人形を尻目に、リィンは颯爽と病院を後にする。

そして嘗て愛を育んだ部屋へと向かったのだった。

人形と少女・・・

二人の心は通い合っていたのだろうか?


明日には決戦の場へと向かう二人だったが?

どうして麗美の家へ?

リィンは思い出の場所パラダイスだと言うのだが?


次回 Act36 触れ合うふたり

正体を隠す者。正体を知りながら問わない者。2人の心はどこに?

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